200:従魔たちの装備
■《武器:刀》精霊刀
攻撃力:??
重量:14
耐久度:100%
付与効果:魔力変換
製作者:-
■《装備:騎獣》琥珀飾りの手綱
魔力の篭った琥珀によって装飾されている騎獣用の手綱。
騎獣に装備させることにより、騎獣の移動速度を上昇させる。
刀が2500ポイント、手綱が1500ポイント、合わせて4000ポイント。
スキルオーブで3500ポイント消費したため、これでほぼすべてポイントは使いきった。
端数は消費アイテムで適当に埋めつつ、手に入れたアイテムを確認する。
精霊刀は、交換アイテムの中では最も高い刀だった。
だが、攻撃力自体は見えていない。一体どういうことなのかと確認してみれば、どうやらこの刀、使い手のステータスに応じて攻撃力が変化するらしい。
どうやら、使い手のINTのステータスを元に攻撃力を算出するようだ。
特に、ルミナはINTの数値が高い。こいつならば、高い効果を発揮することができるだろう。
「よし、ルミナ。これを装備してみろ」
「それは……よろしいのですか、お父様。お父様が交換されたものなのですよね?」
「構わんさ。お前たちが戦った分も、多少はポイントに換算されているようだしな」
テイムモンスターたちの戦果は、その全てが俺のポイントとして換算されているわけではない。
どうやら、その一部のみが主人である俺のポイントとして割り振られるようだ。
運営もその辺りのバランスには苦心したのだろうが――何にせよ、ルミナたちの奮戦があったからこそ、二つの装備を手に入れることができたのだ。
そもそも俺たちには成長武器があるのだから、これはルミナが使う以外に使い道はないのだ。
「とりあえず、装備してみろ。お前にはそれなりに良い効果のはずだ」
「……分かりました。ありがとうございます、お父様」
俺の言葉に遠慮がちながら頷き、ルミナは精霊刀を手に取る。
白塗りの鞘をしばし眺めたルミナは、ゆっくりと刀を立て、その刃を抜き放った。
現れたのは、刃紋の美しい一振りの刀。芸術品の如き様相ではあるが、その刀身はルミナの魔力を纏い、薄っすらと尾を引くように輝いている。
■《武器:刀》精霊刀
攻撃力:52
重量:14
耐久度:100%
付与効果:魔力変換
製作者:-
ルミナのステータスを反映して、武器の性能が変化する。
ふむ、これは――
「かなりの攻撃力だな……餓狼丸の基礎攻撃力すら超えているか」
「ほ、本当によろしいのですか?」
「構わんと言ってるだろうに。いいから気にせず使っておけ」
確かに強力ではあるが、成長武器のような特殊能力があるわけではない。
ルミナのステータスならば扱いやすい、というだけの装備だ。
物理攻撃力は若干控えめであるし、こういった底上げがあってもいいだろう。
そして、セイランのために取得した手綱であるが、どうやらこれは現在装備している翡翠飾りの手綱の上位互換であるようだ。
効果は移動速度の上昇。要するに、より走るのが速くなる訳である。
ただでさえ速いセイランであるが、これがあればさらに強化されることになるだろう。
速さとは一つの力だ。スピードは運動エネルギーに、ひいては破壊力に直結する。無論、それは諸刃の剣ではあるが、使いこなせれば強力な力となるだろう。
「うむ……緋真、こっちの手綱はお前が使うか?」
「いいんですか? 先生が拾ったものですけど」
「二つあっても使わんからな」
着けておくだけで騎獣の移動速度を上げてくれる手綱だ。
元々ペガサスよりもセイランの方が速いこともあり、あまり速度に差が出すぎると普段の移動にも影響が出るだろう。
こうなると、通常の移動にはアリスをセイランに乗せた方が良いかもしれないな。
まあ、それは実際に移動してから考えてみるとしよう。
手綱を緋真に手渡し、修理されて戻ってきた装備品を受け取る。
「よし……じゃあ、行くとするか」
「そう言えば、貴方たちはこの後どうするの?」
「うん? そりゃ、先に進むんだが」
「相変わらずね。けど、行先は二つあるわよ?」
「……何?」
エレノアの言葉に、思わず眉根を寄せる。
この国での戦いは終わった。ヴェルンリードを排除し、蔓延っていた悪魔の勢力は一掃できたと言える。
