157:獅子の平原
『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《HP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』
北へと向かう間、ベルゲンを避けようとすると、どうしても街道を逸れる必要がある。
そのため、俺たちはちょくちょく敵と出会いながら北上を続けることとなった。
まあ、それは構わない。ヴェルンリードとの戦いに向けて、少しでも強化しておきたいことは事実だからだ。
その途中にふと思いついたのは、《強化魔法》を鍛えることだ。
普段から、魔法については時々思いついた時に使うようにしているが、あまり積極的に活用しているわけではない。
だが、これもコンスタントに攻撃力を高められる手段である。
レベル30になれば新たな魔法も覚えるだろうし、恐らくはスキルの進化もあるだろう。
ヴェルンリードの対策として、少しでも攻撃力を高めておきたい。これも一つの手として鍛えておくべきだ。
さて、横目にベルゲンの外壁が通り過ぎるのを確認し、俺たちは騎獣を下りる。
ここから先は徒歩で向かう。ここから先は敵の出現パターンが変わると聞いているのだ。
恐らく、ここから先でライオンが出現するようになるのだろう。
「この前は上空から見ただけでしたね、この辺」
「魔物の様子を見るどころではありませんでしたからね」
緋真とルミナがしみじみと呟いた言葉に、俺は首肯のみを返しつつ同意する。
以前にこの辺りに来た時は、悪魔の襲撃に対する対処以外に観察する余裕はなかった。
当然、この周辺の魔物の様子など、確かめる手段はなかったわけだ。
今ならば周囲の状況もゆっくりと観察することができるだろう。
尤も、見ると言っても、それほど景色の差があるわけではないのだが。
「今までの所とそれほど変わるわけじゃないんですね。出現パターンが変わるなら、何かしら目印が欲しいんですけど」
「甘えすぎだ、阿呆。相手や環境に期待なんぞするもんじゃない」
「……何か実感篭ってますね、先生」
半眼を向けてくる緋真の言葉には答えず、軽く肩を竦める。
環境というものは、時に予想だにしない方法で牙を剥いてくる。
決してこちらに合わせてくれることなどあり得ない。期待するだけ無駄というものだ。
「さて、このまま北東に向かいつつ敵を倒していくが……アリス、準備は良いか?」
「ええ、問題無いけれど……この辺りはちょっとやり辛そうね」
「ま、やり方は任せるさ。無理に敵を仕留めろというつもりは無い」
この国は全体的に、だだっ広い平原が広がっている土地が多い。
敵の視界から外れて敵を仕留めるアリスにとっては、少々やり辛い場所であろう。
まあ、虚拍を使える彼女ならば、どこでも暗殺を行うことは可能なのだが。
「じゃあ進むぞ。周囲の気配には注意しろよ」
「はい、お父様」
素直に頷くのはルミナだけであるらしい。
どうやら、残りの二人は注意していても先に気が付くのは俺だと考えているようだ。
まあ、事実であるのだが――とりあえず、気を抜いている訳ではないようであるため、深くは突っ込まずにおくとしよう。
ベルゲンを背中に向けるようにしながら、北東へ。
今は不気味な静けさを保っているあの街の内部は、果たしてどうなっているのやら。
以前訪れた時に破られていた北側の門は、今は大量の瓦礫によって強引に埋め尽くされている。
恐らく、ヴェルンリードが破壊した家屋の瓦礫だろう。あれを撤去して中に入ることは困難だ。
(アルトリウスの奴、潜入を考えている節があったが……どうするつもりだ?)
