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129:騎兵vs騎兵












 左手で手綱を持ち、右手に野太刀を固定する。

 やはり、数で劣っているとなると騎乗戦は難しい。

 相手は百には届かないであろうが、こちらは俺とセイランのみの一騎で相手をしなければならない。

 流石に、俺にとっても厳しい戦いではあるが――



「――『生奪』」



 野太刀が黒と金のオーラを纏う。

 同時に、纏う風を増したセイランが正面から突撃し――減速する様子の無い俺に慌てた悪魔たちは、咄嗟に馬首を逸らして道を空ける。

 その隙間へと、俺たちは躊躇うことなく突撃した。

 横向きに構えた刃で擦れ違う悪魔共を斬り裂きながら、俺はセイランを細かく操り、悪魔共の間を縫うように駆け抜ける。

 最初にスピードを上げたことにより、魔法が命中することはなかった。

 更に、正面から突っ込んだことにより悪魔共の出鼻をくじくことができたようだ。

 やがて、数体の悪魔を斬り裂きながらその敵中を潜り抜け――俺たちは、悪魔の軍勢の向こう側まで駆け抜けていた。



「ッ……回れ!」



 俺の声に応え、セイランは旋回するように地を駆ける。

 悪魔共は俺たちが強引に陣を駆け抜けたことで、足並みを崩しているようだ。

 無理も無いだろう、馬同士の正面からのぶつかり合いなど、馬術を学んでいる者すら経験することはまず無い。

 猛スピードで正面から突進してくる相手は、恐怖以外の何物でもないだろう。

 尤も、それは俺やセイランにとっても同じことではあるが、このグリフォンは実に肝が据わっているようだ。



「回り込め、横から突っ込むぞ!」

「ケエエエッ!」



 威勢よく声を上げたセイランは、地を蹴り駆け抜ける。

 風を纏うセイランは、その足を踏み出すごとに地面を僅かに削り取り、砂塵として巻き上げている。

 その効果によって、今突き抜けてきた悪魔共は砂塵に包まれている状態だ。

 おかげで、奴らの足もかなり鈍っているようだ。俺は小さく笑みを浮かべ、横合いから奴らへと突っ込んだ。



「『生奪』ッ!」

「ケェアアッ!」



 衝突の直前、セイランは強く跳躍する。

 瞬間、セイランはその鉤爪を振り下ろし、馬の上に乗っていた悪魔を胴から真っ二つにしていた。

 着地の衝撃に身を揺さぶられるが、俺は笑みを浮かべながらその揺れに耐える。

 そしてそのまま、正面にいた相手を騎馬ごと突き飛ばし、それを跳び越えて先にいた悪魔を野太刀で斬り裂く。

 先が見えず馬の足を止めてしまっている悪魔共は良い的だ。


 都度都度《魔技共演》を再発動しながら悪魔を斬り裂き、次いで《ターゲットロック》を使ったセイランが風の魔法をばら撒く。

 このスキルは、標的とした相手へと向けて魔法の射出方向が自動で修正されるというものだ。

 これを併用していれば、いちいち狙いを定める必要はない。高速で駆け抜けながらでも、正確に魔法を命中させることができる。

 落馬さえさせてしまえば、悪魔共は脅威ではない。俺たちは砂塵に紛れるようにしながら、動きの鈍った悪魔共を叩き落としながら突っ切った。

 十字を描くように悪魔共の陣を突っ切り、少なくとも十分の一程度の悪魔は叩き落としただろう。

 だが、まだまだ数は多い。しかも、向こうも態勢を立て直したようだ。

 悪魔たちは馬首を翻し、こちらを追い始めている。



「チッ……だが、都合は良いか」



 こいつらが俺たちを標的に定めたのであれば、即ち緋真たちの方に向かわないということでもある。

 いくらかは向かうかもしれないが、少数であればあいつらでも対処できるだろう。

 あとは、この数をこちらで何とかするだけの話だ。

 まあ、面倒ではあるが――それもまた修行と言った所か。



「振り切れ、セイラン。あの連中程度では、お前に追いつけはしない」

「クケェッ!」



 俺の言葉に鼓舞されたか、自信ありげな声音でセイランは吠える。

 後方からは立て続けに魔法が飛来するが、俺は命中しそうなものだけを《斬魔の剣》で打ち消しながら、セイランに旋回を命じた。

 追い縋る悪魔共の数体は、インコースを描いてこちらに追いついてくる。

 だが、それは俺の狙い通りだ。近距離で放たれた魔法を斬り裂き、返す刃で《魔技共演》を発動して悪魔を斬る。

 わざわざ刃のリーチの中にまで入ってきてくれたのだ、それを利用しない手はない。

 近づいてくる悪魔を順番に落馬させつつ、再びセイランの向きを調整し――



「――――ッ!」



 ――感じた悪寒に、俺は咄嗟に小太刀を抜き放つ。

 足だけで体を支えながら放った一閃は、突如として飛来した矢を正確に捉え、弾き返す。

 だが、この攻撃に対して俺は思わず胸中で舌打ちを零していた。



(この状況で矢を放てる奴がいるだと……!?)



