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220:聖女のお披露目












 アイラムの街まで帰還した俺たちは、その足でさっさと街の教会まで足を運んだ。

 行動の指針については既にエレノアに話をしており、こちらも準備は完了している。

 尤も、教会を使いたいと言ったら大工たちにふざけるなと言われたらしく、結局教会前の広場に雛壇を置いて対応することとなったのだが、広さは教会内よりも広いため悪くない選択肢だと言えるだろう。

 ともあれ、ステージは既に整えられている。貴族たちにも適当な理由は説明済みだ。

 後は、集まった人々に対して演説を行うだけだ。



「準備はよろしいですか、ローゼミア様」

「……はい。よろしくお願いします、アルトリウス様」



 雛壇の後ろ側で、ローゼミアはゆっくりと深呼吸を行っている。

 箱入りも箱入り、これほど多くの人々と会った経験もないであろう彼女は、緊張を隠しきれずにいるようだ。

 まあ、それに関しては無理もない。慣れていようが、これだけ多くの人々を前に、衆目に晒されることには緊張せざるを得ないだろう。

 しかし、ここで足を止めてばかりもいられない。そしてローゼミア自身も、覚悟は決めた様子であった。


 彼女はゆっくりと壇上へ足を踏み出し、俺たちはその脇を固める形で壇を登る。

 高い位置に登って見えるのは、無数のプレイヤーと現地人たち。どうやら、プレイヤーの方が数は多いようだ。

 まあ、現地人たちの数の方が少ないのは、現状を考えれば致し方ないことだろう。

 むしろ、その状況でありながらもプレイヤーと遜色ない数が集まってきている時点で、注目度の高さが窺える。



(今の所問題はなさそうだが……これでは声が通らんな)



 一応、壇上にはマイクのようなアイテムを配置している。

 棒の先に緑色の透明な石が備え付けられている、杖のような代物であるが、これがスタンドマイクのような役割を果たすのだ。

 アイテム名としては拡声器なのだが、これは現実世界における拡声器ほどの効果はない。

 儚げな印象の美少女であるローゼミアに、プレイヤー一同は大興奮の様子で、このままではマトモに話ができそうにない。

 小さく嘆息し――俺は軽い殺気と共に足を踏みしめて大きな音を打ち鳴らした。

 そのまま周囲を睥睨すれば、水を打ったように静寂が広がる。



「ありがとうございます、クオン様」



 薄く笑みを浮かべて礼を述べるローゼミアに、こちらは軽く肩を竦めて返す。

 彼女も俺の殺気を浴びた筈であるが、中々に肝が据わっているようだ。

 或いは、日頃から超常の存在に触れているためであるだろうか。

 何にせよ、話をするための環境は整った。彼女の仕事は、ここからが本番だ。



「皆様、はじめまして。私の名前は、ローゼミア・アドミナス。このアドミス聖王国の第二王女であり、恐れながら聖女の位を頂いている者です」



 ざわざわと、声が広がる。だが、茶々を入れる様な声は上がらない。

 チラチラと俺のことを気にしている辺り、先程俺に威圧されたことを気にしているのだろう。

 その辺りの恐怖については、彼女が背負う必要はない。つまり、俺は所謂『怖い刑事役』というやつだ。



「現在、この国は未曽有の危機にあります。八大都市の全ては落とされ、私以外の王族は死に絶えました。そして未だ、悪魔は人々を支配し、命を奪い続けています」



 ローゼミアが口にしたのはこの国の偽らざる現状だ。

 既に周知の事実であるし、現実の再確認にしか過ぎないが――改めて耳にすると、その絶望感は並大抵のものではない。

 聖女ローゼミアは胸の前で手を組み、祈りを捧げるように声を上げる。



「最早我が国に悪魔に対抗する力はなく、滅びは目前です。それは、決して否定することはできません。しかし、主は我らを見離しはしませんでした」



 祈るように手を組んだまま、ローゼミアは顔を上げる。

 どこか陶然とした、形なきものに語り掛けるかのような声。

 それは、件の女神とやらに語り掛けているがためなのだろうか。

 しかし、その儚げな容貌とも相まって、彼女はそれだけでも随分神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 聖女の宣伝をするという目的に関して言えば、十分すぎる効果を発揮できるだろう。

