214:聖王国の足掛かり
反応の良い相手と戦うことは時折ある。
普段戦っている相手で言えば修蔵がそれに該当する。奴は動物じみた勘でこちらの攻撃を回避してくることが多い。
また、それ以外で言えばあのクソジジイもそれに該当するだろう。あのクソジジイの反応速度は人外じみており、本気で攻撃を繰り出してもあっさりと回避してみせることが多い。
そして、このグレイガーという悪魔の反応速度は、ジジイほどではないにしろ修蔵のそれに近いものがあるだろう。
つまり、最初からそういうものであると理解した上で対処すれば、やりようはあるということだ。
「オオオオッ!」
「『生奪』ッ!」
炎を噴き上げ、襲い掛かってくる巨大な斧。
俺を真っ二つに断ち割ろうとするかのような一撃に対し、しかし恐れることなく前へと足を踏み出す。
相手が前に進む勢い、そして俺が踏み出す勢いと剣閃のスピード。放つのは、それらを合わせた威力を叩き付ける、カウンターの一閃だ。
斬法――剛の型、刹火。
煌めく火花のような鋭き一閃は、グレイガーの脇腹を斬り裂くが、あまり深い傷であるとは言えない。
どうやら、今の瞬間にも咄嗟に反応して体をずらしていたようだ。
だが、回避のための無理な動きが祟って、奴はバランスを崩している。であれば――
「『生奪』」
斬法――剛の型、輪旋。
大きく旋回させた上で、上から叩き付けるような一閃を放つ。
だが、グレイガーはこれに反応し、無理やり反転しながら斧を盾にするように構えて俺の一撃を受け止めた。
無論、この一撃は剛の型の中でも隙の大きい部類であり、コイツに当てられるとも思っていない。
受け止められた瞬間、俺は柄に当たった餓狼丸を跳ね上げ、大上段に構え直した。
斬法――剛の型、中天。
一歩踏み込み、地を踏みしめ、全力で刃を振り下ろす。
何の小細工もない、ただ全力で相手を叩き潰すための一閃だ。
その一撃を受け、悪魔の膝が崩れる。ならば、このまま叩き潰させて貰うとしよう。
斬法――剛の型、中天・刃重。
相手の体勢が崩れている間に、再び跳ね上げた刃を振り下ろす。
既に膝が崩れていたグレイガーは、その重さに耐えかねて地に膝を突くことになった。
「《練命剣》、【命輝閃】!」
斬法――剛の型、白輝。
そして、最後に叩き付けたのは純粋な破壊力を突き詰めた一閃。
神速の速太刀は、グレイガーの持つ斧の柄へと食い込み――それを、容赦なく断ち切る。
斧による防御を突破した餓狼丸は悪魔の肩口に吸い込まれ、その身を容赦なく袈裟懸けに斬り裂いた。
「が……ッ!?」
だが驚いたことに、グレイガーは咄嗟に体を後ろへと傾け、致命傷を避けてみせた。まさか、今の一瞬でこの一撃に対処してみせるとは。
俺はすぐさま逆巻で追撃を仕掛けようとするが、それよりも速くグレイガーの魔力が膨れ上がる。
舌打ちし、俺は即座に刃の狙いを切り替えた。
「《蒐魂剣》ッ!」
直後、目の前で爆発が巻き起こる。
こちらへと迫る爆炎に、俺は即座に蒼く輝く刃を振るい、その炎を斬り裂いた。
だが、その炎の勢いに乗って、グレイガーは後方へと移動している。
どうやら、自分を巻き込んで魔法を使うことにより、強制的に距離を取ったようだ。
だが、相手は武器を失い、ダメージを負っている状態だ。今畳み掛けなければなるまい。
歩法――烈震。
前傾姿勢で敵へと突撃する。
反応の良い相手に対しては、呼吸を整える暇を与えないことが重要だ。
グレイガーは接近してくる俺に対して舌打ちし、炎の壁を展開する。
だが甘い、その程度で止められるほど甘くはないのだ。
「《蒐魂剣》、【因果応報】!」
振り下ろした一閃が炎の壁を消し去り、その全てを刀身に纏う。
振り下ろした刃を反転、脇構えにした刃を構えて篭手を膝で蹴り上げる。
斬法――剛の型、鐘楼。
神速の振り上げに、グレイガーは体を仰け反らせて回避する。
だが、まだ終わりではない。反射的に持ち上げられている腕を目がけ、俺は一歩踏み込んで刃を振り下ろした。
斬法――剛の型、鐘楼・失墜。
振り下ろした一閃が、悪魔の右腕を斬り飛ばす。
辛うじて持っていた斧の残骸も吹き飛ばし、残るは奴の体一つのみ。
グレイガーは、それでも強大な魔力を左手に集中し、こちらに叩き付けようと振り上げる。
ここまで追い込まれてもなお諦めないか。だが――
「――ここまでだ」
歩法・奥伝――虚拍・先陣。
相手の攻撃が振り下ろされる直前、その意識の空白へと足を踏み込む。
グレイガーの視界から消え去った俺は、その脇へと回り込みながら刃を構え――
「《練命剣》、【命輝閃】」
振るった刃がグレイガーの首に食い込み、断ち切る。
驚愕に目を見開いた悪魔の首は血を噴き出しながら刎ね飛び、それが地に着くよりも早く、黒い塵となって消滅する。
刃の血を振るい落とし、周囲の気配に気を配りながらも、俺は大きく息を吐き出した。
