表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/943

169:参戦












 聖火の塔を奪還したことをアルトリウスに伝え、グリングローまで戻ってきた翌日。

 時間通りにログインした俺たちは、石碑までエレノアとアルトリウスを呼び出した。

 錚々たる顔ぶれに、周囲のプレイヤーたちは何事かとざわついている。

 だが、俺たちはそれを気にすることも無く、一切無視しながら言葉を交わしていた。



「塔を奪還しましたし、早めに次の作戦に移りたかったのですが……」

「貴方の方から用事というのも珍しいわよね。それで、何をするのかしら?」



 聖火の塔の奪還から次なる作戦を立案していたのだろう、アルトリウスは若干困った様子である。

 同じぐらいに忙しいであろうエレノアも、今度は何をするつもりなのかと言わんばかりの表情だ。

 流石にその反応は心外であるのだが、色々とやっていることは否定できないため、苦笑交じりに続ける。



「今日から、うちの連中がこのゲームを始めるんでな、紹介しておこうと思ったんだ」

「うちの連中……?」

「……クオンさんの流派の方々、ということですか。クオンさんもそうですけど、そんなにゲームができるんですか?」

「俺たちはともかく、アイツらはある程度控える必要はあるがな。だが、二日に一度程度はログインできるはずだ」

「……貴方みたいな無茶苦茶な人たちが増える訳ね」



 半眼を向けてくるエレノアからは視線を逸らしつつ、石碑へと手を翳す。

 向かう先はアルファシアのファウスカッツェ、全てのプレイヤーが最初に集う場所だ。

 あいつらも、今あそこに集まりつつあることだろう。



「俺ほどではないにしろ、十分な実力のある連中だ。特に師範代たちは緋真と比べても遜色はない」

「いや、師範代の皆さんは私より強いですから……」

「緋真さんクラスが沢山、ということね。かなり荒れそうだわ」

「まあ、単なる顔合わせだ。紹介だけに留めておくし、それほど時間を取らせるつもりもない」



 あいつらが今後ゲームをプレイしていくにあたり、『エレノア商会』の世話になる可能性は高いだろう。

 『キャメロット』とすぐに関わるということは無いだろうが、実力をつけて行けばその限りではない。

 いずれは協力関係になることもあり得るだろう。

 それは二人も理解しているのか、小さく笑みを浮かべながら首肯を返してきた。



「分かりました、顔合わせぐらいであれば時間を取りましょう」

「そうね、うちのお得意様にもなりそうだし」



 微笑みを浮かべた二人は、俺と同じく石碑に手を翳す。

 ちらりと背後を見れば、緋真とアリスも俺たちについてくる様子だ。

 緋真はともかく、アリスも一応興味はあるようだ。まあ、パーティを組んでいるのだし、行動を共にするのは当然なのだが。

 ともあれ、やることが決まったからにはさっさと移動するとしよう。

 石碑の機能を起動し、石碑間の移動を発動する。俺たちは足元から光の輪に包まれ、ファウスカッツェへと移動した。



「っ……うわ、凄い数」

「こりゃまた、混雑してるな」



 ファウスカッツェの中央広場へと移動した途端、目に入ってきたのは視界を覆い尽くすほどの人混みだ。

 どうやら、早速新たなプレイヤーたちがログインを開始しているようだ。

 初期装備を身に纏う大量のプレイヤーたちは、新たに現れては思い思いの方向へと移動していく。

 そんな彼らへと声を掛けているのは、以前からプレイしている、いわゆる第一陣のプレイヤーたちだ。

 どうやら、クランへの勧誘のために声掛けを行っているらしい。

 尤も、クランに所属するためには王都まで辿り着かなくてはならないため、すぐに所属できるというわけではないのだが――所謂青田買いというものだろう。



「ははは、流石にこのメンバーだと視線を集めますね」

「貴方とクオン、緋真さんがいればそりゃそうでしょうよ」



 エレノアもあまり人のことは言えないと思うのだが、ここは突っ込まないでおくとしよう。

 ともあれ、さっさとあの馬鹿どもを探さなくては。

 クランに誘われたところで応じることは無いだろうが、何かしら騒ぎを起こす可能性は否めない。特に修蔵の馬鹿は何を仕出かすか分からんからな。

 周囲へ視線を走らせ、見知った姿があるかどうかを確認する。

 あの馬鹿どものことだ、やたらと目立ちそうなものだが――