勢力図で見ても、ベーディンジアは白く染まり切っている。
以前のような居残りの悪魔がいるというわけでもなく、悪魔の勢力は綺麗に消え去っていた。
となれば、最早この国に居座る用事はない。いや、覇獅子を相手に鍛えるという手もあるが、流石にもう十分だろう。
そうなれば、向かうべきが次の国だが――
「そうか、隣接している国が二つあるんだったな」
「ええ、北にあるアドミス聖王国、そして東にあるミリス共和国連邦。プレイヤーたちには二つの選択肢が提示されているわ」
そう言いつつ、エレノアは机の上に地図を広げる。
大陸の中心にある大国、アドミス聖王国。そして、大陸の東海岸に若干細長く配置されているのがミリス共和国連邦だ。
「一体どういう国なんだ?」
「そうね……アドミス聖王国は、女神アドミナスティアーを信奉する教会の元締めね。この世界においては最大の宗教だし、国としての勢力もかなりのものよ」
「けど……この国って、確か」
「ええ、勢力図から鑑みて、最悪の戦況ね。既に滅んでいてもおかしくないんじゃないかしら。まあ、流石に情報を仕入れられないから何も断定はできないのだけど」
勢力図において、聖王国は真っ黒に染まっていた。
そこから北の国々も同様であるが、間違いなくこの国において人類は劣勢に立たされているということだろう。
対し、ミリス共和国の方であるが――
「東の方は、まだマシな状況だった覚えがあるぞ?」
「ええ、そうね。あちらの勢力図はまだグレーだったし……あまり強い国というわけでもないのだけれど、どうやって防いでいるのかは謎ね」
「成程……そっちが順路なんですかね?」
「順当に行くならば、だけど……ミリスに対処している内にアドミスが落ちている可能性は高いでしょうね」
エレノアの言葉を聞き、しばし黙考する。
北の聖王国は、ほぼ滅びかけている状況と言っていいだろう。
無論、直接目で確かめたわけではないため、断言はできないのだが――何にせよ、それを放置するというわけにもいくまい。
それに、根拠のない推論ではあるが、一つ思いついたことがある。
「そちらの国は、第二陣向けという可能性は無いか?」
「第二陣? ああ……成程、そういう考え方もあるわね。確かに、いきなり悪魔の大勢力がいそうな場所に突っ込ませるよりは、そっちの方が気が楽だわ」
このベーディンジアでさえ伯爵級が出現したのだ。
聖王国でも伯爵級が出現することはほぼ間違いなく……下手をすれば侯爵級が出現する可能性も十分にある。
そんなところにゲームを始めたばかりの連中を放り込むわけにもいかないだろう。
いや、うちの連中は放り込んでもいいかもしれんが――いや、流石に厳しいか。
伯爵級と相対したからこそ分かる、《化身解放》を使った悪魔の力は段違いだ。
ある程度力を付けてからでなくては、戦うどころか逃げることすらままならないだろう。
「ま、とりあえず北に……アドミス聖王国に行ってみるさ。共和国にはうちの門下生共を送り付けておく」
「それはそれで酷いことになりそうね……方針は了解したわ。こちらも北に行けるよう準備しておくから」
「頼んだ。どうなってるかは分からんから、慎重にな」
「そこは貴方の情報に期待しておくわよ」
小さく笑うエレノアの言葉に、軽く苦笑を返す。
同盟関係なのだ、何かあれば情報を共有しておくこととしよう。
ともあれ、次の目的地は北――アドミス聖王国だ。
ひとまずミリエスタまで移動し、そこからアドミスへ通じる道の情報を探るとしよう。
「……そう言えば、北でヴェルンリードに像にされていた人々はどうなった?」
「悪魔を仕留めただけじゃ元には戻らなかったみたいだけど、解呪の魔法で元には戻せているみたいよ。少しずつこちらまで移動してきているわ」
「成程、それなら問題はなさそうだな。それじゃ、とりあえずミリエスタの石碑を開通してくる」
「この際だから、色々やらかしてくれるのを期待してるわ」
エレノアの物言いには若干言いたいことはあるが……どうやら、とりあえずは安心のようだ。
王子殿下からの依頼も果たせたであろうし、満足すべき結果だと言えるだろう。
とりあえず、借りていた腕輪は返さなくてはならないが……出発前にアルトリウスを探して預けておくべきか?
