125:CMの反響
一日に時間を分けて二度ログインするということは少ない。
それは俺や緋真が、このゲームに対して修行の一環であるという認識を持っているためだろう。
基本的に、俺たちの修行は夕飯の前までだ。午前と午後の修行の後は風呂に入って夕飯を食って、自由時間となる。
ゲームを少し早めに終えて風呂に入った俺たちは、いつも通りの時間に大広間での夕食とすることにした。
夕食では、基本的に仕事を終えた者たちは一堂に会することになる。
それは、明日香のような住み込みの門下生だけではなく、一族の運営側の者も含まれる。
そこには俺の両親もいるのだが、基本的に席は離れているため、あまり会話をすることはない。
別に不仲というわけではないのだが……どうにも、話が合わないのだ。
両親と話していると、まるで別の世界に住んでいる者と会話をしているような気分になる。
そういう意味では、あのゲーム内で現地人と話しているような感覚に近いのだろうか。
そう思い、思わず苦笑を零していた。
「先生? どうかしたんですか?」
「いや、大したことじゃないさ」
問いかけてきた明日香の言葉に、苦笑を浮かべたまま首を横に振る。
大して意味の無い感傷だ。少なくとも、今の俺にとっては。
それは、かつて戦場に出る前の、ただの人であった俺が抱いていた感情なのだから。
燻る怒りを鎮めながら食事を進め――ふと視線を向けたテレビに、見覚えのある映像が映し出されていた。
「お……さっき許可したばっかりだってのに、もう放映されてるのか」
「え? ……ふぁっ!?」
俺の視線を追ってテレビの方へ向き直った明日香は、何やら素っ頓狂な声を上げる。
一応、公開されるとは言っていたのだし、その行動の速さに驚いたのだろうか。
まあ、あらかじめ用意していたものから編集する必要が無かったということかもしれないが。
映像の最初に映ったのは、近づきつつある悪魔の軍勢と、それと向かい合う俺とルミナの姿だ。
直後、俺の顔のアップから口元に寄せられ、俺の口元が笑みに歪んだ直後、テーマ曲らしい音楽と共に映像が切り替わる。
次に現れたのは悪魔の群れと戦う緋真の姿だ。
炎を纏いながら次々と悪魔を斬り伏せている姿が映し出されている。当時の戦いぶりは見ることができなかったし、なかなか興味深い映像だ。
次に映し出されたのは、黄金に輝く剣を携えたアルトリウスの姿。
『キャメロット』の軍勢を率いて悪魔へと突撃していく姿は、実に勇ましいものだ。
それに続くように、ライゾンやら、見覚えのない騎士っぽい姿をしたプレイヤー――そして、城壁の上で身を乗り出しながら叫ぶエレノアの姿が映し出される。
どうやら、基本的にはこの間のイベントの映像を元にしているようだ。
だが、最後に映し出されたのは、俺がフィリムエルと戦った際の映像だ。
奴の振るう槍を掻い潜りながら刃を振るい、交錯する姿。
互いの武器が激突した際に散った火花と共に画面はホワイトアウトし――それと共に、ゲームのロゴが表示されてCMは終了した。
「あんなとんでもないゲームを作るだけあって、仕事も早いこったな……っと」
ふと気が付けば、食事中の大広間は完全に静まり返っていた。
そういえば失念していたが、あの映像を見たら一族の人間は俺と明日香だと気づいて当然だったな。
特に、俺の戦いぶりをよく知る師範代たちは、一目で気が付いたようだ。
「なあおい、師範。あれってもしかして――」
「草場さん、そこはお兄様に聞く必要はありませんよ……ねぇ、本庄さん?」
「え、ええと……その、幸穂さん、これはですね」
「いやはや、随分と興味深い映像でした。これは是非とも詳しく話していただかないとなりませんね?」
「み、水無月さんまで!? せ、先生、ちょっと助け――ああああああああああああ」
そして、俺があのゲームをプレイしている理由も即座に理解できたのだろう、師範代たちは明日香の肩を掴み、そのまま引きずるようにしながら部屋の外へと連行していった。
口を挟む暇も無く連れ去られた弟子の姿をしばし呆然と見送り、俺は嘆息を零して食事を再開した。
まあ、そう長くはかからないだろう。戦闘が始まるまでには戻ってくれば何とかなる。
しかし、ゲームのことを聞き出したとして、あの連中はどうするつもりなのだろうか。
あのゲームが修行に有用なことは間違いないのだが流石に一族揃って利用するとなると中々難しい。
