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128:集団戦の強み












 成長武器である餓狼丸と、称号スキルである《剣鬼羅刹》。

 ワールドクエスト――と言うよりは大規模イベントの報酬として手に入れたこの二つは、ある共通した特徴がある。

 即ち、対集団戦・・・・に特化しているという点である。

 広範囲にスリップダメージを展開する餓狼丸の限定解放と、周囲の敵が多ければ多いほどこちらの攻撃力が上昇する《剣鬼羅刹》。

 これら二つを同時に渡してきた運営は、俺がこれからも集団に突撃していくことを想定していたのだろうか。

 まあ、実際の所――



「その思惑に乗ってる形になるのかもな、これは!」



 黒いオーラを纏いながら地を駆ける。

 周囲から集まってくるオーラは大量であり、餓狼丸はまるで黒い旋風を纏っているかのような様相だ。

 そんな尾を引くオーラを纏いながら、俺は眼前の悪魔へと向けて突撃していく。

 振るう刃は袈裟懸けに――レッサーデーモンの体を、容易く斬り裂いていた。



「く、はは! こりゃあいい調子だな!」



 《餓狼の怨嗟》によって、餓狼丸の刀身は黒く染まりつつある。

 そのスピードはフィリムエルを相手にしていた時よりも速いが、想像していたよりは遅い。

 恐らく、これはスリップダメージによって吸収したHPの量に依存しているためだろう。

 割合でダメージを与える《餓狼の怨嗟》は、当然ながら最大HPが多い奴に対し高い数値でダメージを与えている。

 つまり、フィリムエルに対して与えていたダメージは数値で見ればかなり大きく、それだけ攻撃力の上昇速度も速かったのだ。

 とはいえ、今回は敵の数が多い。吸収する量は、フィリムエルを相手にしていた時よりは多いようだ。



「ふッ!」



 飛来した魔法を斬り裂き、横合いから振り下ろされた剣戟を流水で受け流す。

 そのまま体勢を崩したデーモンナイトの胴を半ばまで断ち、振り返り様の一閃で首を斬り裂きながら、俺は周囲の状況を確認する。

 大幅な攻撃力の上昇によって、レベルの上がっているレッサーデーモンやデーモンナイトが相手でも十分以上に戦えている。

 《インファイト》による上昇がどの程度なのかは分からないが、元の攻撃力と比較すればかなりの上昇であることは間違いないだろう。

 まあ、このスリップダメージが発生していること自体が少々問題ではあるのだが。

 しかし、仲間たちはルミナから定期的に回復魔法が飛んでいるため、それほど問題なく対処できているようだ。



「だが、少し少なくなってきたか……セイラン!」

「クェエエッ!」



 俺の声に応え、セイランが悪魔共を蹴散らしながらこちらへと駆けてくる。

 それに合わせて跳躍した俺は、揺れる手綱を掴んでセイランの背に跳び乗った。

 俺が乗ったことを確認したセイランは、再び風を纏って正面へと突撃する。

 その強靭な前足で悪魔共を蹴り飛ばし、踏み潰しながら、強引に前へ。

 風を纏ったセイランの突破力はかなりのものだ。相応のMPを消費するが、進化してMPも上昇しているため、それなりに持続することも可能なようである。

 尤も、必要な時だけ使うことを覚えたことの方が大きそうではあるが。



「よし、いいぞ! 行けっ!」

「クェッ!」



 ある程度敵陣の内部に踏み込んだところで、俺はセイランの背から跳躍する。

 そのまま悪魔の頭上まで到達した俺は、その肩口へと向けて刃を振り下ろした。


 斬法――柔の型、襲牙。


 鎖骨の隙間から心臓を穿ち、そのまま上から押し倒す。

 そして、悪魔の肉体そのものをまるで鞘のように扱いながら、俺は正面にいる悪魔へと向けて刃を抜き放った。



「『生奪』」



 二色のオーラを纏う餓狼丸に斬り裂かれたレッサーデーモンは、血を噴き出しながらその場に崩れ落ちる。

 俺はすぐさま刃を袖口で拭い――一斉に襲い掛かってきた悪魔共に対し、後方に跳躍して回避しつつ刃を繰り出す。

 称号と解放によって強化されている餓狼丸の攻撃力は凄まじいものだ。

 余裕があるならば現在の攻撃力でも確認したいところだが、流石にメニューを開いている場合ではない。

 こちらに追いすがろうとした悪魔の腕を斬り飛ばし、セイランが強引に押し開いた道に着地する。

 退きながら戦うということもできるが――ああ、やはりそれでは面白くない。

 俺は口角を笑みの形に歪めながら、前へと足を踏み出していく。


 歩法――間碧。


 向かってくる敵の動き、そしてその後ろに続く連中の動きを先読みし、その攻撃が届かぬ場所を理解する。

 そして、その隙間へと身を滑りこませながら、俺は刃を振るった。

 胴や肋骨の隙間、そして首――確実に殺し得る場所を狙い、刃を滑りこませるのだ。

 斬りつけながら先に進むことで悪魔共の体を陰として利用し、死角から繰り出す刃の一撃が確実に命脈を断ち斬っていく。



(凄まじい斬れ味だな……普段からこれだけあったなら面白いんだが)



