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Magica Technica ~剣鬼羅刹のVRMMO戦刀録~  作者: Allen
RC ~Running Cavalry~

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154:次なる目標












 戦馬の尾、飢餓獣の爪と牙、鷲獅子の嘴――メモに記載された素材の名前を見つめながら、俺は思案に耽る。

 これらは、餓狼丸の次なる強化に必要となる素材の名前だ。

 ヴェルンリードと戦うにあたり、最も問題となるのは攻撃力不足だ。

 奴の魔法障壁を斬り裂いたとして、その下にある奴の体にダメージを与えられなければ意味がない。

 そのための方策の一つが三魔剣の習得だった訳だが――流石に、これだけではまだ足りない。

 やはり、コンスタントに攻撃力を上げるには、武器そのものの攻撃力を向上させるべきだろう。

 そう判断してフィノから情報を得たのだが――



「……『覇獅子の剣牙』、か」



 他の素材については見覚えのある名前だ。

 鷲獅子――つまりグリフォンの素材については、マイナーグリフォンのものではないため手に入りやすい訳ではないが、ボスのグリフォンから手に入っているため問題はない。

 唯一持っていない――いや、その名前すら見たことがないのは、この覇獅子の剣牙という素材アイテムだった。

 名前から見てライオンの牙のようであるが、この周囲でそのような魔物と遭遇したことはない。

 フィノやエレノアも、この素材については見たことがないらしい。

 せめて、これが手に入る魔物の名前だけでも情報が欲しい所だが――



「先生、アルトリウスさんの所に行くんですよね?」

「ああ、分かってる。今から向かうさ」



 緋真の声に軽く嘆息を零しながら応じ、街の中心へと歩を進める。

 メールで確認したところ、アルトリウスは今、城の中にいるらしい。

 どうやら、前線拠点となる砦の状況について説明を行っているようだ。

 わざわざ城まで行くのも面倒であるし、簡単な話ならメールかチャットでもいいかと思ったのだが、この覇獅子とやらの情報は欲しい。

 ついでということで、アルトリウスに会うことを口実に城へと向かっているのだ。


 アルトリウスの方も既に報告は終わっているらしく、これから戻る所だったのだが、俺の要請で残って貰っている状態である。

 俺から聞きたいことがあるという旨は既に先方に伝えているらしいが、果たして情報を得られるかどうか。

 ……まあ、できずともアリスと『キャメロット』側との顔合わせにはなる。

 完全に無駄足ということは無いだろう。



「アルトリウス、ね……」

「会うのは初めてだろうが、楽しみか?」



 隣を歩きながらしみじみと呟いたアリスに、俺は軽く揶揄するように問いかける。

 あの男に女性人気があるのは紛れもない事実だ。ファンだというプレイヤーも数多く見かけるし、彼女がそうであったとしても驚きはしない。

 だが、対するアリスはその言葉に失笑気味の笑いを零した。



「別に、アイドルに入れ込むような性格はしていないわよ。一応、姿を見かけたことはあるしね」

「あまり興味はないか」

「いちプレイヤーとしての興味はあるわよ。けど、別に彼の周りに集まっている人たちほど熱を上げるような人間じゃないってだけ」



 イメージ通りと言えばその通りの回答に、苦笑しつつも頷く。

 確かに、アリスは『キャメロット』の連中のように熱中するタイプではないか。

 むしろ、俺と同じように、闘争の中にこそ楽しみを見出すタイプだろう。

 であれば、アリスにとってはあまり楽しい相手であるとは言えんか。



「まあ、直接話をすればどういう男かは分かるだろう。中々面白い奴だぞ」

「面白いどころか無茶苦茶ですけどね、あの人」



 しみじみと呟く緋真の言葉を聞き流しつつ、城の中へと足を踏み入れる。

 一応、門が開かれている時間帯であれば、限られたエリアまでは入場可能となっている。

 建物の奥や二階に通じる扉には騎士たちが立っており、それ以上先には進めないようになっているのだ。

 その一角、ロビーのような空間の隅で、二人の人物が立ち話をしているのが目に入る。

