142:第二の国での方針
国王、アルヴァート・カルロ・ベーディンジア。
騎士団長、キンバリー・ブルームス。
宰相、ローレン・マクダーソン。
第一王子、クヴァト・ディス・ベーディンジア。
そして、従魔の巫女。
この五名が、ベーディンジア王国の代表として会議に参加した面々だった。
正直、この場に国王が出てくることは流石におかしいと思うのだが、本人はまるで気にした様子もない。
こちらの無作法すら完全に受け入れている辺り、細かいことは気にしない人物なのだろう。
ともあれ――そんな彼らの関心は、その多くが俺へと向けられていた。
「まずは現状の確認です。貴国、ベーディンジア王国は、現在悪魔によって攻撃を受けている状況にあります。この攻撃により、要塞都市ベルゲン以北の都市は攻め落とされている状態にあります」
「……その通りだ」
アルトリウスの言葉を、騎士団長は渋い顔で肯定する。
まあ、事実とは言え認めがたい状況だろう。
この国は、間違いなく窮地に陥っていると言える状況なのだから。
「要塞都市ベルゲンが攻撃を受けているタイミングで、我々異邦人はアルファシア王国からの移動を開始……現在、徐々にベーディンジア王国へと流入している状況です」
「貴様が巫女を救ったのもそのタイミングだったな。大儀であったぞ、クオンとやら」
「……勿体ないお言葉で」
しかしこの国王、中々掴みにくい人柄だ。
感謝していることは間違いないようだが、どうにも言葉が軽い。
だが、その視線だけは非常に鋭く、俺やアルトリウスのことを射抜いている。
どこまでが本気なのか読みにくい、難しい相手だ。
「また、悪魔たちはフェーア牧場を襲撃、これを占領しようとしましたが、第二騎兵隊の方々と我々異邦人でこれを撃退、防衛に成功しています。そして……その後、ベルゲンは陥落、可能な限りの民を避難させましたが、大きな被害が出ています」
「そして、今に至る……というわけですなぁ」
白い顎鬚を擦る宰相は、憂鬱そうな声音で相槌を打つ。
特に、ベルゲンの陥落は頭の痛い事実であろう。
あの都市は、間違いなくこの国にとって重要拠点の一つであったはずだ。
それを落とされたとなれば、この国の状況は間違いなく悪化していると言える。
「ベルゲンが落とされたのは痛恨の極みだ。クオン、貴様はベルゲンで爵位悪魔と遭遇していたな。直奏を許す、その情報を語ってみせよ」
「ふむ……名前はヴェルンリード、伯爵級の第二十七位だと名乗りましたね」
俺の告げた言葉に、王を除いた全員が息を飲む。
やはり、伯爵級というのはそれだけ強力な悪魔であるということか。
だが、事実は事実だ。王が語れと言うならば、それを伝える他に道はない。
「基本的には魔法を使って戦い、風と雷の魔法を扱っていました。その威力は強大で、本気になれば街の一画を纏めて破壊するほど。逆に近接戦闘能力は低いようですが、体の周囲に常に魔法障壁を纏っているため、生半可な攻撃は受け付けません」
「……貴様は、それを相手に時間を稼いだと聞いたが?」
「ええ、逆に言えばそれが精一杯でした。最終的には、逃げるために奴の両眼を斬りましたが、結局奴の体力を一割程度削るのが限界でしたね」
あの様子であれば両眼も復活しているだろうし、結局大した痛手は与えられなかっただろう。
いや、時間稼ぎそのものは達成できたため、痛み分けと言うべきか。
次に会った時には確実に殺したい所であるが、今の状況では全く勝ち目がない。
そのためにも、ここで色々と対策を練っておきたいのだが――
「信じがたい話だ。伯爵級を相手にたった一人で時間稼ぎだと? そんなことが可能だとは到底思えん」
「……私も同意見だ。もしそれが可能ならば、もっと早く到着していればこんなことには……!」
騎士団長と王子の言葉に視線を細める。
信じがたい、という言葉は仕方のない話だ。俺自身、出現した悪魔がヴェルンリードでなければあそこまで時間を稼ぐことは不可能だっただろう。
例えば、相手がロムペリアだったとしたら、恐らく押し負けていたはずだ。
だが――
「さて、信じる信じないはどちらでもよい話ですので」
「……何だと?」
「あの悪魔は必ず殺す。奴らの相手は、我々異邦人が行います。それとも、あなた方ならば確実に伯爵級を討てると?」
「無論だとも。強大な悪魔とて、我ら騎士団に敗北は無い」
「それにはどれほどの犠牲者が出る算段で?」
「それは……」
俺の返答に対し、騎士団長は言葉を詰まらせる。
広域に破壊をもたらす魔法使いが相手となれば、そうそう容易く相手をできるわけがない。
だだっ広い平原での戦闘であれば彼らに勝ち目もあるだろうが、その条件下であったとしても、多くの犠牲を強いることとなるだろう。
「奴ら悪魔は、人を殺して奪った力を利用して顕現する。より多くの人間が死ねば、それだけ強大な悪魔の顕現を助長することになる……生憎と、それを黙って見過ごすつもりはありませんので」
「だが――」
「キンバリー、その辺にしておけ。伯爵級の悪魔を討つと豪語しているのだ。それが可能であれば是非やって貰うべきであろう」
