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185:駆ける騎兵たち その6












 聞こえてきた、涼やかな声。聞き間違える筈もない、アルトリウスの声だ。

 どうやら、『キャメロット』もまた敵の本丸を落とすことを優先して動いていたらしい。

 そちらには視線を向けず、刃の渦に出来た隙から抜け出しながら、気配のみでアルトリウスの動きを探る。

 どうやらこの男、この悪魔の出方をある程度予想していたようだが――



「潜入部隊の目的は、跳ね橋を降ろすことだけではなく、街全体の状況把握も含まれていました。仕掛けられた罠など、とっくの昔に把握していますよ」

「……何だよお前」



 これまで軽薄な態度を崩していなかったアリーアンが、苛立ったように低い声音を発する。

 成程、コイツの人格がある程度読めてきた。

 どうやら、思い通りにいかないことにいら立つタイプの性格であるようだ。

 俺のことについては、正面から戦うのは厳しいと最初から分かっていたのか、これまで苛立ちを発することはなかったようだが……さて、であれば――


 歩法――間碧。


 僅かに揺らいだ刃の隙間を縫い、アリーアンへと接近する。

 こちらの接近に気づいた奴は、舌打ちしつつもこちらへ意識を切り替えた。

 だが、それでもアルトリウスに対する苛立ちは消し切れていないようだ。

 動きが鈍っているのであれば、そこは容赦なく突かせて貰うとしよう。



「くっ、そ! どいつもこいつも、邪魔なんだよぉ!」

「――《蒐魂剣》」



 魔力の高まる気配に合わせて、《蒐魂剣》を発動する。

 アリーアンは全身から雷を放出し、それを刃の鞭に伝達して攻撃を仕掛けてくる――が、その刃にこちらの一閃を当ててやれば、雷の魔法は瞬く間に消え去った。

 それを察知し――アリーアンは、即座に刃の鞭を手放す。

 代わりにこいつの袖口から飛び出してきたのは、腕に備え付けられていたと思わしき仕込み刃だ。


 斬法――柔の型、流水。


 拳を突き出しながらの刺突を半身になって回避し、直後に放たれた横薙ぎを受け流す。

 そして返す刃で斬りつけるが、アリーアンはもう一方の袖から出現させたブレードでその一撃を受け止めた。

 こちらは刺突用の刃のようだ。斬りつける攻撃には向かないのだろう。

 そして、どちらの刃にしても、何かしらの液体が付着している。攻撃を受ければ面倒なことになるだろう。


 斬法――剛の型、竹別。



「ぐ……ッ!?」



 踏み込んだ足に力を籠め、強引に刃を振り抜く。

 その勢いに押されたアリーアンはたたらを踏み、刃で斬りつけようとしていた動きを停止させた。

 同時、こちらは一気に距離を詰め、刃を振るう。



「『生奪』」



 下から掬い上げるような一閃。その一撃に、体勢が崩れていたアリーアンは咄嗟に両手の刃を交差させるように構え、俺の一撃を受け止めて――そのまま、衝撃に逆らわず後方へと跳躍した。

