222:次なる街へ
書籍版マギカテクニカ第1巻、5/23発売です!
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日々の修練を終え、いつものごとくログインする。
普段と若干異なるのは、アリスも――亜里沙も稽古に参加していたことだろう。
といっても、彼女がやっていたのは本格的なものではなく、護身術の範疇に留まっている程度のものであったが。
彼女は普段から十分動けているし、自分自身の体の動かし方も十分に理解している。
だからこそ余分なものを身に着ける必要はなく、体捌きや足運びだけを指導することとなったのだ。
主に、俺が師範代たちに稽古をつけている間はそれを行い、その後明日香に稽古をつけている間は希望者に対して虚拍の指導を行う。
亜里沙の仕事は、基本的にこれだけなのだ。まあ、本人としてはそれだけで50万近い給料を貰えることに困惑していたが、俺としてはそれ以上の仕事を入れられるとゲームの時間が減って困ってしまう。
ここは素直に、少ない業務で楽をして貰うとしよう。
「さてと……慌ただしいこったな」
ログインしたアイラムの街は、既に多くのプレイヤーが行き交っている。
その多くは『エレノア商会』に所属する生産職たちだろう。
アイラムは悪魔による破壊が少なかったとはいえ、皆無であるというわけではない。
これを元通りにするには、それなりの時間が必要なのだ。最近は、元々あまりいなかった大工のプレイヤーも増えているという。
自分たちで街づくりをするのが好きな人々であるとの話だったが……正直、その辺の感性は俺には良く分からないものだ。
ともあれ、アイラムが急速に復興していっていることに変わりはない。
(問題は、それを使う人間が少ないことだろうがな)
視線を細め、胸中で呟く。
全ての人々が殺されたわけではないが、現地人の多くが悪魔の手にかかってしまった。
この地の人々の数は激減しており、元のまま街を復興させたとしても、半ばゴーストタウンに近い状態となるだろう。
国としての運営もそうだが、果たしてどのように動かしていくのか――
「……捕らぬ狸の皮算用だな」
「先生? いきなり何ですか?」
「いや、独り言だ。さて、出発前にアルトリウスに話をしておきたいんだが……と」
一応俺の行き先は伝えておいて、あわよくば情報も貰う。
最悪メールでもいいんだが、できれば顔を合わせて話しておきたい所だ。
まあ、だからアナログな人間だといわれるのだが。
アルトリウスと接触するためには、まずメールなどで連絡するか、或いは『キャメロット』のプレイヤーを探して渡りをつけるかだ。
だが、今回はそのどちらでもない。離れた位置ではあるのだが、見知った姿を発見することができたのだ。
「あ、聖女様……説法ですかね?」
「聖女が説法をしてる、ってのは良いんだが……周りの連中はどういうことだ」
「何だか、アイドルのライブみたいな状態ね、あれ」
アイラムの中央広場には教会が建っており、聖女ローゼミアはその前で説法を行っているようだ。
だが、それを真摯に聞いている現地人の後ろで、何故か一部のプレイヤーがサイリウムのような棒を振りながら応援している。
いや、声を上げてはいないため騒いでいるわけではないのだが、それにしても異様な光景だ。
その様子に半眼を浮かべていると、苦笑を零した緋真が解説の言葉を口にし出した。
「この間、聖女様がスキルを配ってくれたじゃないですか。あれを逃した人も、クエストをやればスキルを貰えたらしくて、すっかり人気になっちゃったんですよね、聖女様」
「それでアイドル扱いってか? 現金な連中だな」
「見た目も可愛いですしね。すっかり大人気ですよ」
いつの時代も、男はこうも分かり易いということか。
ともあれ、ローゼミアがあそこにいるのであれば分かり易い。
今、聖女の護衛は『キャメロット』が行っている。あの聖女様はアルトリウスにご執心のようであったし、近くにいる可能性は高い。
そう考えつつぐるりと後ろに回り込んでみれば、案の定、教会の扉前辺りで控えるアルトリウスの姿を発見した。
向こうもこちらに気づいたようで、軽く目を見開いて会釈をしてくる。それに軽く手を上げて返しつつ、聖女の邪魔はせぬように接近した。
「よう、またおかしな状況になってるな」
「ははは……まあ、プレイヤーに彼女が受け入れられるのはいいことではあるのですが、ここまで人気が出るとちょっと慎重にならざるを得ないですね」
こいつのことだ、ローゼミアが前に出ることを決めた以上、ある程度はアイドル扱いするつもりではあったのだろう。
だが、それを演出するよりも早く、彼女は己自身の力で支持者を集めてしまった。
結果的には同じなのかもしれないが、準備期間を取れなかったことはアルトリウスにとっても痛い点だろう。
