179:神に通ず
『駆ける騎兵たち』――そう銘打たれたワールドクエストは、久々に開始時期を指定されたものとなった。
開始タイミングは、例によって週末の昼頃から。現時点でも接近することは可能だが、あの要塞都市は跳ね橋こそ落ちているものの、未だ門は閉ざされた状態だ。
あの状態では、地下から侵入する方法以外でベルゲン内部に到達することは不可能だろう。
仮に地下から侵入するにしても、あの通路を大人数で通り抜けることは不可能。堅固な要塞であるが故に、正面から挑む他に道はないのだ。
まあ、あの侵入作戦を考えると、正面から挑んでいると言っていいのかは微妙な所であったが。
ともあれ、戦いの準備は整った。
あれから数日、俺たちは一日一度はカイザーレーヴェに挑むことによって、それなりの強化を遂げることができた。
中々に戦い応えのある相手であるし、未だにルミナの刻印が無ければ倒すことは難しい、強大な敵だ。
だが、だからこそ訓練には最適な相手であると言える。
その結果、現在の俺のステータスは以前よりも大幅に向上したと言えるだろう。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:46
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:34
VIT:24
INT:34
MND:24
AGI:17
DEX:17
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.17》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.35》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.35》
《MP自動大回復:Lv.3》
《奪命剣:Lv.9》
《識別:Lv.26》
《練命剣:Lv.9》
《蒐魂剣:Lv.9》
《テイム:Lv.29》
《HP自動大回復:Lv.2》
《生命力操作:Lv.34》
《魔力操作:Lv.31》
《魔技共演:Lv.18》
《インファイト:Lv.24》
《回復適性:Lv.15》
サブスキル:《採掘:Lv.13》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:24
自動回復系のスキル二つが進化し、大回復という名称へと変化している。
とは言え、特に効果が追加されたというわけでもなく、純粋に回復量が上がっただけだ。
尤も、《回復適性》を加えたおかげで回復量はかなり上昇している。
決して急速であるとは言えないが、目に見えてゲージの回復が分かる程度には効果が上がっているのだ。
おかげで、三魔剣を使ったコストの回復もかなり楽になった。
戦闘後に体力が減っていたとしても、次の戦闘が始まるまでには回復しきっているのだ。
その様を見た緋真は、「育てると強いスキルの典型ですね」としきりに感心していたものだ。
少々意外だったのは、《強化魔法》や《死点撃ち》が、レベル30を超えても進化しなかったことだろう。
《死点撃ち》はまだしも、他の魔法と同じように《強化魔法》が進化する可能性は高いと思っていたのだが。
ちなみに、レベル30で習得した魔法は【マルチエンチャント】。複数の装備に対して同時に強化を掛けられるという代物だ。
俺の場合は武器を切り替えて戦うこともあるし、複数の防具全て同時に強化を掛けられるのは中々有用ではある。
まあ、魔法が追加された時点で強化されていることに変わりはないし、あまり気にしないでおくとしよう。
そして、当然ながら他の仲間たちもレベルアップを果たした。
特に、レベルが節目を迎えた緋真、アリス、セイランはそれぞれ新たなスキルを取得したのである。
緋真は当初の予定通り《斬魔の剣》を、アリスは行動の補助のために緋真も使っている《走破》を、そしてセイランはレベルアップによる自動取得によって、《雷魔法》と《雷属性強化》、そして《魔法抵抗:小》を手に入れた。
二人は順当ではあるが、セイランはかなりの強化であると言えるだろう。
しかし、予想通り《雷魔法》が生えたか。これは本格的に、《嵐魔法》を習得すると見た方が良いか。
ともあれ、それ以外にも多くのスキルが進化している。全員余すことなく、十分に成長することができた。
「しかし……イベント開始前だってのにここまで呼び出しやがってお前らは」
「ははは、約束ですからね。それに、追い込みをかける必要はないでしょう?」
「確かに、今回は本番じゃないと言えばその通りだけどな」
鍛えられるだけ鍛え、余ったアイテムはエレノアに預けたイベント直前のこのタイミング。
装備の修復のために若干の暇を持て余していた俺の耳に届いたのは、蓮司――いや、水蓮からの呼び出しのメッセージだった。
修復に加えて、餓狼丸も強化のためにフィノに預けている。どちらにしろ、今すぐに動くことはできないし、こいつらに付き合うというのも別段悪くはないのだが、伝えられた要件は流石に予想外のものであった。
「お前ら、もう全員王都まで着いたのか」
「正確に言えば、到着自体は初日にしていましたよ。到着が精一杯でしたがね」
「うむ……その日以降は、我々師範代は半数ずつ交互にログインしていたため、このように時間を合わせることが難しかった」
