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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
RC ~Running Cavalry~

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184:駆ける騎兵たち その5












 建物の上から飛び降り、勢いを殺しながら地面に着地する。

 本来、戦いにおいては高い位置を取った方が有利であるのだが、俺には遠距離攻撃の手段がない。

 素直に同じ土俵に立った方が戦いやすいのだ。


 さて、場所は街の中心部――つまり、石碑のある広場だ。

 どうやら、あの石碑は現在稼働していない状況にあるようだ。

 まあ、転移できない時点でそれは当然なのだが……どうにも、おかしな気配を感じる。

 餓狼丸のエフェクトではないが、うっすらと黒い靄のようなものが纏わりついているように感じるのだ。

 あれの詳細は分からないが、大方悪魔共が何らかの悪さをしているということなのだろう。

 ともあれ、経緯は何でもいい。今気にするべきことは――



「今いる親玉はお前たちってことで合ってるか、爵位悪魔」

「あーあ、嫌だなぁ。せっかく遊んでたのに、何で君みたいな化物が出てくるんだろうねぇ。きひひっ」



 俺の言葉に対し、その白いローブを纏った少女の悪魔は不気味に笑う。

 その姿からは魔法使いのような印象を受けるが、どうにも違和感がある。

 態度もそうなのだが、どうにも嘘くさい。何かを隠している気配を感じるのだ。

 こういった手合いは総じて面倒だ。用心してかかるべきだろう。



「折角大人しく引きこもってたのにさぁ、僕たちのことなんか無視して、ヴェルンリード様を狙えばいいんじゃない?」

「よく言うものだ。この街の人間を殺し続けた貴様らに、掛ける慈悲などありはしない」



 そもそも、悪魔である時点で殺すことに変わりはないのだが。

 しかし、こいつはあまり戦というものの大局は見えていないようだ。

 このまま俺たちがベルゲンを無視してヴェルンリードを討てば、こいつは四方を人間によって取り囲まれることになる。

 そもそも、その場合こちらがこいつらから背後を突かれかねんし、そのような選択肢を取ることはあり得ない。

 戦を知らん者を将として置いたヴェルンリードは何を考えているのか。

 まあ、大方あまり考えてはおらず、純粋に強さで決めたのだろうが。

 そうすると、こいつはやはり――



「……貴様、子爵級か」

「きひっ」



 俺の言葉に対して不気味に嗤い、その悪魔は歪んだ笑みを浮かべ――軽く腕を振るった。

 瞬間、感じた悪寒に俺はすぐさま体を逸らす。

 それとほぼ同時、奴の広い袖口から飛び出した鎖分銅が俺の頭の合った場所を貫いた。

 成程、つまりこいつは――



「暗器使い、か。妙な悪魔もいたものだ」

「へぇ、今のを避けるんだ。あー、やだやだ。ホントに強いんだもんさ……そんな君を殺せば、人間をいくらか動揺させられるかな?」

「やってみろ、出来るものならな」



 暗器使いが相手となると、かなり慎重な立ち回りが要求される。

 こいつらは何をしてくるか分からない。常に何かしらの罠を仕掛けられていると考えながら戦った方が良いだろう。

 意識を集中させつつ、俺は緋真たちへと声を掛ける。



「コイツの相手は俺がする。お前たちは他の連中に当たれ……だが、こちらに近づくなよ」

「……大丈夫ですか、先生。その悪魔は……」

「構わん、他の連中をなんとかしろ」



 戦えなくはないが、流石にこいつ相手には集中したい。

 できれば、他の悪魔共は緋真たちに任せたいところだ。

 俺の意思を汲んで、緋真は覚悟を決めた表情で小さく頷く。

 意識を集中させ、全ての殺気を目の前の悪魔へと向ける。

 俺の本気の殺意を浴びた白い悪魔は、流石に表情を強張らせ、重心を低く構えた。



「成程……本物の化物だねぇ、君」

「貴様らにだけは言われたくないな、悪魔。俺など、結局はただの人間でしかない」

「ふぅん、よく言うよ。そんな事、微塵も思っていないくせに」



 歪んだ笑みと共に、悪魔はだらりとその両手を下げる。

 袖に隠れた両手からは、何が飛び出してくるか分からない。



「僕は子爵級第34位、アリーアン。縊り殺してあげるよ、人間」

「久遠神通流、クオンだ。テメェの首でこの戦いの幕を引いてやろう」



 やはり、こいつは子爵級の悪魔であったようだ。

 フィリムエルとの戦いは、未だに記憶にこびり付いている。

 奴は中々に強力だった。武術と魔法、両方に秀でた強力な悪魔であった。

 こいつは果たして、どのような力を持っているのか。

 その期待を込めて、俺はゆっくりと距離を詰める。瞬間――アリーアンの右手が閃いた。



「っ――」



 歩法――縮地。


 飛来したナイフを回避しつつ、地を蹴る。

 滑るように接近した俺に対し、アリーアンは即座に後方へと跳躍しつつ左腕を振るった。

 飛び出してきたのは先ほどと同じ分銅だ。だが、僅かに弧を描くように放たれたそれは、俺の体の何処かに巻き付けることを目的としているのだろう。

 無論、その思惑に素直に乗る筈もない。