 遠巻きに何人かが護衛を行っているようではあるが、その場は和やかな雰囲気だ。

 そのメンバーは他でもない、アルトリウスと従魔の巫女である。



「どこにいても目立つ奴だな……アルトリウス!」

「ああ、クオンさん! お待ちしていました」



 こちらから近づくと護衛の連中が反応しそうであったし、面倒を避けるために遠くから声を掛ける。

 俺たちの姿に気が付いたアルトリウスは、いつも通りの爽やかな笑みで、巫女を伴いこちらへと歩を進めた。

 周囲の護衛たちは反応していない。一応、俺たちのことも覚えていたか。

 アリスのことは見覚えが無いはずだが、子供だからと警戒が薄いのだろうか。

 であれば流石に怠慢であると言わざるを得ないが――それだけアルトリウスが信頼を得てきているのだと考えておこう。



「スキルの強化は上手く行ったようですね」

「ああ。だが、奴を倒すにはまだ足りない。状況はどうなってる?」

「説明しましょう。まずは、聖火の塔の状況から」



 言いつつ、アルトリウスは手招きする。

 邪魔にならないように隅の方へと移動しながら、俺は彼の言葉の続きを待った。



「まず、ベルゲン以南の聖火の塔については、複数のクランが攻略を開始しています。特に緊急の報告は来ていませんし、こちらについてはあまり問題はないでしょう」

「問題は、以北の聖火の塔か……ベルゲンの攻略前に、こちらも何とかするつもりなのか?」

「ええ、会議ではああ言いましたが、ベルゲンの攻略は大仕事ですからね。可能な限り悪魔を弱体化させたいです。とはいえ、こちらについては手付かずです。場所は分かっているのですが、そこまでの遠征が難しいようですね。北は現在、悪魔の勢力圏。近づくほど魔物や悪魔は強くなるようですから」



 俺からすれば都合のいい話であるが、アルトリウスにとっては悩ましい問題だろう。

 ベルゲンの攻略、ひいてはこの国から悪魔を駆逐するにあたり、聖火の塔の奪還は必須だ。

 俺自身、ヴェルンリードとの戦いには聖火の塔の効果が必要であると判断している。

 聖火の塔の攻略は、俺たちにとって重要な課題なのだ。



「……まあ、場合によっちゃ俺たちが攻略を担当してもいい。一つクリアしているから、あまり出しゃばるのも良くないとは思うが」

「助かります。その時はまたご連絡しますので」



 個人的には、トラップだらけで敵はあまり多くはなく、楽しい戦場というわけではないのだが――仕方あるまい。

 それに、今回はトラップ等を見抜けるアリスがいることであるし、多少は楽ができるだろう。



「砦の状況はどうだ?」

「8割方は完成しています。ですが、これは最低限に絞った話ですね」

「最低限? どういうことだ?」

「とりあえず、砦としての最低限の機能を持たせるように建造しています。これが完了し次第、増改築を繰り返して機能を増やす予定です」



 今の砦は、とりあえず拠点と防衛に使えればいいと考えて建造しているらしい。

 まあ、俺たちの場合は住環境などはあまり気にする必要は無いが……今後現地人が使うことを考えると、改装は必要になるだろう。

 防衛にも、色々と兵器の追加は必要だろうからな。その辺りは、商会のメンバーが自分たちで好きなようにやることだろう。



「現状、建築中の砦にも定期的に悪魔の襲撃があります。今はプレイヤーも数多く訪れているため、撃退にはそれほど苦労はしていませんが……」

「何か問題があるのか?」

「どうにも、悪魔たちの動きに統制が取れていないように思えます。伯爵級悪魔は姿を現していませんし……」

「……ヴェルンリードは、あまり統制を取るタイプではないだろうからな。奴はまだベルゲンから移動していないのか?」



 あの女、仲間である筈の悪魔たちごと俺たちを吹き飛ばそうとしたからな。

 どうにも、あの女には同じ悪魔に対する仲間意識が薄いように思える。

 確か、真なる悪魔の位がどうとか言っていたか。それに達していない悪魔は悪魔ではないとでも言うつもりなのだろうか。

 何にせよ、奴がいる限りベルゲンの攻略は難しい。

 まだ、奴を倒す手段は確立されていないのだ。



「街に潜入しているメンバーから、デーモンナイトの会話を盗み聞き、ヴェルンリードが既にベルゲンから離れているという話を確認しています。砦への攻撃に参加する様子もないですし、北に戻ったようですね」