とりあえず、こいつは何とか片付いたようだが……まだ、他の悪魔が消え去った訳ではない。
やはり、この国を攻めている悪魔たちのボスを倒さない限り、まとめて消え去るとはいかないようだ。
「ふぅ……できれば情報は集めておきたかったんだがな」
相手は子爵級悪魔、可能であれば情報を得ておきたかった所であるが、生憎とその余裕はなかった。
分かったのは、この悪魔より上位の悪魔がいることと、そいつが人間を一気に殺さぬよう、各悪魔に指示をしているということだ。
果たして、それはどのような悪魔であるのか。一体どのような目的で、人間を殺す数を絞っているのか。
分からないが、碌なものでないことは確かだろう。
「先生、とりあえず制圧完了しました!」
「よくやった。とりあえずは待機だな」
俺たちだけであれば次なる悪魔を狙うために移動するところだが、ここでは結構な数の人々を保護している状況だ。
流石にこれでは動けないし、今は他の悪魔が駆逐されるまで彼らの護衛を続けるべきだろう。
今は『キャメロット』や他のプレイヤーたちが動いている。今の爵位悪魔を討ったお陰で他の悪魔共は逃げる気配を見せているし、これならば程なくして制圧も完了することだろう。
気を抜きはしないが、しばらくは待ちの状態だ。
「余裕があれば、彼らから事情を聴いておけ。俺は怖がられているだろうからな」
「そんなことは無いと思いますけど……分かりました、警戒は続けます」
頷いて人々の方へと移動する緋真を見送り、俺は再び通りの方へと視線を戻す。
さて、街の制圧には、、あとどれぐらいの時間を要するだろうか。
アルトリウスからの連絡が来るのを待つこととしよう。
* * * * *
『《格闘》のスキルレベルが上昇しました』
『《降霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』
『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』
『《回復適性》のスキルレベルが上昇しました』
『《戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』
あれからしばし、時折襲撃してくる悪魔を迎撃している内に、戦闘終了のインフォメーションが耳に届いた。
どうやら、ようやっと戦いが終わった様子である。中々の長丁場となったが、果たしてどのような結果となったのやら。
まあ、戦闘勝利の判定となっているということは、少なくとも悪魔を追い出すことは成功したのだろう。
気配を探っても敵を察知できないことを確認し、俺はようやく餓狼丸の切っ先を降ろす。
全体は分からないが、少なくともこの場の戦果は十分であると言えるだろう。
「お疲れ様です、お父様」
「おう、そっちもな。住民たちはどんな様子だ?」
「まだ怯えています。状況も掴み切れていないようですね」
「まあ、それは仕方なかろう。街がこの状況ではな」
ベルゲンのように徹底的に破壊されたというわけではない。
だが、多くの人々が死に、そして恐怖に支配され続けていた。
この街で行われていたことの実態もまだ分かってはいないが、あの悪魔の言動から、少しずつ人間を殺していたのだろうということは想像できる。
この街の住人、そしてこの街に集められてきた人々にとっては、まさに悪夢であっただろう。
悪魔が退散したとはいえ、すぐにその実感を得られる訳ではない。彼らにはしばしの時間が必要だ。
だが――どうやら、何事にも例外というものはあるらしい。
「あの……先生、こちらの方が、話がしたいそうです」
「うん? 俺に、か?」
「はい。まあ、私たちの代表という意味だと先生ですし」
「……その分類ならアルトリウスの方じゃないのか? まあ、話は構わんが」
詳しい話はアルトリウスが来てからになるだろうが、概要程度を聞いておくのは悪くない。
そう思いつつ、緋真の連れて来た人物の方へと視線を向け――思わず、目を見開いた。
そこに立っていたのは、最初に壇上に立っていた人物。あの時、悪魔と相対していた男であったからだ。
まだ若い青年は、疲労を滲ませた様子ながら、俺の目を真っ直ぐと見つめつつ声を上げる。
「……助けて頂き、ありがとうございました。クオン殿、でしたでしょうか」
「ああ、その通りだが……大事はないか? あの時、悪魔に殺されかけていただろう」
「はい、貴方に助けて頂いたおかげです」
あの時はかなりギリギリであったが、どうやら怪我一つない様子だ。
しかし、直接助けたとはいえ、わざわざ礼を言いに来たという様子ではない。
果たして、どのような用事なのだろうか。
「それで、俺と話したいそうだが……正直、俺は剣を振るしか能がないんでな、詳しい話はあまり聞いてやれんぞ」
