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190:駆ける騎兵たち その11












 アリス、高玉と共にミリエスタの街に侵入する。

 一部壁が破壊されていたため、機さえ狙えば入り込むこと自体は難しくはなかった。

 無論、悪魔共は数多くいたため、奴らの気配を探りながら移動する必要があったが。

 内部への侵入に成功した所で、高玉はさっさと別行動へ移った。どうやら、彼は高所を確保し、狙撃できる態勢を整えるつもりであるようだ。

 対し、俺とアリスは室内を確保して、一度身を潜めている。

 移動するにも障害が多い上に、向かう場所も判明していない。逸る気持ちはあるが、今は無理に移動するメリットが少ないのだ。



「ところでクオン……あの王子様の話、どうするつもりなの?」

「ん? そうだな……確かに、考えておかんとな」



 問いかけてきたアリスの言葉に、俺は軽く肩を竦めて返した。

 周囲の気配に対する警戒は続けつつも、俺はその言葉を吟味する。

 ここに辿り着くまでにも、いくつか宝石像を確認することができた。その姿形はどこまでもリアルなもので、しかもすべて魔力が宿っている。

 あまり考えたくはないのだが、元が人間であることは間違いないようだ。

 しかしながら、俺たちが持つアイテムやスキルでは、この状態を元に戻すことはできなかった。しかも生きているものであるためなのか、インベントリに押し込むこともできない。

