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130:悪魔の騎芸












 セイランのMPを回復させ、擦れ違う悪魔たちを斬り伏せていく。

 可能な限り騎獣には攻撃しないようにしているが、流石に被害をゼロに抑えるということは出来ていない。

 俺はほぼ攻撃していないのだが、セイランは流石にそうはいかない。

 セイランの位置からでは、最も攻撃しやすいのは敵の騎獣なのだ。

 そこで無理をしてダメージを受けるぐらいであれば、確実に敵を倒していくべきであろう。



「しッ!」

「クケェッ!」



 巻き上がる砂塵の中、敵の居場所を気配で察知しながら駆け抜ける。

 狙うのは足を止めている悪魔だ。その気配を正確に捉え、俺たちは一撃で馬上から叩き落としていく。

 セイランが巻きあげている砂塵の中に隠れながら動いているおかげか、連中は近くにいる奴らしか俺たちの姿を捉えられていない。

 騎兵でありながら足を止めてしまっているのは滑稽であるとしか言いようがないが、俺たちからすれば好都合この上ない話だ。


 馬上での野太刀の扱いにも慣れ、両手を手綱から放していても乗りこなすことは難しくなくなってきた。

 両手であれば、擦れ違い様に悪魔の首を落とすことも簡単だ。

 セイランのスピードと、攻撃軌道の制御。それさえあれば、悪魔を地面に落とす必要も無く、一撃で葬り去れる。

 刃の一撃に確かな手応えを感じながら、俺は口元を笑みに歪めていた。



「さて、後どれだけだ……?」



 背後で血が飛び散る様子は気にも留めず、俺は周囲の気配を探っていく。

 今の所、悪魔共は俺のことを狙おうとしているようではあるが、やはりバトルホースではセイランに追いつくことは出来ないようだ。

 たまに横手から迫ってくる奴らもいるが、近づいてきてくれるならカウンターで斬り捨てればいいだけの話である。

 しかし、デーモンキメラも稀に混ざっているため、油断することはできない。

 あれは数こそ少ないものの、戦闘能力はその他の悪魔共とは比べ物にならないのだ。

 とは言え、あれは見つけ次第優先的に狩った甲斐もあってか、見かけなくなってきてはいる。

 あれが二体以上いると流石に面倒であるし、出来ればもう会いたくない所だ。



(悪魔共の気配が薄れてきている……逃げ出し始めたか?)



