140:悪魔の顕現への考察
書籍化記念、一週間連続更新開始。
『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《インファイト》のスキルレベルが上昇しました』
『《収奪の剣》と《生命力操作》と《魔力操作》が規定レベルに到達しました。特定エリアにて、特殊クエスト《魔剣の継承:奪命剣》を受注できます』
あれから五度ほど決闘を繰り返したところで、ついに《収奪の剣》がレベル30に達した。
どうやらこちらは《生命力操作》と《魔力操作》の両方が影響していたようだ。
確かにMPを消費して発動し、HPを吸収するのだが、両方に影響していたことには気づかなかったな。
ともあれ、これで二つの魔剣継承の準備が整った。後は《斬魔の剣》だが――流石に、これがレベル30になるまでここで決闘というわけにもいかない。
用事もあるのだ、そろそろ出発しなくてはならないだろう。
「よし、そろそろ行くぞ、お前ら」
「いや……ちょっ、ちょっと待ってください……」
だが、どうやらすぐに出発とはいかないようだ。
項垂れたまま地面に座り込んだ緋真、その隣で仰向けのまま微動だにしないルミナ。
体力に優れたセイランも、息を荒げて翼を震わせている。
俺はその様子に嘆息を零し、半眼と共に声を上げた。
「終わったからと言って気を抜きすぎだぞ、お前ら」
「いや……無茶ですから、ホント。真剣相手はきついですって」
どうやら、俺との稽古に慣れている緋真も、真剣を持った俺を相手にするのは疲れを隠しきれなかったようだ。
まあ、息を整えるぐらいの時間は待ってもいいだろう。
苦笑しながら餓狼丸を納刀し――そこに、後ろから声がかかった。
その声の主は、後ろで観戦していたらしいボーマンだ。
「試合はお終いかい? 間近で見たのは二度目だが、相変わらずすげぇな」
「アンタの目の前で戦ったことがあったか?」
「この間の砦奪還の時だよ。俺も工兵だったんでな」
確かに、梯子やらあの頭のおかしい破城槌やら、工兵の出番はあった。
あの正門をこじ開けた時にいたのであれば、確かに俺の戦闘を目にする機会もあっただろう。
あの子爵悪魔、フィリムエルは中々に厄介な相手だった。
尤も、それを言い出したら今回の伯爵悪魔の方が危険なのだが。
「……なあ、クオン殿。今回も爵位悪魔がいたって聞いたんだが?」
「ああ、いたぞ。しかも伯爵級がな」
「マジか……マスターが予想していたとはいえ、ハードだなそりゃ」
「あん? アルトリウスの奴は、伯爵級が出ることを読んでいたってのか?」
先日子爵級が出たばかりだというのに、もう伯爵級が出現したのは、俺にとっては意外な事態であった。
だが、どうやらアルトリウスにとってはそうでもなかったらしい。
「そんな予兆は無かったと思うが……あいつのことだ、子爵が出たから次は伯爵、なんて適当な理由じゃないんだろう?」
「そりゃ勿論だ。クオン殿、アンタはあの子爵悪魔……フィリムエル、だったか。奴が姿を現した直後の台詞を覚えてるかい?」
「あん? ……いや、何か言っていたのは覚えちゃいるが、内容まではな」
「俺っちも正確な所を覚えてる訳じゃないんだがよ。奴は、『自分が顕現する程度のリソースしか貯められなかった』とか、そんなことを言ってたぜ」
「あー、確かに聞いた覚えはあるな。しかし――」
そう言われて、改めて考えてみると中々意味深な台詞だ。
とりあえず言えることは、フィリムエルの顕現にはそのリソースとやらが必要であったということだろう。
それはつまり、悪魔が顕現するために必要とするエネルギー、ということだろうか。
「……リソース、ってのは一体何なんだ?」
「そいつは恐らくだが、『万物が持っている存在のエネルギー』ってことらしいぜ?」
「全く分からん。どこから出てきたんだ、その話は?」
「アンタは成長武器を持ってるから知ってるとは思うが、成長武器のレベルを上げる際、素材にしたアイテムはそのエネルギーを抽出されるんだ。俺っちは鍛冶のクエストで聞いた話だな」
「……その話は確かに聞いたな」
確か、フィノが説明していたはずだ。
素材のエネルギーを成長武器に注ぎ込むことによって進化させる、と。
ボーマンの言葉を信じるならば、あの時餓狼丸へと注ぎ込まれていた光こそがリソース、ということになるが。
「クオン殿、悪魔が現地人を殺した時、どうなるか知ってるかい?」
「……俺が見たのは、アンデッドにして使役している所ぐらいだが」
「そういう場合は例外のようだが、大体は黒い塵みたいになって、吸収されちまうんだよ」
その言葉に、俺は思わず息を飲む。
それが事実であるというならば、奴ら悪魔の語るリソースとやらは――
「現地人を殺して、その存在のエネルギーとやらを奪い取ったもの……それがリソースか?」
「マスターはそう結論付けた。そして……国土が広く、民の数が多ければ多いほど、奴らはリソースを貯めやすい」