 この中から個人を探す面倒もあるが、元に戻せない以上は宝石像のまま連れ帰らなければならないのか。



「ヴェルンリードを殺したら元に戻るってんなら話は早いんだがな」

「そうね。ま、そこまで期待できるものではないと思うけれど」



 アリスの遠慮のない物言いには思わず苦笑を零しつつも、内心で同意する。

 何らかの魔法によるものか、それとも悪魔の能力か――どちらにせよ、奴らは非常に悪辣だ。

 あまり楽観的な考えは持つべきではないだろう。



「……まあ、この状況のまま連れ帰るのは無理だ。ヴェルンリードを斬った後に考える」

「数が多すぎるものね。私たちだけでどうにかできる話じゃないか」



 今は精々、戦いに巻き込まないように注意することしかできないだろう。

 流石に、悪魔との戦闘に宝石像たちを巻き込むわけにはいかない。

 逃げることもできない彼らは、攻撃に当たれば容易く砕けてしまうだろう。

 いかに彼らから悪魔共を離すか、それが問題だ。

 ヴェルンリードと相対した時の対応方法を考えつつ――俺はふと、周囲の気配が変化していることに気が付いた。



「む……動きがあったようだな。アルトリウスたちが仕事を始めたか」

「悪魔たちが行動し始めたの?」

「ああ、俺たちもそろそろ動くぞ」



 王子から借りてきた腕輪を確かめつつ腰を上げる。

 これが目印になるかと思ったが、生憎とまだこの魔力の繋がる先を感じ取ることはできない。

 まずは、もっと奥まで入り込まなくてはならないか。



『……聞こえるか?』

「高玉か。何か分かったか?」

『人間に近い姿をした悪魔が数体、北に向かった。そちらにある建物が目的地のようだ。マップをメールで送る』

「了解だ」



 人間に近い姿の悪魔となれば、恐らくは爵位持ちの悪魔だろう。

 デーモンナイトも人間の姿になれるようではあるが、連中のそれは擬態に近い。

 悪魔だけしか存在しないこの地においては、わざわざ擬態を行うような理由は無いだろう。



「よし、まずは北だ。行くぞ」

「分かったわ。到着したら別行動ね」

「あまり無茶はするなよ?」

「いざとなったらスクロールで逃げるわよ」



 そう言えば、割高ではあったが最後に使用した石碑まで戻れるスクロールを用意していたのだったか。

 であればある程度は安心だと、メールで送られてきたマップを頭に叩き込み、俺とアリスは隠れていた部屋から外へと飛び出した。

 近くに悪魔共はいない、連中は既に外へと向かって移動を開始している。

 全ての悪魔が移動しているというわけではないのだが、それでもかなり動きやすくなったのは間違いない。

 俺はさっさと近場の建物の屋根へと鉤縄を飛ばし、その上へと跳び乗った。

 そして、壁を蹴って付いて来たアリスを伴い、街の北側――そちらにある、マップに示された建物へと向かう。



「貴族の館か何かか?」

「そこそこ大きい家ね」



 とんとんと屋根の上を渡りながら、目的の建物へと接近する。

 他の建物と比べて、確かにこの建物はあまり破壊されていない。

 内部も、暮らせる程度には整っていることだろう。

 そして、何よりも――



「……ああ、間違いない。ここにいやがるな」

「分かるの?」

「奴の魔力には覚えがある。嫌と言うほど味わったからな」



 果たしてあの戦いの中で、一体幾度奴の魔法に対処したことか。

 命中すれば即死するような魔法の嵐の中、紙一重で戦い続けていれば嫌でも覚えるというものだ。



「さて……俺は奴に接触する。お前は――」

「一旦ここで待機するわ。貴方がやらかせば、他の悪魔が出てくるかもしれないし」

「構わんが、気を付けて仕留めろよ」

「言われるまでもないわね」



 不敵に笑うアリスにはこちらも笑みを返しつつ、先ほどの腕輪を取り出して気配を探る。

 この腕輪に宿る魔力と、それに繋がっている魔力を探り――建物の二階に、細い糸が繋がっていることを確認した。



「――そこか」



 湧き上がる殺意を隠しながら、鉤縄を伸ばす。

 目指すは二階の一室、そこへと向け、俺は鉤縄を引くと共に跳躍した。


 打法――天月。


 宙返りしながら振り下ろした踵が二階の窓を蹴り破り、更に窓枠に着地して膝を屈める。

 部屋の中には数人分の人影。両側の壁には立ち並ぶ翠の宝石像。

 そして、部屋の奥にあった姿に、抑えていた殺意は一気に燃え上がった。



「『生魔』」



 歩法――跳襲。


 そのまま、窓枠を蹴って跳躍、軌道上にいた悪魔の首を斬り飛ばしながらその先のヴェルンリードへと刃を振るう。

 振り下ろしたその一撃は――ヴェルンリードの掲げた腕に発生した魔法障壁に受け止められつつもそれを斬り裂き、奴の掌に浅く傷を付けていた。



「っ、貴様は――」

「《練命剣》――【命輝一陣】ッ!」



 着地と共に刃を反転、しかし奴は今の衝撃で若干後方に下がっており、そのままでは刃が届かない。

 仕方なしに放った生命力の刃は、仰け反っていたヴェルンリードの腹部に直撃し、その体を後方へと吹き飛ばしていた。

 そのまま壁に激突したヴェルンリードは、壁を破壊しつつ隣の部屋に突っ込んだようだ。

 いきなりの事態に呆然としている他の悪魔を尻目に、俺はさっさと踵を返して来た道を逆戻りする。

 取り出すのはセイランの従魔結晶。それを窓の外へと放り投げた俺はさっさと窓の外へ身を躍らせ――直後、俺の飛び出した窓を雷光が貫いた。

 どうやら、奴は怒り心頭であるようだ。



「逃げるぞセイラン!」

「ケェエッ!」



 現れたセイランは上から降ってきた俺を戸惑うことなく受け止め、更に風を纏って降り注ぐ瓦礫を弾き飛ばす。

 そして勢い良く地を蹴り、すぐさま宙へと駆け上がる。

 ヴェルンリードが肩を怒らせて吹き飛んだ窓から姿を現したのは、まさにその時だった。



「魔剣使い、貴様ァッ!」

「くはははっ! ご機嫌が良さそうで何よりじゃねぇか、ヴェルンリード!」



 勢いよく上空まで舞い上がることで奴の放った雷を回避しつつ、更に先へと向けて飛翔する。

 目指すは街の外、アルトリウスたちが待機している場所だ。

 連絡がなかった以上、あいつらはまだ同じ場所にいるはず。

 そこまで辿り着いたならば作戦開始だが――まずは、一つ仕込んでおくこととしよう。

 俺は小さく笑い、奴からは自らが陰になるようにしながら、上空へと向けてルミナの従魔結晶を全力で放り投げた。

 そしてそのまま、更にセイランを加速させる。



「貴様はあの街にいた筈です!」

「はっ、わざわざ会いに来てやったんだ、感謝して欲しい所だな!」

「おのれ……ッ!」



 どうやら、不意打ちを食らったおかげで怒り心頭の様子だ。

 とは言え、それはこちらの狙い通り。空を飛びながらこちらへと雷を乱射してくるヴェルンリードに、俺は密かに笑みを浮かべながらセイランを操る。

 時折避け切れない魔法は《蒐魂剣》で斬り裂きつつ、先程消費したHPをポーションで回復しながら、更に先へ。

 奴の視線は完全にこちらに釘付けだ。もう少し時間があれば、俺が反撃を行わないことに違和感を覚えてもおかしくは無いだろうが――生憎と、そこに至る前に目的地に到達したようだ。

 地上にはこちらを見上げる緋真たちの姿がある。であれば――



「《練命剣》――【命輝一陣】」



 セイランを旋回させ、生命力の刃を放つ。

 ヴェルンリードは当然のように防ぐが、それで問題はない。今の攻撃の目的は、奴の足を止めることなのだから。

 俺の攻撃に対しては神経質になっているのか、ヴェルンリードはしっかりと空中に静止して防御の魔法を展開した。

 ――それこそが、俺の狙いであると気づかずに。



「ルミナァッ!」

「光の槍よ、撃ち貫けッ!」



 刹那、上空より撃ち放たれた九本の光の槍が、ヴェルンリードへと一直線に空を貫く。

 それに反応したヴェルンリードは即座に上方へと防壁を向けるが、そこに食い込んだ光の槍は、強固な防壁を貫こうと唸りを上げる。

 ルミナは、初めから上空で準備を行っていたのだ。限界まで魔力を注ぎ込まれたルミナの魔法は、ヴェルンリードとて無視できるものではない。

 奴にも容易く打ち消せるようなものではないが――流石は伯爵級悪魔、ギリギリではあるが凌いでいやがるな。

 この女は、ここで地面まで叩き落さなくてはならない。だが、この魔法の余波の中ではセイランも近づけないだろう。

 危険だが、賭けに出るしかないか――そう考えた、瞬間だった。


 ――鋭い風切り音と共に、ヴェルンリードの腕に矢が突き刺さったのは。



「な――!?」



 虚を突かれたように、ヴェルンリードが硬直する。

 そしてそのほんの僅かな意識の空白によって、奴の展開していた防壁は綻び――ルミナの光の槍によって、貫かれていた。





















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