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175:撤退戦












 もう一方の鎖にも腐食毒を使い、再び白輝を放って断ち斬る。

 張りつめていた鎖は甲高い音を立てながら断ち斬られ、残った部分は壁に開けられている穴の向こう側へと消えてゆく。

 それ自体はいい、元よりこうすることが目的だったのだ。

 だが、問題は――これが倒れることによって発生する轟音だ。

 これが落ちることによる影響そのものはあらかじめ考慮に入れていたが、ここは少々場所が悪い。


 支えとなる二つの鎖を失った跳ね橋は、そのまま向こう側へと向けて倒れ、巨大な音を発する。

 その様を見届けることはできないが、大きな振動と音だけは容易に確認することができた。

 肌に伝わるほどの振動、そして地面の揺れ。間違いなく、悪魔たちもこの異常に気が付いたことだろう。

 それほど時間を置かずして、悪魔共が押し寄せてくるはずだ。早くこの場から退却しなくては。

 舌打ちしつつその場から駆け出した俺は、踊り場から跳躍して地上へと降りる。

 地面を転がるようにしながら落下の衝撃を殺し、その勢いを殺さぬまま走る。

 目指すは、アリスがいる場所。先ほど俺たちが入ってきた入口だ。



(表の門が開いていればさっさと逃げたんだがな……)