「しッ!」



 歩法――陽炎。


 緩急をつけた歩法により、分銅が空を切って建物の壁に激突する。

 俺はその下を潜り抜けてアリーアンへと接近し――舌打ちと共に、俺は横へと跳躍した。

 先ほど投擲された鎖分銅が、唐突に引き戻されて俺の背中を狙ってきたのだ。

 回避したことで命中はしなかったが、おかげで距離を開けられてしまった。

 そして、アリーアンは鎖分銅を回収し、代わりに袖口の中から取り出したのは――



「……何だそりゃ」

「おや、知らないかい? これはね、こう使うんだよ!」



 いくつもの刃が連なった、鞭のような武器。

 奇妙な武器であるが、その形状からして攻撃手段は限られている。

 それを示すかのようにアリーアンは腕を振るい――まるで生き物であるかのように、その刃の鞭は俺へと襲い掛かってきた。

 随分と扱い辛そうな長さである筈なのに、理不尽な速さでこちらへと襲い掛かってくる刃。 

 舌打ちし、それでもこちらを貫こうと向かってきた刃を餓狼丸の一閃で弾き飛ばす。

 そしてそれと共に、俺は深く身を沈み込ませた。


 歩法――烈震。


 体重を利用した急激な加速。

 自らの息すら詰まりそうなその勢いで、俺は一気にアリーアンへと接近し――その動きを途中で中断して、強く前へと足を踏み込み、地を蹴り上げる。


 歩法――跳襲。



「は――――?」



 横合いから迫る、空気を割く音。

 相手の殺気が向いていたのは、俺のアキレス腱だった。

 故にこそ、大きく跳躍してその攻撃を回避しながら、上下逆さまになって刃を振るう。


 斬法――柔の型、釣鐘。



「ひっ!?」



 だが、アリーアンは咄嗟に身を屈めることで俺の一閃を回避してみせた。

 尤も、この攻撃が命中することを期待していた訳ではない。

 刃を振るった勢いで空中で体を回転させた俺は、そのまま着地と同時に反転、相手へと刃を振るう。



「『生奪』!」

「無ッ茶苦茶だなぁ、ホントに!」



 しかし、アリーアンは身を翻して紙一重で回避、振るった手の中に刃の鞭が引き寄せられ、一振りの剣と化す。

 それと共に振るった左袖から飛び出してきたのは三本のナイフだ。

 体の三点を狙って放たれたそれを一閃で二つ弾き、一つは回避しながら前へと進む。

 僅かに見えたが、何かしらの液体が付着していた。恐らくは毒だろうし、受けるわけにはいかない。


 斬法――柔の型、月輪。


 手首の動きだけで放つ弧を描く一閃。

 アリーアンはそれに反応しきれず、肩口に僅かに傷を付ける。

 傷としては浅いが、それでも俺の攻撃力で十分にダメージを与えられることだけは判明した。

 であれば――このまま零絶にて斬り裂く。



「――『生奪』」

「冗談じゃないっての!」



 だが、俺の殺気に反応したのか、アリーアンは足元に何かを投げつけた。

 丸い、ボールのような物体。それを視界の端に捉えて、俺は舌打ちしつつ後方へと跳躍する。

 瞬間――ボールが地面に衝突し、緑色の煙を発生させた。

 吸わぬように呼吸を止めながら距離を取り、再び飛来した刃の鞭を弾き返す。

 全く、本当に面倒な動きをしてくれるものだ。

 幸い、状態異常は発生していない。耐性を高めておいたためか、吸わなかったことが功を奏したのか。

 どちらにせよ、真っ当に斬ることが難しい相手だ。さて、如何様に斬ったものか。



「はは……凄いねぇ! ヴェルンリード様にあれだけ敵視される理由も分かるってもんだよ」



 煙の向こうから刃を振るい、アリーアンが声を上げる。

 横へと走りそれを回避しつつ、俺は相手の動きを観察する。

 肩口から血を流しているが、奴はいまだ健在だ。殺し切るに足るダメージには到底届かない。

 厄介な能力だ。何が出てくるか分からないというのは、こちらとしてもその都度対処しなければならないため、後手に回ってしまいがちである。

 であれば……やはり、あれしかないか。

 その一手を打つために、一瞬だけ隙が必要であるが――



「きひひ、だがいいのかい? 君たちはともかく、他の人間たちのことを放っておいて」

「何……?」



 再び襲い掛かってきた切っ先を地面へと叩き落し、相手へと向けて駆ける。

 だが、刃の群れが行く手を遮り、迂回せざるを得ない状況だ。

 さっさと奴の口を塞いでしまいたい所であるのだが、そう簡単にはいかないか。



「君さぁ、僕がこの街に何も仕掛けなかったとでも思ってるの?」

「……!」

「君たちが攻めてくることなんて分かり切っていたんだ、中に入ってくることだってね。それなら――準備しておくことぐらい当然だろう? きひひひっ!」



 ――舌打ちし、思考を遮断する。

 これに関して、今俺に打てる手はない。であれば、目の前の相手を殺すことに集中するまでだ。

 翻る刃は、こちらを取り囲むことを狙うように動いている。

 流石に、この連結した刃の中に取り囲まれては厄介だ。

 こちらを貫こうと迫ってきた切っ先を上へと弾き返し――そこに、声が響いた。



「――そして、内部に部隊を潜入させていた以上、その罠の所在を知っているのも当然ということですね」





















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