確かに、こいつらは俺と違い、多数の門下生に稽古を付けなければならない立場にある。
このゲームが特訓に向いているからと言って、全ての門下生がこれに集中できるほど高い実力を有している訳ではない。
そのため、全員が一度にログインするというわけにもいかないのだ。結果として、こいつら師範代たちは、半分に分かれて一日交互にゲームをプレイしているのである。
しかしながら、今日は何故か全員がこの場に揃っている。今日の稽古はまだ終わっていない筈なのだが。
表情に出していたつもりは無いが、俺が抱いている疑問を察知したのだろう、水蓮は淡く笑いながら続ける。
「今日は見学ですよ、師範。今回、イベントに参加されるそうですので」
「見学? お前ら、まだこの国から出れんだろう」
既にレベル20を超えている連中がいるとはいえ、まだ最前線に来れるようなレベルではない。
俺の戦いなど、流石に見ることはできない筈なのだが。
しかし、その言葉に対して水蓮はどこか得意げな表情で首を横に振った。
「私も色々と学ばせて頂きましたから。このゲームでは生配信、というものがあるそうですからね」
「……俺の戦いを近くで撮影して、それを見るってことか。つまり撮影者は――」
「私ですよ……いや、先生の近くで戦うつもりでしたし、配信アイテムも手間はかからないからいいんですけど」
水蓮の言葉に呆れを交えて首肯したのは、俺の後方に控えていた緋真だ。
手の上に何やら結晶体のようなものを持ち、嘆息を零している。
「それが配信に使うアイテムとやらか?」
「ええ、課金アイテムなんですけど、まあ大した値段じゃないです。経費で出して貰いましたけど」
確かに、一族で利用する目的であるのならば、経費で落とすのが妥当だろう。
しかし、あまり慣れないシステムであるが、本当に大丈夫なのだろうか。
「そもそも、お前ら見方も分かってるのか?」
「ええ、それは勿論、色々と教えて頂きましたから」
「ほう、それは親切なこったな。『エレノア商会』の連中か?」
「いえ、あそこにいる子たちですよ」
言いつつ、水蓮が示したのはこいつらの後方。
四人の少女たちに、戦刃とユキが稽古をつけている光景だ。
見る限り、あの四人はうちの人間ではない。多少マシとは言え、身のこなしは素人のそれだ。
だが、中々堂に入った連携である。まだまだ未熟ではあるが、四対一とは言えあの戦刃を相手に戦闘ができているのだ。
どうやら、こいつらが色々と教え込んだようだ。
「誰だ、アイツらは?」
「ああ、アバターライバーの子たち……えっと、ネットでの配信を仕事にしてるタレント、みたいな感じの子たちですね」
「来歴は何でもいいんだが、何でそんな奴らに戦い方を教えたんだ?」
「有り体に言えば、運営組からの依頼ですよ」
騒いでいる四人の少女と戦刃の声をバックに、俺は告げられた言葉を吟味する。
うちの連中から持ち掛けた話であるということは、これは決して無意味な行為ではないのだろう。
おおよそ――
「人材の発掘、か? あの連中、アリスで味を占めたか」
「ま、否定はできないでしょうね。しかし、彼女のような特異な存在が埋もれていたことは事実。彼女たちに協力することで、我々は広く名を知られることとなりました。場合によっては戦い方を教えてくれる存在としてね」
「軽く教えるだけで、久遠神通流の術理は教えず、その上で才あるものを発掘する、か……まあいい、そう上手く行くとも思えんが、やるだけやってみればいいさ」
流石にそこまで一般人の面倒を見るつもりは無い。
アリスのような人間を偶然見つけたならば確保に動くことはあるだろうが、そうそうあるものではないだろう。
ともあれ、今日の目的はそれを聞くことではない。
「お前ら、その辺にしておけ。俺は前線に戻らにゃならん」
「っと、すまんな嬢ちゃんたち、師範がお呼びだ」
俺の声に戦刃は戦闘を終了する。
四人の少女たちは肩で息をしつつ戦闘を終了し、揃ってこちらを向いて目を見開いた。
どうやら、俺が居ることに気づいていなかったようだ。
「うわっ、あの人……!」
「へー、本当に知り合いなんだ」
「信じてなかったんですか?」
「つかれた……」
何やらこちらを見てごちゃごちゃ言っているが、今は気にしないでおくとしよう。
それよりも、さっさと目的を果たさなければ。
「クランを結成する。俺がクランマスターで、お前たちと緋真がサブマスター……だったな」
「はい、クラン名は決めてるんですか?」
「決めてはいるさ。どうせ、近い内に作らにゃならんと思っていたからな」
クランの結成自体は、この国の施設で行われる。だが、決めることは先に決め切ってしまっても問題はなかろう。
名前なら既に決めている。我ら久遠神通流が、古くから口にし続けてきたその言葉。
「『我剣神通』、それが俺たちのクラン名だ」
「ほう、成程」
「くはははっ、そりゃいいな! 俺たちにぴったりだ!」
我らが剣は神に通ず――それは、久遠神通流が古くから語り継いできた言葉だ。
森羅万象の境地を神の領域とすら称え、その領域に辿り着くことを夢見て。
この四文字は久遠家のいたるところに飾られ、決して忘れるなと幼き頃から言い聞かされてきた。
ならばこそ、我らを冠する言葉として、これほど相応しいものも無いだろう。
「んで、どうするんだ? そこのお嬢さんたちもクランに加えるつもりか?」
