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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
RC ~Running Cavalry~

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189:駆ける騎兵たち その10












 この作戦に出立する前、アルトリウスと共に騎士団長たちと話をする機会があった。

 ヴェルンリードの元へ向かう旨、最悪でも情報は持ち帰るため、一時的にこの場から離れることを伝えたのだが……その際に、一緒にいた王子から声を掛けられた。

 彼から聞かされたのは、アリーアンと戦っていた時にも聞いた、彼の姉――第一王女とやらの話であった。



『姉上は、王女でありながら武勇に優れ、騎士団の将として働いている。貴殿と同じく、グリフォンライダーでもあるがな』

『つまり、最前線で戦っておられたということのようだが……なぜ彼女が生きていると確信を?』

『それは、これのお陰だ』



 言いつつ、王子が差し出してきたのは細い腕輪だった。

 意識を集中させてみれば、どうやら何らかの魔力が宿っているらしい。



『これは?』

『姉上と、私の魔力を繋いでいる腕輪だ。これに魔力が宿っている限り、姉上が生きていることは間違いない』

『ふむ……成程、今この状態であるから、少なくとも王女殿下が生きていることは確実であると』

『そうだ。姉上は絶対に生きている。だから……どうか必ず、姉上を助け出して欲しい』



 王子は、立場上頭を下げることはできないようであったが、それでも真摯に願いを伝えてきた。

 とは言え、それを安請け負いできるというわけではない。

 今生きていたとしても、俺たちが辿り着くまで生きているかは分からないのだから。

 けれど、それでも――



『最善を尽くしましょう。王女殿下が生きている限り、必ず連れ帰ります』

『……頼む。姉上は、私の憧れなんだ』



 最後に零れ出たその言葉は、紛れもない彼の本心なのだろう。

 以前から妙に焦った様子であったこと、グリフォンに対してみせていた執着――その一端を垣間見て、俺は視線を細めていた。


 そして今――俺はヴェルンリードが構える北限の街ミリエスタを、受け取った腕輪を片手に上空から眺めている。

 この腕輪があれば、王女を探す目印になるかとは思っていたのだが……これは、予想していた状況とは少々異なるようだ。

 悪魔たちに捕捉されぬよう、かなり高い高度からの観察であるため、あまり詳しい状況までは把握できないのだが――



「……何ですか、これ」



 呆然とした、緋真の声が耳に入る。

 声こそ上げなかったものの、俺としても内心は同じような物であった。

 徹底的に破壊されたミリエスタの街。徹底的に破壊されたような痕跡も気になるが、それよりも奇妙なのは、街のいたるところに点在している緑色の物体だ。

 あれは――



「高玉さん、何が見えますか?」

「……人の姿をした像だ。緑色に透き通った……恐らくは、宝石のような材質だ」

「エメラルド……みたいにも見えますけど……」

「あまりにも精巧すぎる……どれもこれも、恐怖の表情だ」



 遠距離を視認するようなスキルを使っているのだろう、高玉は不快そうに目を細めながらそう呟く。

 俺の目にも、いくつもの像が立ち並んでいる光景は見えているが、流石に表情までは把握できない。

 しかし、彼の言っていることが事実であるならば――



「……まさかとは思うが、人間が像に変えられているのか?」

「可能性はありますね。というより、かなり納得できます。ヴェルンリードが気に入った人間を飾るという言葉の意味……つまり、そういうことなのでしょうね」



 アルトリウスの言葉に、思わず舌打ちを零す。

 どうやら、あの宝石像になっても、人間は決して死んでいるわけではないようだ。

 しかしながら、どうやって元に戻すのかは分からず、手の出しようがない状況である。

 そもそも、元に戻す方法があったとして、他の悪魔に狙われかねない状況だ。

 非常に厄介な状況であると言えるが――



「……これを知れただけでも価値はありましたね。とりあえず、悪魔たちに捕捉されない位置に移動しましょう」



 アルトリウスは渋い表情を浮かべつつも、ペガサスを動かして移動を始める。

 その後に続いて向かったのは、小高い丘の陰となっている位置だ。

 街側からは見えぬ場所に身を隠しつつ、俺たちは改めて顔を突き合わせた。



「さて、ここからどうするかです」

「ヴェルンリードを仕留める……と一言で言えば簡単だが、ありゃかなり面倒だぞ」



 あの街の中のどこにヴェルンリードがいるのかも分からない上に、そこら中に宝石像が置かれている。

 下手に内部で戦っては、まだ生きている彼らに被害が及ぶ可能性が高い。

 どうにかして、奴を外まで誘きだす必要があるだろう。



「とりあえず、主な方針は変わりません。高玉さんとアリスさん……そして、クオンさんに内部に潜入していただき、情報の収集、および可能であれば主要な悪魔の暗殺をお願いします」

「俺も行くのか?」

「ヴェルンリードを挑発する場合、彼女を激昂させるにはクオンさんが必要ですからね。状況に応じてですが、戦うことが可能であると判断したら彼女を街の外まで誘きだしたい」



