表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/888

019:町の噂












 ボスの領域からしばらく歩み、特に代わり映えのしない魔物たちを蹴散らすことしばし。

 見えてきた街道の先には、一つの街の姿が存在していた。

 どうやら、あれが第二の町であるリブルムのようだ。

 見たところ、街道にそのまま乗っかるようにして町が存在している。

 要するに、街道を利用する者を対象にした宿場町だ。



「貴方はまだファウスカッツェから出ていなかったから、一応説明しておくわ」

「おん? ああ、よく分からんが、頼むわ」

「本当なら緋真さんが教えたかったんでしょうけどね……」



 エレノアが嘆息しながらぽつりと呟いた言葉についてはよく分からなかったが、とりあえず話は聞いておく。

 このゲームに関する一般常識に当たるのだろう。知っておいて損はあるまい。

 幸い、街道に乗ってからは魔物とは殆どであっていない。どうやら、街道を歩いている場合はあまり魔物と出会わない設定になっているようだ。

 今ならば、のんびり話をしていても危険は少ないだろう。



「まず、町についてだけど……現在二番目のボスの討伐が済んでいないから、事実上あそこが最前線になっているわ。プレイヤーの数も結構多いわね」

「まあ、それはそうだろうな。緋真とかも普段はあそこにいるんだろう?」

「そうね。気を付けてほしいのは、MMOは基本的に競い合いの世界であることよ。他人を出し抜こうと、あの手この手で先を行こうとするプレイヤーは山ほどいるわ」

「ふむ……その手の奴らに絡まれるかも、ということか」

「ただでさえ、あの緋真さんの師匠ということで注目されてるんだから。変わったことをしたらあっという間に広まるわよ?」



 俺自身としてはあまり実感は無いのだが、情報の集うエレノアの言葉だ、無視はできないだろう。

 まあ、とは言っても、絡まれたのならそれ相応の対応をするだけだ。

 既に注目されているのであれば、目立ったところで今更だしな。



「……貴方、割と周囲には無頓着よね」

「おん?」

「いや、別にいいわ。貴方の場合、周囲に囚われない方がいい結果を生みそうだし。で、次ね。この街は見ての通り、街道に乗るように作られているわ。この街道を進んだ先にあるのが次の街であると言われているけど……」

「その前に、ボスがいるってわけか」



 未だに倒されていないという、第二のボス。

 相手があの狼のような単純な相手であれば、ここまで苦戦しているのはおかしな話だろう。

 何かしら、面倒な相手である筈だ。

 そんな俺の内心を察したのか、エレノアは軽く肩を竦めて続ける。



「これがまた面倒な相手でね。戦闘が始まると同時に、こちらに盛大なデバフをかけてくる悪魔なのよ。それで、こちらの行動が阻害されている所に、アンデッドをけしかけてくるという厄介な相手よ」