 そんな茫洋とした視線を、ローゼミアはゆっくりと降ろし、集った人々へ――いや、プレイヤーたちへと向ける。



「異邦人の皆様。女神様のお力により、この地に降り立った戦士。最後に残った王族として、女神に仕える聖女として――皆様に、伏してお願いを申し上げます」



 聖女はプレイヤーたちへと視線を向けながら、ただ真っ直ぐに声を上げる。

 決して大きくはないが、自然と耳朶に届くその声は、この場に集う全てのプレイヤーに届いていることだろう。

 その美貌も相まって、プレイヤーたちは見惚れたようにローゼミアのことを見上げていた。



「どうか、私たちにお力をお貸しください。悪魔を討ち、この国をお救い下さい。どうか、どうか……お願いいたします」



 ローゼミアに差し出せるものなど無い。

 故に、彼女には言葉で願いを伝える以外の手段はないのだ。

 このままでは、依頼としては少々弱い。だが――ここからが、アルトリウスの仕事だ。

 ローゼミアの言葉の後に前に出たアルトリウスは、手を掲げて力強く宣言した。



「『キャメロット』の同胞たちよ! 我々『キャメロット』は、聖女ローゼミア様の願いを果たすため、彼女の下で対悪魔の戦線を構築する! 異論はあるか!」

「いいえ、我らがマスターよ!」

「貴方が選んだ道であれば、我々が全力で支えるまでです」



 アルトリウスの宣言に対し、前列にいたディーンとデューラックが同調する。

 他の部隊長たちも次々に同調し、そしてその部下に当たるメンバーにもその流れは伝播していく。

 同調圧力というと少々聞こえは悪いが、周りが同意しているとそれに流される人間は結構いるものだ。

 そして最大勢力である『キャメロット』が全面的に協力するとなれば、他のクランも競うように同調する者が出てくる。

 そしてそうなれば、後は簡単だ。



「聖女様、万歳!」

「聖女様、ありがとうございます!」



 その熱狂の流れを、聖女への感謝に向ける。

 どうやら、現地人に見せかけたプレイヤーのサクラを仕込んでいたらしい。

 その辺りの悪知恵はアルトリウスか、或いはエレノアのものか。

 どちらにせよ、盛り上がっているプレイヤーたちは特に考えもしないまま、聖女に対してアイドルを見るかのように歓声を上げている。

 とりあえず、これでプレイヤーのモチベーションをある程度上げることができただろう。それに、これもイベントの一部であると認識しているだろうし、お祭り騒ぎ程度の認識である筈だ。

 女にいい所を見せたい、そんな単純な連中は中々に多いものだろうしな。



「ローゼミア様、僕たちは貴方の刃として、貴方に協力します。共に、この国を取り戻しましょう」

「アルトリウス様……本当に、ありがとうございます」



 跪いて礼をするアルトリウスの肩に、ローゼミアはそっと手を添える。

 それはまるで、騎士に任命するかのように。

 その姿を眺め、俺は横から小さく笑みを浮かべた。

 この言葉の通りであれば、俺たちはあくまでもローゼミアの下で戦うことになる。

 それはつまり他の貴族たちは関係なく、彼女個人に協力するということだ。彼らがどう出るかは分からないが、これで言質は取れた。

 ちらりと横目に確認すれば、一部の貴族たちは苦い表情を浮かべている。

 やはり一部の貴族は聖女を利用した上で俺たちを意のままに操りたかったのだろうが、流石にそう簡単に利用されてやるつもりは無い。

 

 アルトリウスに声を掛けたローゼミアは、再び人々の方へと向き直る。

 その顔に湛えられているのは、穏やかで優しい笑みだ。

 まさに聖女と言わんばかりの表情を浮かべ、ローゼミアは再び胸の前で手を組む。



「ありがとうございます、皆さま。私に返すことができるものは少ないですが……せめてもの祝福を贈らせてください」



 そう宣言した瞬間、ローゼミアの体が淡く輝き始めた。

 薄いピンク、桜の花弁のような色合いの光は、手を組んで祈りを捧げる彼女の体からジワリと立ち上る。

 その輝きはゆっくりと空に舞い上がり――やがて、光の粒となって人々に降り注いだ。



『《聖女の祝福》のスキルを取得しました』


「……何だと?」



 唐突に響いたインフォメーションに、呆気に取られて思わずそう呟く。

 咄嗟にスキルの詳細を確認してみれば、そこには驚くべき内容が表示されていた。


■《聖女の祝福》:補助・パッシブスキル

 聖女ローゼミアによる祈りの祝福。

 HPが0になった瞬間、一度だけHP1で復活する。

 クーリングタイムは24時間。


 ダメージによって死亡した際、一度だけ耐えることができるスキル、ということらしい。どうやらレベルのないスキルらしく、効果が向上することも無いようだが、それを差し引いても強力なスキルだ。