 背中側の気配を感じ取りながら、俺は嘆息を零す。

 表側は、上がっていた跳ね橋と門の二重構造となっていた。

 今も巨大な門によって閉ざされており、あちら側から外に出ることは叶わない。

 尤も、それならばどのようにここから逃げるのかという話なのだが――



「こっち来てるわよ!」

「チッ……反対側だ、急げ!」



 こちらに駆け寄ってきたアリスを伴い、反対側の入口へと移動する。

 気配を探れば、門の異常を察知して、こちらからも何体もの悪魔共が近づいてきていることが感じ取れた。

 一体一体は大したことはなかろうと、狭い場所で複数に囲まれれば致命的だ。早めに逃げ場がある広い場所まで移動しなくてはならない。

 足を止めていれば敵はいくらでも集まってくる、急いで退避しなくてはならない。

 通路に飛び込めば、奥の方から近寄ってくる悪魔共の姿。

 幸い、近くの部屋には悪魔の気配はない。前方から押し寄せてくる数だけでも厄介であるが、多少ぶつかれば横手にある階段に入れるだろう。

 だが、そこでどれだけ足を止めずに進むことができるのか。舌打ち交じりに刃を構え――そこで、アリスが鋭く叫んだ。



「クオン、これを投げて! 私だと届かない!」

「――っ、了解だ!」



 アリスが投げ渡してきた小瓶を、確かめることも無く前方の悪魔共へと投げつける。

 正面にいたレッサーデーモンへと衝突し、黄色がかった液体が飛び散る。

 その瞬間、液体は急激に気化して黄色の煙と化し――



「分かってると思うけど、吸っちゃだめよ。麻痺するわ」

「おいおい、何だありゃ」

「揮発性の麻痺毒。あれ作るの結構大変なんだから」



 どうやら、ガスとして使用するための毒のようだ。

 一体どのような素材の組み合わせならばこんな毒が作れるのかと気にはなったが、生憎と今は質問している余裕はない。

 気化した麻痺毒の中に突っ込んだ悪魔共は、揃ってその動きを鈍らせている。

 先頭にいた奴らに至っては、麻痺してその場に倒れ、後続の悪魔に踏み潰されていた。

 だが、そのおかげでかなり時間的余裕ができたわけだ。俺たちは即座に角を曲がり、階段を駆け上がる。

 無論、上の階にも悪魔はいたため、そちらから来る気配もあるが――



「『生奪』」



 壁を蹴り、階段を跳ね返るように反転しながら、上から降りてきた悪魔へと刃を振るう。

 一撃で殺せるに越したことはないが、今は無理をする必要はない。相手の足を奪うだけでも十分だ。

 膝から下を切断されて階段を転がり落ちていく悪魔には目もくれず、俺はアリスを伴って階段を駆け上ってゆく。

 目指すは最上階、外壁の上だ。



「けど、どうするつもり? ここで登って行っても逃げ場はないわよ? 外に飛び降りるの?」

「そうなるな。鉤縄があれば降りることは可能だ」



 脱出経路など最初からそれしかない。

 跳ね橋を落とした時点で悪魔共に気づかれるのは必定であるし、気付かれぬまま退散するのはほぼ不可能だ。

 であれば、堂々と敵陣を突破して脱出するしかない。

 尤も、これはあまり根本的な解決になっているとは言えない方法だ。

 都市から逃げたところで悪魔共が追撃を辞める保証は無いし、どこまで逃げればいいのかも定かではない。

 野生の魔物にかち合えば追撃してくる悪魔共に追いつかれかねないし、正直かなり厳しい状況であることは事実だ。

 跳ね橋を落とされたとなれば怒り心頭、悪魔共も俺たちを見逃すような理由などないだろう。

 確かに、死に戻るということも考慮に入れないではなかったのだが――



「――やはり、死ぬのは御免だな」

「ま、それについては同感だけど」



 俺の呟いた言葉に対し、どこか自嘲気味に、アリスはそう口にする。

 その言葉の裏には、かつて遭った事故の記憶がちらついているのかもしれないが、皮肉った様子からもある程度は消化できているようだ。

 軽く肩を竦めて、そのまま階段を登り切る。

 それぞれの階から悪魔が集まり、かなりの数になりつつあるが、最後の階段を登る瞬間にアリスが再び麻痺毒を噴霧したことで、ある程度は足止めができたようだ。

 屋上である外壁の上まで到達し、再び走り出す。外壁の上にもある程度悪魔はいるが、こちらはそれなりの広さがある。

 戦うのにはそこまで困りはしない。



「どうするつもり?」

「まずは門の上だ。他の所から降りようとしたら堀に落ちるからな」



 ベルゲンの周囲は深い堀に囲まれている。

 今の重装備では流石に水に浮かぶことは難しい。せめて跳ね橋の上に着地しなければ。

 だが、跳ね橋が落ちたことによって門の上には悪魔共が集まってきている。

 あそこを制圧しないことには落ち着いて降りられないだろう。



「時間の余裕はないわ。あれを全部片づけられるの?」

「やるしかあるまい」



 元より予定していた逃走経路ではある。

 発見された場合は外壁から飛び降りて逃げるしかないと考えていたのだ。

 一応、他にも保険をかけてはいたが、運が良かったらという程度のものでしかないし、それほど当てにするものでもない。

 さて、こういう形で余裕が無い状況も久しぶりだ。ならばここは――



「本気で行かせて貰うとしよう」



 久遠神通流合戦礼法――風の勢、白影。


 視界がモノクロに染まり、感覚が限界まで加速する。

 細く息を吐きながら地を蹴り、小さな階段を一足飛びに駆け上がって、集まっていた悪魔共の元へ。

 奴らもまたこちらの姿に気づき、警戒するような様相を見せるが――最早遅い。


 歩法――間碧。



「『生奪』」



 レッサーデーモン共の間をすり抜けて、その奥にいた悪魔――デーモンナイトへと肉薄する。

 この中で最も厄介なのはコイツだ。さほど強敵ではないとは言っても、レッサーデーモンとは比べ物にならない。

 恐らく、この悪魔共の集団の中ではトップに当たる存在だろう。

 であれば、真っ先に潰す。そう判断して放った一閃は、相手に反応すら許さずにその首を刎ね飛ばした。



「シィ……ッ!」



 斬法――剛の型、輪旋。


 その前進の勢いを利用して、大きく刀を旋回させる。

 遠心力を利用して振り抜いた一閃は二体の悪魔を斬り裂いて、そこでようやく俺の前進の勢いが収まった。

 そして、刃を振り抜いた勢いで反転し、前へと踏み出す。



「『生奪』」



 斬法――剛の型、鐘楼。


 神速の振り上げにて、まずは眼前にいた悪魔の首筋を割く。

 派手に血飛沫が噴き上がるが、今の俺にはその色を認識することはできない。そして、その臭気さえも。

 臭いに関しては好都合と捉えつつ、俺は倒れゆく悪魔の横を通り抜けてその先へと踏み込んだ。


 斬法――剛の型、鐘楼・失墜。


 返す刀で振り下ろした一閃は、レッサーデーモンを袈裟懸けに斬り伏せる。

 ここまで来たところで悪魔共も状況を把握したのか、威嚇のような声を上げてこちらへと襲い掛かってくる。