現在、あの都市に正面から入ることは不可能だ。
力技で攻め落とそうとしたところで、あの規模の要塞を攻めることは困難。
プレイヤーとベーディンジアの連合軍で何とか勝ち目があるか、といった所であるが――生憎と、ベルゲン程度にそこまで消耗するわけにはいかない。
最も重要なのは、北部の奪還と悪魔の駆逐なのだから。
「……こちらはこちらのやるべきことを、か」
とりあえず、どのような方法で奪還するにしても、今の状況では力不足だ。
そのためにも――
「来たぞ、構えろ」
――今は、修行に努めなくては。
接近する強い敵意に、俺は餓狼丸を抜き放つ。
来ることは予想していたのか、緋真たちもそれに倣って武器を構え、遠くから近づいてくる影を見据える。
「来ましたね……やっぱり、ライオンですか」
「群れでいるという話だからな。それなりの数がいるだろうよ」
従魔の巫女が告げていたその名前は、確かグルーラントレーヴェ。
こちらへと駆けてくる10頭ほどのライオンたちは、どうやら全てその魔物であるようだ。
■グルーラントレーヴェ
種別:動物・魔物
レベル:35
状態:アクティブ
属性:なし
戦闘位置:地上
『《識別》のスキルレベルが上昇しました』
レベルはそれなり程度であるが、確かに数が多い。
群れで行動しているという情報の通り、奴らは団体で行動し、狩りを行う習性のようだ。
ちなみに、今の所見えているライオン共は全て雌である。
少なくとも、今回現れた10頭の中には目的であるカイザーレーヴェの姿は無かった。
「【スチールエッジ】、【スチールスキン】」
まあ、いないのであれば仕方ない。向かってきた敵を狩るだけだ。
俺はライオン共の動きを観察しつつ前に出る。
背中に張り付くようにアリスが移動しているのを感じ取りながら、俺は正面から向かい合うように走り出した。
流石に、サバンナにいるような群れで狩りを行う肉食獣との交戦経験はない。
まずは、こいつらの動きの特性を把握するべきだ。
歩法――陽炎。
ライオン共は時間差を付けながら、囲むように突出した俺へと向かってきている。
それを幻惑するために緩急をつけて走りながら、その間を潜り抜け――
歩法――縮地。
――スライドするように、正面のライオンへと一気に肉薄した。
「『生奪』」
「ガアッ!」
横薙ぎに放った一閃に、グルーラントレーヴェは素早く反応してステップを踏もうとする。
だが、縮地によって距離を詰めたことにより、反応が遅れている。
その状況で逃す筈もなく、俺の一閃は相手の首を半ばまで断ち斬っていた。
その傷で絶命したことを確認し、俺はその場で半身になって身を躱す。
直後、俺を押し倒して牙を突き立てようと背後から飛び掛かっていたライオンは目標を見失って着地し――
「――そこね」
――俺の陰からするりと姿を現したアリスの《ペネトレイト》により、その首を貫かれていた。
大型のナイフを突き刺したアリスは、そのまま体重をかけてライオンの首を抉るように斬り裂く。
大量の血で地面を汚したライオンはそのまま崩れ落ち、噴き出した血からひらりと身を躱したアリスは再び俺の傍に控えながら声を上げた。
「単体のHPはそれほど大したことはなさそうね。ただ、中々に連携してくるみたい」
「確かに。この数で一人を集中的に狙われたら、緋真でも少し厳しいかもしれんな……しかし、上手いこと人を使うもんだな」
「やり方は任せるんでしょう?」
フードの下で薄く笑いながら、アリスはナイフを逆手に持ちつつ俺の後ろへと移動する。
障害物の無い平原。どのように身を隠すのかと思えば、動いている俺を隠れ場所として利用するつもりのようだ。
尤も、そう容易い話ではない。俺は歩法を使って遠慮なく移動していたのだが、アリスはこれにも見事に対応して見せたのだ。
恐らくは、俺の呼吸を読み取り、それに合わせて自らも加速していたのだろう。
多少遅れてはいたものの、きちんとライオン共の意表を突くことに成功していた。
「……成程、ただ本能的に襲い掛かってくる魔物どもよりは面白い相手だ」
俺たちは五人、ライオンたちは、それぞれに二頭ずつ割り当てる形で分散している。
つまり、俺とアリスの元には残りの二頭がまだ睨みを利かせているのだ。
二頭のライオンは俺たちを囲むように、グルグルと回りながらタイミングを計っている。
こちらが隙を見せた瞬間、或いは片方に攻撃しようとした瞬間に攻撃してくるつもりだろうが――
「――クオン」
「感謝する」
アリスは、俺の名を呼びながら投擲用のナイフを片方のライオンへと向けて投げつける。
グルーラントレーヴェは即座に反応して身を躱したが、その時点で俺はもう一方へと向けて突撃を敢行した。
歩法――烈震。
使用するのは速度に長けた歩法。
その一瞬で俺はグルーラントレーヴェへと接近するが、相手もすぐさま反応して俺から距離を取ろうとする。
だが、既に遅い。弾けるように進む角度を変えた俺は、全体重が乗った刺突を相手へと向けて放つ。
「《蒐魂剣》、【奪魂斬】」
斬法――剛の型、穿牙。
ついでに消費したMPを回復するため、【奪魂斬】を使用してグルーラントレーヴェの胴を貫く。
相手のMPを直接吸収する一撃は、確実に肉食獣の臓腑を抉り、その命ごと余すことなく喰らい尽くす。
仲間を殺されたことで、一層恨みを強めた最後の一頭は唸り声をあげ――その意識の逸れを利用したアリスに肉薄される。
