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134:時間稼ぎ












 上空からベルゲンの街を見下ろすと、北側は悪魔に制圧されつつある状態だということが分かる。

 北の門の外にある程度引き寄せたおかげか、状況はある程度見えやすくなっているようだ。

 悪魔の数はかなりのものだ。個体の戦闘能力で言えば昨日牧場で戦った奴らと同じか、それよりも若干強い程度だろう。

 だが、密度はあの時とは比べ物にならない。死角の多い街中では、あの時のように全ての敵を捉えながら戦うのは少々骨だ。

 しかし――この街には、未だ多くの住人が取り残されている。手を拱いているわけにはいかない。



「ルミナ、セイラン。お前たちは俺たちが下りた後、上空から悪魔共を攻撃しろ」

「お父様と緋真姉様はどうなさるんですか?」

「当然、地上で連中と戦う。お前たちは連中の動きを鈍らせればそれでいい。少しでも敵の数が減れば助かるんだ」

「……承知しました。どうか、ご無事で」

「何、俺に対して心配はいらんさ――セイラン!」



 セイランに命じて、飛行高度を一気に下げる。

 場所は大通り。悪魔共が門を破ってから、一直線に進撃を続けている場所だ。

 その最前線へと向けて、俺は躊躇うことなく飛び込んだ。



「さあ、第二ラウンドだ!」



 背を向けていた巨体の悪魔の首へと取り付きながら体を回転させ、その首を捩じりながら着地する。

 餓狼丸は相変わらず怨嗟によってHPを吸収し続けている状態だ。

 周囲の吸収対象が増えたことにより嵩を増した黒いオーラは、俺の右腕全体に絡みつくようにしながら刀身へと吸い込まれていく。

 背後の悪魔共は空中からの襲撃に驚愕して動きを止めているが、今はそちらは気にせず、俺は目の前の悪魔へと襲い掛かることとした。



「しッ!」



 背を向けていた悪魔の心臓を抉り、刃を引き抜きながらその背中を蹴り飛ばす。

 その攻撃によって、前方にいた悪魔たちも俺の存在に気づいたのか、驚愕と共に振り返り――俺は、そいつらへと向けて横薙ぎに刃を振るう。

 《魔技共演》にて威力を強化した一撃は、二体の悪魔の首を刎ね飛ばして派手に血を撒き散らした。

 どうやら、《剣鬼羅刹》の効果も含め、俺の攻撃力はかなり増加しているようだ。



「うおっ、何だ!? 師匠がいるぞ!?」

「さっき上から落ちてきたの、見間違いじゃなかったのかよ」

「やべぇ、成長武器使ってるぞ!? 気を付けろ!」



 どうやら、悪魔共を前線で相手にしていたプレイヤーがいたらしい。

 黒いオーラを纏う俺に、悲鳴とも歓声ともつかない声を上げていた。

 そちらのことも少々気になるが、今は相手をしている暇はない。

 プレイヤーたちの位置は確認しつつ、隣にいた悪魔が繰り出してきた攻撃を掻い潜りつつ肉薄し、右の肩甲骨を押し当てる。


 打法――破山。


 打撃には武器の攻撃力は乗らないが、《剣鬼羅刹》と《インファイト》による攻撃力増加でも十分な破壊力を発揮できるようだ。

 胴からへし折れて吹き飛ぶ悪魔を尻目に、俺は大きく捻っていた体を戻しつつ地を踏みしめる。

 その旋回と共に放つのは、遠心力を刃に込めた一撃だ。



「『生奪』」



 斬法――剛の型、輪旋。


 二色のオーラを纏った一閃が、背後からこちらに迫ってきていたレッサーデーモンを胴から両断する。

 HP吸収が進んできたためか、餓狼丸の攻撃力はさらに高まっているようだ。

 レベルの高い悪魔共であろうとも、これならば斬るのに苦労はしない。

 それに――



「《術式装填》、《スペルチャージ》【フレイムバースト】!」



 後方から飛び込んできた緋真が刃を振った瞬間、発生した爆炎が悪魔共を吹き飛ばす。

