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193:駆ける騎兵たち その14












 空間を斬り裂く翠の光。

 薙ぎ払うように閃くそれを不規則に飛び回って回避しながら、以前に通ってきた道を戻ってゆく。

 ヴェルンリード――ドラゴンの姿へと変貌したあの悪魔は、額にある第三の瞳から幾度も光線を放ってきている。

 今の所命中してはいないが、あれの直撃を受ければ、恐らくミリエスタにあった宝石像と同じように変えられてしまうだろう。

 この空中で宝石に変えられてしまえば、地上まで落下して砕け散ることとなる。

 まあ、奴の魔法に直撃すればどちらにしろ即死であろうし、危険度はあまり変わっていないのだが。



「マリン、解析はできたかい!?」

「はいはい、おおよその所は分かったよ――っと! やっぱりあれ、呪いの属性だね」

「ってことは、【アンチカース】で解除可能かな?」

「できるだろうけど、一瞬で解除することは不可能だろうね……っとっとっと! 危ないなぁ!」



 時折接近しながら言葉を交わしているアルトリウスとマリンであるが、その言葉の意味はあまり良く分からない。

 どうやら、あのヴェルンリードの光線を解析しているようだが……今のうちに少しでも情報を集めておくつもりだろうか。

 又聞きではあるが、一応解除の目途は立っているらしい。

 しかし、正直な所今そんな余裕はないだろう。



「《蒐魂剣》……!」



 セイランを操り、紙一重で回避しながら《蒐魂剣》を纏う刃を振るう。

 ヴェルンリードの放ってきた閃光は、俺の一閃に触れた途端に霧散して消滅した。

 やはり、これも魔法の一種ではあるらしい。だが、正直な所かなりスピードがあるため、これを斬るのは苦労しそうだ。

 刃には影響がないとはいえ、正直な所正面から相対したい能力ではない。

 幸い、あまり連発できる能力ではないようだが……とにかく、奴の瞳に魔力が集中した時には注意しなければ。



「あれ……やっぱり、バジリスクですかね」

「何だそりゃ?」



 飛び交う風の刃を炎の魔法で迎撃した緋真は、その煙の陰に隠れながら俺の傍まで接近してくる。

 時折奴に向かって魔法を放ってはいるが、あまり大きなダメージにはなっていないようだ。

 そんな弟子の口にした言葉に、俺は意識だけ傾けながらそう問い返す。

 対し、返ってきたのは緊張の混じった固い声音だ。



「ファンタジーの話ですけど……バジリスクっていうのは、生き物を石化させる瞳を持った毒トカゲです。あの悪魔は、それをモチーフにしているんじゃないかと」

「なら、あれはさしずめエメラルドバジリスクってか。そのバジリスクとやらに弱点は無いのか?」

「鏡を向けて視線を反射すると逆に石化するとか言いますけど、それを試すのは怖いですね」

「視線と言っても、光線だからな――《蒐魂剣》!」



 再び襲い掛かってきた翠の光線を斬り裂き、舌打ちする。

 どうやら、あの悪魔は相変わらず、俺のことを文字通り目の敵にしているようだ。

 あの姿に変じてから、奴の魔法攻撃力は増している。

 光線に加えて《嵐魔法》も使ってくるし、全くと言っていいほど気を抜ける状況ではない。

 だが、一方である程度は狙い通りの状況であると言える。全速力で南へと向かう俺たちに、ヴェルンリードはぴったりとくっ付いて攻撃を放ってきている。

 そのスピードは他の悪魔が付いて来られるものではなく、奴は完全に孤立している状態だ。

 今この場で反転して勝負を挑むというのも無くはないが――いや、万全を期すためには、やはりアルトリウスの策に乗るべきだろう。

 この女の存在を認める訳にはいかない。確実に消さなければ。



『おのれ……おのれ、魔剣使い……!』

「おいおい、大人気だな」



 荒れ狂う風がこちらを捉えようと逆巻くが、同じく風を纏ったセイランは大きく翼を羽ばたかせて相手の魔法から逃れる。

 あの姿になってからというもの、奴は随分と獰猛になったように思える。

 いや、より本能的に動くようになったと言うべきか。

 人の姿をしていた時のような取り繕ったイメージはなく、ただ怒りのままに暴れている印象だ。



(しかし……!)