「結果として、上位の悪魔が顕現しやすくなる、ということか」
であれば納得できる。
このベーディンジアは、アルファシアよりも広い国土と多くの国民を擁した国だ。
それはつまり、それだけ犠牲になった人間の数も多いということである。
悪魔共はそれによってより多くのリソースを得て、強力な悪魔の顕現を行っているのだ。
もしも、このまま侵攻を止められなかったとしたら――
「……より強い悪魔が出現する前に、奴らを片付けなけりゃならん、というわけか」
「そうだな。とは言え、焦って攻めたところで勝てる相手でもないんだろ?」
「……悔しいが、否定はできん。今の俺には、奴を殺し切れる手段がない」
伯爵級悪魔、ヴェルンリード。武に秀でていなかったとはいえ、あの魔法行使は恐ろしい。
直撃を受ければひとたまりもない破壊力を有しているだろう。
しかしながら、奴に対して有効な攻撃手段も今の所は持ち合わせていない。
再び相まみえるまでに、何とか対策を立てなければ。
「ま、悪魔共は俺っちたちが何とか押し留めるさ。奴らがリソースを貯める前に、何とか倒し切ってくれよ?」
「それが俺の仕事、って訳か。ま、何とかしてみるさ」
とりあえず、今見えている可能性としては、この三魔剣を次の段階へ進化させることだ。
《練命剣》、《奪命剣》、《蒐魂剣》の三つがどれほど有効な手段となるか。
それによって、あの悪魔に対する対策も変わってくるだろう。
願わくば、奴を追い詰め得る強力なスキルであってほしい所ではあるが――何はともあれ、仕事を果たさなくてはな。
「雑事は今日中に済ませるとするか……いい加減そろそろ行くぞ、お前ら」
「はーい……」
「ご、ご迷惑をおかけしました」
「クェ!」
いい加減息は整ったらしい緋真と、未だ若干ふらついているルミナ。そしてセイランは、一度犬のように体を震わせると、ひと声力強く鳴き声を上げて返事をしていた。
どうやら、もう十分休めたということらしい。
「じゃあな、ボーマン。俺たちは王都へ向かう」
「おう、マスターのこと、よろしくな」
「世話になってるのはこちらだがな。しばらくしたらこちらに戻ってくるだろうし、その時はよろしく頼む」
「了解だ、気を付けて行けよ!」
気のいいボーマンの言葉に笑みと首肯を返し、南へと向けて歩を進める。
目指すは王都グリングロー。アルトリウスが交渉を行っているという、この国の中枢部だ。
この国の防衛には手を貸しているし、既にある程度恩は売っているが……さて、どのようになっていることやら。
まあ、そちらも気になるのだが、俺としてはいかに《斬魔の剣》を育てるべきかの方が悩ましい。
王都に着いてから、再び決闘で鍛えるべきだろうか――そう悩みつつ何とはなしに空を見上げ、目を見開く。
「そういえば、その手があったか」
「先生? 何を思いついたんですか? 嫌な予感がするんですけど?」
「お前な……変なことは考えちゃいねぇよ。《斬魔の剣》を育てるのにいい方法を思いついたってだけの話だ」
「……本気で今日中に育て切るつもりですか、先生」
口元を引き攣らせる緋真に、俺は笑みを返す。
今日中に魔剣の継承へ移ることが無理だとしても、準備までは終わらせておきたい。
そのためにも、チャンスは少しでも活かさなくては。
「さ、行くぞ。面倒ごとは今日で終わりだ」
「……はぁ。了解です」
景気の悪い様子の緋真を小突きながら、建築中の砦を後にする。
さあ、王都に着くまでにどれだけ育てられるか――試してみるとしよう。
* * * * *
「――『生魔』」
こちらへと突撃してきた巨体へと向け、蒼と金の刃を振るう。
その一閃は相手が纏っていた風の鎧を斬り裂き、その下にあった敵――マイナーグリフォンの体に深く傷を付ける。
血を噴き出してバランスを崩したマイナーグリフォンは、それでも戦意を滾らせてこちらへと風の刃を放った。
「《斬魔の剣》」
無論、その攻撃を黙って受ける俺ではない。
迫る風の刃を両断しつつ、更に前へ。振り下ろしていた刃は反転し、篭手を蹴り上げた勢いで振り上がる。
斬法――剛の型、鐘楼。
振り上げた一閃がマイナーグリフォンの顎に命中し、その頑丈な嘴をかち上げる。
その衝撃によって硬直したマイナーグリフォンへ、俺は更に追撃の一閃を振り下ろした。
斬法――剛の型、鐘楼・失墜。
その一閃がマイナーグリフォンの首を斬り裂き、HPを消滅させる。
しかし、それでも気を抜くことは無く、俺は次なる標的へと視線を向けた。
その先にいたもう一体のマイナーグリフォンから飛来した風の刃を《斬魔の剣》で斬り裂き、駆ける。
残りは二体、うちもう一体は緋真が相手をしている。
あちらについてはこちらが相手をする必要も無いだろう。
「ケエエエッ!」
「『生魔』……ッ!」
風を纏い振り下ろされる一撃へ、刃を合わせる。