「ですが、重要な立ち位置の方であるようでしたので……自己紹介をさせてください」
俺の言葉に首を横に振った青年は、己の手を胸に当てながら声を上げる。
その言葉の中には、覚悟の重みが込められていた。
「私はクラウ・スヴィーラ……スヴィーラ辺境伯の息子です。どうか、話をお聞かせください」
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:51
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:36
VIT:26
INT:36
MND:26
AGI:18
DEX:18
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.22》
《格闘:Lv.6》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.38》
《降霊魔法:Lv.6》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.37》
《MP自動大回復:Lv.6》
《奪命剣:Lv.14》
《識別:Lv.31》
《練命剣:Lv.14》
《蒐魂剣:Lv.14》
《テイム:Lv.34》
《HP自動大回復:Lv.6》
《生命力操作:Lv.36》
《魔力操作:Lv.35》
《魔技共演:Lv.22》
《インファイト:Lv.27》
《回復適性:Lv.22》
《戦闘技能:Lv.5》
サブスキル:《採掘:Lv.13》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:32
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:51
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:39
VIT:24
INT:33
MND:24
AGI:20
DEX:20
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.22》
《格闘術:Lv.5》
マジックスキル:《火炎魔法:Lv.15》
《強化魔法:Lv.6》
セットスキル:《練闘気:Lv.5》
《スペルエンハンス:Lv.9》
《火属性大強化:Lv.8》
《回復適性:Lv.33》
《識別:Lv.30》
《死点撃ち:Lv.32》
《高位戦闘技能:Lv.7》
《立体走法:Lv.6》
《術理装填:Lv.28》
《MP自動回復:Lv.27》
《高速詠唱:Lv.27》
《斬魔の剣:Lv.12》
《魔力操作:Lv.5》
《遅延魔法:Lv.4》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.13》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:32
■モンスター名:セイラン
■性別:オス
■種族:グリフォン
■レベル:22
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:48
VIT:30
INT:30
MND:25
AGI:42
DEX:22
■スキル
ウェポンスキル:なし
マジックスキル:《旋風魔法》
スキル:《風属性強化》
《飛翔》
《騎乗》
《物理抵抗:大》
《痛撃》
《爪撃》
《威圧》
《騎乗者強化》
《空歩》
《マルチターゲット》
《雷鳴魔法》
《雷属性強化》
《魔法抵抗:中》
《空中機動》
称号スキル:なし
■アバター名:アリシェラ
■性別:女
■種族:魔人族
■レベル:50
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:25
VIT:20
INT:25
MND:20
AGI:38
DEX:38
■スキル
ウェポンスキル:《暗剣術:Lv.21》
《弓:Lv.4》
マジックスキル:《暗黒魔法:Lv.10》
《光魔法:Lv.4》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.36》
《隠密行動:Lv.10》
《毒耐性:Lv.26》
《アサシネイト:Lv.9》
《回復適性:Lv.30》
《闇属性大強化:Lv.6》
《スティンガー:Lv.10》
《看破:Lv.34》
《ベノムエッジ:Lv.3》
《無音発動:Lv.25》
《曲芸:Lv.7》
《投擲:Lv.27》
《走破:Lv.20》
《傷穿:Lv.4》
サブスキル:《採取:Lv.23》
《調薬:Lv.26》
《偽装:Lv.27》
称号スキル:なし
■現在SP:34