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021:西の村での出会い












 魔法使いのプレイヤーキラーを片付けた頃には、他のプレイヤーキラーたちはおおよそ逃げ去った後のようだった。

 多勢に無勢、というわけではなかっただろうが、元々四人で六人相手に持ち堪えていた連中だ。腕はそこそこあるんだろう。

 その辺に落ちていたプレイヤーキラーたちのドロップ品を回収し、俺は改めて彼女たちに向き直っていた。

 向こうも戦後処理を終えたのか、改めて金髪の女剣士が声を上げる。



「危ない所を助けていただいて、ありがとうございました。結構ジリ貧の状態でしたから……」

「ああ、どういたしまして。ま、目的地に向かう途中にあんな光景があったらな。無視するのもどうかって話だし」

「いやぁ、普通数で負けてるPK共なんかと関わり合いにはなりたくないと思いますけど……」



 若干引きつった表情の彼女に、俺は軽く肩を竦める。

 確かに、数で不利の状況に飛び込むのは愚かな行為であると言えばその通りだろう。

 だが、久遠神通流は戦場の剣。元より、一対多を想定した型をいくつも持っているのだ。

 大して数の差もない上に、相手が素人であれば、俺一人で六人相手した所でそれほど困りはしなかっただろう。

 そんな俺の内心は知らず、女剣士は改めて声を上げていた。



「改めまして、私はパーティのリーダーをしてます、雲母水母きららくらげと言います。見ての通り、人間族ヒューマンですね。それで、こっちが私の仲間の――」

「えっと、まず私ですかね。副リーダーを務めております、リノと言います。森人族エルフで、パーティでは回復役ですね」

獣人族ハーフビーストのくーちゃんでっす! 斥候役だよ! 助けてくれてありがとう!」

「……あざみ魔人族ダークスの魔法使い」



 先ほどから話していた、金髪の剣士が雲母水母。ゲームで言うのもなんだが、変な名前だ。

 それに続いて、青銀の髪を伸ばした清楚な女性がリノ。小柄だが、溌溂とした様子を見せる猫耳の少女がくー。そして最後に、帽子を目深にかぶった黒髪の少女が薊。

 四人とも見目が整っているだけあって、こうして並ぶと中々に壮観だ。

 警戒心が強い――と言うより人見知りな様子の薊はともかくとして、美少女たちに感謝の意を示されるというのは中々悪くない。



「既に知っている様子だったが、クオンだ。見ての通り人間族ヒューマンだな」

「あはは、クオンさんは有名ですからねぇ」



 まあ、緋真の師匠というだけで、注目を集める理由にはなるだろう。

 一日二日で話が広まりすぎだという気はしないでもないが。

 まあ、それもまたネットの怖さと言うべきか。



「自己紹介はこんな所か。で、お前さんらは西の村に行く所か?」

「ええ、そうなんですけど……どうも、そちらに向かうプレイヤーを狙ったPKが出てたみたいなんですよね。さっきの連中もその一部かと」

「人気が少ない分狙いやすい、ということか。おまけにそのせいでこちらに来る人間も減っていたと」

「そういうことですね。まあ、いい加減ボス攻略も行き詰ってますし、その程度のリスクを負ってでも打開策を探したかったんですが……それでさっきの様です」



 自虐するように口にする雲母水母に、俺は小さく苦笑を零す。

 確かに、危険を甘く見積もったのはリーダーとして反省すべきことだろう。

 だが、それでもそういったチャレンジャー精神は決して嫌いではない。

 先ほどの戦いの腕も相まって、俺は彼女たちのことをそこそこ気に入っていた。



「俺が通りかかったのはタイミングが良かったな。ついでだし、このまま一緒に向かうか?」

「いいんですか!?」

「いいも何も、目的地は同じだからな。進むのが同じ道なのに、わざわざ分かれて行く理由もあるまい。まあ、嫌だって言うなら、俺は先に行かせてもらうが」



 俺の言葉を聞き、雲母水母はちらりとリノの方へ視線を向ける。

 その視線での問いかけに対する答えは首肯――きちんと確認を取る辺り、中々慎重ではあるようだ。

 恐らく、彼女がパーティの参謀役を務めているのだろう。

