116:新たなる国へ
ボスを倒し、手に入ったのはグリフォンの素材とスキルスロットチケット。
チケットはいつものこととして、どうやら今回も初回討伐特典とやらがあるらしい。
ざっと見た感じ、該当するアイテムはこれであろう。
■嵐王の風切羽:素材・イベントアイテム
グリフォンの魔力の源となっていた羽。
グリフォンそのものよりも強力な魔力を有している。
グリフォンの羽ではなく、とある強力な魔物の羽であるらしい。
「……今回の特別報酬はよく分からんな」
以前の形見の剣のような、対処が分かり易い品物ではない。
しかし、今の段階では考えても仕方ないだろう。判断に足りる情報が無いのだ。
俺は小さく嘆息しつつ、手に入れたスキルスロットチケットで、新たなスキルスロットを解放する。
尤も、取得するスキルは既に決まっているわけだが。
以前手に入れていたスキルオーブを使用して《インファイト》を習得し、後はいつも通りのレベルアップ処理をして終了だ。
これでどの程度火力を補えるのかは分からんが、エレノアに頼んでいたアイテムも含めればそこそこいい所まで行けるのではないだろうか。
「緋真、お前は何を取ったんだ?」
「《高速詠唱》です。《術理装填》を使いこなすには、もう少し早く詠唱したいですから」
何気なしに問いかけた問いに対する返答に、成程と頷く。
確かにそれは必要なスキルだろう。あのスキルのお陰で以前より魔法を使う頻度が上がっているわけだし、その辺りの補強は優先事項だ。
しかし、緋真はある程度先の育成が見えているのに対し、俺はまだ十分であるとは言えない。
他にどのようなスキルを取るべきであるのか……新しいスキルを含めて調整して、そこで補うべき要素を探していくか。
ステータス画面を閉じ、早速先へと進もうとして――ふと、耳慣れぬ音が耳に届く。
「メール……?」
「あれ、先生もですか? 私にも来ましたけど」
視界の端に表示されたメールアイコンをフォーカスすれば、ちょうど今届いたメールの内容が表示された。
これはどうやら、運営からのメールであるらしい。
一体何故、このタイミングでメールを送ってきたのか。眉根を寄せながら内容に目を通し、俺は思わず沈黙していた。
「え、公式CM? 私たちが?」
どうやら、緋真の方に届いたメールも同じ内容であったらしい。
ベーディンジアが解放されたことにより、アルファシア内のプレイヤー密度が減ることから、ようやくプレイヤー第二陣の受け入れを開始するらしい。
と言っても、すぐに受け入れが始まるわけではないようだが、ともあれそんなプレイヤー向けのテレビCMを公開するという話のようだ。
そして、そのCMに使用するのが、俺たちプレイヤーが実際に動いていた映像であるらしい。
メールの下部には、CM出演を了承するかどうかのアンケートと、俺が映っているシーンの抜粋が置かれている。
映像を再生してみると、確かに見覚えのあるシーンが、やたらと凝ったカメラワークで記録されていた。
「《悪魔の侵攻》の時の、ルミナと前に出たシーンと……フィリムエルと戦っていたシーンか。こんなものを記録していたとはな」
軍勢で攻めてくる悪魔に対し、俺とルミナが待ち構える……俺が鬼哭を使う直前のシーン。
そして、フィリムエルと交錯し、互いに武器を振るうシーン。
まあ、これであれば問題は無いだろう。特に見られて困る術理を使っているというわけでもないしな。
「私はイベント中に大量の悪魔を相手にしていた時のシーンですね。よく撮ってましたねこんなの」
「ふむ……俺としては構わんのだが、お前はどうだ?」
「私もいいですよ。完成した映像がちょっと楽しみです」
「わ、私もお父様と一緒に映っているのですか? それは光栄です!」
ルミナに関しては俺が許可を出す立場なのだろうか?