 俺が多くの標的となり、攻撃に対処しているからこそ何とかなっている。

 だが、他の連中ではこうはいかないだろう。

 ペガサスの機動力は高いが、それでもセイランほどではない。緋真のように、あらかじめ相手の動きを読んだ上で回避行動を取らなければ間に合わないだろう。

 その上で――



『ガアアアアアッ!』

「チッ、『生魔』!」



 まるでブレスのように放たれた雷撃へと、《練命剣》で威力を底上げした《蒐魂剣》を振り下ろす。

 あの光線と風の魔法については《魔技共演》を使う必要はないが、こちらは話が別だ。

 威力を底上げしなければ消し切れない上に、それでもなお若干のダメージを受けてしまう。

 ルミナに回復魔法を掛けて貰いつつ、俺は注意深く奴の動向を観察した。

 雷の魔法については、放つときに若干動きが鈍る。それのお陰で距離は開けられるのだが、あの威力を相手にする方が面倒だ。



「ッ……アルトリウス、ベルゲンの状況は!」

「連絡は入れてあります! 現在準備中です!」

「集まってはいるんだな!」



 であれば、後は俺たちが無事に辿り着くだけだ。

 アルトリウスからの通信に加え、先に戻った高玉やアリスが動いているはずだ。

 『キャメロット』の連中だけではなく、エレノアたちもいる。対策は十分に取れているだろう。

 若干距離の開いたヴェルンリードへ、ペガサスを旋回させたスカーレッドがその杖を向ける。



「《スペルエンハンス》、【フリーズボルテクス】!」



 その宣言と共に、ヴェルンリードを中心とした雪風の渦が発生した。

 ボルテクスというのは杖の魔導戦技マギカ・テクニカであり、相手を中心とした渦を発生させる効果を持つんだったか。

 あの渦は相手の行動を阻害する効果もあり、ヴェルンリードの足止めにはちょうどいい効果だろう。

 だが、やはりその程度では、あの怪物を抑えるには至らないらしい。



『無駄だッ!』



 ヴェルンリードは翼を打ち、巨大な暴風を発生させる。

 その瞬間、渦を巻いていた冷気は、まるで内側から引き裂かれるかのように霧散した。

 魔法攻撃に長けたスカーレッドですら、あの悪魔の動きを止めるには至らないということか。

 容易く氷の渦を引き裂いたヴェルンリードは、殺気に満ちた視線でこちらを――否、スカーレッドを睥睨する。



「まず――ッ!」

「スカーレッドさん!」



 瞬間、翠の閃光が空を貫き――それを遮るかのように、光の障壁が現れる。

 マリンが展開した防御魔法だが、ヴェルンリードの光線は容易くそれを貫き、スカーレッドへと殺到する。

 彼女は、そのほんの僅かな時間で回避行動を取り――翠の光は、彼女の騎乗するペガサスの翼を貫いた。

 翼の先が宝石へと変化し、ペガサスの高度はがくりと下がる。辛うじて飛んではいるが、高速で空を駆けることは不可能だろう。

 ――それを理解して、スカーレッドは己が杖の先をヴェルンリードへと向けた。



「行って下さい、アルトリウス様! せめて一矢報います!」

「っ、ダメだ、スクロールで退避を!」

「いいえ……逃げ帰るなど、私のプライドが許さない! 《高位魔法陣》!」



 決意の声と共に、スカーレッドの周囲に複数の魔法陣が現れる。

 ルミナも使っている《魔法陣》のスキルの上位版であるようだ。

 六つの魔法陣を背負ったスカーレッドは、可能な限りの速さで後退しながらも、その魔法陣へ魔法を装填する。



「《遅延魔法》、解放! 《スペルエンハンス》! 私だって『キャメロット』部隊長の一人……レアスキルの一つぐらい持っている!」



 スカーレッドがそう叫ぶと共に、彼女の周囲に浮かぶ魔法陣の色が変化する。

 それは、赤と青が複雑に交じり合った魔法陣。

 今まで使っていた炎や氷とも異なる、交じり合ったような魔法陣。

 あれは――



「まさか、《熱魔法》ですか!?」

「それだけじゃない! 《魔導収束》ッ!」