 また無茶を言ってくれるものだ。

 確かにこの状況下では街の外で戦わざるを得ないが……正直、どうやって誘き出したものか。

 とりあえず、何らかの方法で挑発した後、セイランに乗って上空から外まで逃げるか。

 そうなると、セイランを一旦従魔結晶に戻して連れて行くべきだろう。

 戦力という意味では、ルミナも一緒に連れて行った方が良いか。



「……了解だ。やれるだけやるとしよう。アリスはそれでいいか?」

「構わないわよ。私にとってもいい仕事になるし」

「……こちらは、団長の指示に従うまでだ」

「なら、問題はなさそうだな。ルミナ、セイラン。お前たちは一旦結晶に戻す。呼び出す時は、恐らくヴェルンリードの目の前だろう」

「……! 承知しました、お父様」



 緊張した面持ちながら、ルミナはしっかりと頷く。

 セイランについては泰然としたもので、いつでも任せろと言わんばかりの姿であった。

 そんな二人の様子に笑みを浮かべつつ、従魔結晶へと戻す。

 さて、潜入するメンバーについては問題ないが――



「で、奴を誘き出すことについては理解したが、俺がヴェルンリードを挑発して連れ出す以上、二人乗せて逃げることはまず不可能だぞ?」

「……であれば、僕のことは構わない。元より、一人で行動するつもりだった」

「ほう? 大丈夫なのか?」

「ああ……元より、僕は高所を確保して狙撃を行うつもりだ」



 その言葉に、俺は思わず目を瞬かせる。

 高玉が背負っているのは大弓であり、かなりの強弓であることは窺える。

 だが、それで狙撃を行えるかと言えばそれはまた別の問題だ。

 ライフルの銃弾より遥かに遅く、重い矢で、長距離を狙撃するなど正気の沙汰ではない。

 だが、彼の言葉の中に気負った様子は見られない。まるでそれが当然であると言わんばかりに宣言してみせたのだ。

 ちらりとアルトリウスに視線を向ければ、彼は小さく微笑んだ後に首肯する。どうやら、高玉の言葉も実力も本物であるらしい。



「……それなら、クオン。私も別行動でいいかしら?」

「お前もか……」

「ええ、あの中は敵に事欠かないでしょう? 楽しそうじゃない」



 どうやら、こういった面は相変わらずであるようだ。

 とはいえ、アリスの実力は十分に理解している。

 彼女の能力ならば、敵陣の只中でも生き残れる可能性は十分にあるだろう。



「ま、構わんがな。俺はヴェルンリードを探す。お前さんは別の爵位持ちを探して、可能なら仕留めてくれ」

「了解よ。それで、表側の貴方たちはどうするの?」

「……アルトリウスさん、別に、何もせずにただ様子を見ているなんてことも無いんですよね?」

「ええ、それは当然です。正直、僕らが動かなければ内側も動きづらいでしょうし」



 相手に動きが無い場合、かなりの数の悪魔が街の内部にいることだろう。

 今の状況では、移動もかなり面倒なはずだ。

 しかし、今の戦力でこの街の悪魔全てを相手にすることは不可能だろう。

 精鋭が揃っているとはいえ、数に圧倒的な差があるのだから。



「こちらからは、少しずつ敵を釣り出して敵を仕留めていきます。これですぐに敵側が混乱するということはないでしょうが……」

「多少なりとも動きがあれば流れが見える。指示を出している悪魔も見つけやすいだろうさ」

「そういうことです。中のことはお願いします」

「了解した。ま、何とかしてやるよ」



 アルトリウスが動いていれば、悪魔共に動きができる。

 ヴェルンリードが動くかどうかはともかく、男爵級や子爵級が動く可能性は十分にあるだろう。

 指示を出している奴がいれば、そいつを潰してやれば済む話だ。

 となれば――



「高玉。お前さん、俺とアリスとフレンドを交換してくれるか」

「……俯瞰視点で敵の位置を探るということか」

「ああ。場所が分かったら、俺とアリスにフレンドチャットを送ってくれ」

「成程……了解した。僕には適任だろう」



 寡黙な男ではあるが、そこそこに期待できそうな人物だ。

 俺は小さく笑いながらメニューを操作してフレンド申請を送り付ける。

 俺とアリス、高玉でチャットを繋げられることを確認し、小さく頷いた。



「それぞれがやることは単純だ。俺はヴェルンリードを探す、アリスは爵位持ちを見つけて可能なら暗殺。高玉は高所から爵位悪魔を狙撃。そして外の連中は敵を挑発して少しずつ釣り出す」

「……簡単に言っていますが、かなり難しい話ですね」

「だが、やらなければそれまでだ。ここまで来たんなら、行ける所まで行こうじゃねぇか」



 くつくつと笑いながら、俺は街の方向へと視線を向ける。

 やらなければならないことは多い。だが、上手く行けば敵の大将の首元に刃を突きつけることができる。

 賭けに出るだけの価値はあるだろう。

 俺は大きく深呼吸し、意識を集中した。静かに、広く、意識を拡散させてゆく。

 これは合戦礼法ではない。ジジイに連れ回された戦場で俺が独自に編み出した、気配の察知方法だ。

 視覚ではなく聴覚、嗅覚、触覚――それらを利用して、己の目の届かぬ位置の気配を感じ取る技術である。

 これに名はない、俺の我流の技術だ。まずは敵に見つからずに街に侵入しなくては。



「さて、行くとするか。首を洗って待っていろよ、悪魔共」



 奴の首は必ず貰う。

 その殺気も全て覆い隠しながら、俺は街へと向けて足を踏み出した。





















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