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165:闇討ちの塔












 最後の部屋に入った際、壁際に設置されていたスイッチ。

 他に手がかりもなかったためにとりあえず押してみたところ、隣の部屋で何やら金属音がしたのと同時、部屋の中に四体のレッサーデーモンが出現した。

 とりあえずはまとめて斬り払い、襲い掛かってきた悪魔共を排除したのだが……出現するまで気配を感じられなかったということは、強制的に出現させるタイプのトラップということなのだろう。



「……今のは《看破》では何も出ていなかったわ。私のスキルのレベルが低かったのかしら?」

「でも、アリスさんの《看破》のレベルって結構ありますよね? それでも見破れなかったということは――」

「回避できないタイプのトラップもある、という可能性もあるな。何にせよ、敵が出現するだけなら片付ければ済む話だ」



 若干責任を感じているらしいアリスをフォローしつつ、部屋から外へと出る。

 全ての部屋を回ったが、今の所階段は発見できていない。

 ということは、先程聞こえた音で何らかの上に上がる方法が出現したと考えるべきだろう。

 流石に、上階に上がる方法が一切ないというのは考えたくない。

 そう思いつつ最初の、何も発見できなかった部屋に戻ると――



「……梯子か。今回はこんな方法で登っていくのか?」

「何だか嫌そうね?」

「手が塞がるからな、梯子は好かん」



 まあ、片手で登ることはできるのだが、それでも戦いづらくなることは事実だ。

 左手で小太刀を抜き放ちつつ、俺は嘆息交じりに梯子へと手をかけた。



「俺が先に登ろう。上を確保したら呼ぶ」

「私が先に行った方が良いんじゃないの? いきなりトラップがあったら対処が難しいでしょ」

「俺でも対処は可能だ。それにお前さん、一応スカートだろ。気にしとけそういうことは」



 ちなみにであるが、同じ内容で揉めている連中を昔見たことがある。

 ロープでの降下中に下にいた隊員が下りてくる途中の女性隊員を見上げていたという話であったが、あの時はスカートどころか完全武装であったため何も見えなかった筈だ。

 まあ、降下直後に周囲の警戒をせずに見上げていた時点で擁護はできないため、誰も助けはしなかったが。

 俺の言葉に対し、アリスは意外そうに目を見開く。俺がそのようなことを気にするとは思わなかったのだろう。

 しばしきょとんとした表情で俺を見つめていたアリスは、僅かに相好を崩して首肯した。



「ふふ、それじゃあお願い」

「あいよ……それと緋真」

「こっちの警戒ですよね、分かってますよ」



 上に登った途端、下からの奇襲が無いとは限らない。下にいる面々についても、決して油断するべきではないのだ。

 とりあえず、一度セイランを従魔結晶に戻しつつ、梯子を駆け上る。

 流石に、梯子を通している穴はセイランの巨体で通り抜けることは不可能だろう。

 それに、上がってすぐに解放すれば、戦力としてセイランの力を借りることができる。


 片手だけを使い梯子を駆け上った俺は、上階の床に足をかけて跳躍、それと共に周囲の状況を確認する。

 部屋の様相は、下の階とそれほど変わらぬ小さな部屋だ。

 目立つ要素と言えば、部屋の壁側に置かれた石像と――



「チッ」



 石像の腹に空いている穴に、思わず舌打ちして刃を振るう。

 その一閃は、瞬時に放たれたクロスボウの一撃を正確に弾き返していた。

 中々に殺意の高い仕掛けだが――



「セイラン!」

「ケェッ!」



 従魔結晶より飛び出したセイランが翼を羽ばたかせて突撃する。

 元々広い部屋ではなく、セイランの素早さならば一瞬でそこまで到達できる。そして振り下ろされた剛腕は、設置された石像を容易く粉砕していた。

 他にトラップが発動する気配はなく、同時に敵が出現する様子もない。とりあえずは落ち着いたようだ。



「先生、大丈夫ですかー?」

「問題ない、上がってきていいぞ」



 階下へと声を掛ければ、緋真とアリスが順に梯子を上り始める。

 ルミナは空を飛びながら、そんな二人の背中を護っていた。

 やがて全員が二階層目に到達し、俺たちは部屋の外へと足を踏み出す。

 まずそこで視界に入ったのは、巨大な鉄格子によって区切られた空間と、その向こう側の壁に沿うように伸びる階段の姿だった。



「鉄格子か……扉は付いていないな」

「上に開きそうな感じですね」

「開けるためのスイッチがある、って感じかしらね」



 呟きつつ、アリスは鉄格子に仕切られたこちら側にある扉へと視線を向ける。

 順当にいけば、そこに鉄格子を上げるための仕掛けがあるのだろうが――ひとつ、試してみるとするか。

 思い立った俺は周囲を警戒しながらも鉄格子の前に立ち、刃を抜き放った。

 大上段に構え、振り下ろすのは全力の一閃。その一撃は――鉄格子に衝突し、弾き返される。

 そこには、僅かな傷すら付いていなかった。



「ぬ……駄目か、この程度なら斬れる筈なんだがな」

「多分、破壊できないように設定されてるオブジェクトですよ、それ」

「って言うか、鉄とか斬れるの?」