「ここまで協力して頂いていますからね。望むのであれば、それもやぶさかではありませんが――」
「い、いやいや! 私たちはこの四人でクラン組みますので!」
「彼女たち、企業所属ですからね。勝手に外部とクランを組むってわけにもいかないでしょう」
「そういうものですか。ま、今後も協力できれば、それは良いでしょう」
確かに、彼女たちの連携はそこそこ見れるものではある。
運営組の思惑と合うというのであれば、今後も協力するのは悪くないだろう。
軽く肩を竦め、クラン会館へと向かう。登録を終わらせて、前線に戻るとしよう。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:46
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:34
VIT:24
INT:34
MND:24
AGI:17
DEX:17
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.17》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.35》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.35》
《MP自動大回復:Lv.3》
《奪命剣:Lv.9》
《識別:Lv.26》
《練命剣:Lv.9》
《蒐魂剣:Lv.9》
《テイム:Lv.29》
《HP自動大回復:Lv.2》
《生命力操作:Lv.34》
《魔力操作:Lv.31》
《魔技共演:Lv.18》
《インファイト:Lv.24》
《回復適性:Lv.15》
サブスキル:《採掘:Lv.13》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:24
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:45
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:36
VIT:21
INT:30
MND:21
AGI:20
DEX:20
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.16》
マジックスキル:《火炎魔法:Lv.10》
セットスキル:《練闘気:Lv.2》
《スペルエンハンス:Lv.4》
《火属性大強化:Lv.2》
《回復適性:Lv.31》
《識別:Lv.28》
《死点撃ち:Lv.28》
《格闘術:Lv.2》
《高位戦闘技能:Lv.3》
《立体走法:Lv.1》
《術理装填:Lv.26》
《MP自動回復:Lv.24》
《高速詠唱:Lv.21》
《斬魔の剣:Lv.4》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.13》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:26
■モンスター名:ルミナ
■性別:メス
■種族:ヴァルキリー
■レベル:17
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:34
VIT:21
INT:40
MND:21
AGI:26
DEX:22
■スキル
ウェポンスキル:《刀術》
マジックスキル:《閃光魔法》
スキル:《光属性強化》
《光翼》
《魔法抵抗:大》
《物理抵抗:中》
《MP自動大回復》
《風魔法》
《魔法陣》
《ブースト》
《空歩》
称号スキル:《精霊王の眷属》
■モンスター名:セイラン
■性別:オス
■種族:グリフォン
■レベル:15
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:44
VIT:27
INT:30
MND:23
AGI:38
DEX:21
■スキル
ウェポンスキル:なし
マジックスキル:《旋風魔法》
スキル:《風属性強化》
《飛翔》
《騎乗》
《物理抵抗:大》
《痛撃》
《爪撃》
《威圧》
《騎乗者強化》
《空歩》
《マルチターゲット》
《雷魔法》
《雷属性強化》
《魔法抵抗:小》
称号スキル:なし
■アバター名:アリシェラ
■性別:女
■種族:魔人族
■レベル:43
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:24
VIT:20
INT:24
MND:20
AGI:33
DEX:33
■スキル
ウェポンスキル:《暗剣術:Lv.14》
マジックスキル:《暗黒魔法:Lv.5》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.32》
《隠密行動:Lv.4》
《毒耐性:Lv.25》
《アサシネイト:Lv.6》
《回復適性:Lv.29》
《闇属性大強化:Lv.2》
《スティンガー:Lv.5》
《看破:Lv.31》
《ポイズンエッジ:Lv.28》
《無音発動:Lv.22》
《曲芸:Lv.3》
《投擲:Lv.21》
《走破:Lv.8》
サブスキル:《採取:Lv.21》
《調薬:Lv.26》
《偽装:Lv.27》
称号スキル:なし
■現在SP:27