「行動阻害の上に数での攻撃か。理にかなっている分、確かに攻略は難しかろう」



 どのような阻害を受けるのかは知らないが、行動の制限と数の暴力はどちらも強大な力だ。

 しっかりとした対策を実施できなければ、蹂躙されるのも不思議ではないだろう。

 だが――



「それなりに時間も経っているんだろう? そろそろ、対策も確立していてもおかしくないんじゃないか?」

「そうなのだけどねぇ……一応、ある程度の予想は立っているわ」

「と言うと?」

「あの町の東西に、一つずつ小さい村があるの。その内、東の村には小さなダンジョンがあって、その中でお守りのようなアイテムが手に入るのよ」

「ふむ、鍵となるアイテムがあるというわけか」



 こういったもののセオリーは知らないが、近場にヒントがあるのは納得だ。

 そう考えて頷いていたのだが、隣を歩く八雲が俺の言葉を否定していた。



「ところがどっこい、そのお守りを装備しても、デバフは全然防げなかった。一応、エフェクトみたいなものは出たらしいから、何の効果も無いってわけじゃなさそうだけどね」

「ふむ……となると、もう一つの西の村にも何かありそうだと」

「ま、そう考えるよね。だけど、向こうでは未だ何も見つかってないって話だよ」



 その言葉に、俺は思わず眉根を寄せる。

 恐らく、何もないということは無いだろう。だが、それが見つかっていない理由がよく分からない。

 まあ何にせよ、結局は手詰まりということなのだろう。



「西の村か。少し、覗いてみるかね」

「そうね。東のお守りについては既に流通分もあるし、そちらを手に入れるのはそれほど手間でもないでしょう」



 エレノアの言葉に頷きつつ、近づいてくる町へと視線を向ける。

 あと数分程度で門の前まで辿り着けるだろう。今回の仕事はそれで終わりだ。

 その後は――まあ、適当に町を回ってみるとしよう。



「クオン、町に着いたら、中央部にある石碑を調べて」

「ん? 何かあるのか?」

「石碑の登録をしておくと、石碑間でワープすることができるのよ。つまり、いつでもファウスカッツェと行き来ができるってこと」

「成程、そいつは重要だな」



 特に、あちら側に拠点があるエレノアにとっては重要な話だろう。

 先への進出を目論んでいると言っても、ずっとこちらにいるわけにもいかないのだから。

 そこまでやって報酬を受け取ったら、あとは自由にさせて貰うとしよう。











 * * * * *











 石碑の登録を行い、ファウスカッツェへ戻るエレノアたちを見送って、小さく溜め息を吐く。

 とりあえず自由行動になったわけだが、さてどうしたものか。

 話を聞く限りでは、いきなりボスに挑んでも勝ち目は無いだろう。

 とはいえ、目標はボスの討伐。となれば、今はそれに繋がるように動いておくべきだ。

 となると、先ずは東か西か。



「東は既に開拓済みって話だったし、ここは西にでも――」

「っ……おい、お前ッ!」



 西の村へと向かうため、先ずはその辺にいる現地人からでも話を聞いておこうかとしたところ、横合いから唐突に声がかかる。

 何かと思って視線を向ければ、そこにはこのゲームを始めた直後に戦った、剣士のプレイヤーの姿があった。

 確か、こいつは――



「あー……クロードだったか?」

「フリードだっ!」



 おっと、直後に受けた緋真からの尋問の方が印象的過ぎて忘れてしまっていたか。

 軽く謝ったのだが、当の本人は全く納得できていない様子。

 どうしたものかと考えていたところ、フリードの背後から一人の男が近寄ってきた。



「おい馬鹿、いい加減人様に迷惑をかけるのは止めろと言っただろ」

「ッ、けど!」

「けども何もない。彼に対しては、お前が一方的に因縁をつけてるだけだろうが! ったく……済みません、クオンさん」

「別に気にしちゃいないが……お前さんは?」

「初めまして、シュレンと言います。ご迷惑をおかけしているところ恐縮ですが、こいつの所属しているパーティのリーダーをやってます」



 そう言って頭を下げるシュレンからは、本当に申し訳なさそうな意思が伝わってくる。

 どうやら、彼はフリードの件で随分と苦労させられているようだ。

 まあ、俺としては、フリードに関しては全く気にする点などありはしない。

 むしろ、あれだけの大金を譲ってくれたことに感謝しているぐらいだ。おかげで、フィノたちからの装備の購入も楽に済ませることが出来たからな。

 俺は軽く肩を竦め、頭を下げているシュレンに対して声を掛けた。



「ま、さっきも言ったが、気にする必要はない。別に、迷惑を被ったわけでもないしな」

「は、ははは……ところで、緋真さんはご一緒では?」

「今は別行動だな。というか、いつも一緒に行動してるというわけじゃないぞ? あいつが他にやりたいことがあるならやればいいしな」

「そうなんですか。てっきり、貴方は緋真さんとコンビを組むものだと……」

「まあ、俺に合わせられる奴はあいつぐらいだろうが……あの馬鹿弟子が自分で訓練したいと言うなら、それはそうすりゃいいって話だ」



 まあ、あいつが修行を見てほしいというのであれば、見てやるのも吝かではないが。

 だがまぁ、あいつも自分で自分の世話ができないわけじゃない。俺が居ないなら居ないなりに、何とかするだろう。

 そう胸中で呟きつつ返答すると、フリードは何故か機嫌が直った様子の笑みを浮かべていた。



