199:報酬の選択
イベントを終えた日はそのままログアウトし、翌日。
俺は、決戦の場となったベルゲンの中央広場辺りにログインした。
今回は、前回のイベントのように成績順位が発表されるわけではない。
それぞれが稼いだポイントを用いて、専用のウィンドウからアイテムと交換するだけだ。
まあ、あの煩わしい視線に晒されなくて済むというだけ、マシであるとは思うのだが。
ともあれ、どのようなアイテムと交換できるのかは気になったものの、路上であれこれやるには流石に視線が多い。
話しかけられても面倒であるし、俺は緋真たちを引き連れて、さっさと『エレノア商会』の店舗に移動することにした。
ちなみに、店とは言うものの、現状ベルゲンの建物は復旧している途中のものが大半だ。
そのため、エレノアは久方ぶりの巨大な天幕を用いて商売を行っていた。
多くの生産職は街の復興に駆り出されており、『エレノア商会』にしては人が少ない。
だがそれでも、主要な生産メンバーはこの場に揃っているようだ。
「よう、忙しそうだな、エレノア」
「ええ、お陰様でね……まあ、アルトリウスの口車に乗った以上、私が言えた口じゃないけれど」
天幕の中で各員に指示を飛ばしていたエレノアは、若干恨めし気な視線をこちらに向けつつも、嘆息しながらそう口にする。
そんな彼女の言葉に首を傾げていると、隣の緋真が苦笑を交えて声を上げた。
「先生、今回のイベントって、本当ならもっと時間をかけて戦うものだったんですよ」
「ん? ふむ……ベルゲンでしばらく迎撃してからヴェルンリードに挑むってことか?」
「ええ、数日かかることも見越したイベントだった、というのが大多数の見解です。けど、アルトリウスさんたちと一緒にヴェルンリードを引っ張り出しちゃったじゃないですか」
「思ったよりも早く終わっちまったってことか」
街の復興やらアイテム支援やらを行うことでポイントを稼ごうとしたのだろう。
それが、俺たちがさっさとヴェルンリードを片付けてしまったせいで、稼げる時間が減ってしまったようだ。
とは言え、エレノア自身アルトリウスの作戦には賛同した上で参加した。
そうである以上、現状に対する文句もつけられないのだろう。
「……まあ、生産系には多少ロスタイムもあったし、戦闘系に引けを取るポイントではなかったからいいのだけどね。それで、今日は何の用かしら? 装備の修復?」
「ああ、それもあるが……とりあえず、報酬の確認だな」
全員分の装備を一旦予備の装備に変更し、従業員に預ける。
餓狼丸についてはまだ経験値が溜まり切っていないし、そもそも次の強化の素材が無いため強化はできない。
久方ぶりに太刀だけを佩いているとどうにも軽く感じてしまうが、それもしばらくの辛抱だろう。
「報酬ね。そういえば、貴方たちは何を交換するの? というか、幾らぐらい稼いだの?」
「ふむ……俺は8000ポイントぐらいだな」
「……私、5000ぐらいなんですけど」
「こっちもギリギリ5000ね。大物狩りは効率が良かったのかしら」
詳細なポイントの内訳までは表示されていないため分からないのだが、俺の総ポイント数は7924だ。
支援の類のポイントはほぼ無いが、『爵位悪魔』に割り振られているポイントが七割以上である。
どうやら、ヴェルンリードに割かれているポイントはかなりの量であったようだ。
恐らく、共にヴェルンリードとの戦闘を長時間繰り広げた『キャメロット』の面々も、かなりのポイントを稼いでいることだろう。
驚いたのは、アリスのポイントだ。アリスの場合はあまりヴェルンリードとの直接戦闘には参加していない。
後半は戦っていたものの、前半の内はヴェルンリードと顔を合わせてすらいなかったのだが。
「アリス、お前さんの内訳はどうなってるんだ?」
「え? 『爵位悪魔』が半分、後は『ギミック解除』が半分……後の端数はその他って所だけど」
「ああ、あの魔法陣の解除か。俺はパーティを共有しただけだから大して入っていないようだが……」
「それだと、マリンさんと高玉さんはかなり稼いでいそうですね」
ヴェルンリードが宝石像から魔力を吸収するために仕掛けていた魔法陣。
あれを解除しなければ、実質ヴェルンリードを倒すことは不可能だっただろう。
そう考えれば、それだけ大量のポイントが割り振られていたことも頷ける。
しかし、今考えると本当に綱渡りだったな。
「何にせよ、あの悪魔と戦った貴方たちは随分と稼げたみたいね。ってことは、成長武器と交換するの?」
「俺は流石に餓狼丸以外は要らんがなぁ……」
成長武器の取得ポイントは5000点だ。つまり、ほぼすべてを消費するが、緋真とアリスは成長武器を取得できる。
俺も取得することは可能であるが、流石に二つも成長武器を管理できる気がしない。
成長武器は使わなければ経験値を取得できないのだ。メインで使っている太刀ならばまだしも、他の野太刀や小太刀では使用頻度が低すぎる。
それでは、上手いこと成長させることができないだろう。
一方で、他の二人であるが――