 これまで、かなりの数の騎兵を相手にした。

 と言っても、元の数が百に満たなかったわけだが、その内の半数は間違いなく殺しているはずだ。

 既に壊走していたとしてもおかしくない数である。逃がすのは少々癪ではあるが、残りの数全てを相手にするのも中々面倒だ。

 このまま消えてくれるのであれば、それはそれで苦労が少なく済むのだが――



「……流石に、そう簡単な話にはならんか」



 鋭い殺気を捉え、刃を構え直す。

 風に巻き上げられた砂塵の中、土の地面を踏みしめる馬蹄の音は、これまでに聞いたバトルホースのそれとは異なるものであった。

 それどころか、金属が擦れ合うような音が聞こえている。

 これは――



「……」

「成程、爵位悪魔か」



 砂塵の中から姿を現したのは、黒い鎧に身を包んだ悪魔だった。

 レッサーデーモンたちとは異なる姿であるが、その全身が甲冑に覆われているため、その正体は定かではない。

 だが、滲み出る殺気の質は、間違いなく悪魔共と同一のものだ。

 この悪魔はその全身だけではなく、騎乗する馬にまでも鎧を纏わせている。

 どうやら、あの馬はバトルホースではないらしい。先ほどから聞こえていた金属音は、恐らくあの馬の鎧によるものだろう。



「テメェが今回の頭目か?」

「……」



 鎧馬の悪魔は答えない。だが、滲み出る殺気からしても、意思を持たない類というわけではないだろう。

 この寡黙な悪魔がどのような立場にあるのかは知らないが、爵位悪魔ならば何かしら重要な役どころではあるはずだ。

 無論、そのような立場があろうと無かろうと、殺すことに変わりはないのだが。

 セイランは体勢を低く構え、唸り声を上げる。その背の上で野太刀を構えながら、俺はじっと相手の出方を窺った。

 鎧馬の悪魔は――その腕を振るい、手の中に一振りの槍を出現させる。

 刃の根元から両側に刃が伸びた、十字槍だ。また面倒な武器を持ち出してきてくれたものだが――



「……男爵級、73位。エルビリオ」

「ほう? いいだろう、受けて立つ……久遠神通流のクオンが、貴様を斬る」



 互いに名を告げ、静止する。

 やはり、予想通りの爵位級悪魔だ。男爵級であっただけまだマシだが、それでも十分に警戒しなければならない相手だろう。

 特に、バトルホースとは明らかに異なる、赤い燐光を放つ瞳の黒馬。

 重量級の鎧を纏いながらも淀みの無いその動きは、バトルホースの身体能力では不可能だろう。

 十分に警戒せねばなるまい。警戒を新たに、体勢を低く構え――俺と悪魔は、同時に騎獣を走らせていた。



「……ッ!」

「――――ォオッ!」



 セイランと鎧馬は共に凄まじい力で地を蹴り、共に遜色ない速度で突撃する。

 互いの突進の速度も相まって、エルビリオの繰り出してきた槍は、最早霞んだ影のようにしか見えなかったが――俺は即座に、その突きへと刃を添わせて力を籠める。


 斬法――柔の型、流水。


 流水・渡舟で首を狙いたい所ではあるのだが、十字槍ではこちらに刃が命中してしまう。

 仕方なく、その軌道を上に逸らすことで攻撃を外させ、互いに攻撃を当てることなく交錯した。

 そして、共に騎獣を走らせながら反転、それと共にセイランが風の刃を放つ。

 《ターゲットロック》によって正確な軌道を描いた魔法はエルビリオへと殺到する。

 だが――



「――――ハァッ!」



 気合一発、放たれた鋭い声と共に、エルビリオとその馬の体から黒い炎が吹き上がる。

 その衝撃によって、奴に命中しようとしていた風の刃はまとめて相殺されていた。

 魔法を打ち消す効果ではないようだが、遠距離攻撃はそう通じるものではないと考えた方が良いだろう。

 舌打ちしながらも、口元は笑みの形に歪む。魔法が通じないならば、直接攻撃を叩き込むまでだ。



「セイランッ!」

「ケェェエエッ!」



 俺の声に応え、セイランは全身に暴風を纏う。

 炎を纏う悪魔と風を纏う俺たち。その対比は果たしてどのように見えるのか――そんな益体も無い考えは捨て置き、風の刃を牽制にしながら突撃する。

 あの悪魔が相手ならば騎獣に対する配慮など必要ない。まとめて吹き飛ばすつもりで全力を発揮すればいいのだ。

 踏みしめた地を砕く勢いで駆けるセイランは、正面からエルビリオへと突撃し――奴の繰り出した槍と俺の振るった野太刀が衝突して、互いに軌道を逸らしながら火花を上げる。

 刹那――



「――――ッ!?」

「ぬ……!?」



 正面から衝突した二体の騎獣の力は、行き場を無くして爆発という形で顕現した。

 その衝撃に煽られ、セイランはバランスを崩しながらも後方へと羽ばたき、エルビリオの馬はバランスを崩して後方で立ち止まっている。

 よく今の衝撃で倒れなかったものだが――



「――そこだ」



 体勢を崩したエルビリオの体に、俺が左手から放った鉤縄が巻き付き、引っかかる。

 拘束するというには弱いだろうが、ほんの一瞬だけでも動きを止められれば十分だ。

 野太刀を鞘に戻し、餓狼丸を引き抜きながらエルビリオへと向けて飛び降りる。



「っ、貴様――!?」



 兜の奥で、瞳が驚愕に見開かれるのが見える。

 自由に動くことができれば、奴は飛び降りてきた俺をその槍で貫いていただろう。

 だが、今の奴はほんの僅かであろうとも、鉤縄によって拘束されている。

 俺はその縄を手繰り寄せるように鉤縄を引き――


 斬法――柔の型、襲牙。


 その鎧の首筋にある隙間へと餓狼丸の切っ先を突き刺しながら、奴の体を巻き込むようにして地面へと落下する。

 そのまま相手の体をクッションにしつつ、更に前転しながら落下の衝撃を殺す。

 少々HPを削られたが、死ぬようなダメージではない。即座に跳ね起きた俺は、エルビリオから刃を引き抜き、緑の血を振るい落としてから大きく振り上げた。



「《生命の剣》」



 刃に黄金のオーラを纏わせ、エルビリオを見下ろす。

 首筋から血を噴き出し、痙攣する悪魔であるが、未だ息はあるようだ。

 であれば、その命脈を断つまで。俺は笑みと共に刃を振り下ろし、その首を断ち斬った。

 動けずにいたエルビリオは即座に絶命し――その瞬間、背後にいた黒い馬が、俺へと襲い掛かる。