 バターに熱した刃を入れているかのような軽い感触に、思わず笑いを零す。

 この限定的な状況下におけるブーストではあるのだが、ここまで攻撃力が上がっているのは中々小気味がいい。

 餓狼丸の刀身を確認すれば、既に半ば以上まで黒く染まっていた。

 さて、これが切っ先まで染まった時、果たしてどうなるのか――その答えは、こいつらを斬り続けていれば分かるだろう。



「ガアアアアアアアッ!」

「しッ!」



 悪魔の一団を斬り終えたところで、その先にいた巨体のレッサーデーモンが、手に持った棍棒を振り下ろしてくる。

 巨体に加え、長い腕を持つ、まるでゴリラのような姿のレッサーデーモンだ。

 その長い腕を利用し、遠心力まで味方につけたその一撃はかなりの破壊力を持つだろう。

 故に、俺は横に体をずらしながらも前へと前進する。


 斬法――柔の型、流水・柄断。


 振り下ろされる棍棒、その持ち手付近に刃を乗せ、垂直に滑らせる。

 その瞬間、刃が触れたところから、棍棒は綺麗に切断されて後方へと吹き飛んでいった。

 回転しながら吹き飛んだ棍棒により、何体かの悪魔たちが巻き込まれて叩き潰されていたが、構いはしない。

 手元の棍棒をいきなり叩き斬られ、動きを止めたレッサーデーモン。その傍へと肉薄した俺は、相手の脇腹に刃の切っ先を添えた。


 斬法――柔の型、射抜。


 柄尻を撃ち据えた餓狼丸は、一直線にレッサーデーモンの臓腑を蹂躙する。

 上昇した攻撃力に加え、《死点撃ち》の効果が乗った一撃だ。

 そのダメージに耐えられるはずも無く、レッサーデーモンは刃を引き抜くと同時にその場に崩れ落ちていた。



「さて……向こうもかなり進んできたようだな」



 前方に意識を集中すれば、こちらまで剣戟の音が響いてくる。

 どうやら、正面から戦闘を行っている『キャメロット』の連中が近づいてきているようだ。

 場所としてはかなり近づいてきているし、これ以上前に出ると合流することになってしまうだろう。

 別に邪魔とまで言うつもりは無いが、正直な所やり辛い。

 あまり距離が近づきすぎぬよう気を付けながら、近距離で発動してきた風の範囲魔法を斬り裂き、返す刃で悪魔の胴を両断する。


 数で言えば『キャメロット』の連中の方が多いわけだし、程なくしてこちらに辿り着いてくるだろう。

 餓狼丸を解放していることもあるし、あの連中とはあまり合流したくないのだが――



「――先生!」

「ん、どうした緋真!」

「後ろの方、新手が迫ってきてます!」



 炎を放ち敵を蹴散らしてこちらに近づいてきた緋真の言葉に、俺は目を見開く。

 周囲の動きを把握しながら後方を確認すれば、そちらから騎馬に乗った悪魔の一団が近づいてくる姿が目に入った。

 まさか、このタイミングで増援があろうとは。

 奴らがこちらを迂回して、『キャメロット』の連中に横から襲撃をかけられたら面倒だ。



「チッ……セイラン!」

「クケェッ!」



 俺の呼び声に反応したセイランは、再びこちらへと舞い戻る。

 即座にその背へと跳び乗った俺は、集合した緋真とルミナに対して鋭く告げた。



「お前らはここで戦闘を続行しろ。あちらは俺たちが相手をする」

「……マジですか」

「セイランならともかく、お前のバトルホースじゃ厳しいだろう。こっちに任せておけ」



 告げて、餓狼丸の解放を解除する。

 騎乗戦闘では餓狼丸を使い続けることは難しい。

 やろうと思えばできないことはないが、折角購入したのだから野太刀を使いたい所だ。

 まあ、この刀身が黒く染まり切るまで発動を続けたらどうなるのかは気になっていたが――今は気にしても仕方がないか。



「こっちのことは任せるぞ、緋真」

「分かりました、こっちはこっちで片づけておきますよ」

「いい返事だ――行くぞ、セイラン」



 俺の言葉に反応し、セイランは強く地を蹴る。

 向かう先から迫るのは、騎獣に乗った悪魔の群れだ。

 数にして数十と言った所か。先ほど来た数よりは少ないが、俺一人で相手をするのは中々骨が折れそうだ。

 だが――



「ああ、いい訓練になりそうだ。なぁ、セイラン」

「ケェッ!」



 威勢よく声を上げるセイランに笑みを浮かべ、俺は背から野太刀を抜き放つ。

 敵は数こそ多いが、やはり騎馬にはあまり慣れてはいない様子だ。

 そして乗っているのがバトルホースである以上、能力では確実にセイランの方が上である。

 やりようはある。方法を確立し、後はそれを安定化させるだけだ。



「さて、惜しんでいる余裕はない、本気で行くとするか」



 呟き、俺はセイランにMPポーションを与える。

 まだそこまで減っているわけではなかったが、それでも本気で戦闘をする可能性がある以上は全快の状態にしておきたい。

 嘴で瓶を咥えて器用にポーションを飲み干したセイランは、その身に逆巻く風を纏い始める。

 それと共にセイランの駆けるスピードは一気に上昇し、敵との距離が一気に縮まってゆく。

 奴らは迂回しようとしていたのだろうが、向かってくる俺の姿を見て迎撃を選んだのだろう。

 武器を構え、魔力を滾らせ、俺を殺そうと叫びを上げる。

 それに対し、俺もまた戦意を滾らせ、笑みを浮かべながら呟いた。



「やる気じゃねぇか。いいぜ、やってやる――蹴散らすぞ、セイラン」

「ケエエエエエエエッ!」



 戦意を滾らせるセイランの様子に満足しながら、俺は改めて刃を構える。

 さて、どのようにして戦うか――笑みと共に呟き、俺はセイランと共に突撃を敢行した。






















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