「……は」
王の言葉に、騎士団長は短く頷く。
他の連中の納得はともかくとして、どうやらこの国王は、俺たちに任せる気はあるようだ。
肘掛けに頬杖を突いた王は、薄く笑みを浮かべながら俺へと――そして、アルトリウスへと視線を向ける。
「さて、そこまで宣言したのだ。何かしら策はあるのだろう?」
「……そうですね。必要となるのは、味方の強化と敵の弱体化、この二つです。強化については、時間さえあればどうとでもなります……そのための時間稼ぎが、あの砦の建築ですので」
アルトリウスの言葉に、俺は視線を細める。
成程、あの砦には敵の侵攻を抑える役目の他に、稼ぎ場としての役割もあったのか。
時間稼ぎと狩場、二つの目的を両立させるために、あんな無茶な建造をしていたわけか。
戦力の強化、という面については、俺自身も心当たりはある。
と言っても、これは俺が強化されるだけの話であるのだが――俺がヴェルンリードを斬れば問題はあるまい。
「それならアルトリウス、敵の弱体化っていうのは……聖火の塔ね?」
「その通りです。聖火の塔に聖火が戻れば、悪魔は弱体化する。そのためにも、聖火の塔の確保は必須です」
そういえば、聖火の塔にはそんな効果もあった。
正直、聖火の塔がどれほど効果を発揮するのかは分からないが、少なくともマイナスになることはあるまい。
とはいえ――話はそう簡単にはいくまい。
「だが、一つ問題があるだろう、アルトリウス」
「その通りだ、アルトリウス殿。貴殿、ベルゲンより以北の聖火の塔はどうするつもりだ」
聖火の塔は国土全体に散らばって存在している。
ベルゲンより南――現在の人類の支配圏の中にも、聖火の塔は存在しているだろう。
だが、それより北。悪魔共に支配された領域はそう簡単にはいくまい。
少なくとも、安定して使用できる拠点がなくては、攻略は難しいだろう。
その問いに対し、アルトリウスは爽やかな笑みを浮かべて返答していた。
「南側にある聖火の塔については、既に異邦人が向かっています」
「『キャメロット』で独占するつもりか?」
「いえ、僕らが一つ攻略を開始したという情報を流したら、他の所にも異邦人が向かいましたから」
その辺り、こいつは相変わらず抜け目のない奴だ。
俺やエレノアと組んでから、元からトップを走っていた『キャメロット』は更に躍進している。
対抗意識を燃やしているクランは多いことだろう。
さらりと人を操っていることには苦笑しつつ、視線で先を促す。
「問題はそれより北の聖火の塔……攻略が難しい根本的な原因は、拠点を得られないことです。であれば、拠点を得ればいい」
「……貴殿らが作っている砦のことか?」
「いいえ、違います。僕らが拠点とできるのは、あくまでも石碑のある街のみ――つまり、僕らの目的はベルゲンです」
その言葉に、俺は大きく目を見開いた。
まさか、こいつ――あの要塞都市を、攻略するつもりだとでも言うのか。
「現在は調査段階ですが、目は十分にあると思っています。特に、あの伯爵級悪魔が居座るかどうかが問題ですが……これについては、あまり問題ないと思っています」
「何故だ? 奴がベルゲンから動く保証は無いだろう?」
「本来であれば、ですがね。悪魔とて生物です。高度な知恵を持っているため、衣食住を重視する。クオンさんが派手に暴れたおかげで広く破壊されたあの街では、とてもではないですが住むに適した環境とは言えません」
「……俺が壊したかのような言い方は止めろ。俺は逃げ回っていただけだ」
半眼でそう告げれば、アルトリウスは苦笑と共に頭を下げる。
本気で威圧しているわけではないのだが……こいつめ、いい性格をしているものだ。
「失礼……ではクオンさん、ヴェルンリードの人柄はどのようなものでしたか?」
「人柄だ……? 強いて言うならお嬢様ぽいっつーか、気取った態度の女だったな。動きにくそうなドレス姿だったし」
「であれば、尚更住む環境にはこだわる可能性が高いですね。しばらく監視しますが、一度後方へ下がる可能性は十分にあるでしょう」
「……下がらなかったらどうするつもりだ?」
「あそこに引きこもっているようであれば、回り込んで退路を断つまでです。どちらかというと、そちらの方が攻略しやすいですね」
アルトリウスは、そうこともなげに言い放つ。
コイツの頭の中では、果たしてどのような作戦が構築されているのやら。
とは言え、打つ手なしとなっていないのであれば問題はない。
やれることがあるならば、まだ立ち止まるような状況ではないのだ。
「ともあれ……しばらくは様子見です。南の聖火の塔を攻略しつつ、ベルゲンの状況を監視。ヴェルンリードがベルゲンから離れるようであれば、奪還に動きます」
「俺はその間、自由に動いていいのか?」
「ええ……と言っても、ヴェルンリードを刺激する真似は正直止めてほしいですが……」
「心配するな、状況ぐらいは読めている」
倒せもしないのに敵を刺激するような阿呆ではない。
戦いは万全の準備を整えてから行うべきものだ。
