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181:駆ける騎兵たち その2












『ワールドクエスト《駆ける騎兵たち》を開始します』



 ワールドクエストは、予告されていた通りの時間で開始された。

 ベルゲンの前に並び立つプレイヤーと騎士団、そしてそれを迎え撃つために城壁の上に集合している悪魔共。

 睨み合うような体勢の中で響き渡ったアナウンスに、プレイヤー一同は大きく歓声を上げた。

 地を揺らすほどの雄叫びに、自然と口角が釣り上がるのを感じる。やはり、士気の高い戦場というのはいいものだ。

 ともあれ、戦いが始まったのであれば遠慮する必要はない。俺は笑みを浮かべたまま、ルミナへと目配せで合図した。

 それに硬い表情で頷いたルミナは、刻印の刻まれた右手を掲げ、己が周囲へと魔法陣を展開した。



「先に行っている。ぶっ放したら追い付いて来い」

「勿論です!」



 ルミナの背中の翼と魔法陣が、同じように眩く輝き始める。

 その輝きを背に、俺はセイランの背に跳び乗った。同じく呼び出したペガサスに跨った緋真は、その後ろにアリスを乗せてこちらへと合図を送ってくる。

 それに対して首肯を返した俺は、すぐさまセイランを走らせ、上空へと身を躍らせた。

 翼が力強く空を打ち、空気が弾ける音が響く。俺や緋真たちと同じように空中へと飛び上がるのは、数少なくはあるがペガサスを購入した『キャメロット』のメンバーと、ベーディンジアの天馬騎士団である。

