002:キャラクター作成
書籍版マギカテクニカ第2巻、9/19発売です!
情報は随時、活動報告やツイッターにて公開していきますので、是非ご確認を!
「何つーか、口車に乗せられた感はあるんだが……」
今まで殺風景だった自室に置かれたのは、場違いなほどに大き目のPC。
そして、リクライニングチェアー型のVRマシンである。
ハイエンドのPCと、手が出せる中でも最も性能の高かったVRマシン。
これらを揃えるのにはかなりの額が掛かったのだが、これまで師範代、師範として働いてきた金はすべて貯金してきたため、購入には全く問題はなかった。
まあ、貯め込むだけでは意味がないし、たまには散財するのもいいだろう。
ちなみにだが、ソフトに関しては何故か明日香が二つ持っていた。どうにも、最初から俺を引き込むことを企んでいた様子である。
「まあ、金も使っちまったわけだし、ここで引き下がっちゃ損ってモンか。とりあえず、始めるとするかね」
PCは既に起動状態。VRソフトもインストールし、VRマシンも接続してある状態にある。
部屋にはしっかりと鍵をかけ、準備は完了。
俺はVRマシンに座り、肘掛のところにあるスイッチでマシンを起動した。
それと同時に、頭上から降りてきたヘッドギア型のディスプレイが頭に装着され、そしてPCの画面が表示される。
「さて……【Magica Technica】起動」
『起動処理中。少々お待ちください』
音声認識によってVR対応ソフトが起動され、同時にVRマシンが作動していく。
程なくして起動処理は完了し――全ての五感が遠ざかっていく、気絶と似たような感覚と共に、俺の視界はブラックアウトした。
『――【Magica Technica】へようこそ。初期設定を行います』
――だが、それも一瞬。
すぐさま復活した俺の視界に入ってきたのは、周囲に浮かぶリング状の光と、正面に浮遊する光の塊だった。
ふわふわと浮遊する球状の光は、どうやら俺に対して説明を行っているらしい。
まあ、とりあえずこれの話を聞いておけばいいだろう。
明日香の奴は色々と説明をしてくれたが、正直良く分からなかったので、この場で適宜聞きながらやった方がいいだろう。
『キャラクターネームを登録してください』
「キャラクターネーム? あー、明日香の奴は『本名はダメですよ』とか言ってたっけか」
別に言われんでも、それぐらいの常識はあるつもりなのだが。
まあ、ここは適当でいいだろう。呼ばれづらい名前や妙な名前でさえなければ問題はあるまい。
というわけで――まあここは当主らしく、うちの苗字をもじった名前にでもしておくか。
「キャラクターネームは【クオン】、と」
『キャラクターネーム【クオン】で登録します。よろしいですか?』
宙に浮いた半透明のキーボードに打ち込み、己の名前を決定する。
確認のメッセージもエンターで了承し、俺のアバターの名前は【クオン】に決まった。
すると、目の前に浮いていた光が突然くるくると円を描くように動き始め――その中心に、光に包まれたアバターが出現する。
まだ光の輪郭のみが浮かび上がるそれを凝視していると、再びアナウンスが響き渡った。
『アバターの容姿を登録します。現実の身体データを利用しますか?』
「ああ、それでいい」
むしろ、そうでなければ意味がない。
現実の体との乖離が生まれてしまっては、それを用いて戦う意味がなくなってしまうからだ。
俺の言葉を受けて、光の回転がさらに速くなる。
そして次の瞬間――目の前には、黒いボディスーツのようなものを纏った、現実の俺自身の姿が浮かび上がっていた。
どうやら、あらかじめ行っていたスキャンの結果がきちんと反映されたようだ。
「ほう、正確だな……精密スキャンってのをやった甲斐があったか」
『種族を決定した後、アバターの詳細設定を行います。種族を決定してください』
「っと、種族か」
目の前に浮かび上がるのは、それぞれの種族のイメージ画像および簡単な説明だ。
種族の種類は人間族、獣人族、森人族、地妖族、魔人族、小人族の六種類。
それに加えて、獣人族については、どうやら複数の獣の種類があるらしい。
これについては、どれを選んでも戦えないということはないらしいが――
「……まず、現実から身長、体重、そして余計な部位が追加される種族は却下。この時点で人間か魔人だな」
オールマイティ、悪く言えば器用貧乏な人間と、高いステータスを持つ代わりにいくつかのペナルティがある魔人。
まあ、自分の肉体として操るならば、やはり人間を選択したほうがいいだろう。
その方が、より違和感なく体を使えるはずだ。
人間を選択すれば、先ほど表示されていた俺のアバターが、何ら変更されることなく俺の前に表示される。
