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241:悪魔バルドレッド












 斬法――柔の型、流水。


 バルドレッドの振り下ろしてきた一閃を、刃を絡めて流し落とす。

 しかし、バルドレッドの剣は地面を叩くことはなく、ぴたりと停止して即座に追撃を仕掛けてきた。

 本当に常識外れの膂力だ。勢いをつけて落としてやったというのに、まさかきっちりと止めてくるとは。

 横薙ぎの一閃を跳躍して回避しつつ、相手の胸を蹴りつけて後方へと宙返りする。



「《練命剣》、【命輝一陣】!」



 放った黄金の一閃はバルドレッドに直撃し――しかし、その巨体は僅かに後方へと揺らぐ程度だ。

 鎧の強度はかなりのものであるらしい。傷一つついた様子のないその姿に舌打ちしつつ着地、そのまま地を蹴ってバルドレッドへと肉薄する。


 打法――破山。


 踏みしめた地面が爆ぜ割れ、バルドレッドの体が揺れる。

 今の一撃は吹き飛ばすためのものではなく、その破壊力を留めて打ち砕くためのものだ。

 人間であれば臓腑を纏めて砕く威力だが、鎧を纏っている上にそもそもが頑丈なバルドレッド相手では大したダメージは与えられないだろう。

 だが、今の衝撃でほんの僅かに動きを封じられた。



「《奪命剣》、【命喰牙】」

「ぬぅっ!?」



 ぐるりとバルドレッドの後ろに回り込み、その背中に黒い短剣を突き立てる。

 痛みは無いだろうが、これが突き刺さっている限り、俺はバルドレッドのHPを吸収し続けられる。

 生憎と、こちらは餓狼丸のような割合での吸収ではなく絶対値での吸収のようだが、多少なりともプラスになることは間違いない。



「お主、何をしたッ!」

「さあな、自分で確かめてみることだ!」



 斬法――柔の型、流水・浮羽。


 振り返り様に薙ぎ払われる一閃に刃を合わせながら移動し、距離を取る。

 しかし、バルドレッドは俺の後退に合わせて接近してきた。

 振り上げられた大剣に纏わり付くのは、渦を巻く黒い魔力――



「吹き飛ぶがいい!」

「『生魔』ッ!」



 バルドレッドが剣を振り下ろすと共に、黒い衝撃波が俺へと向けて殺到する。

 その一撃へと向けて、俺は強化した《蒐魂剣》を振り下ろした。

 俺が放った一閃は黒い衝撃波を真っ二つに斬り裂き――けれど、完全には相殺しきれず勢いに押されて後退する。

 餓狼丸の強化も進んでいるというのに、大した攻撃力だ。だが、生憎とそれに感心している暇もない。


 歩法――縮地。


 そのままバルドレッドへと肉薄し、刃を振るう。

 狙う場所は、脇にある鎧の隙間。

 だが、突きを狙う余裕はない。刃を触れさせ、そこから体の捻りのみで餓狼丸を振るう。



「《練命剣》――【命輝閃】!」



 斬法――柔の型、零絶。


 黄金に煌めく刃が、バルドレッドの鎧の隙間を斬り裂く。

 緑の血が飛び――けれど、その量は決して多くはない。

 やはり、この程度ではあまり大きなダメージは与えられないか。



「成程……驚くべき技量だ。よもや、これほどの実力を持つとはな」

「……」



 距離を取って刃を構え直しつつ、ポーションでHPを回復する。

 分かってはいたが、やはり一筋縄ではいかない。

 この悪魔は、純粋に攻撃力と防御力が高いのだ。魔法やら特殊能力やらが強さの根本となっていたヴェルンリードはまだ戦いやすい相手だったが、こいつを突破するのは中々に困難である。

