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146:森の中の襲撃

書籍化記念連続更新ここまで。












 かつて敵を求めて歩んだ森へと足を進めながら、フィノから受け取った装備を確認する。

 と言っても、餓狼丸以外はただの修理だったのだが。

 現在のところ、『エレノア商会』はベーディンジア王国で急速に地盤固めを進めている状況にある。

 新たな国へと足を踏み入れたことで、これまで手に入らなかった素材も数多く手に入るようになったのだ。

 特に酪農が盛んなベーディンジアでは羊毛系の素材がよく手に入っているらしく、伊織は現在新たな装備の開発中だそうだ。

 ともあれ、新しい装備は成長した餓狼丸のみ。

 その性能は、以前と同じように確かな成長を遂げているようだ。


■《武器:刀》餓狼丸 ★3

 攻撃力:38

 重量:18

 耐久度:-

 付与効果:成長 限定解放

 製作者:-


 その攻撃力は野太刀に準ずるレベルに達している。

 やはりこの武器は素晴らしい。この強化だけでヴェルンリードに届くということは無いだろうが、以前よりも攻撃が通じるようになるのは確かだ。

 この刀自体が扱いやすいのもあるし、さらに強化していきたいところだ。

 更に、限定解放の強化は――


■限定解放

⇒Lv.1:餓狼の怨嗟(消費経験値10%)

