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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
MG ~Miniature Garden~

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223/956

221:悪魔たち

書籍版マギカテクニカ第1巻、5/23発売です!

詳しくは活動報告、ツイッターをご確認ください!












「やあ、こんにちは、諸君。良く集まってくれたね」



 アドミス聖王国、その王都に当たる都市、聖都シャンドラ。

 その城の中で、数人の人影が一堂に会していた。

 といっても、それらは全て人間ではない。そこに集まっていたのは全て、人ならざる悪魔たちであった。

 元は王族の食堂であった場所、その最奥の椅子に腰を下ろしているのは、赤髪の悪魔ディーンクラッド。

 この地を攻める悪魔たちの長である彼は、肘掛けに頬杖を突きながら、淡い笑みと共に集った悪魔たちへと声を掛けた。



「公爵閣下の命とあらば……」

「ええ、ええ! 馳せ参じないわけにはいきませんとも!」



 ディーンクラッドの声にまず返答したのは、鎧を纏う老人姿の悪魔と、ニタニタとした笑みを浮かべた小柄な悪魔だった。

 他の悪魔たちは声を上げなかったが、概ね同意見であるといった所だろう。

 そんな彼らの様子に、ディーンクラッドは楽しそうに笑みを浮かべて声を上げる。



「ありがとう、バルドレッド、セルギウス。ブラッゾとゼオンガレオス、グランスーグもね」

「……ふん」

「チッ……アンタのせいで忙しいんだ、あんまり呼び出してくれるなよ」

「貴様、ディーンクラッド様に――」

「グランスーグ、構わないよ。皆に仕事を言い渡していることは事実だからね」



 悪態を吐くゼオンガレオスに、グランスーグが眦を吊り上げる。

 だが、そんな彼を押し留めたのは、他でもないディーンクラッド本人だった。

 事実、彼は全く気にも留めていない様子で、表情を変えることなくにこやかに声を上げている。

 そんな様子が気に入らないのか、ゼオンガレオスは顔を顰めるが、それ以上言及することはなかった。

 圧倒的な力の差があることを、彼は理解しているのだ。



「さて、今回集まって貰ったのは他でもない。ついに異邦人たちがこの地に到達したことを、君たちにも伝えておこうと思ってね」

「ええ、ええ! 存じ上げておりますとも! 早くも都市一つを奪われてしまったと! はてさて……そこを担当していたお方は、一体何をしていたのやら」



 セルギウスは歪んだ笑みを浮かべたまま、その視線を横へと向ける。

 ディーンクラッドの正面、そこに座しているのは彼と同じような赤い髪を持つ悪魔。

 その『彼女』は、腕を組んだままセルギウスの言葉を鼻で笑い、声を上げた。



「勝手に担当にしないでくれるかしら。私は別に、ディーンクラッドに従っている訳じゃないんだけど」

「ふむ……都市の管理には興味は無いか。君にもリソースの回収というメリットはある筈だがね――ロムペリア」

「ええ、そんなものに興味はないわよ、公爵様。言ったわよね? この地で活動することの交換条件として、都市の攻略には力を貸すと。その約定は果たしたのだから、後は貴方の責任でしょう」



 赤髪の女悪魔、黒いレザーの衣で身を包んだ美女――ロムペリア。

 そんな彼女の物言いに、ディーンクラッドは苦笑を零す。

 傲岸不遜な彼女が、今ここに来た目的を理解したためだ。



「確かに、約定は果たしてくれた。都市を守り切れなかったのはグレイガーの落ち度だろう。それを君に問うつもりは無いよ、ロムペリア」

「そ、なら行ってもいいかしら?」

「おや、『彼』の動向ぐらいは聞いておいた方が良いんじゃないのかい?」

「……フン」



 腰を上げようとしていたロムペリアであったが、そのディーンクラッドの言葉に対し、小さく舌打ちして椅子に座り直す。

 その様子を満足気に眺めたディーンクラッドは、姿勢を正すと改めて声を上げた。



「異邦人……女神の使徒と呼ばれる彼らは、南の国でヴェルンリードを打ち破り、この地へと到達した。そして彼らはすぐさま南の都市へ攻撃を仕掛け、グレイガーを滅ぼして都市を奪ったようだ……そうだね、セルギウス?」

「ええ、おまけに言えば、例の聖女とやらも確保した様子。手勢を差し向けたのですが、どうやら対応されてしまったようで。いやはや、もっとスピードの出せる実験体を増やしておくべきでしたね」



 やれやれと肩を竦めるセルギウスに、ディーンクラッドは小さく笑う。

 その笑みの中には、決して彼を叱責するような色はなかった。

 それどころか、それが喜ばしいといわんばかりに、彼は笑みのままに声を上げる。



「君たちも知っておいた方が良いだろう。その聖女を確保した異邦人こそ、ヴェルンリードを討った者。そして、グレイガーを倒し都市を解放した男――そこのロムペリアが、宿敵と認めた人間だ」