「この程度の太さならそう難しい話じゃない……が、傷すらつかないってことは壊せないってことだろう」



 多少なりとも傷がつく様子であれば、術理次第で断ち斬ることは可能だ。

 だが、それが無理ならば仕方がない、普通に攻略することとしよう。

 しかし――



「この鉄格子、上げたら上の階で飛び出てきそうだな」

「あ、それはあるかもしれないですね」

「では、上に登った後にまた下げる必要があるということでしょうか? 何のためにそんな仕掛けが……?」

「恐らく、退路を断つためだろうな。となると、上で何らかの襲撃がある可能性が高いか」



 上の道を通るために鉄格子を降ろせば、この階の鉄格子が塞がれることとなる。

 仮にそこで撤退を選ぶこととなった場合、ここで鉄格子に道を阻まれることになるのだ。

 ゆっくりと開ける暇があるならまだしも、慌ただしい状況では致命的だろう。

 ともあれ、先に進むことには変わりはない。とりあえず、部屋の中を調べることとしよう。











 * * * * *











 部屋に隠されていたスイッチ、およびトラップを躱しながら先へと進む。

 部屋の扉を閉鎖された上での釣り天井は流石に殺意が高かったが、扉を破壊して外に飛び出したことで事なきを得た。

 トラップが発動することだけは分かっていたため、事前に対策を練られたことは幸いだっただろう。



「どうも、前の聖火の塔よりも難易度が上がってる気がするな」

「トラップに遠慮が無いって言うか、殺しに来てますよね」



 鉄格子が上がった先、階段の近くにあったレバーを動かして鉄格子を戻しつつ、嘆息を零す。

 流石にあの釣り天井は洒落になっていなかった。扉が破壊可能であったことはあらかじめ確かめておいたが、下手をすれば死んでいた可能性がある。

 発動させざるを得ないトラップというのは中々面倒なものだ。



「さて、次の階だが……敵が出てくるかもしれんから注意しろよ」

「逃げ場を塞いだ上での戦いって話でしょう? そうなると当然、強い敵が出てくるんでしょうね」

「可能性の段階だが、あり得ない話じゃあないな」

「なら、先生が前に出ておいた方が良いんじゃ? アリスさんは目立たない方が良いですし」

「確かにな。どうする、アリス?」

「お願いしようかしら。私は《隠密》を使っておくわ」



 アリスは正面切っての戦闘ができない訳ではないのだが、その能力の性質上、制限がかかることは事実だ。

 可能であれば最初はアリスに対する注目が集まっていない状況の方が望ましい。

 一応《看破》は行っておいてくれるだろうが、変に前に出ない方が良いだろう。

 アリスは早速《隠密》を使うと、セイランの陰に隠れるように移動した。

 その位置からならば、いつでも不意討ちを行えるということだろう。

 そんなアリスの様子を横目に、階段を警戒しつつも上の階へと移動する。

 この階はこれまでよりも広くスペースが確保されており、動きやすさはこれまでとは段違いだ。

 尤も、それは敵も動きやすいということでもあるのだが。



「……来そうですね、先生」

「ま、来なけりゃ拍子抜けってもんだ」



 隣に近づいてきた緋真の言葉に、俺は小さく笑みを浮かべる。

 さて、果たしてどのように来るものか。敵が来る以上は全て蹴散らすまでであるが、この塔の性質上、普通に攻めてくるということは無いだろう。

 趣向を凝らした襲撃だというのであれば歓迎だ。それを真っ向から叩き潰してやるまでである。

 そう胸中で呟きながら、俺は緋真と共に部屋の中央を通り過ぎ――その刹那、俺たちの背後で突如として鉄格子が床からそそり立った。



「――――っ!?」

「分断、そう来たか!」



 俺と緋真、そしてアリスとテイムモンスターたち。

 俺たちは鉄格子を挟んで二手に分断されることとなった。

 この鉄格子は退路を塞ぐためのものだと思っていたが、こちらが使い道だったか!

 舌打ちしつつも刃を抜き放ち、再び前方へと視線を向ける。

 周囲から現れたのは、広場を埋め尽くさんとするほどの大量の悪魔だ。

 レッサーデーモンだけではなく、デーモンキメラやイビルフレイム・ゴーストの姿まで存在している。

 ――成程、これは確かに厄介だ。



「緋真、フォローはいるか?」

「いいえ、何とかしてみせますよ」



 ちらりと後方を確認すれば、ルミナたちの方にも悪魔共は出現している。

 だが、こちらよりも数は少ない。あちらは敵を突破して階下に戻り、鉄格子を解放してこちらの援護に戻ってくる――大方、そんな目論見の仕掛けなのだろう。

 それも悪くはないが……ああ、折角の不利な状況なのだ、楽しませて貰わねばなるまい。



「ルミナ、こっちは気にするな、そちらは任せたぞ」

「っ……はい、お父様!」



 こちらに駆け付けたいのだろうが、まずはそちらの敵を片付けて貰わねばな。

 さて――覇獅子の消化試合かと思っていたが、それなりに楽しめそうだ。

 故に俺は、眼前の悪魔共へと笑みを浮かべて告げる。



「さあ来い――悉く斬り捨ててやろう」





















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