 その動きには思わず感心する。他の対処であれば、あと数手で詰んでいただろう。

 だが、だからと言って手を緩めるような理由は無い。

 口元を歪めながら前に出ようとし――俺は、足を止めた。

 感じた僅かな違和感、そして視界の端で一瞬だけ反射した光。それを察知した感覚が、安易に踏み込むべきではないと告げていた。

 と――そこに、アルトリウスの声が響く。



「クオンさん、非常に細い糸のトラップの存在が報告されています。恐らく、彼女が仕掛けたものかと」

「ふむ……成程な。了解した」

「それと、出来れば聞き出したい話があるのですが」

「……そりゃ面倒だな」



 要するに、一撃で殺さずに無力化しろということか。

 正直面倒だが――まあ、やってやれないことは無いだろう。

 無理なようであれば即座に殺せばいい、まずは最後の一手まで追い詰める。


 張り巡らされた糸を察知することは困難であるが、不可能ではない。

 ほんの僅かに反射する光から位置を割り出し、刃を振るう。

 一瞬弾き返されそうな弾力を感じるが、それでも俺は踏み込んだ足に力を籠め、刃を振り抜いた。

 瞬間、ばつんと音を立て、見えない糸が断ち斬られる。

 感覚は掴めた。これならば、対処は可能だ。



「ッ……このっ!」



 こちらへと向けてナイフを投げ放ってくるアリーアンであるが、この距離ならばわざわざ弾く必要もない。

 さっさと回避しつつ、行く手を遮る糸を断ち斬りながら悪魔へと接近する。

 それに対し、アリーアンが取り出したのは、先ほどとは異なる形状の鞭だ。

 今度は刃が連なる形ではなく、普通にロープ状の形状をしている。

 振るわれた鞭はこちらの腕を狙って飛来する。複雑な動きの武器であり、触れれば絡め取られる面倒な性質を持っているが――先端を狙って弾き返せば良いだけだ。

 暗器使いは手札が多いが、逆に言えばそれを潰してやればそれ以上の動きはできなくなる。

 尤も、どこまで手札を残しているか分からないため、さっさと殺すべきなのだが――



「――仕方あるまい」



 ここから奴の元まで、既に糸はない。

 そして、奴の呼吸は既に掴んだ。ならば――ここで決める。



「《練命剣》――【命輝閃】」



 黒に染まり切った餓狼丸が、黄金の輝きを纏う。太刀は蜻蛉の構えにて、深く身を沈めるように構える。

 アリーアンは鞭を引き戻し、こちらへと振り下ろそうとして――その刹那に、俺は足を踏み出した。


 歩法・奥伝――虚拍・先陣。


 踏み込み、地を蹴り、意識の空白へと潜り込む。

 奴の意識から逃れ、全ての意志が擦り抜けていくその水面の下のような感覚の中、俺はアリーアンへと肉薄し――黄金の輝きを纏う刃を振るった。

 その一閃はアリーアンの右肩へと突き刺さり、右腕を丸ごと斬り落とす。

 それと同時に、アリーアンは見失っていた俺を捉えたのだろう。驚愕に目を見開きながらも、左腕の刺突刃でこちらを狙ってくる。



「こ、の――!」



 それは反射的な反応。だからこそ――その反射の空隙へと潜り込める。

 奴が攻撃へと転じるその刹那、俺は再びアリーアンの意識の外へと潜り込んだ。


 歩法・奥伝――虚拍・後陣。



「《練命剣》――【命輝閃】」



 背後に回り込んで振るった一閃が、アリーアンの左肩へと食い込み、斬り飛ばす。

 この悪魔の武装は、そのほぼ全てが両腕の袖の中に仕込まれていた。

 故に、この両手さえ斬り飛ばしてしまえば、手札の大半を封じることができるだろう。

 そして両腕を失った衝撃に揺れる悪魔の体を、左腕で押しながら地面に叩き付ける。


 打法――流転。


 背中から叩きつけられたアリーアンは大きく息を吐き出し――その腹の中心へと、餓狼丸の刃を突き立て、地面に縫い付けた。



「がっ、は……!?」

「……ここまでだな」



 背中に装備している野太刀を抜き放ち、その切っ先を突きつけながら、俺はそう告げる。

 夥しい量の血を流す悪魔は、放っておけば程なくして息絶えるだろうが、話を聞くだけならこれでも構わんだろう。

 いつでも首を落とせるように体重を添えつつ、俺はアルトリウスに視線で示す。

 と、そこでようやく気付く。いや、気配自体は気づいていたのだが、アルトリウスの隣にいたのは彼の部下ではなく、別の人物であったようだ。



「団長殿に王子殿下でしたか。貴方がたがこの悪魔に用があるということで?」

「あ、ああ……まさか、子爵級を無傷であしらうとは」



 唖然とした様子の騎士団長には、軽く肩を竦めて返す。

 正確に言えば、ダメージを負うことができないのだ。

 こちとら防御力は決して高くはない上に、《練命剣》で自らHPを削っているため、攻撃を受けることは危険すぎる。

 実際の所、戦いなど常に紙一重でしかないのだ。



「それで、聞きたいこととは? 放っておくとこれもすぐに死にますよ」

「おっと、済まないな……悪魔よ、答えて貰うぞ」

「き、ひひ……まともに答えるとか、思ってるの?」



 まあ、口から血を溢れさせながら、それでもアリーアンは嘲笑を浮かべる。

 さもありなん、脅すにしても既に致命傷だ。コイツを見逃す選択肢は無いし、交換条件になるものがない。

 しかし、団長殿もそれは理解しているのだろう。

 渋い表情ながら、尚も言葉を重ねる。



「このベルゲンで、軍を指揮していた方がいた筈だ。その方は――」

「お前たち、姉上をどうした……どこへやった!」

「軍の指揮官……女の将軍? きひっ、ああ、覚えてるさ……きひひ」



 どうやら、覚えのある話であったらしい。

 しかし、王子の姉ということは第一王女ということか?

 何にせよ、一国の王女が将軍などをやっているとは。



「でも……僕は、何もしていない……きひっ、そいつはヴェルンリード様と戦った。死んでるんじゃない?」

「死んでなどいない! 姉上は、まだ……!」

「きひひひっ! なら最悪だ、あの方に持ち帰られたんだろう! 可哀想にねぇ! きひひひひひっ!」

「おい、悪魔。ヴェルンリードは何をした。気に入った人間を連れ帰って飾るとはどういう意味だ」



 首筋に刃を食い込ませながら、俺は問う。

 それに対し、アリーアンは口元を大きく歪めて嗤い――



「教えてあーげない!」



 ――魔力を収束させたその瞬間、俺は刃を振るいアリーアンの首を斬り飛ばした。

 緑の血を噴き出しながら首が転がり――それでもなお、アリーアンは嗤い続ける。



「きひひひひひっ! 絶望するがいいさ! きひひひひひ――」



 そしてそこまで口にしたところで力尽きたのか、アリーアンは黒い塵となって消滅した。

 復活する気配もないことを確認し、突き刺していた餓狼丸を引き抜く。

 他の男爵級と思わしき悪魔共も緋真たちによって倒されているし、とりあえず敵の主力は片付けたと見るべきか。



「ふむ……それで団長殿、ここからどうする?」

「……ともあれ、まずは石碑を解放する。悪魔共の力によって封じられてしまっているが、これさえ解放すれば街としての機能を取り戻せる」

「それはそちらにお任せしてもよろしいので?」

「うむ、むしろこちらでなければ難しいだろう、こちらに任せてくれ」



 どのような作業をするのかは知らんが、任せろと言うのであればお言葉に甘えるとしよう。

 できれば他の悪魔でも狩りに行きたい所であるが――



『条件を達成しました。ワールドクエスト《駆ける騎兵たち》が進行します』

『グランドクエスト《人魔大戦》が進行します』



 ――強大な魔力の気配が上空に出現したのは、その直後だった。





















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[一言] 飾るとかろくでもねぇなぁ。 どうせ某F○te/Zer○みたいにろくでもねぇ事になってるんだろうな。 先生、本気だしちゃってください。 師範代クラスも投入できればいいんだけどなぁ・・・・・・…
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