 まあ、他に適任もいなさそうではあるが。



「分かりました。よろしくお願いします、クオンさん」

「ああ、よろしく頼む。それじゃあ、早速進むとするかね」



 頭を下げる雲母水母にひらひらと手を振り、先導するように歩き出す。

 予想外に華やかなものとなった旅路に、俺は思わず笑みを浮かべていた。











 * * * * *











『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

「ようやく到着か……リブルムの門が閉まる時間を考えると、あまり長居はできないな」

「一時間ほどでしょうか……素早く情報収集をしなければなりませんね」



 しばし歩き続けて辿り着いた、長閑な村。

 村の周囲を囲むのは木でできた柵程度で、規模もそれほど大きくはないだろう。

 だが、戦いの気配は感じられず、とても穏やかで落ち着いた雰囲気を感じる。

 唯一目立つのは、村の中央付近にある大きな聖堂だろうか。

 リノの言うとおり、時間はあまりないが……目ぼしい建物も少ない。調査にはそれほど時間はかからないだろう。



「相変わらず小さな村だねー。ホントに何か仕掛けがあるのかな?」

「……望み薄だと思うけど。あの聖堂ぐらいしか目ぼしい場所ないし、もう調べた後だし……」



 ちびっ子二人の言葉に、俺は内心で同意する。

 見た所ではあるが、この村にはあの聖堂ぐらいしか目立つものが無い。

 しかしながら、ああいった目立つ建物があるのであれば、真っ先に調べられているはずだ。

 それでいてなお何も見つかっていないのであれば、薊の言葉の通り、あまり期待はできないだろう。

 と、その時――そんな会話をしていた俺たちの前を、二人の子供が走り抜けていった。



「あははっ、待てー!」

「待て待てー!」



 年齢は恐らく五歳程度だろう。

 木の枝を持った二人の子供は、周りに頓着することもなく走り回っている。

 その姿を見つめて、俺は僅かに視線を細めていた。



「ふふ、子供は元気でいいですね」

「ああいう光景を見るとなんか和むわねー……って、クオンさん?」



 雲母水母の困惑する声を背中に、俺は走り回る子供たちへと最短距離で近づく。

 そして、その子供たちが木の枝を振り上げている腕を掴み、二人の動きを止めていた。

 ぎょっとした表情でこちらを見上げてくる二人の子供に、極力声に険が籠らぬよう注意しながら告げる。



「お前たち、何をしようとしてるか分かってるのか?」

「な、なんだよおっさん!」

「はなせよっ!」



 おっさんと言われたことには若干カチンと来つつも、それを表情には出さない。

 じたばたと暴れる二人の子供ではあるが、生憎とその程度で俺の腕を外せるはずもない。

 小さく嘆息し、声を上げようとし――ちょうどそこで、慌てた様子の四人が近づいてきた。



「ちょっとクオンさん、何してるんですか突然!?」

「その子たちが何かしましたか? 私には追いかけっこをしていたようにしか……」

「ああ、説明も無しに悪かったな。確かにお前さんの言うとおり、追いかけっこには違いないんだが……」



 肩越しにリノの言葉に首肯してから、俺は視線を前へと向ける。

 前方にある植え込み、その植木の中で、不自然に葉が揺れている場所を凝視しながら。



「どうも、あそこにいるちっこいのを追いかけていたようだったからな。危なそうなんで止めておいた」

「ちっこいの? え、どれのことですか?」

「お、おっさん!? アンタ、あいつが見えるのか!?」



 俺の言葉に、暴れていた子供たちが驚愕した様子で声を上げる。

 相変わらずおっさん呼ばわりであるが、そこはスルーしつつ、俺は首を横に振っていた。



「いや、見えてはいない。雲母水母たちも一緒だろう?」

「え、ええ……本当に何かいるんですか?」

「ああ、気配がするな。大きさは……20センチも無いだろう。無色透明な、小さな生き物だ」



 気配だけは分かる、謎の生き物。

 完全な無色透明であり、視覚でその姿を捉えることはできない。

 だが、空気や物の振動、僅かな音自体は発生している。