 自身を中心に半径32メートル以内に黒いオーラを発生させる。

 オーラに触れている敵味方全てに毎秒0.3%のダメージを与え、

 与えた量に応じて武器の攻撃力を上昇させる。


 効果範囲が延びているのに加えて、吸収効率も高まっている。

 効果の伸び方はよく分からないが、強くなっていることは間違いない。

 吸収限界量も増えていることだろうし、どこまで威力が高まるのか楽しみだ。



「それで……アリシアちゃん、森では何をするつもりなんですか?」

「はい、薬草の採取です。わたし、《調薬》をやってるので」

「へぇ、自分で素材を集めているんですか」



 背後では、緋真がアリシアとの会話を続けている。

 どうやら、こいつはこの森に薬の素材を集めに来たらしい。

 生産系のスキルを持っている者は『エレノア商会』でよく見かけるが、《調薬》をやっている相手とは直接の会話は無かったな。

 まあ、ちょくちょく顔を見かけたことぐらいはあるのだが。

 一応、たまにではあるがポーションの世話にはなっていることであるし、挨拶ぐらいはしておいた方が良いだろうか。

 己の行動についてそう胸中で呟き――俺は、樹上から落下してきた蛇を一閃で斬り裂いた。



「ふむ……流石に、今のレベルになっちまうとなぁ」



 以前は手応えのあった敵も、既に物足りない相手となってしまっている。

 もうちょっと奥地に行けばリザードマンの群れとも戦えるだろうが、奴らでも苦戦はしないだろう。

 無論、俺たちがそれだけ成長してきているということでもあるのだが――それでも、物足りなさは否定できない。

 全く、オークスは本当に何故こんな所に住んでいるのやら。

 小さく嘆息し――視線を細める。



「……ほう?」



 感じ取った気配に腕を掲げ――飛来した矢を掴み取る。

 更に、飛来した水の槍を《斬魔の剣》で斬り裂きつつ、左手に持った矢を元来た方向へと投げ返す。

 木々の間、その奥――投げ返された矢を躱したその姿は、間違いなく人間のものだった。



「PKか。まさか、こんな場所にもいるとはな」

「お父様、私が!」

「行くか? ならやってみるといい。そこら中に隠れているぞ?」



 俺の言葉に、ルミナは僅かに驚きつつも、笑みを浮かべて首肯する。

 さて、見えない敵と戦うのは中々に難しい。しかも、相手は人間だ。魔物のように単調な攻め方をする相手ばかりではない。

 レベルは格下であろうが、油断は命取りだ。

 俺の忠告はきちんと理解できたらしく、周囲に気を配りながらもルミナは木々の間へと飛び込んでゆく。



「セイラン、お前は待機していろ。緋真、行くぞ」

「はい、正面はお任せしますよ」



 俺の言葉に頷き、緋真は右手側へと飛び込んでゆく。

 既に相手の気配は掴んでいるのだろう、その動きに迷いはない。

 しかも、わざわざ魔法使いの相手を譲ってくれる辺りがありがたいものだ。

 飛来する水の刃を遠慮なく《斬魔の剣》で斬り裂きながら、木々の間へと進んでゆく。

 だが、向かう先はそれよりも――



「そこだ」

「――――ッ!?」



 打法――天陰。


 樹上から奇襲しようとしてきた相手の一撃を回避し、眼窩へと親指を突き入れながら相手を地面へと叩き落とす。

 木の根に後頭部を叩き付けてやれば、それだけで相手のHPは砕け散っていた。

 魔法使いを囮として、誘き寄せた相手を上から奇襲する戦法だろう。

 まあ、単純ではあるが、焦った人間相手には通じやすい作戦だと言える。

 この視界の悪い森の中、出どころの見えづらい飛び道具で狙われ続けるのは中々負担となるものだ。

 尤も、今はその飛び道具が来てほしいところであるため、その魔法使いはあえて放置するわけであるが。



「2パーティ、か。もう少し多くてもいいんだがな」



 呟きつつ、再び飛んできた水の槍を斬り裂き――返す一閃ですぐ傍の草むらを薙ぎ払う。

 細い草が舞い散り、その中から姿を現したのは、短剣を装備した迷彩柄の革鎧の男だ。

 初めからこちらに気づかれていることを覚悟していたのか、その動きに迷いはない。

 尤も――迷いが無かったからと言って対応が遅れるわけではないのだが。


 斬法――柔の型、流水。


 体ごと飛び込んできた刺突を受け流し、返す刃で首を裂く。

 レベル差があるのだろう、短剣の男はただそれだけでHPを全損して息絶える。

 残りは、ひたすらこちらへと魔法を放ってきている魔法使いの少女だけだ。



「《剣鬼羅刹》……何で、こんな所に……ッ!」

「攻撃してきたのはお前たちだろうに。俺がどこにいようと俺の勝手だろう」



 襲ってきたのは自分たちだろうに。俺と戦うのが嫌ならば攻撃などしなければよかったのだ。

 何はともあれ、既に戦いは始まっているのだ。今更そんなつもりは無かったと言われても、見逃すつもりは無い。

 顔を顰めた女は、すぐさま詠唱していた魔法を発動させる。

 足元から、こちらを飲み込もうと立ち上る水の柱――それが完成する前に、《斬魔の剣》で斬り裂く。

 これは水の起点系の魔法だろう。巻き込まれれば厄介だが、発動しきらなければそれまでだ。



「ッ……私に構っていていいのかしら!? 私たちの仲間は他にも――」

「構わんぞ、もう終わっている」

「え――」



 周囲の気配はすでにない。潜んでいたPK達は、既に全滅している。

 残っている気配はただこいつだけだ。

 無駄に長引かせる必要もないと、軽く嘆息しつつ刃を振るう。

 その一閃によって、PKの女は驚愕に目を見開いたまま、首を転がして絶命した。



『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』



 PK共は大して強くはなかったし、この程度か。

 しかし、俺も有名になったと思っていたのだが、果たしてこいつらは俺を楽に倒せると思っていたのだろうか?