 離れていた連中は一撃で殺すには至っていなかったようだが、その刀身に直接触れた悪魔は爆ぜて消滅したようだ。

 火の粉を散らしながらこちらに駆け寄ってきた緋真は、俺と背中を合わせるようにして構えながら声を上げた。



「どうするんですか、先生。めっちゃ数多いですけど?」

「どうするも何も、俺たちはただ敵を引き付けていればいいだけだ」



 叫び声を上げながら接近してきた悪魔の攻撃を流水で受け流し、がら空きになった胴へと刃を突き入れる。

 そのまま抉り抜くように刃を振り抜けば、悪魔は血と臓物を撒き散らしながら地に沈んだ。

 それと同時に俺の背後では、緋真が向かってきた悪魔を迎撃し、振り下ろしてきた腕を回避しつつその首を貫き頸椎を切断していた。

 悪魔共の死体を積み重ねながら、俺は言葉を続ける。



「今はただ、現地人が逃げる時間を稼げればいい。派手に暴れて、敵を引き付けていればそれでいいんだよ」

「いつまでやればいいんですか、それ!?」

「撤退の余裕ができるまでに決まってるだろうが」



 少々離れたところでは、ルミナとセイランが空中から魔法を放ち悪魔共を攻撃している。

 節約のためあまり強力な魔法は使っていないが、上空からの攻撃に晒されているとなればどうしても動きは鈍るものだ。

 この狭さで数に押されると少々厳しいが、今の状況程度であればどうということはない。

 だが――



「――そこの手が空いてる連中! 防衛にも参加しねぇなら避難民の誘導にでも行ってこい!」

「ひっ!? は、はいっ!」



 とりあえず、後方で役に立っていない連中を追い払いつつ、目の前の悪魔に集中する。

 襲い掛かる悪魔共は、威圧をしていないだけあって積極的だ。

 だからこそ、倒すには都合がいい。何しろ、向こうから勝手に向かってきてくれるのだから。


 緋真を軽く左手で押しつつ位置を調整し、飛来した炎の魔法を《斬魔の剣》で斬り裂く。

 俺のその動作の隙を埋めるために滑るように前に出た緋真は、【フレイムウォール】で周囲の動きを牽制しつつ、魔法を放ってきた悪魔を穿牙で貫いていた。

 結果的に突出することとなるが、そこは俺がフォローしてやれば済む話だ。

 俺は緋真の左側へと進み出ながら、己の左膝で篭手を蹴り上げる。


 斬法――剛の型、鐘楼。


 緋真へと向けて伸ばそうとしていた腕を斬り裂き、次いで振り上がった刃にてその首を狙う。

 踏み込みと共に打ち降ろした刃は、悪魔が俺の姿を認識するよりも早くその命脈を断ち斬っていた。


 斬法――剛の型、鐘楼・失墜。



「いいぞ。合わせてやるから戦場でのツーマンセルも覚えておけ」

「ここでもっ、稽古ですか!」



 鋭く呼気を吐き出しながら声を上げる緋真は、言葉とは裏腹に口元に笑みを浮かべている。

 どうやらこいつも、中々に修羅場というものに慣れてきたようだ。

 俺もジジイに戦場に放り込まれた結果覚えたものであるし、こういった場でちょこちょこ矯正してやる方がやり易い。

 混戦においては、いかに隙を少なくするかが重要だ。敵の数が多い以上、どうした所で手数は足りなくなる。

 それだけ、背後から攻撃を受ける可能性も高くなってしまうのだ。それを避けられる位置取りを常に意識しなくてはならない。



「今のお前の課題は、俺のフォローを極力減らすことだ。どうすればいいか考えて動け」

「っ……了解です!」



 俺の言葉を聞き、緋真は不敵な笑みと共に力強く頷く。

 緋真は何だかんだで、中々に理知的に動く人間だ。

 頭で考えながら動くのは中々に苦労するが、下地がある緋真ならば何とかなるだろう。

 緋真は距離を詰めようとしてくる連中は魔法で牽制しつつ、自ら接近した相手にのみ刃を振っている。

 現実では不可能な手段ではあるが、障害物を利用するという点においては同じだ。