しかし、全く変化が無いというのも少し味気なくはあるな。
――そう考えた瞬間、再び光からアナウンスが流れていた。
『アバターの外見を設定してください』
「外見か……まあ、体をいじる必要はないが、髪と目ぐらいは変えておくか。明日香の奴も、見た目は変えてくださいとか言ってたし」
しばし考え、俺はアバター操作の欄の内、髪と目の項目について操作する。
現実では短く刈っている髪は伸ばし、ポニーテールのような形に。
そして、瞳は群青色へと変化させた。これだけでも、恐らく俺だとは分からない程度には印象が変わったことだろう。
外見はこれにて決定だ。さて、その次は――
『スキルを選択してください。スキルは武器スキル、魔法スキル、そしてその他に五つのスキルが選択できます』
「スキル、ねぇ」
そう、これが問題だ。
この【Magica Technica】というゲームでは、すべてのプレイヤーが最初に武器と魔法を選択する。
それは近接系の武器を選んだ場合でも必ずだ。
メインとなる武器と魔法、それらを組み合わせた魔導戦技。
その力を以って、プレイヤーはこの世界で戦っていくことになる。
しかし、俺からすれば、現実にはありえぬ魔法という概念が理解しがたいものだったのだ。
「火ぃ出したり風出したりするのか? 剣から? んなモン剣術じゃねぇだろ……」
しかも、魔導戦技とやらは発動した瞬間に体が勝手に動き始めるらしい。
最早意味が分からん、としか言いようがない。そんなものを使うぐらいなら自前で剣を振っていたほうがマシだ。
「まあ、とりあえず武器は刀を選ぶとして……」
武器スキルの欄で、プルダウンメニューの中から《刀:Lv.1》を選択する。
スキルにはレベルが付いており、使っていればどんどんレベルが上がり、それに応じて威力も上昇していくらしい。
まあ、武器については問題ないだろう。考えねばならないのは魔法だ。
「魔法ねぇ……流石に、使わないってのも変な話だしな……攻撃手段じゃない魔法とかか?」
しかし、回復やら補助やらは属性魔法に含まれており、そもそもそんな魔法を使うなんぞ俺の性にも合わない。
魔導戦技として使わず、しかし使いどころがある魔法。
何と言うか、ゲームシステムに真っ向から喧嘩を売っている気がしないでもないが……そんな感じの魔法がないかと探してみる。
――そこで目に付いたのは、一つの魔法だった。
「ふむ、《強化魔法》……武器や防具を強化する魔法か」
生産したアイテムに特殊効果を付与する《付与魔法》とは違い、その場その場で武器や防具の性能を高めるだけの魔法。
これならば、攻撃時に余計なモーションを出して動きを邪魔されることもないだろう。
刀が鋭くなるだけなら、別段問題はないからな。
「じゃあ、魔法は《強化魔法:Lv.1》と……で、残りは別のスキルか」
そして、またうんざりと眉根を寄せる。
このスキルが、またあまりにも数が多いのだ。
今の段階で習得できるスキルだけでも百個以上。そして、ゲーム中に取得できるスキルとなるとさらにその数倍。
まあ、後者についてはやっている最中に悩めばいいのだが、今この場で何を取得すべきなのかはさっぱり分からない。
「あー、そうだな……」
まず、自分がどんな風にゲームをプレイするのかを考える。
まあ、言わずもがな、とりあえず刀で敵を斬るだけだ。それも、自分自身の技と体で。
なので、勝手に回避したりだのステップしたりだの、そういうスキルは要らん。自前で何とかする。
となると、欲しいのは一時的に攻撃力を高める類のスキルや、自前で回復できる類のスキルだろう。
前者については、まあ《強化魔法》があるのでそれほど緊急ではないが、後者はやはり欲しいところだ。
「スキル枠は五つ……攻撃は一つ、回復は二つぐらいか? 慣れない内から手札を増やしすぎてもな」
しかし、初期の回復手段は殆ど存在しない。
基本的に、あるのは《聖属性魔法》による回復魔法程度だ。
無論、《強化魔法》を選んでいる俺には取得できるはずもない。
しばしスキルの一覧を眺め――選んだのは、《HP自動回復》と《MP自動回復》の二つだった。
■《HP自動回復》:回復・パッシブスキル
HPが最大値より減少している場合、HPを徐々に回復させる。
回復は十秒ごとに行われ、回復量はスキルレベルに依存する。
■《MP自動回復》:回復・パッシブスキル
MPが最大値より減少している場合、MPを徐々に回復させる。
回復は十秒ごとに行われ、回復量はスキルレベルに依存する。
スキルを一々発動するというのも、慣れない内には中々難しそうではある。
こういった、何もせずとも勝手に発動してくれるタイプのスキルは中々にありがたい。