「あ、先生……あそこ」

「おん? ああ、あそこか」



 緋真が指差した先にあったのは、ひときわ目立つ大柄な男だ。

 髪の色こそ赤に近いオレンジになっているが、その顔立ちや背丈から、あれが修蔵であることが分かった。

 どうやら目立ってはいるものの、修蔵と厳太の威圧感のある佇まいのせいで、周囲のプレイヤーはあまり近づいては来れないようだ。

 揉め事を起こされても困るし、それはそれでよいのだが。

 と――どうやら向こうもこちらに気づいたらしく、修蔵は少年のように楽し気な笑みを浮かべてこちらへと声を掛けてきた。



「おう! そこにいたか、師範!」

「声がでかい、阿呆」



 大きく手を振ってくる修蔵に思わず嘆息しつつ、彼の方へと接近する。

 二人がやたらと目立ってはいるが、どうやら蓮司と幸穂もいるようだ。

 とりあえず、師範代たちは全員ログインできているようだな。

 オレンジ色の髪となった修蔵、紺色の髪の蓮司、何故か剃髪になっている厳太、そして黒髪のままだが髪を緩く三つ編みに結っている幸穂。

 普段の姿を見慣れていると、中々違和感があるものだな。



「おお! 聞いてた通り、物々しい格好してるなぁ師範」

「緋真、お前俺のことまで喋ってたのか?」

「そりゃ先生のことは聞かれまくりますし、仕方ないじゃないですか。物々しいのは事実なんですし」



 まあ、流石にいくつもの刀を身に着けている以上は否定しきれるものではないし、それについての追及はせずにおくとしよう。

 とにかく、この場では少々邪魔になる、広場の中心からは離れた方が良いだろうが――



「で、全員揃っているのか?」

「む……全員、整列ッ!」



 俺の問いに対し、修蔵は後ろに集まりつつあった門下生へと大声を上げる。

 その言葉に、後ろにいた者たちは瞬時に従い、綺麗に整列してみせた。

 その数、実に50人。師範代たちを含めて9パーティ分の人数ということか。

 全く、よくこれだけの数を購入したものだ。俺や緋真のお墨付きがあったとはいえ、運営組もよく納得したな。



「全員、ログイン完了していますよ、師範」

「よくまぁここまで……とりあえず、この場は邪魔だ。向こうに移るぞ」



 とりあえずこいつらを邪魔にならないように道路脇に移動させ、先程と同じように並ばせる。

 少々異様な光景ではあったが、全員に話を伝えねばならないのだ、文句は言うまい。



「さて……突然の話で驚いただろうが、良く参加してくれた。お前たちはこれから、このゲームの中で戦いの経験を積むことになる。存分に戦い、存分に斬れ。そして、己の剣を高めろ。俺がお前たちに課すのはそれだけだ」



 俺の言葉を、門下生たちは沈黙したまま聞いている。

 だが、その瞳に浮かんでいるのは紛れもない戦意だ。高揚しているであろう彼らへと、俺は背後に立つ二人を示す。



「お前たちにはこの二人を紹介しておこう。彼はアルトリウス、そして彼女がエレノアだ。この二人は俺が個人的に同盟を結んでいる団体の長であり、俺にとって対等な同盟相手だ。個人の武では俺には及ばんが、組織の長として優秀な者たちだ、それを胸裏に刻んでおけ」



 視線が集中したことで、エレノアは少々たじろいだ様子であったが、アルトリウスに動揺は見られない。流石に、注目されることには慣れているらしい。

 そんな紹介に対し、四人の師範代たちは視線を細めて二人の様子を観察している。

 俺と対等な存在という言葉を吟味しているのだろう。それだけの敬意を払うに足る存在であるかどうか、と。

 そんな視線を受けながら、アルトリウスは一歩前に出て声を上げた。



「初めまして、僕はアルトリウス。クラン『キャメロット』のマスターです。クオンさんとはよく戦場を提供し、そして戦場を共にさせて貰っています。皆さんともいつか共に戦えることを楽しみにしておきます」



 まるで物怖じした様子の無いアルトリウスは、にこやかな笑みでそう告げる。

 その胆力に対してか、師範代たちは少々感心したように眉を動かしていた。

 アルトリウスの将器は本物だ。その動きを見ていれば、こいつらもいずれは理解できるだろう。

 そして覚悟を決めたのか、アルトリウスに続くようにエレノアも声を上げる。



「……初めまして、クオンの門下生の皆さん。私はエレノア、『エレノア商会』の会頭です。彼の扱っている装備の大半は私たちの紹介で卸している物ですので、物入りの際は是非我が商会にお越しください」