 上手い具合に一対一を作っているのであれば問題はない。こちらは距離を詰めようとしてくる悪魔共を斬れば済む話だ。

 ――瞬間、視界の端に入った姿に、俺は思わず眼を細めていた。



「……あれは」



 こちらへと駆けてくる悪魔。しかしその姿は、他のレッサーデーモンやデーモンナイトともかけ離れたものであった。

 正確に言えば、胴体は他とそれほど変わらない。しかしその両腕だけが、黒い毛に覆われた獣のものと摩り替っていたのだ。

 あれは……昨日の馬上戦闘でも相手をした、デーモンキメラの一種か。

 他の悪魔共よりも高い運動能力を持っていると思われるデーモンキメラは、その腕も使ってゴリラのように地を駆けながらこちらへと接近してくる。

 緋真に相手をさせてもいいのだが――



「少しは遊ばせて貰うとするか」

「ガアアアアアアッ!!」



 野太い叫び声を上げながら、デーモンキメラはその獣の剛腕を振りかぶる。

 そのまま殴り掛かってくるつもりだろう、まるでオートバイが突っ込んでくるかのようなスピードだ。

 俺はそれを半身になりながら待ち構え――そのインパクトの瞬間、身を屈めながら右の肘で相手の拳を押し上げる。

 そして、それと同時に半歩前へ。押し上げるように放つのは、右手で拳を押さえた上での左の肘。

 その一撃は、下から掬い上げるように相手の心臓の位置を打ち抜いていた。


 打法――深劫。



「ガ――――?」

「何だ、それで止まるのか?」



 打撃による心臓打ちは、相手の体機能や意識すらも停滞させてしまうものだが、どうやら混ざりモノの悪魔でもそれは同じらしい。

 若干の失望と共に呟いた俺は、左の脇の下に回していた餓狼丸の刀身に二色のオーラを纏わせる。

 その刃を肋骨の下から突き入れて体内を抉ってやれば、簡単にその命脈を断ち斬ることができた。

 馬のデーモンキメラを相手に苦戦していたのは、やはりあれが騎乗戦闘だったからということか。



「他の悪魔よりは強いようだが……その程度か。まあいい、さっさと次に――」



 そう口にして、緋真の方に再度注意を向けて――その瞬間、俺は背筋に粟立つような戦慄を覚えていた。

 《魔力操作》を持っているからこそ分かる、膨大なまでの魔力収束。

 何者かが悪魔共の奥、この通りの先で魔力収束を行っているのだ。

 悪魔共のせいで、そこに何があるのかは確認できない。

 だが――この奥には、間違いなく害意を持った何者かが存在している!



「下がれ緋真ッ! 『生魔』――――!」



 俺は、即座に全力でHPを捧げながら《斬魔の剣》を発動する。

 そして次の瞬間、通りにいた悪魔共を巻き込みながら、雷を纏う暴風が放たれていた。

 触れた悪魔共を消し飛ばしながら進む暴風は、眩い雷を放出しながら一直線にこちらへと迫り――その暴風へと、俺は躊躇うことなく刃を振り下ろした。



「ッ……!!」



 まるで、トラックでも押し戻そうとしているかのような、叩き潰されそうなほどの重い感触。

 だが、それでも――刃は、通る!



「ガアアアアアアアアアアアッ!」



 全力の咆哮と共に地を踏みしめ、刃を振り下ろす。

 ギンッ、と甲高い音が響き渡り――大通りを焼き尽くさんとした嵐は、まるで嘘のように消滅していた。

 大きく息を吐きリズムを整え、その先を……すっかり生き物の姿が消え失せた、大通りの先へと視線を向ける。



「あら……あの人が言うだけはあるわね。防がれるとは思わなかったわ」



 ――そこに立っていたのは、緑色の長髪を揺らす、イブニングドレスを纏った一人の女だった。





















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