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245:馬上の戦い












「ぬぅんッ!」

「ちぃッ!」



 斬法――柔の型、流水。


 バルドレッドが横薙ぎに振るってきた槍に刃を合わせ、かち上げる。

 正直な所、馬上で扱うには餓狼丸のリーチが足りていないのだが、野太刀では攻撃力が足りていないのだ。

 頭上を通り過ぎて行った槍の穂先に肝を冷やしながら、バルドレッドの横手を通り過ぎる。

 奴の視線がこちらを向いた瞬間、横合いから駆けこんできた緋真が――というより、その後ろに乗っていたアリスがバルドレッドへと向けて矢を放った。

 無論、鎧で覆われている馬に対してアリスの矢が刺さるということはない。

 だが、それでもスキルの効果はきちんと発動した。矢の命中した部分に、赤いエフェクトが発生したのだ。



「ナイスだよ! 【ストライクチャージ】!」



 その赤いエフェクトを目がけ、ラミティーズがテクニックを発動する。

 聞き覚えのないテクニックであるが、どうやら馬上槍による突撃の技であるらしい。

 戟を使っての馬上突撃とは、またおかしな様相ではあるが、破壊力は間違いなくあることだろう。

 アリスの攻撃は頓着していなかった――というか気づいてすらいなかったバルドレッドであるが、流石にラミティーズの攻撃は無視できなかったのだろう。すぐさま馬を動かして、攻撃を回避しようとしてくる。