 その内の何体かは後方で倒れ伏しており、追い付いてきたアリスが早速仕事を開始したことが分かる。

 あまり時間的余裕もない、存分に働いてもらうとしよう。



「――――ッ!」



 飛び掛かってきた悪魔を半歩後退して斬り伏せ、後方から掴みかかってきた悪魔を体を反転させながら放った肘打ちでカチ上げる。

 仰け反った相手を壁の内側へと蹴り飛ばしつつ、地を蹴って加速。

 この加速した感覚の中では、悪魔共の動きなどどこまでも鈍い。

 振り下ろされた腕を紙一重で躱しながら首ごと斬り飛ばし、その血飛沫に身を隠しながら後方の悪魔へと肉薄、左肩を接触させる。


 打法――破山。


 迸った衝撃が石造りの地面を揺らし、悪魔を後方へと弾き飛ばす。

 地面まで墜落した連中がどうなったかは分からんが、少なくともすぐに戻ってくることは無いだろう。

 すぐさま振り向きつつ次なる悪魔へと刃を振るい――その瞬間、目に入った光景に舌打ちする。

 どうやら、俺たちが来た方とは反対側の壁にある階段から悪魔共が迫ってきたようだ。

 時間が無い。まだ悪魔を殲滅し切れていないが、アリスを抱えて降りるべきか。

 ――そう判断した、瞬間だった。



「――【フレイムストライク】!」

「――光の鉄槌よ!」



 上空で響いた声と共に紅の火線と黄金の閃光が飛来し、外壁の上に巨大な爆発を巻き起こす。

 外壁を揺らす振動と熱は理解できずとも、上空からの攻撃によって、迫ってきていた悪魔が吹き飛ばされたことだけは把握した。

 それを目にして、俺は即座に白影を解除する。これは強力ではあるが、汎用的ではない。この状況では不便だ。



「アリス、こっちへ来い!」



 保険ではあったが、どうやら上手いこと働いたようだ。

 悪魔を後ろから刺殺したアリスは、大幅に数を減らした悪魔共から距離を置きつつこちらへと駆け寄ってくる。

 その姿を確認して、俺は上空へと声を上げた。



「来い、セイラン!」

「ケエエエエエエエッ!」



 俺の声に応えて、上空から気合に満ちた鳴き声が木霊する。

 それと共に飛来したセイランは、残っていた悪魔のうち何体かを蹴散らしながら着地し、すぐさまその身を屈めてみせた。

 その姿を確認し、俺は笑みを浮かべながらその背へと跳び乗る。

 そしてアリスも身軽に俺の後ろへと腰を下ろしてしがみ付き――それを理解したセイランは、命ぜられるまでもなく、勢いよく外壁の上から飛び出した。

 ガクンと揺れる背の上で、俺は笑みを浮かべながら上空を見上げる。



「成程……ようやく手に入ったか」



 ――そこには、光の翼を広げるルミナと、その隣で飛ぶペガサスに騎乗した緋真の姿があった。






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:41

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:31

VIT:23

INT:31

MND:23

AGI:16

DEX:16

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.12》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.29》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.29》

 《MP自動回復:Lv.28》

 《奪命剣:Lv.5》

 《識別:Lv.23》

 《練命剣:Lv.5》

 《蒐魂剣:Lv.5》

 《テイム:Lv.26》

 《HP自動回復:Lv.27》

 《生命力操作:Lv.30》

 《魔力操作:Lv.27》

 《魔技共演:Lv.16》

 《インファイト:Lv.17》

 《回復適性:Lv.7》

サブスキル:《採掘:Lv.13》

称号スキル:《剣鬼羅刹》

■現在SP:22






■アバター名:緋真

■性別:女

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:39

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:32

VIT:20

INT:27

MND:20

AGI:19

DEX:18

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.10》

マジックスキル:《火炎魔法:Lv.6》

セットスキル:《闘気:Lv.26》

 《スペルチャージ:Lv.27》

 《火属性強化:Lv.26》

 《回復適性:Lv.25》

 《識別:Lv.24》

 《死点撃ち:Lv.24》

 《格闘:Lv.26》

 《戦闘技能:Lv.26》

 《走破:Lv.25》

 《術理装填:Lv.22》

 《MP自動回復:Lv.20》

 《高速詠唱:Lv.16》

サブスキル:《採取:Lv.7》

 《採掘:Lv.13》

称号スキル:《緋の剣姫》

■現在SP:40






■アバター名:アリシェラ

■性別:女

■種族:魔人族ダークス

■レベル:37

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:23

VIT:18

INT:23

MND:18

AGI:30

DEX:30

■スキル

ウェポンスキル:《暗剣術:Lv.8》

マジックスキル:《闇魔法:Lv.27》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.27》

 《隠密:Lv.29》

 《毒耐性:Lv.20》

 《バックスタブ:Lv.29》

 《回復適性:Lv.24》

 《闇属性強化:Lv.26》

 《ペネトレイト:Lv.29》

 《看破:Lv.26》

 《ポイズンエッジ:Lv.22》

 《無音発動:Lv.18》

 《軽業:Lv.27》

 《投擲:Lv.14》

サブスキル:《採取:Lv.18》

 《調薬:Lv.22》

 《偽装:Lv.25》

称号スキル:なし

■現在SP:41

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ここまで読んだ感想です。  会話がこ気味良く、漫才やコントのように楽しめる。  戦闘シーンの描写がわかりやすく簡潔にまとめられており、説明だらけになっていないので躍動感を感じることが…
[良い点] 緋真のペガサスだー! アリス、早く乗り移らないと師匠がトンデモ飛行するかも知れないよ? あれ、セイランとは大分仲良くなったから大丈夫なんでしたっけ?
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