 餓狼丸と《奪命剣》による吸収でダメージは与えているが、その程度では到底足りない。

 やはり、俺一人で戦うには厳しい相手か。だが、生憎と他の仲間たちはまだこちらに加勢できる状況ではない。

 今しばらく、時間稼ぎが必要だろう。ならば――



「ルミナ、加護を!」

「はい! 気高き勇者たちに、光の加護を!」



 魔法で目の前のデーモンを吹き飛ばしたルミナが、翼を広げて《戦乙女の加護》を発動する。

 リング状に広がった光は俺たち全員を包み込み、強化を施してくれた。

 これでさらに攻撃力は上がったが、生憎とこれだけで何とかなるほど容易い相手ではないだろう。

 故に――今は、時間を稼ぐ。



「忌まわしき女神の眷属めが……しかし、多少強化した所で我には届かぬ。諦めることだな、魔剣使いよ」

「御託は結構だがな、木偶の坊よ。俺はまだ、お前さんの剣を一度も受けてないんだがな……一体、どうやって倒すつもりだ?」

「無論のこと、正面から叩き斬るのみよ!」



 気炎を上げ、バルドレッドはこちらへと打ち掛かってくる。

 対し、俺は細く息を吐き出し、餓狼丸を正眼に構え――重心を落とし、深く大地を踏みしめた。

 自らの心臓の鼓動、血の流れ。それら全てが指の先端まで届く感覚を維持しながら、緩やかに刃を振るう。

 餓狼丸の刃は、流星のごとく振り下ろされる悪魔の一閃に合流し――


 久遠神通流合戦礼法――山の勢、不動。


 ――俺の頭上へと振り下ろされようとしていた刃は、しかし直撃する前に動きを止めた。

 それと同時、俺の足元に衝撃が走り、地面から軽く粉塵が舞う。



「ッ!? 何だと!?」



 渾身の一撃であったからだろう、それをあっさりと受け止められたことに、バルドレッドは驚愕の表情で硬直する。

 その瞬間、俺はバルドレッドの剣を跳ね上げながらスキルを発動した。



「《奪命剣》――【咆風呪】」



 放つのは黒い風の一撃。

 振り下ろした一閃から放たれた黒い奔流は、バルドレッドの全身を包み込んでそのHPを吸収した。

 やはり、この一撃は相手の防御力を無視してくれるから便利である。

 体力を削られたことに気づいたバルドレッドは、咄嗟に後退しながら苦々しい声音で声を上げる。



「お主、何をした……!」

「ただ攻撃を受け止めただけだ、単純だろう?」

「馬鹿な……お主の力で、そのようなことができるはずがない!」

「できているんだ、事実は事実として受け止めろよ」



 狼狽するバルドレッドへ向けて、笑みを浮かべながらそう告げる。

 久遠神通流合戦礼法の四つある理。その一つである不動は、集団を相手に生き残ることを念頭に置いた防御の術理だ。

 受けた攻撃のベクトル、運動エネルギーを、自らの体を伝って地面へと逃がす。

 鬼哭や白影のような、脳の処理能力を利用する仕組みではなく、純粋なる身体制御による代物だ。

 どちらかと言えば打撃に対する対処の方がやり易いのだが、生憎とそうそう打撃ばかりの敵が相手になるわけではない。

 戦場で育まれてきた久遠神通流では、当然ながら武器を持った相手を想定してこの術理を発展させてきたのだ。


 だが、当然ながらこれは簡単な術理ではない。

 一瞬でもタイミングを失敗すれば相手の攻撃が直撃し、その時点でお陀仏だろう。

 その精密な操作を、一度も間違えることなく続けなければならない。

 一度や二度の成功だけならば緋真でも可能だろうが、これを続けることは困難だ。

 だが――



(白影よりは、こっちの方が長持ちする。さあ、根競べと行こうじゃねぇか)



 意識を集中し、相手の一挙一動を捉える。

 攻撃を受け止めるには、相手の行動の先読みが必要だ。

 どのような攻撃を仕掛けてくるかをあらかじめ予測し、その攻撃に合った対応動作で迎撃する。

 何も全てを受け止める必要はないのだ。必要に応じて受け流せば、その分負担は減るのである。



「おおおおッ!」



 バルドレッドは攻撃を受け止められたことに怯みはしたものの、それだけで手を止めるほど臆病ではない。

 即座に気を取り直したバルドレッドは、その大剣で俺の胴を狙ってきた。

 無論、例え横からの一撃であろうと、きちんと威力を受け流せなければ不動ではない。

 横に伸ばした餓狼丸の刃を絡め、勢いを抑えながらその衝撃の全てを地面へと流す。

 衝撃によって地面が揺れるが、俺の身には一切のダメージは存在していない。



「ッ……ならば!」



 刃を引き、バルドレッドが放ってきたのは鋭い刺突。

 良い着眼点ではある。流石に、突きの攻撃に対して不動で受けを行うのは中々困難だ。

 だが――そうであれば、普通に受け流せば済むだけの話である。


 斬法――柔の型、流水。


 刃を絡め、突きの軌道を逸らす。

 一点に力の集中する突きは、流石に受け止めることが困難だ。

 その場合はこのように、普通に流水で攻撃を受け流してやれば済む話である。

 そして――



「これならばッ!」



 バルドレッドは先ほどと同じく、刃に黒い魔力を纏わせる。

 まあ、威力が足りなければ当然そうしてくるだろうという確信はあったため、驚きはない。

 とはいえ、厄介であることに変わりはないのだが――今の餓狼丸の威力は、先程よりもさらに増している。

 ならば受け止められる可能性は十分にあるだろう。



「『生魔』」



 振り下ろされる黒い一閃を、強化した《蒐魂剣》で受け止める。

 黒い衝撃を伴う一撃はかなりのものであるが、黒く染まり切った餓狼丸、そして《戦乙女の加護》による強化まで含めれば――



「――受け止められぬ道理はない」

「馬鹿な……!?」



 黒い衝撃を打ち消しながら攻撃を受け止め、俺は小さく笑う。

 その上で体を僅かに屈めた俺は、驚愕に身を固めるバルドレッドへと肉薄した。



「《奪命剣》――【命喰牙】」

「ッ!?」



 二本目の【命喰牙】をバルドレッドの腹へと突き立て、後方へと跳躍する。

 確かめたことは無かったが、どうやら【命喰牙】は相手に複数刺しておくことができるようだ。

 クールタイムは中々に長いため、そうそう狙えることではなかったが、この悪魔が相手ならば可能だろう。

 とはいえ、この吸収だけで倒し切れるような相手ではない。

 防ぐことができているとはいえ、攻める方はまだまだ手が足りていないのだ。

 霧が立ち込め始めた・・・・・・・・・戦場で、俺は更にバルドレッドを釘付けにすべく、意識を集中させた。











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