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236:商会への帰還

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「へぇ、これを出す魔物がそんな大量にねぇ」

「ああ。牧羊犬と羊の魔物だったな。無駄に数が多くて苦労したが」



 アイラムの街に帰還した俺たちは、早速商売拠点を手に入れていたエレノアに戦利品を提示した。

 やはり、メインとなるのはランドシープの毛である。糸素材は即ち布の素材であり、布系装備の職人にとっては重要な品なのだ。

 案の定、商会内は俺たちの持ち込んだアイテムで大いに盛り上がっている。

 『エレノア商会』には、ものづくりへ情熱を傾けているプレイヤーたちが多数集まっているため、最前線の素材は垂涎の的なのだ。



「話に聞く限り戦い辛そうな相手だけど……そのブラックハウンドをテイムできればランドシープまで操れる可能性もあるわね……クオン、やらない?」

「そんな時間があると思うか?」

「分かってる、冗談よ。それで、これで装備を作ればいいのよね?」

「ああ、できれば明日の十時ぐらいには欲しいが」

「リアル時間でしょうけど、流石にそれは無理よ。武器の類の強化までなら何とかなるでしょうけど、新しい装備の作成は時間がかかるんだから」



 俺の要請に対し、エレノアは呆れを交えた嘆息を零しつつ、そう口にする。

 まあ、元よりそこまで期待していた訳ではなかったのだが、やはり無理だったか。



「糸紡ぎをしてから布を作成、作った布の性質評価から、染めと加工……これらの体勢を整えるのにも時間がかかるわ。貴方たちの装備の場合、大量生産品ではなくオーダーメイドだけど……それでも、明後日までは見て欲しいわね」