「個人的には少々頭が痛いですが……プレイヤーが彼女に興味を持ってくれるのは良いことです。彼らが積極的に動いていれば、この国の人々へのアピールにもなりますからね」
「俺たちが聖女のために戦っている、ってか?」
「そういうプレイヤーも少なからず生まれています。それが多ければ多いほど、彼らへのアピールになりますね」
言いつつ、アルトリウスは視線で隣の建物の方を示す。
その窓の向こう側に、幾人かの人影を発見することができた。
どうやら、貴族たちも聖女の動向から目が離せないようだ。
「……連中の動きとしてはどうなんだ?」
「僕が干渉してくることを快く思っていない人もいるようですが、状況が分かっていないわけではないのでしょうね。僕らという戦力を拒むことも無いようです」
「ふむ……お前さんの感触としてはどうだ?」
「しばらくは問題ないでしょう。彼らにも余裕が無く、藁にも縋りたい状況ですから。今後仮に余裕ができたとしても、それまでに外堀を埋めておけば問題はありません」
要するに、『キャメロット』は聖女の護衛から降りる気はないということだ。
まあ、その方がローゼミアにとっても幸福なことだろう。
戦力という面でも、しがらみという面でも、アルトリウスの方がよほど安心できるはずだ。
「とりあえず、聖女周りはそちらに任せるとして……俺はそろそろ次の街に向かうが、状況はどうだ?」
「今の所は南西と南東、どちらも未攻略です。というか、攻めあぐねている状態ですね」
「攻めあぐねている?」
「南西の方については、純粋に悪魔が精強です。どうやら、強力な悪魔が率いているようですね。そして南東の方は奇妙な悪魔が多数出現しているようです」
「奇妙ってのはどんな悪魔だ?」
「異形の悪魔が多いとのことですよ。腕が多かったり、触手が生えていたりするそうです」
アルトリウスの言葉に、思わず視線を細める。
その特徴は、まさしく聖女を護送しようとした際に出現した悪魔そのものであったからだ。
アルトリウスもそう考えているのだろう、表情を変えた俺に軽く頷きながら続ける。
「いかなる存在なのかは分かりませんが、ローゼミア様を狙ってきたのはその街にいる悪魔でしょう。しかし、街自体が迷宮化しているという報告も上がっていまして……」
「ふむ……そちらは面倒そうだな。とりあえず、俺は南西の方に行くとしよう」
「そう言うと思っていました。後でメールに資料を送っておきますので、到着までに読んでください」
「済まんな、感謝する」
そういう同盟であるとはいえ、至れり尽くせりなものだ。
まあ、アルトリウスからすれば、俺が戦果を挙げることを期待している節もあるようだが。
さて――何にせよ、方針は決定した。目指すは南西の都市、精強な悪魔が集うという街だ。
「先生ならそっちを選ぶだろうなとは思ってましたけど……いきなりそんな難易度高そうなところでいいんですか?」
「その方がこちらも挑み甲斐があるってもんだろう? どの程度強い悪魔がいるのか……楽しみじゃないか」
ジワリと湧き上がる殺意を抑えながら、俺は嗤う。
敵が精強であるというのであれば、望む所だ。強敵と戦えるということでもあり、同時に奴らの大きな戦力を潰すことができる。
都市の一つを任されている悪魔だ、少なくとも子爵級、下手をすれば伯爵級の悪魔が存在するだろう。
慎重に行く必要はあるが、倒せた時のリターンはかなり大きい。
俺は中央広場を離れ、街の北側へと向かいながら、従魔結晶よりルミナたちを呼び出した。
「できれば現地にいるプレイヤーからも情報を得たい所だが……まあいい、詳しくは現地についてからだ」
「それなら、私が移動中に情報を集めておきましょうか? どうせ、緋真さんの背中で暇してるわけだから」
「戦闘は出ろよ? だが、それは確かに助かる。頼むぞ、アリス」
「どうせ掲示板を眺めるだけなんだけどね。ま、適当にやっておくわ」
騎獣での移動の場合、アリスはどうした所で暇になってしまう。
その間の時間潰しにはちょうどいいことだろう。
まあ、先行しているプレイヤーが下手なことをしていないかどうかという心配はあるが――そこは今気にしたところで何かできるわけではない。
今はさっさと、目的地へ向かって移動することとしよう。
「こんな行き当たりばったりでいいのかなぁ……」
「情報ならこれから送られてくるだろうが。全く情報なしってわけじゃないんだから、泣き言を言うな」
嘆息する緋真を半眼で見つめつつ、俺はセイランに騎乗する。
土地勘が無いだけに、移動にもそこそこ時間がかかる。
到着するまでには、判断に足る情報は集まっていることだろう。どのように戦うかは、その結果次第だ。
どちらにせよ、悪魔に支配されている土地だ、あまり希望を抱くべきではないだろうが――だからこそ、容赦なく悪魔を叩き斬れる。
どのような悪魔が支配しているのか、それを楽しみにさせて貰うとしよう。