「そ、そうか……迷惑をかけた。じゃあ、俺はこれで!」

「あ、おい、フリード! ……済みません、クオンさん」

「別に謝らんでもいい……ああそうだ、一つ聞きたいんだが」

「はい、何でしょう?」



 どうせその辺の奴から聞こうとしていたんだ。こいつから聞いても問題は無いだろう。

 そう考えて、俺はシュレンに対して、西の村に関する話を問いかけた。



「西の村に行こうと思っているんだが、どこから行けるんだ?」

「西の村ですか? それなら、石碑から真っ直ぐ西の道を進んで外に出れば、道が続いてますよ。道なりに行けば迷わない筈です」

「そうか。情報感謝する、迷惑料はそれでチャラだ」

「あ……はい、ありがとうございます! それでは、失礼します」



 最後にもう一度頭を下げて、シュレンはフリードを追いかけていく。

 しかしまぁ……随分と苦労している様子だな、あの男。

 まあ、それも織り込み済みであの小僧と付き合っているのだろうが。そこは頑張れとしか言いようがないな。



「さてと……ここから真っ直ぐ西だったか」



 シュレンの言葉通り、石碑から西へと向かって歩き始める。

 宿場町であるリブルムだが、その性質通り、主だった施設はみんな南北に通った道沿いに配置されている。

 要するに、東西にはあまり厚みが無い状態なのだ。

 そのためか、それほど歩くこともなく、西側の門まで到達した。

 開け放たれている門の前には、現地人らしい兵士が気の抜けた様子で立っていた。



「よう、お疲れさん」

「ん? ああ。君は西の村に行くつもりなのか?」

「ああ、ここを真っ直ぐ行けばいいんだろう?」

「そうだな。この道を進めば迷わないで着けるだろう」



 足元を見れば、踏み固められた土の道が続いている。

 これに沿って進めば、西の村まで到達できるということだろう、

 まあ、迷わずつけるのはいいことだ。のんびりと進むとしよう。

 と――そうだ、一つ気になっていたことがあったんだった。



「そういえば、北の道は悪魔とアンデッドが塞いでるんだったな」

「ああ、その通りだ。全く、何だって悪魔なんかが……」



 愚痴る兵士は、悪魔に対する嫌悪感を隠さずに顔を顰めている。

 どうやら、悪魔というのは現地人にとっても敵として扱うべき存在のようだ。

 問題は、何故そんな存在が街道を塞いでいるのか、ということだが。



「連中について何か知らないか?」

「いや、俺は悪魔には詳しくないんでね。西の村の聖堂にいる神父様なら何か知ってるかもしれないが」

「ほう? 教会の人間は悪魔に詳しいのか」

「そりゃまあ、悪魔払いの専門家だからな。そういや、この話は以前に来た騎士様たちにも話したんだが……悪魔が連れてるアンデッドってのは、あの人たちの成れの果てなのかもしれねぇなぁ……」



 そう呟き、兵士は沈痛な表情を浮かべて視線を伏せる。

 騎士が悪魔に挑んで敗北し、アンデッドとして使役されているかもしれない、ということか。

 果たして、アンデッドになった騎士はどの程度の実力を有しているのか――まあ、それを気にする前に、行動阻害を防ぐ方法を見つけなければならないのだが。



「参考になった。それじゃあ、行ってくるよ」

「ああ、夜には門を閉めるから、戻ってくるなら早めにな」

「了解、それじゃあな」



 ひらひらと手を振り、門の外へと足を踏み出す。

 さて、果たして何か見つけることはできるのか……とりあえず、神父とやらに話を聞いてみるだけでも面白そうだ。

 若干の期待を胸に秘めつつ、俺は西の村への道を進んでいった。











■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:11

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:16

VIT:13

INT:16

MND:13

AGI:11

DEX:11

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.11》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.8》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.9》

 《HP自動回復:Lv.4》

 《MP自動回復:Lv.3》

 《収奪の剣:Lv.6》

 《識別:Lv.8》

 《生命の剣:Lv.6》

 《斬魔の剣:Lv.1》

サブスキル:《採掘:Lv.1》

■現在SP:8

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギカテクニカ書籍版第11巻、12/19(木)発売です!
書籍情報はTwitter, 活動報告にて公開中です!
表紙絵


ご購入はAmazonから!


  https://x.com/AllenSeaze
書籍化情報や連載情報等呟いています。
宜しければフォローをお願いいたします。


― 新着の感想 ―
[一言] 弟子にはさん付けで、年上でリアルでの立ち位置も聞いているはずの師匠に対し呼び捨て、上から喋ってるようにも感じる書き方はどうかと、会話の構成いじるとか立ち位置変えるとか色々あるけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