掻い潜るように振り降ろした刃は纏う風を消し去り、さらにその下にあった腕を斬り裂く。
足を一本失ったマイナーグリフォンは、そのままバランスを崩して地面に叩き付けられる。
それに対してすぐさま反転した俺は、馬乗りになるようにしながらその首へと刃を突き刺した。
「ギッ……!」
声が出せず、鈍い悲鳴を上げるマイナーグリフォン。
そのまま刃を横向きに振り切り、首を半ばから抉り斬るような形で肉を裂いた。
血を噴き出しながら絶命したマイナーグリフォンの上から降り、軽く息を吐く。
緋真の方も一体倒したようであるし、これで戦闘は終了だ。
『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』
『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』
『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』
『《HP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』
「よし、上がったか」
《斬魔の剣》のスキルレベルが上がったことを確認し、満足して首肯する。
このスキルは使い所が少ない分、レベルはそこそこ上がりやすく設定されているようだ。
刃を拭って納刀し、俺は近づいてきた緋真へと視線を向ける。
「どうです、レベル上がりました?」
「ああ、まだもう少し上げたいが……」
「とりあえず、今まで通りやっていくしかないんじゃないですか?」
返答しつつ、緋真は頭上を見上げる。
その先の上空にいるのは、翼を広げて飛び回るルミナとセイランだ。
テイムモンスターの二人には、上空で向かってくるマイナーグリフォンたちの翼を狙い、地面に叩き落として貰っていたのだ。
この辺りで魔法を使う相手と言えば、やはりマイナーグリフォンである。
他にもいるのかもしれないが確実なのはマイナーグリフォンだけであるし、やはりこの方が効率がいいだろう。
「よし、次のが来たらまた落としてくれ!」
「はい、お父様!」
頼られていることが嬉しいのか、ルミナが喜色に溢れた声を上げる。
その様子に笑みを零しながら、俺は緋真を伴って先へと歩を進めることとした。
さて……果たして、王都に着くまでにどこまでレベルを上げられることやら。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:37
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:28
VIT:22
INT:28
MND:22
AGI:16
DEX:16
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.8》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.23》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.24》
《MP自動回復:Lv.23》
《収奪の剣:Lv.30》MAX
《識別:Lv.21》
《生命の剣:Lv.30》MAX
《斬魔の剣:Lv.26》
《テイム:Lv.21》
《HP自動回復:Lv.20》
《生命力操作:Lv.25》
《魔力操作:Lv.23》
《魔技共演:Lv.10》
《インファイト:Lv.6》
サブスキル:《採掘:Lv.10》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:39
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:35
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:30
VIT:20
INT:25
MND:20
AGI:17
DEX:16
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.6》
マジックスキル:《火魔法:Lv.29》
セットスキル:《闘気:Lv.23》
《スペルチャージ:Lv.24》
《火属性強化:Lv.23》
《回復適正:Lv.18》
《識別:Lv.21》
《死点撃ち:Lv.22》
《格闘:Lv.21》
《戦闘技能:Lv.21》
《走破:Lv.21》
《術理装填:Lv.17》
《MP自動回復:Lv.14》
《高速詠唱:Lv.10》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.10》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:34