「そいつは好都合ではあるが……ここに来て消極的だな。何を考えてやがる?」

「さて、流石にそこまでは……しかし、時間を得られるのは確かに好都合です。今のうちに、可能な限りの準備を進めておくべきでしょう」



 奴がいないのであれば、ベルゲンの攻略も多少は目途がつく。

 尤も、雑に攻略しようとしたところで何とかなるものではないが。

 とりあえず、そちらは聖火の塔を何とかしてからの攻略となるだろう。



「とりあえず、ベルゲンの攻略については作戦を立案しておきます。ところで、そちらの彼女は――新たに仲間になったという方ですか」

「相変わらず、情報を仕入れるのが早いな。彼女はアリシェラだ」

「よろしく、《聖剣騎士》様?」

「あはは、よろしくお願いします、お嬢さん。クオンさんが仲間に選んだということは、かなりの実力者ということでしょう。頼りにさせて貰いますね」

「え……ええ、こちらこそ」



 見た目のギャップを一切スルーしての対応であったからか、アリスは困惑した様子で頷いている。

 その様子に苦笑しつつ、俺は改めてアルトリウスへと声を掛けた。



「アリスは潜入や暗殺を得意としている。彼女のことを含めて、作戦を立てられるか?」

「それは……渡りに船ですね。立案しておきますよ――と、済みません、巫女様。長話をしてしまいまして」

「いえ、とても興味深いお話でしたので。ところでクオン様、私に聞きたいことがあるとのことでしたが?」

「ああ、巫女殿。久方ぶりだ。知っていたらでいいのだが……覇獅子という魔物はご存知ではないだろうか?」



 俺の問いかけに対し、巫女は目を見開いて俺の顔を見上げる。

 隠しきれぬ驚愕の様相に、俺は胸中で快哉を上げていた。

 やはり、この国の魔物に詳しい彼女ならば、その正体を知っているようだ。



「覇獅子……カイザーレーヴェ。クオン様、どこでその名を?」

「この武器を強化する為に、その魔物の牙が必要であると言われたのでね。伯爵級悪魔を倒すために、武器の強化は必要不可欠だ」



 餓狼丸を強化すれば、純粋に攻撃力が上昇するだけではなく、《餓狼の怨嗟》による吸収限界、および攻撃力上昇の最大値も増加する。

 吸収というタイムラグこそあるが、最大まで吸収した餓狼丸ならば、ヴェルンリードに通用する可能性は十分にあるだろう。

 俺の問いに対し、餓狼丸をじっと見つめた巫女は、しばし黙考した後に声を上げた。



「カイザーレーヴェは、この国の北東部にある平原を縄張りとしているグルーラントレーヴェという魔物の長です。カイザー――覇獅子の名を冠しているのは群れのボスのみであり、探されているのは恐らくこの魔物でしょう」

「群れのボスのみか……」



 悪魔の勢力圏である北部、しかも群れで生息している魔物のボス。

 正直な所、かなり厄介な相手であると言わざるを得ない。

 だが、必要な素材なのだ。何とかやらなければならないだろう。



「……どうする、アルトリウス。どうにも北に行く用事ができちまったようだが」

「タイミングが難しいですね。ですが、ベルゲンの奪還を確実なものにするために、聖火の塔の確保は優先する必要があります。少なくとも、ベルゲン以北の内、二つは確保しなくはなりませんから」

「となると……北に向かうのが先か」

「ええ、塔の攻略をお願いするかどうかは、またメールでご連絡します」



 何とも悩ましいことではあるが、これで次の動きの方針は決まった。

 まずは北東――グルーラントレーヴェとやらを探しに行くとしようか。





















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