 この射手は、セイランの駆ける速度に合わせ、正確に俺を射抜こうとしたのだ。

 今の矢を放った相手は、そこらの悪魔とは異なる、確かな腕を持った存在だった。

 小太刀を鞘に納めつつ、俺は今の矢を放った存在を探し――視界の端に、異様な姿の存在を発見する。

 下半身が馬、上半身が人間。魔物の如き姿であるが、上半身の人型の部分は紛れもなく悪魔のそれであった。

 その悪魔は、馬の下半身で地を駆け抜けながらも、安定した体勢で弓を引いていたのだ。



「チッ……セイラン、横だ」

「――――ッ!」



 セイランが向かう方向を変え――その瞬間、俺の背があった場所を矢が貫く。

 その正確さに、俺は思わず舌打ちを零していた。

 奴は俺とは異なり、騎獣と息を合わせる必要が無い。その分、狙いを定めるのも楽なのだろう。

 どちらにしろ動きながら矢を放っているため、当てることは難しい筈なのだが。



「チッ……厄介な」



 だが、相手の姿を捉えられている以上、対処することは難しくはない。

 その他の悪魔共にも注意しつつ、俺はその異形の悪魔を注視した。


■デーモンキメラ

 種別:悪魔・魔物

 レベル:35

 状態:アクティブ

 属性:闇

 戦闘位置:地上


 表示されたその名に、俺は思わず眉根を寄せる。

 つまり、あれは悪魔と魔物が交じり合ったような存在だということだろうか。

 悪魔共の生態がますます理解できないのだが――今は無駄なことを考えている余裕はない。

 その姿を観察しながら思考を巡らせ、その倒し方を模索する。



(弓を使ってはいるが……それだけではないな。あの腰についている装備は槍か? 在り方自体は騎兵に近いが……)



 弓矢による遠距離攻撃と、馬上槍による突撃。

 どちらも、馬上で戦う上ではかなり厄介な攻撃だ。その直撃を受ければ、俺も落馬してしまう可能性が高い。

 つまり、奴の攻撃を受けぬようにしながら他の連中の攻撃を避けつつ、奴を迅速に倒さねばならないのだ。



「――ま、いつも通りだ」



 口元を歪め、呟く。

 厄介なことに変わりはないが、やってやれないわけではない。

 敵の装備は、ある程度距離を空ける必要のあるものばかりだ。

 つまり、肉薄した状態であれば奴の攻撃には対処しやすい。

 その代わり、周囲の連中の相手は少々難しいことになるが――



「セイラン、俺はあの馬野郎に集中する。周りの悪魔共のことは、お前に委ねるぞ」

「クェ?」

「ああ、好きにやれ……任せるぞ」

「ッ……ケエエエッ!」



 それは、歓喜の咆哮であっただろうか。

 どこか嬉しそうな感情を交えて叫んだセイランは、その足で一直線にデーモンキメラへと向かって走り出す。

 体の周囲には先程に倍するほどの風を纏い、近づいてこようとした悪魔共を風の刃で斬り裂き、動きを牽制していた。

 MPは目に見えて減っているが、それでも多少の時間は継続できるだろう。



「『生奪』」



 意識を集中させ、体を僅かに伏せながら両手で野太刀を保持する。

 二色のオーラを纏う野太刀を横手に、俺たちはデーモンキメラへと向けて吶喊し――それを見た奴は、その手にあった弓を背負うと、横にあった突撃槍を取り出していた。

 どうやら、あれで正面から相手をするつもりのようだ。

 接近してしまえば脅威ではないが、その破壊力は決して馬鹿にはならない。

 接触の瞬間、そこを回避できるかどうかが分かれ目となるだろう。

 デーモンキメラもまた、こちらへと駆け出し――瞬く間に、両者の距離は埋まる。

 刹那――


 斬法――柔の型、流水・渡舟。


 眼前へと迫る槍の穂先へと、野太刀の刀身を添わせる。

 その瞬間、セイランは僅かに体を左側へと傾け――軌道をほんの僅かに逸らされた突撃槍は、俺の脇腹を掠めて貫いてゆく。

 そして、槍の上を走らせた俺の刃は、そのまま悪魔の首を半ばまで斬り裂いていた。



「……っ、セイラン!」

「ケェェエエエエエエエエッ!」



 血が飛沫を上げるが、奴の殺気は未だに衰えていない。

 それを察知した俺は、即座にセイランへと継続を命じた。

 セイランは纏っていた風を解放し、周囲にいた悪魔共を一気に吹き飛ばす。

 空白地帯となった俺たちの周囲、それでも体勢を低くしてその場に残っていたデーモンキメラは、風が収まると同時に再び動こうと構え――そこに、俺たちは飛び込んだ。



「『生奪』……!」

「ケェァアッ!」



 跳躍するように接近したその一撃。

 俺の構えた刃は悪魔の首を、そしてセイランが振り下ろした剛腕は悪魔の下半身を。

 二つの一閃は同時に放たれ――デーモンキメラの人型部分を、完全に破壊していた。

 異形の下半身だけが残された体は横倒しに倒れ、緑の血液が地面を汚してゆく。

 刃を振い血を落とした俺は、その様に笑みを浮かべてセイランへと告げた。



「さあ、次に行くぞ。まだこいつが他にいないとも限らんからな」

「クェ」



 不敵に頷くセイランにこちらも満足して頷き、再び駆け始める。

 強敵を倒したからと言って、戦いが終わったわけではない。

 全ての敵を駆逐するまで、この戦場は終わらないのだ。

 差し当っては、この周囲の騎兵共を殲滅しなければならないだろう。

 ――俺たちは笑みと共に、周囲に群がる悪魔共へと刃を向けた。





















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