 聞き覚えの無いスキル。スカーレッドがそれを宣言した瞬間、彼女が背負っていた魔法陣は渦を巻くように集まり、一つの巨大な魔法陣へと変化した。

 それを目にして、ヴェルンリードが動きを止める。

 魔力を滾らせ、大口を開き――その前に出現したのは、巨大な紫色の魔法陣。

 奴の膨大な魔力を注ぎ込まれた魔法陣は眩く輝き、強力な《嵐魔法》が発現する。

 雷を伴う暴風は、スカーレッドへと瞬く間に殺到し――



「――【ヒートレーザー】ッ!」



 一切の回避行動を取ることなく、スカーレッドはその魔法を発動した。

 薄い緋色の閃光は、迫りくる嵐の中を一直線に貫き――その向こう側にあった魔法陣を僅かに逸れ、ヴェルンリードの翼を貫いた。



『ガ……ッ!?』



 翼に大穴を空けられたヴェルンリードは苦悶の声を上げる。

 それと同時、スカーレッドは嵐の魔法に飲み込まれ、そのHPごと姿を消失させた。

 あのタイミングではスクロールの発動は間に合わなかっただろう。

 彼女は宣言通り、己の命と引き換えに、ヴェルンリードの機動力を削いで見せたのだ。



「見事……! アルトリウス!」

「分かっています!」



 部隊に被害を出したくなかったアルトリウスからすれば、痛恨の極みだろう。

 だがそれでも、アルトリウスは動きを止めることなく指示を出し続けている。

 それが、何よりもスカーレッドの望みであると理解しているが故に。

 ヴェルンリードが動きを止めている内に更にこちらは加速し、尚且つ奴がこちらを見失わない程度に距離を保つ。

 この距離ならば、奴が魔法を放ってきた所で対処は容易いだろう。



『待て、魔剣使い……ッ!』



 どうやら、向こうはまだまだやる気満々であるらしい。

 翼が傷ついたため、ある程度動きは鈍っているが、それでもその殺意だけは鈍る気配もなくこちらへと向けられている。

 ヴェルンリードは、セイランと同じように体に嵐を纏いながら、一直線にこちらへの追走を再開した。

 空を駆ける巨大な悪魔は、風と雷を撒き散らしながらこちらへの接近を続ける。

 だが、奴は気づいていないだろう。既に、ベルゲンの影が視界に入り始めていることに。

 街そのものに被害を出す訳にはいかない。決戦の場となるのは、その手前にあるこの平原だ。



「セイラン、そろそろだ。覚悟を決めろ」

「クェ」



 俺の言葉に、セイランは躊躇う様子もなく頷く。

 その泰然とした態度に思わず笑みを零しつつ、俺は地上へと視線を向けた。

 ヴェルンリードを落とす場所は街の直前。街中に侵入はさせず、街からの支援が届く距離。

 俺は街との距離を見計らいつつ、徐々にセイランの速度を落としていく。

 ――そして、目標地点に辿り着く直前に、俺は鋭く叫んだ。



「セイラン、上がれ!」

「ケェッ!」



 俺の言葉に従い、セイランは勢いよく上昇する。

 渦を巻く風を発生させ、その回転に乗るようにしながら、素早く上空へと。

 俺が動きを変えたのを見て、ヴェルンリードもまたこちらを追い始める。

 瞳から放つ光線は、素早く旋回するセイランを捉え切れずに空を切り、風の中に輝きを残すのみだ。



「『生魔』……ッ!」



 ――そして、風は唐突に姿を消す。

 上昇気流を消し去ったセイランは、そのまま頭を下へと向け、垂直落下を開始する。

 俺は手綱から手を離し、両の手で餓狼丸を構え――ヴェルンリードへと一気に振り下ろした。

 奴の瞳から放たれた光、そして奴が纏う嵐。俺へと向けて殺到してくるそれらの魔法を、交錯しながら一気に斬り裂く。

 瞬間、奴の纏っていた嵐は消え去り――



「今だッ!」



 ――ベルゲンの街から、無数の攻撃がヴェルンリードへと向けて殺到した。





















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