 エレノアの自己紹介に対しては、師範代のみならず門下生たちが揃って目の色を変える。

 何しろ、自分たちの刀を手に入れる機会だ。現時点においては、アルトリウスよりも重要な相手であると言えるだろう。

 門下生たちの様子には苦笑しつつ、俺は正面に立つ四人、師範代たちへと告げる。



「師範代たち、お前たちは名乗っておけ。世話になることは多いだろうからな――それに、そのアバターの名前は俺も聞いていない」

「あいよ、師範」



 俺の言葉に頷き、まず前に出たのは修蔵だ。

 大柄な男はにやりと笑みを浮かべつつ、胸を張って声を上げる。



「俺は戦刃いくさば。久遠神通流戦刀術、剛の型が師範代だ。よろしく頼むぜ、お二人さんよ」

「同じく、柔の型が師範代、水蓮です。どうぞ、お見知り置きを」



 ちなみに、戦刃は人間族ヒューマン、水蓮は魔人族ダークスだ。

 種族的には納得であるとも言える。戦刃は特に考えず人間にしたのだろうし、水蓮は性能を重視して魔人を使ったのだろう。

 そんな二人に続いて前に出たのは、胸の前で己の拳を突き合わせた厳太と、その脇に控える幸穂だ。



「久遠神通流戦刀術、打法が師範代、いわお。師範が認めた御方であるならば、相応の敬意を持ってお相手させて頂こう」

「久遠神通流薙刀術が師範代、ユキと申します。お兄様がいつもお世話になっております」



 この二人はどちらも人間族ヒューマンだ。恐らく、俺と同じ理由で人間を選んだのだろう。

 後ろにいる門下生たちも大半が人間か魔人かのどちらかであるようだが、たまに獣人やらエルフを選んでいる連中もいるようだ。

 ……まあ、自分で修正できる範囲であるのならば特に強く言うつもりは無いが。

 その辺りは、師範代たちが指導することだろう。



「しかし、お前らも名前に捻りが無いなぁ」

「師範にだけは言われたくありませんね。それで、我らは独自に行動させて頂く、ということでよろしいのですか?」

「ふむ、それは構わんが……そうだな、少しばかり話をするか」



 別にこいつらを自由にさせてしまっても構わんのだが、多少は指示をしておくべきだろう。

 明確な目標を与えておかんと、何を仕出かすか分からんからな。

 思わず苦笑を浮かべつつ、俺は水蓮に対してトレード画面を開いた。



「まず、お前たちにはある程度の金を渡しておく。『エレノア商会』で武器を調達しろ。初期装備はお前たちの得物には合わんだろう」

「はぁ……よろしいのですか?」

「金については余裕があるからな。気になるなら後で稼いでから返せ」



 言いつつ、水蓮に対して200万ほどの金を渡す。

 正直、最近は金には困っていない。『エレノア商会』との提携のおかげで金の消費はかなり抑えられているのだ。



「装備を整えたら、まずは王都を目指せ。そこでクランを結成したならば、お前たちの長として登録しよう」

「……それは、我らも師範の下で戦えるということですか?」

「俺に付いて来れるのであれば、それもいいだろう。だが、それはそう容易い話ではないぞ?」

「分かっております。しかし、貴方の戦いを直接見られるというだけでも千金の価値があるというもの」

「全くだ。まずはそこまで、最速で辿り着いてやるよ」



 好戦的な笑みで拳を掌に叩き付ける戦刃に、こちらもにやりと笑みを浮かべる。

 こいつらが最前線に辿り着くまでには時間がかかるだろう。

 だが、こいつらの実力は俺も認める所だ、いずれは肩を並べて戦えるはず。

 その日が来ることを、しばし楽しみにさせて貰うとしよう。



「さあ、行ってこい。楽しみに待っているぞ」

「言質は取ったからな、師範! さぁ、行くぜお前ら! まずは得物の調達からだ!」



 早速テンションを上げた戦刃が、門下生たちを誘導するように声を上げる。

 ちらりとエレノアに目配せすれば、彼女は軽く苦笑しつつウィンドウの操作を開始した。

 どうやら、こちらの店舗に連絡を入れてくれるようだ。

 さて、こいつらがどこまで暴れまわることか――時々、話は聞いておくこととしよう。





















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギカテクニカ書籍版第12巻、7/18(金)発売です!
書籍情報はTwitter, 活動報告にて公開中です!
表紙絵


ご購入はAmazonから!


  https://x.com/AllenSeaze
書籍化情報や連載情報等呟いています。
宜しければフォローをお願いいたします。


― 新着の感想 ―
もう敵が可哀想だよ!
[一言] 遂にこの日が…… 20人位かと思ってたら50人ってww 流石に三魔剣については教えてはいないようですが……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