 大きさは恐らく20センチ弱、空中を浮遊して移動している不思議な生き物だ。

 そんな俺の言葉に、子供が興奮した様子で声を上げていた。



「妖精だよ! あそこに妖精がいるんだ!」

「妖精……成程、そう言われれば納得だな。小さいし、飛んでるし」

「誰も信じてくれなかったから、捕まえようとしたんだけど……おっさん、話わかるな!」

「ええい、いい加減おっさん言うな。それは兎も角――」



 嘆息して、俺はひょいと二人の持つ木の枝を取り上げる。

 あっという間に奪われたからだろう、子供たちは呆然とした表情で自分の掌を見下ろしている。

 そんな二人を見下ろしながら、俺は視線を細めつつ声を上げた。



「お前たち、あそこに生えている木ぐらいでかい巨人が、棍棒持って襲い掛かってきたらどう思う?」

「はぁ? そりゃ、逃げるにきまってるだろ!」

「う、うん!」

「だろう? あの妖精からは、お前たちはそういう風に見えているってことだ」

「あっ」



 俺の指摘を聞いて、子供たちは目を真ん丸に見開いている。

 まあ、自分より小さい生き物から、自分がどう見えているかなど、そうそう考えるものではないだろう。

 ましてや、追いかけていたのはまだまだ小さい子供だ。その辺の判断など期待するものではない。



「お、おれ、怖がらせるつもりじゃ……」

「その気は無くても、あっちは怖がってるんだ。もう止めてやれ……いいな?」

「……うん」

「ごめんなさい……」

「いい子だ。そら、反省したなら別の所で遊んできな」



 小さく笑い、子供たちの背中をポンと押す。

 少しだけつんのめった二人は、一度こちらを見つめた後、そのまま村の奥の方へと走っていった。

 まあ、妖精の存在を信じて貰えて、多少は満足したのだろう。

 もう一度先ほどの植え込みの方へと視線を向ければ、例の妖精とやらの気配はまだその場から動いていない。

 どうやら、今のやり取りを観察していたようだ。



「妖精か……そんな生き物もいるんだね」

「見てみたいですねぇ……子供じゃないと見えないんでしょうか? くーちゃん、見えません?」

「それ、暗にあたしのこと子供って言ってる!?」



 一応中学生ではあるらしいくーは、リノの言葉に憤慨した様子で抗議している。

 まあ、様子を見た感じ、俺以外に妖精の存在を察知できている者はいないようだ。

 一体何の意味があるのかは知らないが、捉えられない以上、あまり深く考えても仕方ないだろう。

 やれやれと肩を竦め、透明な小人へと向けて声を上げる。



「じゃあな、ちびっ子。あんまり子供の前でウロウロするんじゃないぞ?」

「……何もない所に声を掛けてる」

「そう見えるのは仕方ないだろ……ほら、行くぞ――って、お?」



 薊の言葉にツッコミを入れつつ踵を返し、聖堂の方へと向かおうとした、その瞬間。

 植え込みの陰に隠れていた不可視の妖精が、ふわりと移動してこちらに接近してきた。

 先ほどの言葉を聞いていたのかどうか、遠慮なく顔面近くまで近づいてきた妖精は、俺の頭の周りをグルグルと二回転ほど回り、俺の額に触れる。

 瞬間――



『称号《妖精の祝福》を取得しました』

「なっ!?」



 インフォメーションが耳に響き、その瞬間、目の前が眩く光る。

 咄嗟に後退して構え――俺は、視界に映ったそれに、思わず眼を見開いていた。

 そこに浮かんでいたのは、体長20センチ弱ほどの、人形のような小さな生き物。

 緑色のドレスのような服装、ふわふわとした金色の髪、そして半透明な二対の羽。

 その姿は――



「わぁっ!? 妖精!? いきなり見えるようになったよ!?」

「可愛いですね! でも、突然どうして?」

「……ちょっと待ってくれ」



 状況がよく分からないが……とりあえず、さっきのインフォメーションからするに、称号とやらを取得したことで妖精の姿が見えるようになったように感じる。

 楽しげな様子でフワフワと飛んでいる妖精の姿を眺めつつ、俺は先ほど手に入れた称号を確認していた。


■《妖精の祝福》

 妖精に気に入られ、友好を結んだ者の証。