その辺りについては運営側が考えることであろうが……一応、議題に出たら賛成はするようにしておくか。
本当に導入することがあれば、中々いい教材になりそうだ。
「……まあ、ゲームの中で面倒を見るのは一人だけだがな」
流石に、ゲームの中で何人も相手をさせられるのは勘弁だ。
そもそも、敵と戦う感覚を養うためにプレイするのだろうから、普段の稽古と同じことをしていては意味が無い。
師範代たちも、門下生たちも、自分なりの戦いというものを身に付けてもらわねば困る。
まあ、師範代たちもわざわざ俺に言われるまでも無いだろうが。
「しかし、あいつらちゃんと九時までに戻してくれるんだろうな?」
下手をすると長引きそうな尋問に嘆息しつつ、俺は集中する視線の中、己の食事を片付けたのだった。
* * * * *
時間の十五分前ほどになり、俺は再度ログインした。
緋真は疲労困憊な様子ではあったものの、五分程度前には部屋に戻っていたようである。
どうやら、このゲームと俺たちの関係を洗いざらい説明させられたようであるが、まあ問題はあるまい。
「何で助けてくれなかったんですか……」
「いや、アイツらはお前の話を聞きたかったみたいだからな」
「おかげで凄い問い詰められたんですけど……最近の先生の上達っぷりとか知ってますし」
「別に隠すようなことでも無かろう。っていうか、何で隠してたんだ」
「……べ、別にー」
下手な誤魔化しで視線を逸らす緋真の様子に嘆息しつつ、俺は周囲の状況を確認する。
人の数は、どうやらかなり増えている様子だ。
その殆どが『キャメロット』のメンバーであるようだが、どうやら一部は他のプレイヤーが含まれているようだ。
恐らく、その筆頭は『エレノア商会』の面々だろう。
『キャメロット』と提携を結んでいる彼らは、その契約によってボス戦の護衛を引き受けて貰っていたはずだ。
そのおかげか、幾人か見知った顔を見かけることができた。
「クオン、戻ってきたのね……新しい国に来たと思ったら、早速やらかしているわね」
「いや、偶然出くわしたから助けただけだったんだが」
「それに関しては間違いなくいい仕事だったんだけどね……イベントに遭遇するペースが早いのよ貴方は」
嘆息しながらこちらに近づいてきたのは、フィノを伴ったエレノアだった。
どうやら、新しいイベントが発生したことにより、急いでこちらまで出てきたようだ。
「貴方たちがログアウトしている間に、ワールドクエストのアナウンスがあったわ。正確には、グランドクエスト直結ワールドクエストってことらしいけど」
「……どういうことだ?」
「つまり、国の防衛に関わることはグランドクエストに含まれていて、これはその一部をワールドクエストの扱いとしたってことでしょう」
エレノアの説明に、何となく納得して首肯する。
確かに、この牧場を護る戦いも、グランドクエストの一部と言えばその通りだろう。
ともあれ、戦いの準備は整いつつあるということだろう。
「とりあえず、貴方たちが注文していたアイテムも持ってきてあるわよ。確認をお願いね」
「お? ああ、了解だ。ちょっと待ってくれ」
表示された精算画面に従い、アイテムのトレードを行う。
エレノアから提示されているのは、先ほど注文した野太刀と消費したポーション、それからノエルに頼んでいた宝石細工だった。
全て揃うとそれなりの値段ではあるのだが、ここに来るまでに手に入った素材類をすべて出せばほぼ相殺できる程度の値段だ。
受け取ったバングルは右の篭手の下に、そして野太刀は背負う形で装備する。
この野太刀は鞘の半ばまで切れ目が入っており、途中まで引き抜くことで鞘から抜き放つことができるのだ。
流石に背負う形で刀を装備した経験はあまりないため、抜くのはともかく戻すのには少々手間取りそうだ。
「……しかし、全身刃物まみれね、貴方」
「その重武装感、カッコいい」
「あー……確かに、ここまでゴテゴテしたのは久しぶりだな」
左の腰には餓狼丸を佩き、右には二振りの小太刀を配置している。
そして背には、今回購入した野太刀を装備している状態だ。
物々しいと言われれば、決して否定はできない重武装っぷりだろう。
「これで戦う準備は完了したかしら? アルトリウスが探していたわよ」
「これから会いに行くところだ。まずはどんな状況になっているのか、聞かせて貰うとしよう」
果たして、どのような戦になることやら。
背負った野太刀の重さを確かめながら、俺は湧き上がる高揚に笑みを浮かべていた。