 まさか、今の祈りだけでこの場にいる全員にスキルを付与したということか。

 ローゼミアの様子を見ても消耗した様子はなく、どうやらそれほど大変な作業ではないようだ。

 これは、今受け取れなかったプレイヤーたちの処理が面倒なことになりそうだな。

 そう考えてちらりと横を見ると、アルトリウスの笑みが若干引きつっているのが見えた。まあ、頑張ってくれとしか言えない。



「皆様の無事を、お祈りしております」



 慈愛に満ちた、聖女の声。

 それが響き渡った直後、広場は巨大な歓声に包まれていた。






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:52

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:37

VIT:26

INT:37

MND:26

AGI:18

DEX:18

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.23》

 《格闘:Lv.8》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.38》

 《降霊魔法:Lv.7》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.37》

 《MP自動大回復:Lv.6》

 《奪命剣:Lv.15》

 《識別:Lv.31》

 《練命剣:Lv.15》

 《蒐魂剣:Lv.15》

 《テイム:Lv.35》

 《HP自動大回復:Lv.6》

 《生命力操作:Lv.36》

 《魔力操作:Lv.35》

 《魔技共演:Lv.22》

 《インファイト:Lv.27》

 《回復適性:Lv.23》

 《戦闘技能:Lv.6》

サブスキル:《採掘:Lv.13》

 《聖女の祝福》

称号スキル:《剣鬼羅刹》

■現在SP:34






■アバター名:緋真

■性別:女

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:51

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:39

VIT:24

INT:33

MND:24

AGI:20

DEX:20

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.22》

 《格闘術:Lv.7》

マジックスキル:《火炎魔法:Lv.15》

 《強化魔法:Lv.8》

セットスキル:《練闘気:Lv.6》

 《スペルエンハンス:Lv.10》

 《火属性大強化:Lv.8》

 《回復適性:Lv.33》

 《識別:Lv.31》

 《死点撃ち:Lv.33》

 《高位戦闘技能:Lv.7》

 《立体走法:Lv.7》

 《術理装填:Lv.28》

 《MP自動回復:Lv.27》

 《高速詠唱:Lv.27》

 《斬魔の剣:Lv.14》

 《魔力操作:Lv.9》

 《遅延魔法:Lv.7》

サブスキル:《採取:Lv.7》

 《採掘:Lv.13》

 《聖女の祝福》

称号スキル:《緋の剣姫》

■現在SP:32






■アバター名:アリシェラ

■性別:女

■種族:魔人族ダークス

■レベル:51

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:25

VIT:20

INT:25

MND:20

AGI:39

DEX:39

■スキル

ウェポンスキル:《暗剣術:Lv.22》

 《弓:Lv.6》

マジックスキル:《暗黒魔法:Lv.11》

 《光魔法:Lv.6》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.36》

 《隠密行動:Lv.10》

 《毒耐性:Lv.27》

 《アサシネイト:Lv.11》

 《回復適性:Lv.31》

 《闇属性大強化:Lv.6》

 《スティンガー:Lv.10》

 《看破:Lv.34》

 《ベノムエッジ:Lv.5》

 《無音発動:Lv.25》

 《曲芸:Lv.8》

 《投擲:Lv.27》

 《走破:Lv.21》

 《傷穿:Lv.7》

サブスキル:《採取:Lv.23》

 《調薬:Lv.26》

 《偽装:Lv.27》

 《聖女の祝福》

称号スキル:なし

■現在SP:36

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、つまり敵も味方も奪った魂の量での陣取り合戦をしてるって感じなのですね。 この調子だとさらってきた異邦人牧場でリソースを稼ぐとかもでてくると思うのですが・・・ そもそも異邦人のリソ…
[一言] ひきつってるアルトリウスで草 この先のゴタゴタを想像するとめんどくさいわな…
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