 ディーンクラッドのその言葉は広い部屋へと響き渡り――同時に、悪魔たちの雰囲気は一気に変化した。

 一部は戦意を、一部は猜疑を。どのような形であれ、悪魔たちはその人間に対する興味を抱いたのだ。

 その中で、真っ先に反応したのは鎧を纏う悪魔、バルドレッドだ。彼は戦意を滾らせ、身を乗り出しながらディーンクラッドへと告げる。



「閣下、ご命令とあらば、私がその人間を討ってみせましょう」

「止めておいたら、バルドレッド。貴方じゃ返り討ちに遭うわよ」

「……どういう意味だ、ロムペリア」

「そのままだけど。貴方じゃあの男には勝てないわ」



 やれやれと肩を竦め、ロムペリアは席を立つ。

 そんな彼女に対し、バルドレッドは机を叩きながら怒声を上げた。



「待て、ロムペリア!」

「聞きたいことは聞けたのだから、もうここにいる理由は無いもの。私は自由にやらせて貰うわ」

「なら、最後に二つ聞かせてくれるかい、ロムペリア」

「……何かしら?」



 傲岸不遜なロムペリアとは言え、ディーンクラッドの言葉までは無視できない。

 不機嫌そうな様子ながら足を止めた彼女に、ディーンクラッドは調子を変えぬままに声を上げた。



「一つ。何故君は、バルドレッドではその男に勝てないと思ったのかな?」

「単純に、勝っている点がリソースの量しか無いからよ。それはここにいる全員に言えることだけどね」



 言外に、ディーンクラッドとて例外ではないと含ませながら、ロムペリアは告げる。

 とは言え、ディーンクラッドの持つ力は圧倒的だ。彼が出たならば、執心する魔剣使いとて敵う相手ではないと思っているが。

 しかし、それでも――その差は力の総量の差でしかないと、ロムペリアはそう判断していた。



「リソースの差はいずれ埋まる。そうなった時、他で勝る点が無い貴方たちが負けるのは道理でしょう?」

「成程、理に適った話だ。では二つ……そう考える君は、これからどうする?」

「力と技を磨きあげる、ただそれだけよ。リソースの差ではなく、純粋な力であの男を上回る――だから、邪魔はしないで」



 それだけ告げると、ロムペリアはさっさとこの場から転移して姿を消したのだった。

 かき消えた彼女の姿を見送り、ディーンクラッドは軽く笑みを零す。

 全くもって、予想外の出来事が起きているものだ、と。



「よろしいのですか、閣下。あのような勝手を許して」

「元々、彼女は僕の部下ではない。そして、完全なる自由行動を王より認められている。僕が口を出すことではないさ」

「おいおい、あの女がどうしてそこまで優遇されてるってんだ。俺らと同じ伯爵級だぜ!?」

「いや、ゼオンガレオス。今の彼女は伯爵級ではないよ」

「ああん? まさか、侯爵まで上がったってのか!?」



 眼を剥くゼオンガレオスに、ディーンクラッドは笑みを零す。

 本当に、愉快で仕方がないというかのように。



「いいや、逆だよ。彼女は、自らの爵位を返上したのさ」

「な……!?」

「曰く、数字などに興味はないとね。そして、王はその言葉をいたく気に入ったのさ。そして彼女は、爵位と引き換えに自由に行動する権利を得た。今の彼女はただのはぐれ悪魔であり――同時に、彼女の実力は既に侯爵級に届いているだろう」



 ディーンクラッドの言葉に、悪魔たちは揃って絶句する。

 その行動は、悪魔としてはあまりにもあり得ないものであったが故に。

 悪魔にとって、力とはリソースの総量そのものだ。多くの人間を殺すほど、悪魔たちは力を得ることとなる。

 そうであるが故に、技術を磨くなど、悪魔にとってはあまりにも非効率的な行動であったのだ。

 だがそれを、ディーンクラッドは――そして、魔王は認めた。それもまた、一つの在り方であると。



「人間と同じ成長をする悪魔か……そのような存在が生まれるなど、王すら予見していなかった。実に興味深いことだ」

「……閣下は、あのような在り方が正しいと?」

「いや、悪魔として正しいとは言わないさ。だが、それは僕の考えであり、彼女は今の己が正しいと信じている。それに口出しするつもりは無いというだけの話さ」



 それで話は終わりだとばかりに、ディーンクラッドは悪魔たちを見回す。

 その怜悧な視線に見つめられ、悪魔たちは揃って沈黙した。

 対し、己が部下たちの様子に淡い笑みを浮かべながら、ディーンクラッドは続ける。



「さて、話を戻すとしよう。これより、この地には異邦人たちが姿を現すことになる。彼らの出現は我々にとっては邪魔でもあり――同時に、チャンスでもある」

「異邦人たちは死しても復活する。リソースを回収しても使い減りしませんからなぁ」

「挑んでくるのであれば、全て叩き潰すまでのことだ」

「その通り。言わばここまでは前哨戦、ここからが本当の戦いというわけだ」



 そう告げて、ディーンクラッドは表情を変える。

 先ほどまでとは異なる、不敵な笑みへと。



「僕の完全顕現まで、おおよそ30日といった所かな。君たちはこれまで通り、リソースを集めて欲しい。異邦人が現れたならば、それを悉く返り討ちにしたまえ――さあ、戦争を始めよう」



 闘争こそが悪魔の本懐、その言葉に彼らは戦意を滾らせる。

 この地の人間たちとの戦いは、思っていた以上に容易く終わってしまった。

 であれば、ここからがお楽しみであると。


 ――その遥か上空で、赤髪の悪魔は小さな失笑と共に姿を消したのだった。





















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マギカテクニカ書籍版第12巻、7/18(金)発売です!
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― 新着の感想 ―
[一言] ここのロムペリアさんとか 凄くかっこいいのに(今もかっこいいけど) 今じゃ完全に主人公へのツッコミ担当なのよね(そしてプレイヤー側に賛同者多数)
[良い点] 成長する敵役が出て来ると敵方にも愛着がわいてきて今後の展開がますます楽しみです。 [一言] いつも楽しく拝読さております。
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