 何かと勘違いしていたのか……まあいい、大した修行にはならなかったが、一応は《斬魔の剣》の経験値貯めにはなっただろう。



「先生、終わりました?」

「お父様、二人ほど仕留めました!」



 戻ってきた緋真やルミナは、特にダメージを受けた様子はない。

 緋真はともかく、ルミナは奇襲を受けたら喰らってしまうかと思ったが、どうやら思っていたよりも成長していたようだ。

 そのことには満足しつつ、視線を周囲へと走らせる。

 セイランの背後――そこに隠れていた少女へと。



「さて……」

「お、終わりましたか……? ごめんなさい、助けてくれて――」

「……もういいんじゃないのか、お前さん」



 おずおずと顔を出したアリシア。彼女へ向け、俺はそう問いかける。

 その言葉と共にじっと彼女の紅い瞳を見つめれば、安堵した様子であった幼い少女は――深い嘆息と共に、大きい瞳を細めて声を上げた。



「……いったい、いつから気付いていたのかしら?」

「最初からだ。ただの子供が、俺の認識の外から声を掛けてこられる訳がないだろう」

「気づいていて付き合ってくれたの? 噂通り、変わってるわね」



 子供特有の高い声は抑えられ、知性的な低いトーンへと変化する。

 この少女が最初に声を掛けてきた時、俺はその直前まで、彼女の接近に気づけなかった。

 声を掛けようとしたその瞬間には、相手の意識がこちらを向いていたため気付くことができたが、それまでは完全に気配を捉え切れていなかったのだ。

 ただの子供ができるような芸当ではない。加えて――



「お前さん、見た目はそんなナリだが、骨格や体の造りは大人のそれだ。動きに違和感がない辺り、現実世界でもそれと変わらん姿なんだろう?」

「……否定はしないけど、詮索するものではないわよ。というか、一目見ただけでそこまで看破されるのは怖いわね」



 乾いた笑いと共に、彼女は首を横に振る。

 その動作は、子供らしい見た目とは完全に相反したものであり、中々に違和感の強いものだ。

 しかし、それが随分と様になっている辺り、彼女の中身は確かに大人であるようだ。

 恐らくは二十代、その肉体では難儀していることだろう。

 と――俺たちの会話に茫然と目を見開いていた緋真は、我に返って刀へと手をかける。

 その瞳の中には、強い警戒が浮かべられていた。



「貴方、PKの仲間? 私たちをここまで誘き寄せたの?」

「そう思われても仕方がないけれど……むしろ、それは逆。今《偽装》を解除するわ。PKとは表示されていないから、《識別》してみて」



 緋真の言葉にそう返答し、彼女は何やらスキルを使用する。

 その瞬間――彼女の肌は、僅かに浅黒い色へと変化していた。

 いきなりの変化に驚きつつも、俺はその姿を注視する。


■アリシェラ

 種別:魔人族ダークス

 レベル:32

 状態:通常

 属性:闇

 戦闘位置:地上


 そこに表示されていたデータは、先に見た時とは完全に異なるものへと変化していた。

 どうやら、見た目やステータスを偽るスキルであったようだ。



「改めて……私はアリシェラ。PKKをやっているわ。森に向かうパーティを密かに護衛するのが最近のスタイルね」

「護衛って……私たちに護られていただけじゃ――」

「緋真、こいつはPKを四人片付けていたぞ」

「えっ、ホントですか!?」

「……完全に視界の外だったはずなのだけど」



 PKK……PKがプレイヤーキラーであるということは、プレイヤーキラー・キラーということだろうか。

 まあ、潜んでいたPK共を仕留めて回っていたわけだし、ニュアンスとしては間違っていない筈だ。

 アリシェラは俺や緋真が離れた直後、セイランに気づかれぬようにあの場から離れ、森に潜んでいたPKたちを立て続けに始末して回っていた。

 直接その姿を目撃できたわけではないが、鮮やかな手並みであったことは否定できない。

 ――彼女が俺の予想した通りの存在であるならば、それも納得というものだが。



「……1パーティぐらいだったら、私一人でも片付けられたのだけど。流石に2パーティもいるとは思っていなかったのよ。結果的に、貴方たちにPKをけしかけるような形になってしまったことは、謝罪するわ。本当にごめんなさい」



 そういって、アリシェラは深々と頭を下げる。

 どうやら、本当に本気で反省しているようだ。

 俺としては、別に迷惑どころか幾らでも襲撃してきて構わんのだが――ひとつ、気になることもある。



「だが、行為としては少々悪質だな?」

「……否定はできないわ。言葉で足りないというのならば、何でも言って頂戴。私に出来ることならば対応するから」

「ふむ、成程。であれば――」



 呟き、抜いたままだった餓狼丸を肩に担ぐ。

 そのまま半身となって構えながら、俺は笑みと共に彼女へと向けて告げた。



「一手、遊んで貰うとしようか」



 ――彼女へと、決闘の申請を送りつけながら。





















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:37

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:28

VIT:22

INT:28

MND:22

AGI:16

DEX:16

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.8》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.23》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.25》

 《MP自動回復:Lv.24》

 《収奪の剣:Lv.30》MAX

 《識別:Lv.21》

 《生命の剣:Lv.30》MAX

 《斬魔の剣:Lv.29》

 《テイム:Lv.22》

 《HP自動回復:Lv.21》

 《生命力操作:Lv.26》

 《魔力操作:Lv.24》

 《魔技共演:Lv.10》

 《インファイト:Lv.8》

サブスキル:《採掘:Lv.10》

称号スキル:《剣鬼羅刹》

■現在SP:39

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