そう考えながら天幕の外に出たところで、伏せるセイランの前に屈みこむ人影を発見した。
シルバーブロンドの女性だが、しゃがんでいるにしても中々身長が高い。
すらりとしたその姿は、若干宝塚的な印象を受ける。セイランを撫でていた彼女は、俺の姿に気づくと爽やかな笑みを浮かべながら立ち上がった。
「良いグリフォンだ。良く鍛えられている……貴公がクオンかな?」
「……その通りだが、貴方は?」
「失礼、私はリーシア。リーシア・カルロ・ベーディンジア。このベーディンジア王国の第一王女だ」
その言葉に、思わず眼を見開く。
王女でありながら、将として前線に立ち続けた変わり者。
姫将軍――そして、あのヴェルンリードに敗れ、宝石の像へと変えられていた人物。
確かに、アルトリウスたちによって救出されていてもおかしくはないが、まさかいきなり姿を現すとは思わなかった。
「失礼、王女殿下がこのような場所にいるとは思わなかったもので」
「ああ、畏まらなくてもいい。私は所詮、一介の将兵に過ぎんさ。それより、貴公には礼を言いたかったのだ。私を助けてくれたこと、感謝している」
まさか、わざわざ礼を言うためにここまでやってきたのだろうか。
一介の将兵と言うが、将であることは間違いない。とんでもない地位に就いている人物だろうに。
しかし、中々我の強そうな人物だ。まあ、王族でありながら最前線で戦おうとする奇特な人物である時点で、今更と言えば今更なのだが。
「いえ、礼には及びません。こちらはただ、斬るべき悪魔を斬っただけ。貴方を救出したのはアルトリウスで、貴方の救助を願ったのは、貴方の弟君です」
言いつつ、俺は第一王子から預かっていた腕輪を彼女へと差し出す。
対する王女殿下は、俺の手からそれを受け取りつつも首を横に振った。
「だが、貴公があの悪魔を討たねば、私はここにはいない。せめてもの礼だ、受け取って欲しい」
そう言いつつ彼女が差し出してきたのは、紫色の宝玉だった。
思わず反射的に《識別》し――俺は、その結果に思わず眼を見開いた。
■嵐王の宝玉:素材・イベントアイテム
嵐王の系譜にあるグリフォンの心臓が結晶化したもの。
強大な嵐属性の魔力を有している。
これを有するグリフォンは、嵐王への進化を可能とする。
「これは……貴方の騎獣は、確か――」
「私の相棒は、あの悪魔との戦いで命を落とした。言うなれば、これは形見だが……良いのだ、仇を討ってくれた貴公にこそ、これを譲りたい」
どうやら、決意は固い様子だ。
であれば、固辞するわけにも行かないか。
「謹んで、お受けしましょう」
「……ありがとう。私は鍛え直しだ。いつか、貴公と轡を並べて戦えることを楽しみにしているよ」
やはり、多少は思う所があるのだろう。
だが、それでも笑みを浮かべた彼女は、そのまま踵を返して立ち去って行った。
その背をしばし見送り、俺は仲間たちへと告げた。
「よし、行くとするか。聖王国に行くまでに成長武器の経験値を溜めるぞ」
「了解です。境界ボスに挑むまでに★3にはしたいですね」
ちらりと去っていく背中を見送った緋真は、調子を変えずそう口にする。
その心遣いに小さく笑みを浮かべて、俺は北へと足を踏み出した。