まあ、本人も乗り気であるようだし、そこは問題ないか。
CMの出演は了承し、メールのウィンドウを閉じる。予想外の出来事こそあったが、これで次なる国への進出が可能となったわけだ。
「よし、さっさと行くとするか。新たな場所、新たな敵だ。楽しみってもんだな」
「先生はそればっかりですね……」
呆れたように呟く緋真に、にやりと笑みを返す。
そのためにゲームをやっているのだ、言うまでも無く当然だろう。
向かうは関所の先、騎兵の国ベーディンジア。そこに如何なる敵がいるものか、期待に胸を膨らませながら先へと足を進めていた。
* * * * *
関所のある山の中は以前とあまり変わらない。出現する敵についてもそれは同じだった。
まあ、同じ山の中なのだからそれは当たり前か。
今回はあまり敵を増やすような真似はせず、さっさと敵を片付けながら先へと進む。
そしてほどなくして、俺たちは山の麓、ベーディンジア王国の国内へと足を踏み入れていた。
「山の中からも少しは見えてましたけど……本当に広い草原ですね」
「この国は平地が多いという話だったしな。まさに前情報通りだが……いやはや、これはまただだっ広いな」
見渡す限りの草原だ。一応、踏み固められた道は続いているため迷うことはなさそうだが、一度道を見失うと少々厄介そうなフィールドである。
出現する敵は気になるが、ここは素直に街道を通っていくこととしよう。
探索をするのは、一度拠点となる場所を発見してからでもいい筈だ。
「で……どうするんですか、先生?」
「まずは人里を見つけることからだな。そこで悪魔の情報を手に入れて、後はその情報次第と言った所か」
「とりあえず第一目標は悪魔、ということですね、お父様」
「そうだな。後は……騎馬の入手を考えてもいいか。この国にはいい馬がいるって話だしな」
この広い国を移動するためには、足となる馬があった方が良いだろう。
この国において、馬を購入するにはどのような手続きを踏むのかはまだ分からないが、とりあえず金は十分余っている。
降ろしてくる必要はあるが、購入するには十分な金額があるだろう。
「馬って《テイム》じゃないと手に入らないんですかね……?」
「ああ、お前も一応乗馬は学んだのか」
「はい、とりあえず一通りは。ちゃんと走らせることもできますよ」
「成程な。お前の分の馬については……どういう扱いになるのか、確かめてみるか」
何かしら手に入れる方法はあると思うのだが、そこはこの国の現地人に聞いてみる他ないだろう。
ともあれ、人里に向かうことに変わりはない。
この街道を進んでいけば、その内立て札なり看板なりに行き当たるだろう。
そう判断しながら歩を進めること数分――俺は、こちらへと近づいてくる気配を察知していた。
「注意しろ、敵が向かってきてるぞ」
「はい。向こう……ですよね?」
「ああ、結構な速さだ。そら、もう見えてるぞ」
相手の移動速度が速かったためか、或いは障害物の無い平原であったためか、緋真も相手の気配を感じ取れたようだ。
こちらへと向かってくるのは二頭の魔物。
遠目でも分かる――あれは、馬の姿をした魔物のようだ。
■バトルホース
種別:動物・魔物
レベル:32
状態:アクティブ
属性:なし
戦闘位置:地上
しなやかな肉体に筋肉の浮き出た、立派な馬だ。
あんな馬が野生で暮らしているというのであれば、騎馬の生産地として名高いのも頷ける。
まあ、あれをどうやって飼い慣らしているのかという疑問はあるが――ともあれ、向かってくるのであれば蹴散らすまでだ。
馬たちは風のように平原を駆け抜け、俺たちの方へと突進してくる。
その速度はグリフォンにも劣らぬほど。まあ、トップスピードに乗ってそれなのだから、グリフォンの方がスピードでは上なのだろうが。
死角の無い中で突進してきている以上、その動きを見極めることは容易い。
俺たちは余裕をもって、その突進を回避していた。
斬法――柔の型、筋裂。
突進攻撃に合わせて、篭手で押さえた刃を置く。
その瞬間、自ら刃に飛び込んだバトルホースは、その体の側面を大きく斬り裂かれていた。
反対側では、どうやら緋真も同じ方法で攻撃していたらしく、もう一体の馬も同じくダメージを受けている。
そして通り過ぎた先へは、ルミナの放った魔法が追撃を行っていた。
どうやら防御力そのものは大したものではないらしく、今の攻防だけでも結構なダメージを受けている様子だ。
「少し物足りんが――仕方ないか」
魔物とは言え、元は草食動物だ。
あまり戦闘に向いた体の構造をしているわけではない。
馬である以上、蹴りの威力には注意せねばならないだろうが、逆に言えば注意すれば当たるようなものではない。
小さく苦笑し、俺はダメージを受けつつもこちらへ反転するために足を止めた馬へと、己の左腕を振るっていた。
左手に持っていたのは、レイドクエスト中にエレノアから押し付けられた鉤縄だ。
左腕に巻き付けて持っていたそれを、俺は一気に伸ばして馬の首へと巻き付けていた。
「――――ッ!?」
「意外と便利だな、こりゃ」
歩法――跳襲。
グリフォン戦の反省を生かし、使えないかと取り出していたのだが、思ったよりも使い所がありそうだ。
俺は内心で笑みを浮かべつつ、巻き付いた鉤縄を引っ張りながら跳躍していた。
魔物と力比べをすることは無意味だ。多少拮抗できたとしても大した意味はない。
それよりも、向こうの反発する力を利用して一気に接近するべきだろう。
馬が引く力と俺の跳躍、その力を完全に合流させて、俺は大きく跳躍する。