「そうか……残念だが、仕方あるまい」



 エレノアたちにしても、この国に来て拠点を得たばかりなのだ。

 生産活動の準備もまだ万全であるとは言い難いだろうし、無理を通すこともできん。

 さりとて、こちらも悪魔への襲撃を遅らせることはできないし、今回は防具の新調を見送るしかないだろう。

 まあ、元より相手の攻撃は受けない前提であるし、きちんと回避なり受け流すなりしておけばいい。



「とりあえず、新しい金属素材は無いし、貴方の刀についてはまだ強化できないわ。その代わり……」

「ああ、緋真とアリスの成長武器だろう? あれならもうフィノが掻っ攫って行ったぞ」

「でしょうね。成長武器の強化はあの子に任せておけばいいわ」



 とりあえず、緋真の紅蓮舞姫と、アリスのネメの闇刃は、どちらも経験値が溜まり切った状態となっていた。

 これで★4にはなっただろうし、晴れて餓狼丸のレベルに並んだわけだ。

 紅蓮舞姫の場合は新たなスキルが解放される可能性が高いし、戦力の強化としては十分だろう。

 俺自身の装備については少々残念だが……魔法は強化されているし、威力面の上昇は既に達成できている。

 となると、他にできることと言えば――



「で……ルミナ、どちらにするか決めたか?」

「はい、お父様」



 武器コーナーの長物の場所を見回していたルミナが、俺の声に振り返って戻ってくる。

 その手にあるのは槍と薙刀。《槍》のスキルを手に入れたルミナは、これらを扱うことができるようになっているはずだ。

 テイムモンスターの仕様上、スキルを手に入れた時点で基本的な扱い方は出来るようになっている。

 事実、先ほど構えていた様子から、最低限武器として扱う程度の知識があることは判明した。

 であれば、後は応用的な部分になるのだが……俺たちは槍を使わんし、普段見せて覚えさせるというわけにもいかないか。

 まあ、一応多少は考えがあるし、そこは後で何とかするとして――問題は、槍と薙刀のどちらを利用するかということだ。

 武器の性質はどちらも異なるが、スキル自体は統一されている。

 スキル進化で派生することになるだろうが、まずはどちらを使うのかを決めなくてはならないだろう。



「お父様、久遠神通流では、薙刀を使う術理もあるのですよね?」

「ああ。だが、俺も緋真も専門にはしていないぞ?」

「ですが、師範代の方なら教えて頂けるかと思っています。だから、私は薙刀を選びたいです」

「ふむ……成程、いいだろう」



 実際、どちらを選んでもある程度にしか教えることはできないし、それはそれで仕方ない。

 タイミングさえあれば、後でユキに使い方を教えさせることとしよう。

 それならば――



「エレノア、コイツを使って薙刀の製作を頼みたい」

「これって……カイザーレーヴェの素材? 確かに貴方たちなら余らせているでしょうけど……」



 俺がインベントリから取り出したアイテム、『覇獅子の剣牙』を目にして、エレノアは呆れた表情で呟く。

 ベーディンジアにいた頃、レベル上げ目的で一日一回戦っていた覇獅子カイザーレーヴェ。その素材は、まだ大量に余らせている状態だ。

 せっかくの強力な魔物の素材、余らせておくのも勿体ないだろう。



「柄の部分には骨とかがあるし、まあ作ってみてくれ。魔物素材での武器製造も《鍛冶》系のスキルでいいんだろ?」

「ええ、まあ。了解、フィノに預けておくけど……注文は無いの?」

「ルミナの身長に合わせてくれ。重心は……そうだな、コイツと同じでいい」



 売り物の中にあった、フィノ製作の薙刀。

 完璧とは言わないが、この薙刀ならば及第点だろう。

 流石に、本当の本職ではないフィノに完璧を求めるような真似はしない。とりあえず、これと同じ程度のバランスであれば十分扱えるはずだ。



「後は、たんぽ槍……いや、薙刀と同じ形状の木刀があれば頼む」

「まあ、それ位ならすぐ作れるけど……何、練習でもするの?」

「そういうことだな」

「それでしたら、わたくしにも見せて下さいますか!?」



 と、ランドシープの毛に群がっていた一人である伊織が、こちらの会話に反応して顔を上げる。

 毛の性質についても気になるが、どうやらこちらの方に軍配が上がったようだ。

 まあ別段、手取り足取り教えるというわけではないのだが。

 エレノアが近くにいた木工職人に木刀の作成を指示する中、俺はルミナたちを連れ立って店の外に出る。



「さてと……ルミナ。これから軽く、俺と緋真で模擬戦を行う」

「げっ……先生が薙刀使うんですか?」

「お前は薙刀術は学んでないだろうが。それとも、お前も薙刀を使うか?」

「いやいや、慣れてない武器を使うぐらいなら刀を使いますよ」



 首を振る緋真の様子に、軽く肩を竦める。

 まあ、妥当な判断だろう。例え不利な武器であったとしても、使い慣れている刀の方が上手く戦えるはずだ。

 緋真はあらかじめ持っていた木刀を取り出し、広い所まで移動する。

 『エレノア商会』からも観戦者――というか野次馬たちが出てきているが、中央広場付近であるためスペースには事欠かない。

 あまり人が集まりすぎるような状況にはなってほしくないが……まあ、仕方が無いか。

 木工職人が速攻で仕上げたらしい木の薙刀を受け取りつつ、それを肩で担ぎながら決闘モードを起動する。



「さてと……準備はいいか、緋真」

「スキルが乗ってないから威力は大したことないと思いますけど……お手柔らかにお願いします」

「まあ、見せるためのものだからな。速すぎないようにはするさ。ルミナ、お前はよく見ておけよ」

「はい、よろしくお願いします、お父様」



 今回はあくまでも、ルミナに見せるための演武のようなものだ。

 あまり速くしすぎて、本気の戦いになってしまっても仕方がない。

 今回はそこそこの所で戦いを終えることとしよう。

 薙刀を脇構えに、重心を低く構え――決闘の開始と共に足を踏み出した。


 斬法――薙刀術、輪旋・足削。


 大きく、遠心力を利用した一閃。

 膝に防具が無ければ片足を切断するほどの威力を有するこの一閃に対し、緋真は跳躍することで回避した。

 胴を狙った一撃であれば流水・浮羽で対処できただろうが、足では対処が難しく、回避を選択したのだろう。



「――ッ!」



 着地と共に、突きを狙ってくる緋真。

 だがそれよりも早く、俺は己の胴で回転させるような形で薙刀を正面に構え直した。

 ペン回しのようだと冗談めかして言われたことはあるが、確かにこの大きさの武器が張り付いて回転するのは冗談のような光景だ。

 そして、武器を構え直したからには続けて攻撃をさせて貰うとしよう。


 斬法――薙刀術、婉突。


 腕を捻り、柄をたわめながら突き出す一撃。

 不規則に揺れるその一撃は、受け流しや回避が非常に難しい。

 その上リーチがあるため、緋真の一撃がこちらに届く前にこちらの攻撃が届く。



「ホントに、嫌な業ですよねそれ!」



 しかし、緋真は月輪の要領で刃を捻り、一閃で跳ね上げるように弾く。

 大きく跳ね上げられた薙刀であるが、俺は手首のスナップで柄を引き、手元に戻す。

 そして、緋真が反撃に放ってきた一閃を、立てた柄で受け止めながら柄尻を上げて流し落とした。


 斬法――薙刀術、流水・柄滝。


 柄に流すような形で、緋真の一閃を巻き取りながら地面へと落とす。

 それと共に、俺は薙刀の刃に当たる部分の背を蹴りながら前へと踏み出した。


 斬法――薙刀術、鐘楼・半月。



「ッ……!」



 振り上げたその一閃は、緋真の鳩尾に突き刺さりかけた瞬間に停止する。

 寸止めで、今の一撃を停止させたのだ。



「……と、まあこんな所だ。ルミナ、分かったか?」

「は、はい……もう少し見せて頂けると」

「ああ、どうせ今日はもうログアウトだからな。しばらくは問題ないさ」



 軽く肩を竦め、最初の立ち位置に戻る。

 もう数戦程度であれば時間もあるだろう。小さく笑みを浮かべ、俺は再びうんざりとした様子の緋真と対峙したのだった。





















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