「はい、残念」
鎧すら貫通する《ペネトレイト》の一撃は、頭蓋骨すら容易く貫き、その内側にある脳へ到達する。
避けようのない急所を穿たれ、即死部位へと攻撃を受けたグルーラントレーヴェは、そのまま耐えられるはずもなく絶命した。
俺は血振りをしつつ周囲を確認し、他の仲間たちが問題なく戦っていることを確認する。
緋真は安定した立ち回りで既に二頭目を片付けかけているし、ルミナとセイランも共に一頭は仕留めていた。
初見の相手ではあったが、とりあえず何とかなったようだ。
程なくして戦闘が終了し、警戒は絶やさぬまま安堵の吐息を零す。
『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《インファイト》のスキルレベルが上昇しました』
追加の襲撃が無いことを確認し、刃を拭って鞘に納める。
とりあえず倒すことは出来たが、案の定目的のアイテムである『覇獅子の剣牙』は手に入らなかった。
従魔の巫女は群れのボスであると言っていたし、当然と言えば当然なのだが。
「ふむ……少々厄介だが、戦いやすい相手ではあるか」
「一回押し倒されたらその時点で詰みそうですけどね。そこそこ連携してきましたし」
「……申し訳ありません、お父様。一撃喰らってしまいました」
「それで死ななかったのならば問題はない。お前は回復できるわけだしな。今の戦いを考察して、対策を立てておけ」
申し訳なさそうに頭を下げるルミナには苦笑しつつ、さらに北へと向けて歩き始める。
この辺りにはまだ群れのボスの姿は見えない。
更に奥へ進まなければ、目的の相手には出会えないだろう。
果たしてどのような魔物であるのか――それを想像しながら、俺は口元に笑みを浮かべるのだった。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:38
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:29
VIT:22
INT:29
MND:22
AGI:16
DEX:16
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.9》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.25》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.25》
《MP自動回復:Lv.24》
《奪命剣:Lv.2》
《識別:Lv.22》
《練命剣:Lv.2》
《蒐魂剣:Lv.1》
《テイム:Lv.23》
《HP自動回復:Lv.23》
《生命力操作:Lv.26》
《魔力操作:Lv.25》
《魔技共演:Lv.11》
《インファイト:Lv.10》
サブスキル:《採掘:Lv.10》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:20
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:37
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:30
VIT:20
INT:25
MND:20
AGI:19
DEX:18
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.8》
マジックスキル:《火炎魔法:Lv.3》
セットスキル:《闘気:Lv.24》
《スペルチャージ:Lv.25》
《火属性強化:Lv.25》
《回復適正:Lv.21》
《識別:Lv.21》
《死点撃ち:Lv.23》
《格闘:Lv.21》
《戦闘技能:Lv.23》
《走破:Lv.23》
《術理装填:Lv.18》
《MP自動回復:Lv.15》
《高速詠唱:Lv.12》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.10》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:36
■アバター名:アリシェラ
■性別:女
■種族:魔人族
■レベル:33
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:22
VIT:18
INT:22
MND:18
AGI:27
DEX:27
■スキル
ウェポンスキル:《暗剣術:Lv.4》
マジックスキル:《闇魔法:Lv.27》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.24》
《隠密:Lv.25》
《毒耐性:Lv.17》
《バックスタブ:Lv.23》
《回復適正:Lv.24》
《闇属性強化:Lv.25》
《ペネトレイト:Lv.25》
《看破:Lv.21》
《ポイズンエッジ:Lv.18》
《無音発動:Lv.12》
《軽業:Lv.24》
《投擲:Lv.7》
サブスキル:《採取:Lv.18》
《調薬:Lv.22》
《偽装:Lv.25》
称号スキル:なし
■現在SP:33