そして、馬の上を飛び越えながら鉤縄を短く持ち、馬の向こう側へと落下していた。
「よっとぉ!」
「ヒヒィン!?」
着地の瞬間に己の体重をかけて、馬のバランスを強引に崩す。
そして次の瞬間、俺は馬の横っ腹へと突きを放ち、その内臓を穿っていた。
まあ、流石に馬の内臓の正確な位置までは把握していないが、生物である以上大まかな場所は分かる。
貫いた刃を捻り、その臓腑を抉れば、《死点撃ち》の効果によりバトルホースのHPを完全に削り取ることに成功した。
「もう一体は、と――」
馬の巨体に押し潰されぬよう退避しながら刃を引き抜き、血を振り落とす。
そこでもう一体の方へと視線を向ければ、そちらは緋真の魔法によって足止めされたところをルミナによって斬り捨てられていた。
ふむ、また太刀筋も上達してきた様子だ。
最近は飛びながらの戦闘も多かったが、それのお陰か空中で刃を振るうことに慣れてきたようにも思える。
これに関しては流石に俺たちも教えようが無いし、ルミナが自分で見出していく他に道は無いだろう。
新しい術理を教えるかどうかについては微妙な所だな。多少業を見繕っておいた方が良いか。
『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』
戦闘が終了したので、とりあえずアイテムを回収する。
ドロップしたのは、馬の毛と革だった。馬の革は一体何に使えばいいのかはよく分からんが、新素材なのだから無駄にはなるまい。
「先生、いつにも増して無茶苦茶な動きでしたね」
「なんだその言い草は。俺なりに機動力のある相手に対処する方法を考えた結果だぞ?」
「その結果がスパイアクションか忍者アクションになるとは思いませんでしたよ……けど、どうなんですか、鉤縄って?」
「意外と便利だぞ? 攻撃そのものとして使い易い訳ではないが、動きを止めたり移動したりにはそこそこ使える」
尤も、俺自身あまり慣れている道具ではないため、使いこなせているとは口が裂けても言えないが。
これに関しては少し練習が必要だろう。久遠神通流でも、流石に鉤縄を使うような術理は無い。
巻きつけることなく引っ掛け、そして手首のスナップだけでそれを外せるようにはしたいものだ。
自分なりに扱いやすい方法の模索というのも、また中々面白そうだな。
鉤縄を回収して改めて左腕に巻き付けて固定し、俺は二人を伴って再び街道へと戻る。
とりあえず、何かに行き当たるまではこの街道を進んでいくこととしよう。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:33
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:27
VIT:20
INT:27
MND:20
AGI:15
DEX:15
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.4》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.22》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.21》
《MP自動回復:Lv.19》
《収奪の剣:Lv.19》
《識別:Lv.20》
《生命の剣:Lv.23》
《斬魔の剣:Lv.15》
《テイム:Lv.18》
《HP自動回復:Lv.17》
《生命力操作:Lv.15》
《魔力操作:Lv.8》
《魔技共演:Lv.5》
《インファイト:Lv.1》
サブスキル:《採掘:Lv.10》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:33
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:31
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:28
VIT:19
INT:23
MND:18
AGI:16
DEX:16
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.2》
マジックスキル:《火魔法:Lv.26》
セットスキル:《闘気:Lv.20》
《スペルチャージ:Lv.19》
《火属性強化:Lv.18》
《回復適正:Lv.14》
《識別:Lv.19》
《死点撃ち:Lv.19》
《格闘:Lv.19》
《戦闘技能:Lv.18》
《走破:Lv.18》
《術理装填:Lv.9》
《MP自動回復:Lv.6》
《高速詠唱:Lv.1》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.10》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:28
■モンスター名:ルミナ
■性別:メス
■種族:ヴァルキリー
■レベル:6
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:26
VIT:20
INT:34
MND:20
AGI:22
DEX:20
■スキル
ウェポンスキル:《刀》
マジックスキル:《光魔法》
スキル:《光属性強化》
《光翼》
《魔法抵抗:大》
《物理抵抗:中》
《MP自動大回復》
《風魔法》
《魔法陣》
《ブースト》
称号スキル:《精霊王の眷属》