 数で言えば騎士団の方が多いだろうが、それでもペガサスは貴重なのか、あまり数が多いとは言えない。

 とはいえ、多少数がいるだけでも十分だろう。あそこを制圧するには十分な戦力だ。


 地上にいるプレイヤーたちが俺たちのことを見上げているのを感じながら、餓狼丸を抜き放ち、門へと向けて突撃する。

 当然ながら、悪魔共からの迎撃は苛烈だ。俺たちを叩き落とそうと、無数の魔法がこちらへと向けて放たれている。

 予想はしていたが、中々のものだ。この最序盤こそが山場だというアルトリウスの言葉も頷けるというものである。

 故にこそ、俺は嗤う。ここさえ潰せば、奴らを蹂躙するための憂いはほぼ無くなるということだ。



「セイランッ!」

「ケエエエエッ!」



 セイランが風を纏い、加速する。

 《テイム》している訳ではないため、ペガサスの詳細なステータスは読み取れない。

 だが、純粋なパワーとスピードでは間違いなくセイランの方が上であろう。

 こちらもまた《蒐魂剣》を発動し、命中しそうな魔法のみを斬り払って前へと進む。

 本来であれば、上空から攻撃して奴らを混乱させるべきなのだろうが――生憎と、俺にはそのような遠距離攻撃はない。

 つまり――



「くははははははッ!」



 強引に魔法の弾幕を潜り抜け、砲弾が着弾するかの如く門の上に着陸する。

 それと共にセイランの背から飛び出した俺は、その勢いのままに前方の悪魔の首を飛ばしながら着地した。

 悪魔共は前方や上空へ攻撃することも忘れ、俺に対する警戒を強めている。

 尤も、それも仕方あるまい。そちらに意識を向けている奴がいれば、こちらがさっさと斬り殺していた。



「さて……ここに来るまで、随分と時間を使わせてくれたものだ」



 空からは緋真の炎の魔法が降り注ぎ、派手な爆発が巻き起こる。

 その真っ只中で、俺はゆっくりと刃を構え、告げた。



「ここから先は、お前たちにチャンスなどやらん。一匹残らず縊り殺す」



 その言葉と共に、駆ける。

 まず片付けるべきは表側にいる悪魔共だ。こいつらが存在している限り、門を破るための部隊が近付きづらい。

 接近する俺に対し、悪魔共は軍へと向けていた魔法を俺へと向けて放ってくる。

 だが、急な方向転換で狙いが定まっておらず、回避することは難しくない。

 おまけに、遠距離を攻撃するために威力の高い魔法を準備していたため、肉薄した俺に対してその魔法を放てずにいた悪魔もいたようだ。

 何にせよ――



「『生奪』」



 ――相手の動きが鈍っているのであれば、そこに付け入らない理由は無い。

 横薙ぎに放った一閃によってレッサーデーモンの首を断ち、咄嗟に放とうとした魔法を掻い潜り隣のデーモンキメラへと肉薄する。


 打法――破山。


 門そのものを揺らさんとばかりに叩き付けた衝撃は、悪魔の身であろうとも耐えきれるものではない。

 周りの悪魔を巻き込みながら門の外へと落ちていく悪魔は意識から外し、次の相手へ。

 ベルゲンの内部側に位置していた悪魔共がこちらを狙っているが、気にする必要はない。

 何故なら、降り立ったセイランが射線を遮りつつ、派手に暴れているからだ。

 流石にある程度被弾はするが、セイランは元々が非常にタフだ。

 風を纏ってある程度のダメージをカットしているということもあるが、多少の被弾ではびくともしない。



「『生奪』!」



 斬法――剛の型、輪旋。


 大きく翻った刃が、遠心力の力を得て二体の悪魔を斬り捨てる。

 その回転の勢いをそのまま利用して反転した俺は、強く地を蹴って後方の悪魔へと肉薄した。


 斬法――剛の型、鐘楼。


 神速の振り上げにて首筋を裂き、その悪魔の横を通り抜ける。

 首を抑えて狂乱する悪魔に意識を取られた別の悪魔は、俺の放った回し蹴りによって蹴り飛ばされ、そのまま外壁の外へと落下する。

 それと同時、セイランの横で派手に爆発が巻き起こる。炎の魔法によって強引にスペースを開けて着地してきたのは、魔法の弾幕を突破してきた緋真だ。

 緋真は野太刀を背の鞘に納め、打刀を抜き放って不敵に笑う。



「こっちは任せてください、先生!」

「ああ、存分に暴れてやれ! 遠慮はするな、獲物はいくらでもいる!」



 普段であれば、敵が限られており全て譲ってしまうのは惜しく感じたかもしれない。

 だが、今回は敵などいくらでも存在している。この場であれば、幾ら暴れたところで獲物が減るということはあるまい。

 俺の言葉に頷いた緋真は、早速強化されたスキルを使って悪魔共へと攻撃を開始する。

 姿を隠しているが、アリスはそんな緋真のフォローに回っているようだ。

 あの様子であれば、心配は要るまい。



「さて……そろそろか」



 斬法――柔の型、流水・逆咬。


 こちらの動きを止めようと襲い掛かってきたカマキリのようなデーモンキメラの攻撃を受け流しつつ跳ね上げ、返す刃で袈裟懸けに斬り裂く。

 そんな悪魔の末路には目もくれず、俺は後方――布陣している軍勢の方へと視線を向けた。

 輝きを放つ魔法陣は七つ。ルミナは、魔法方面においても腕を上げているのだ。

 その背中に背負うように展開されていた魔法陣は一際眩く輝き――ルミナの手に収束しているものを含めた、八つの閃光が撃ち放たれた。

 空を裂く閃光は門へと収束し、巨大な爆裂となって叩き付けられる。

 堅牢極まりない門が、まるで大地震が起こったかのような巨大な揺れに見舞われる。

 転倒することこそ無かったが、流石に動き回ることはできず、重心を低く構えたまま耐える。



「っ……! くく、やりやがったか」



 この位置からでは門の様子は確認できないが、どのような状況であるかは、こちらに殺到してくる『キャメロット』の連中を見ればわかる。

 どうやら、外側の門を上手いこと破壊することができたようだ。

 『キャメロット』の面々は、ベーディンジアの騎士団を伴って破壊した門の中へと突入しようとしている。

 歩兵で外壁内部に入り込み、門を制圧、内側の門を開けようとしているのだろう。

 外側の門は破壊せざるを得なかったが、内側については可能であれば壊さずに確保したいのだろう。

 開閉装置さえ奪還できれば、後は幾らでも内部に兵力を送り込めるというものだ。

 つまり、俺たちの仕事はあと少しだけということである。



「さてと……あと少しだが、ここは確保させて貰うとしよう」



 門を破壊され、動揺している悪魔共を斬り捨てる。

 一部は殺到してくる『キャメロット』の連中へと魔法を放とうとしているが、こちらを向いていないのであれば遠慮なく斬らせて貰うだけだ。

 背中から心臓を貫いて背を蹴り、地上へと落下していく悪魔を見送ることなく隣の悪魔へと刃を向ける。

 悪魔共の行動はバラバラだ。守将を配置していなかったことこそが、こいつらの敗因であったと言えるだろう。

 尤も、そんな奴がいたのであれば、俺が真っ先に首を落としていただろうが。


 そうこうしている内に『キャメロット』や騎士たち、そしてそれに釣られた他のプレイヤーたちも、続々と外壁の内部へと侵入していく。

 何体かの悪魔は地上への攻撃に成功していたが、多少の攻撃を受けた程度でどうにかなるような連中ではない。

 きちんと防御して頭上からの攻撃に対処しつつ、内部への侵入を果たしていた。

 と――そこで、遠距離から飛来した光の槍が、俺の近くにいた悪魔共を撃ち抜く。

 視線を上げれば、こちらへと接近してくるルミナの姿が見て取れた。



「お父様! 門の破壊、成功しました!」

「よくやった。どうやら、俺たちの仕事ももう少しで終わりらしいな」



 門の解放は時間の問題だろう。

 そうしたら、騎士団の面々がここまで殺到してくるはずだ。

 そうなると、流石に少々動きづらくなってしまうだろう。

 ならば――



「お前ら、そろそろ行くぞ! 騎士団が入ってくる前に、奥まで入り込む!」

「いきなり奥まで行くつもりですか!?」

「当たり前だ。手前にいる連中なんぞ、あっという間に狩られちまうだろうが」



 今回は敵の数も多いが、味方の数も非常に多いのだ。

 うかうかしていたら、あっという間に獲物を奪われかねない。

 周囲を敵に囲まれているぐらいがちょうどいいというものだ。

 周りを薙ぎ払うように刃を振るい、近くにいた悪魔共を斬り払う。

 そこに駆け込んできたセイランの背に跳び乗り、ルミナを伴って駆け出す。

 進行経路上にいた悪魔共を薙ぎ倒し、アリスを呼び寄せつつペガサスを呼び出した緋真を連れて、ベルゲンの内部へ。

 悪魔に支配された大要塞――その内部が、果たしてどれほどのものであるのか。

 その戦力を、しかと見届けさせて貰うとしよう。






















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