 しかし、それを理解しながらも、俺は回避行動を取るつもりは無かった。

 何故ならば――



「クケェェエエエッ!」

「――――ッ!?」



 上空から飛来したセイランが、その剛腕を以て馬を地面へと叩き付けたからだ。

 その一撃によって黒い馬は地面へと叩き付けられ、馬のHPは砕け散る。

 セイランの全体重を込めた全力の攻撃だ。その一撃の威力は、この馬を殺しきって余りある威力であったようだ。



「よくやった、セイラン」

「クェェ」



 称賛と共に首筋を撫でてやれば、セイランは上機嫌な様子で顔を摺り寄せる。

 その様子に小さく笑みを浮かべ――それと同時に、聞き覚えのあるメッセージが耳に届いた。



『ワールドクエスト《ベーディンジア緒戦》を達成しました』

『グランドクエスト《人魔大戦》が進行します』

『全参加者に報酬が配布されます』

『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』

『《インファイト》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』



 どうやら、この爵位悪魔を倒したことで、今回のクエストは完了となったようだ。

 慌てた様子で逃げ去ってゆく悪魔共に追撃を行うか悩み、馬で逃げている相手を追うのは面倒だと判断して断念する。

 まあ、目的は達成できたのだ、これで良しとしておこう。

 しかし――



「……思った以上に便利だな、鉤縄。ちと改造して貰うとするか」



 巻き付いていた相手が黒い粒子となって消滅したことで、悪魔に巻き付いていた鉤縄は地面に転がっている。

 それを拾い上げて再び羽織の袖の中、腕に巻きつけながら、俺はそう小さく呟いていた。






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:35

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:28

VIT:21

INT:28

MND:21

AGI:15

DEX:15

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.6》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.22》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.23》

 《MP自動回復:Lv.21》

 《収奪の剣:Lv.22》

 《識別:Lv.20》

 《生命の剣:Lv.25》

 《斬魔の剣:Lv.18》

 《テイム:Lv.20》

 《HP自動回復:Lv.18》

 《生命力操作:Lv.18》

 《魔力操作:Lv.13》

 《魔技共演:Lv.7》

 《インファイト:Lv.3》

サブスキル:《採掘:Lv.10》

称号スキル:《剣鬼羅刹》

■現在SP:35






■アバター名:緋真

■性別:女

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:34

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:29

VIT:20

INT:25

MND:20

AGI:16

DEX:16

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.5》

マジックスキル:《火魔法:Lv.27》

セットスキル:《闘気:Lv.22》

 《スペルチャージ:Lv.21》

 《火属性強化:Lv.21》

 《回復適正:Lv.16》

 《識別:Lv.20》

 《死点撃ち:Lv.20》

 《格闘:Lv.19》

 《戦闘技能:Lv.20》

 《走破:Lv.20》

 《術理装填:Lv.13》

 《MP自動回復:Lv.9》

 《高速詠唱:Lv.8》

サブスキル:《採取:Lv.7》

 《採掘:Lv.10》

称号スキル:《緋の剣姫》

■現在SP:32






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:ヴァルキリー

■レベル:8

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:28

VIT:20

INT:36

MND:20

AGI:22

DEX:20

■スキル

ウェポンスキル:《刀》

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《光翼》

 《魔法抵抗:大》

 《物理抵抗:中》

 《MP自動大回復》

 《風魔法》

 《魔法陣》

 《ブースト》

称号スキル:《精霊王の眷属》






■モンスター名:セイラン

■性別:オス

■種族:グリフォン

■レベル:2

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:37

VIT:26

INT:26

MND:18

AGI:34

DEX:15

■スキル

ウェポンスキル:なし

マジックスキル:《風魔法》

スキル:《風属性強化》

 《飛翔》

 《騎乗》

 《物理抵抗:大》

 《痛撃》

 《爪撃》

 《威圧》

 《騎乗者強化》

 《空歩》

 《ターゲットロック》

称号スキル:なし

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書籍化情報や連載情報等呟いています。
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― 新着の感想 ―
[一言] アルトリウスって、ダークソウルからとったのですか? グーグル先生からは、その情報しか入らなかったので… 登場人物を覚えるのが地味にメンドーだったりするのです(笑)
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