「攻撃系もこの手のやつから選ぶかね、と……確か、ステータスアップ系は選ぶなとか言ってたな、あいつ」
何でも、上昇幅はあまり大きくないので、スキル枠を圧迫するから序盤から取っておくのは難しいとのことだった。
発売してまだ一週間ちょっとだから、序盤も何もまだあまり進んではいないと思うのだが……まあ、その辺は従っておくとしよう。
しかし、そうなると常時発動系スキルというものは中々少ない。
「うーむ……これぐらいか?」
見つけたのは、《死点撃ち》というスキルだ。
■《死点撃ち》:補助・パッシブスキル
敵の弱点部位に対するダメージ補正を上昇させる。
ダメージの上昇幅はスキルレベルに依存する。
簡単に言えば、敵の弱点位置へのダメージ補正が上昇するというスキル。
このゲームでは、敵には全て生物的な弱点が存在するという。
要するに、頭やら心臓やらをぶち抜いてやれば相手は死ぬということだ。
まあ、一部アンデッドやら非生物やら例外はあるらしいが、とりあえず首を落とせば死ぬというのは分かりやすい。
仮に落とせなかったとしても、そういった生物としての弱点部位には、攻撃を当てると大きなダメージが発生するらしいが――このスキルは、そのダメージをさらに上昇させるというもののようだ。
「まあ、とりあえず弱点狙って斬ればいいだけの話だ。攻撃も避けるなり受け流すなりすればいいだろう」
何やら《パリィ》だの《ブロック》だのといったスキルも存在したが、別に自前で受け流せるから必要ない。
さて、後は何を選ぶか――そう考えながらざっとスキル枠をスクロールしていった時、その一番下の欄に、《ランダム》という表示があるのを発見した。
《ランダム》というと、この中からランダムでスキルを選ぶということか?
「これについては聞いてなかったな……あー、これって質問したら答えてくれるのかねぇ」
『はい、質問は常時受け付けております』
「うおっ!? 何だ、ただの定型文のシステムメッセージじゃなかったのか、お前」
『私はキャラクター作成補助用の簡易AIです。スキルに関するご質問ですか?』
どうやら、この場で質問は受け付けているようだ。
だったら最初からいくつか聞いておけば良かったと思いつつも、先ほど発見した《ランダム》に関して質問を飛ばす。
「この、欄の一番下にある《ランダム》ってのは何だ?」
『スキルの中からランダムで一つのスキルが選択されます。ただし、特典としてこの一覧にはない珍しいスキルもランダム枠の中に含まれております』
「ほう、この欄以外のスキルからも取得できる可能性があるってことか……ここにあるスキルとかは、後からでも取得できるんだよな?」
『はい。スキルポイントを消費して、スキルを習得することが可能です』
となると、別に取り返しがつかないということはないようだ。
それならまぁ、多少ギャンブルで遊んでみても問題はないだろう。
そう考えて、俺は残りの二つを《ランダム》に設定した。
これでスキルは五つ、枠は埋めることができたはずだ。
『スキルの選択はこれでよろしいですか?』
「ああ。これで問題ない」
『では、最後に確認をお願いいたします』
その声と共に、俺の目の前のウィンドウに俺のステータス画面が表示される。
先ほどの内容が全て、間違いなく表示されている画面だ。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■ステータス
STR:10
VIT:10
INT:10
MND:10
AGI:10
DEX:10
■スキル
ウェポンスキル:《刀:Lv.1》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.1》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.1》
《HP自動回復:Lv.1》
《MP自動回復:Lv.1》
《ランダム》
《ランダム》
サブスキル:なし
このサブスキルとやらは装備していないスキルのことらしい。
スキルは初期時点だと5個しか装備できず、そこからクエストやらレベルアップやらで枠が増えていくとのことだ。
このスキル枠から溢れて装備できないスキルは、全てサブスキルの枠に回されることになる。
まあ、今は5個しか持っていないから関係ないがな。
「確認した、ステータスはこれで問題ない」
『承認いたしました。このまま【Magica Technica】へのログインを開始しますか?』
「ああ、頼む」
『承認確認。では、貴方の旅路に幸多からんことを――良き旅を』
淡々としたその声音の中、どこか子供を慈しむかのような響きを感じ、思わず苦笑する。
そして、次の瞬間――周囲はホワイトアウトし、その眩しさに俺は目を閉じた。