 称号所有者の近くでは妖精の姿が見えるようになり、所有者は妖精の《テイム》が可能になる。

 この称号スキルをセットした場合、妖精に対する《テイム》の成功率が上昇する。


 《テイム》というのは……確か、魔物と契約して自分の仲間にできるスキルだ。

 成功率はかなり低いが、一度成功すれば恒久的に仲間として運用することができる。

 また、イベントでは確定で《テイム》が成功するタイミングがあるという話だったが――



「……つまり、妖精を助けたから、妖精に気に入られたって話か」

「そうなんですか? でも、見えないものを助けるとか、中々無理ゲーな話なんですけど」

「まあ、姿が見えるタイミングもあるんじゃないのか? ふむ、しかし……」



 妖精は、とても上機嫌な様子で俺の周りを回っている。

 称号のこともあるし、どう控えめに見ても気に入られているとみて間違いないだろう。

 となると――せっかくの機会だし、試してみるべきか。


■《テイム》:補助・パッシブ/アクティブスキル

 魔物を仲間にすることができる。

 成功率はスキルレベルに依存する。

 また、テイムモンスターをパーティに加えるにはこのスキルをセットしている必要がある。



「スキルを取得して……おい妖精。お前さん、俺の仲間になるか?」

「クオンさん!? マジですか!?」



 スキル取得のSPは4、ここのところ使ってなかったし、十分払える範囲だ。

 まあ、スキル枠が若干気になるが、ここは入れ替えつつ運用するしかないだろう。

 そんな俺の内心を他所に、言葉を聞いた妖精は、驚愕する雲母水母のことはまるで気にせずに全身で喜びと肯定を表現していた。

 どうやら、随分と気に入られたらしい。



「なら、俺と一緒に来い――《テイム》!」

「――――♪」

『《フェアリー》のテイムに成功しました。テイムモンスターに名前を付けてください』



 スキルの効果を拒むことなく、妖精は喜びを表現するようにクルリと回る。

 光り輝く小さな妖精。その姿を横目に、俺はシステムウィンドウを操作する。



「……よし。よろしく頼む、『ルミナ』」

「――――!」



 俺の言葉に、妖精――ルミナは、任せろと言わんばかりに、その手を大きく振り上げていた。





















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:11

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:16

VIT:13

INT:16

MND:13

AGI:11

DEX:11

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.11》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.8》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.10》

 《MP自動回復:Lv.4》

 《収奪の剣:Lv.6》

 《識別:Lv.8》

 《生命の剣:Lv.7》

 《斬魔の剣:Lv.2》

 《テイム:Lv.1》

サブスキル:《HP自動回復:Lv.4》

 《採掘:Lv.1》

称号スキル:《妖精の祝福》

■現在SP:4






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:フェアリー

■レベル:1

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:3

VIT:6

INT:17

MND:14

AGI:12

DEX:8

■スキル

ウェポンスキル:なし

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《飛行》

 《魔法抵抗:中》

 《MP自動回復》

称号スキル:《妖精女王の眷属》

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