「ええ、私は勿論、取得するつもりです」
「私もね。せっかくの機会だし、一度取っておけばずっと使えるでしょう」
どうやら、二人は取得するつもりであるらしい。
二人のポイントの場合、成長武器を取得したらほぼ端数しか残らない。
今回の二人のイベント報酬は、ほぼそれだけになることだろう。
さて、それはそれとして、果たして俺はどうしたものか。
「先生は何を取るんですか?」
「ふむ……とりあえず、一つはプラチナスキルオーブにするか」
交換ポイントは3500点、取ろうと思えば二つ取れるのだが、今はスキル枠に空きがない。
俺はあと一つレベルを上げれば枠が増えるし、その分だけで十分だろう。
後は何を取得するかと、順番にリストを眺めていく。
その間に、二人はどうやらポイント交換を完了させていたようだ。
「お、来ました来ましたよ、先生!」
「ふぅん……専用の装備っていうのは、ちょっと心が躍るわね」
弾んだ声に視線を向ければ、そこにはそれぞれ新たな武器を手に笑みを浮かべる二人の姿があった。
緋真の手にあるのは、赤く花が散るような装飾の鞘に収まった一振りの刀。
そしてアリスの手にあるのは、鞘から柄まで全てが黒く染まった短剣だった。
試しにと抜き放った緋真の刀は、打刀のサイズでありながら、切っ先は鋒両刃造という奇妙な代物だ。
あれは――
「重國の散華天宗か。あのジジイ、やはり読んでやがったな」
俺がぽつりとつぶやいた言葉は、どうやら刀に集中している緋真には届かなかったようだ。
あれは、天狼丸重國を打った刀匠の作品の一つ、刀の大きさで天狼丸を再現しようとした一振りだ。
天狼丸にこそ及ばないが、これも十分すぎる名刀だと言える。
緋真もその違いが分かったのだろう、息を飲んで刀を凝視しているようだ。
一方で、アリスが手に入れたのは、刀身まで真っ黒な短剣だ。
若干紫の光沢を持つ短剣は、ひどく妖しく恐ろしげな印象を受ける。
流石にこちらまでジジイが関わっているということは無いだろうが、中々に強い気配のある刃だ。
「『紅蓮舞姫』と『ネメの闇刃』ねぇ……効果はどんなもんなんだ?」
「ええ、ちょっと見てみてくださいよ」
言いつつ、緋真は己の成長武器を俺へと示す。
武器自体の性能は、まだ★1であるため大したことは無いだろう。
だが、成長武器には解放がある。こいつらの武器の力は、果たしてどのような物なのか。
■《武器:刀》紅蓮舞姫 ★1
攻撃力:24
重量:13
耐久度:-
付与効果:成長 限定解放
製作者:-
■限定解放
⇒Lv.1:緋炎散華(消費経験値10%)
攻撃力を上昇させ、攻撃のダメージ属性を炎・魔法属性に変更する。
また、発動中に限り、専用のスキルの発動を可能にする。
専用スキルは武器を特定の姿勢で構えている状態でのみ使用可能。
→Lv.1:緋牡丹
上段の構えの時のみ使用可能。
斬りつけた相手に周囲から炎が集まり、爆発を起こす。
緋真の紅蓮舞姫は、餓狼丸よりはよほど素直な性質を持っているようだ。
純粋に攻撃力を上昇し、ダメージ属性とやらを変更する。まあ、通常の攻撃が炎の魔法扱いになるということだろう。
ついでに、専用のスキルが使えるようになるとのことだが……これだけだと良く分からんな。
「実際に使ってみないことには何とも言えんな」
「ですね。まだ最初だからあんまり攻撃力も高くないですけど」
「次に行くまでに★3ぐらいにはしておきたい所だな。それで、アリスの方はどうだ?」
「面白そうだけど、こっちも使ってみないと良く分からないわね」
そう口にして、アリスは片手に持った刃を俺へと示す。
光を当てるとわずかに紫色に見えるが、その輝きは随分と鈍い。
殆ど光を反射しないそれは、闇夜の中では一切目に映らないだろう。
■《武器:短剣》ネメの闇刃 ★1
攻撃力:20
重量:10
耐久度:-
付与効果:成長 限定解放
製作者:-
■限定解放
⇒Lv.1:暗夜の殺刃(消費経験値10%)
発動中は影を纏った状態となり、敵から認識されづらくなる。
また、発動中に限り、認識されていない相手に対する攻撃力を大きく上昇させる。
更に、5秒に一度、1秒前にいた場所に幻影を発生させる。
「暗殺特化とは、都合のいいことではあるが……幻影?」
「どういう状態なのかしらね? まあ、相手の意識を逸らせるのなら便利だとは思うけど」
「ふむ……ちょいと経験値を貯めて試してみるべきか。★1の状態なら、10%なんてすぐに溜まるだろ」
緋真の紅蓮舞姫、アリスのネメの闇刃、どちらも成長武器ならば強力な効果である筈だ。
その力を使いこなすためにも、まずは試してみなくては。
まあ、まずはその前に、俺の報酬をさっさと決めてしまわなくてはならないのだが。
しかし、スキルオーブ以外に欲しいものがあるわけでもなく、装備の類も特に不満は――
「……いや、そうだな」
ちらりと背後へ視線を向け、小さく笑う。
その先にいたルミナ、そして天幕の外で伏せながら顔だけ覗かせているセイランは、俺の表情に対してキョトンと目を見開いていた。