下手に手を出して作戦を無茶苦茶にするなど、害悪以外の何物でもない。
「俺は自己強化に努める。幸い、強くなる当てはあるからな……ああ、騎士団長殿。この後、訓練場をお借りしてもよろしいか?」
「……訓練場を使用するつもりか?」
「鍛えたいスキルがあるものでしてね。貴方にとっても、俺の実力を確かめるにはちょうど良いのでは?」
俺の言葉を聞き、騎士団長は僅かに目を見張る。
恐らく、こちらが手の内を明かすとは思っていなかったのだろう。
まあ、目的は《斬魔の剣》の訓練であるし、手の内をすべて見せるというわけでもないのだが。
そんな俺の問いに対し、騎士団長はしばし黙考した後、ゆっくりと首肯していた。
「良かろう、後で案内させる」
「ありがたい。見学は自由にどうぞ」
猜疑的な視線を向けてくるが、別にこちらは何を企んでいるわけでもない。
単純に、街中で決闘を行っては邪魔だろうと考えただけの話だ。
彼はまだ、俺の実力を疑っているのだろう。
とは言え、この騎士団長については、単純に確かめていないから疑っているだけの話のようだ。
こちらに対する隔意のようなものは感じられず、話の上だけでは信じられないというだけのようだ。
逆に、そこの第一王子殿はどうにもこちらのことを感情的に嫌っている様子だ。
別に嫌われるようなことをしたつもりは無いのだが、何をそんなに気にしているのやら。
「……先生、まさかとは思いますが」
「無論、訓練だ。ルミナとセイランも一緒だぞ、安心しろ」
そう告げた言葉に、何故か王子が僅かに反応する。
何だかよく分からんが……相手が王子となると、流石に下手な真似は出来ない。
向こうから何かしてくるわけでもないならば放置しておけばいいか。
「ふむ……方針は決まったようだな。会議はここまでだ。キンバリー、ひとまず異邦人たちをその目で確かめてみよ。その上で、協力できると判断したならば手を組め」
「……承知しました」
どうやら、この国の騎士たちの確認主義は国王由来であるようだ。
まあ、それ自体は嫌いではないし、こちらの実力を見せつければいい話なのだが。
ちらりとアルトリウスの様子を見れば、彼もまたこちらのことを見つめて薄く笑っている。
どうやら、見せつけてやれということらしい。
そうこうしている間に国王は退室し、それを見届けた騎士団長は嘆息と共に立ち上がった。
「では、訓練場に案内しよう」
「了解」
さて、あと一つぐらいはスキルレベルを上げてから、今日はログアウトすることとしよう。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:37
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:28
VIT:22
INT:28
MND:22
AGI:16
DEX:16
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.8》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.23》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.25》
《MP自動回復:Lv.24》
《収奪の剣:Lv.30》MAX
《識別:Lv.21》
《生命の剣:Lv.30》MAX
《斬魔の剣:Lv.28》
《テイム:Lv.21》
《HP自動回復:Lv.21》
《生命力操作:Lv.26》
《魔力操作:Lv.23》
《魔技共演:Lv.10》
《インファイト:Lv.8》
サブスキル:《採掘:Lv.10》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:39
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:36
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:30
VIT:20
INT:25
MND:20
AGI:18
DEX:17
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.7》
マジックスキル:《火炎魔法:Lv.1》
セットスキル:《闘気:Lv.23》
《スペルチャージ:Lv.24》
《火属性強化:Lv.25》
《回復適正:Lv.19》
《識別:Lv.21》
《死点撃ち:Lv.22》
《格闘:Lv.21》
《戦闘技能:Lv.21》
《走破:Lv.22》
《術理装填:Lv.17》
《MP自動回復:Lv.14》
《高速詠唱:Lv.11》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.10》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:34