 だが、即座に軌道を修正したラミティーズは、直撃とは言わないまでも、角度を変えて攻撃を命中させた。

 結果、ラミティーズの戟は馬の体には突き刺さらなかったものの、その鎧の一部を剥ぎ取ることに成功する。



「ッ……やるな、小娘!」

「トーゼン! これでも『キャメロット』の隊長の一人だからね!」



 得意げな顔のラミティーズは、バルドレッドの反撃を受ける前に離脱する。

 この濃い霧の中であれだけ走らせられるのは流石と言うべきか。

 しかし、鎧を剥ぐことができたと言っても、有効なダメージを与えられたわけではない。

 バルドレッドのHPバーはやはり三本。先ほど《化身解放メタモルフォーゼ》を使用した際に一本目は消え、現在二本目となっている。

 今は少しずつ削れてはいるが、正直な所綱渡りであることは否めない。

 誰か一人が、一撃でもクリーンヒットを受けてしまえばそれまでなのだ。

 だからこそ、この怪物を破るには、策が必要となるのだ。



『……それで、本当に行けるんだな?』

『無茶なのは承知の上、リターンは当然大きいよ』

『分かっちゃいるがな……まあいい、効果が大きいことについては同意しよう。上手くすれば、それでバルドレッドを仕留められる』

『準備はできてる。後は、あいつを上手く誘導できるかどうかだよ』



 パーティチャットでバルドレッドには聞こえぬよう会話しつつ、作戦を練る。

 提案されたのは中々にリスキーな作戦であったのだが、不可能かどうかと言われればそれは否でもある。

 得られるリターンは間違いなく最大であり、逆にこれを成功させなければ勝利の目は殆ど無い。

 であれば――挑戦する他ないだろう。



「ルミナ、当てろ! 俺たちが合わせる!」

「了解です、お父様――光の鉄槌よ!」



 向かってくるバルドレッドへと向けて、ルミナが光の魔法を放つ。

 例え直撃せずとも、爆裂する閃光は奴を範囲内に巻き込むことは容易だ。

 その一撃に、しかしバルドレッドは正面から耐え抜きながら、尚もこちらへと迫ってくる。

 だが、今の一撃によって纏う瘴気が剥がれた。今であるならば、通常の攻撃であったとしてもダメージを与えることができる。



「《練命剣》――【命輝一陣】!」

「《スペルエンハンス》、【ファイアジャベリン】!」

「【ダークスナイプ】」



 セイランにも攻撃させたかった所ではあるが、流石に後ろ向きに攻撃を飛ばすのは難しい。

 今は適度に攻撃しつつバルドレッドの足を鈍らせ、距離を開くことが重要だ……こちらの仕込みを、気付かせないために。

 俺たちの若干前に付けたラミティーズは、先導するようにシェーダンの大通りを駆ける。

 アリスが発し続けている霧のお陰で、周囲の光景は薄っすらとしか見えてこない。

 本来であれば、このような状況で馬を走らせるなど正気の沙汰ではないが――



「ラミティーズ、合図は頼む」

「りょーかい、任せといて!」



 この軽い調子では若干不安ではあるのだが、そこは信用するしかない。

 先ほどの攻撃のお陰で、バルドレッドとの距離は若干開いた。

 とはいえ、相手がこちらを見失ってしまっては意味がない。

 こちらの姿を捉えたまま、尚且つある程度距離が開いたこの状況こそが最も望ましいのだ。

 尤も、この状況では一つ警戒せねばならないことがあるわけだが――



「――逃げるつもりか、魔剣使い達よ!」

「チッ、やっぱり来やがったか」



 強く叫ぶと共に、バルドレッドは槍を大きく振り回し、黒い衝撃波をこちらへと向けて放ってくる。

 命中すれば吹き飛ばされ、呪いまで受ける厄介な攻撃だ。

 前にラミティーズがいる状況では回避することもできず、俺は舌打ち交じりにスキルを発動させた。



「『生魔』!」



 普段よりも多めにHPを注ぎ込み、威力を底上げする。

 その上で放った一閃は、こちらへと迫ってきていた黒い衝撃波をなんとか打ち消すことに成功した。

 しかし、これはHPの消費がきつい。何発も撃ち込まれたら耐えられなくなるだろう。

 後どれだけ時間が必要なのか――そんな危惧を抱いた、その瞬間。俺の目の前に、一つのウィンドウが表示された。

 そこに記載されていたメッセージを確認し、俺はそれを承認しながら笑みを浮かべる。



「ラミティーズ!」

「もうすぐだよ! 三、二、一、今っ!」



 ラミティーズのカウントダウンに合わせ、セイランに合図を送る。

 瞬間、ラミティーズを先頭に俺たちは大きく跳躍し――その下に並んでいた、盾を持つ騎士たちを飛び越えた。

 霧の中に隠れていたのは、先程離脱したパルジファルをはじめとする、防御部隊の面々だ。

 その全員をこちらに呼び寄せることは不可能だったが、一パーティが固まって、俺たちの正面に展開していたのである。

 そして、俺たちが彼らを飛び越えたのであれば、その正面にいるのは当然バルドレッドであり――その通行を、彼らが許す筈もない。



『――《フォートレス》!』

「何だと!?」



 防御部隊の面々が、同時にスキルを発動する。

 確か、一定範囲内で同時に発動すると防御力が上がるスキルだったか。

 その力は、かつて正面からヴェルンリードを相手にして耐えきってみせたほど。

 そして、それだけの防御力がある以上、不意を打った現状でバルドレッドを押し留められぬ道理はない。



「おのれ、小癪なァッ!」

「合わせろ――《シールドカウンター》ッ!」



 それでも即座に反応したバルドレッドは、正面から攻撃を叩き込み――パルジファルの叫びと共に、彼女たちの盾から強力な衝撃波が迸った。

 その衝撃を正面から受けて、バルドレッドは後方へと弾き飛ばされる。

 尚も落馬しなかったのは見事と言わざるを得ないが――それは想定内だ。



「――【ブラストミーティア】」



 後方へと下がったバルドレッドへと向けて、いくつもの矢が殺到する。

 放ったのは、周囲の建物の屋上で待機していた高玉たちだ。

 強力無比な射撃はバルドレッドへ次々と命中し、特に高玉の矢は浮いていたバルドレッドの頭部を正確に射抜く。

 そして――



『【ストライクチャージ】ッ!』



 防御部隊の横から飛び出してきた騎馬の集団、ラミティーズの配下たる騎兵部隊は、構えた槍を正面に向けてバルドレッドへと突撃する。

 バランスを崩し、更に矢の的にされたバルドレッドには、それを回避する術などない。

 だが、奴は全身から瘴気を発し纏い始めた。どうやら、あの効果でダメージを軽減するつもりのようだ。

 尤も、その動きなど疾うに察知できていたのだが。



「ルミナ!」

「光の柱よ、包み込め!」

「ッ、ぐあああああッ!?」



 空中のルミナが、バルドレッドへと向けて魔法を発動する。

 奴の足元から立ち上った光の柱はその全身を包み込み、纏っていた瘴気を飲み込んで打ち消す。

 そして、次の瞬間――突撃していた騎兵部隊の槍が、囲むようにしながらバルドレッドの身を貫いた。



「ヒューッ! ナイスみんな、よくやった!」



 その結果に、パルジファルたちの後ろで様子を見ていたラミティーズが歓声を上げる。

 確かに、非の打ち所がない結果だ。最高のタイミングで、最高の結果を叩き出すことができただろう。

 だが、まだ油断することはできない。バルドレッドのHPバーは現在二本目――それは、今まさに尽きようとしている。

 槍に貫かれ、頭も射抜かれ、鎧馬は力尽きて崩れ落ちる。

 そして――



「認めよう、女神の使徒共よ……ッ!」



 ――まるで爆発するように、バルドレッドの身から漆黒の瘴気が溢れ出した。



「っ!?」

「うわぁあッ!?」



 悲鳴を上げたのは、間近にいた騎兵部隊の面々だ。

 とはいえ、そのまま呆然としているわけではなく、彼らはすぐさまその場から退避するように動き出す。

 しかし――そんな彼らを薙ぎ払うように、今までと比べて倍ほどの規模を持つ黒い衝撃波が放たれた。

 バルドレッドはただ、黒い瘴気を纏いながら、その槍を薙ぎ払っただけだ。

 ただそれだけで、騎兵部隊の面々を丸ごと吹き飛ばしてしまったのである。

 幸い、それだけで死んだ者はいないようだが、あれは冗談では済まない威力だ。

 そして、それを成したバルドレッドは、鎧の隙間から蒸気のように瘴気を噴出しながら、ゆっくりとこちらに向けて歩いてくる。



「我が主君、ディーンクラッド閣下の敵よ。我が刃にて、悉く打ち砕いて見せよう!」



 バルドレッドの最後のHPゲージ。

 つまり、これが最後の戦いであり、ここからが本番であるということだ。

 その強大な威圧感に、俺は思わず笑みを浮かべながらセイランの背より飛び降りた。











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― 新着の感想 ―
[一言]  集団戦に強いと定評のあるキャメロットの面目躍如と言った回でしたね。  バルドレッドの2本目のHPバーはキャメロットの面々が削り切りましたが、最後の3本目は師匠との一騎討ちで……と言う展開で…
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