108:ノースガード砦
展開した部隊と共に、北東へと向かう。
形としては、列をなして進む騎士団の後ろに続くように行軍していた。
その先頭に立っているのは俺とアルトリウス。集団の指揮に秀でた彼と、騎士団と顔見知りである俺を前に出す形だ。
ちなみに、『エレノア商会』の面々は『キャメロット』の部隊に囲まれ、護衛される形で進んでいる。
別に物資を外に出して運んでいるというわけではないのだが、念のためということだろう。
「そろそろ到着だな。敵はどう動くと思う?」
「そうですね……状況からして、籠城の可能性が一番高いと思います」
「あいつらが増援を待つと?」
「向こうから打って出てくるというのであれば実に好都合ですが、わざわざ地の利を捨てる理由も無いでしょう。悪魔は本来大軍勢のようですし、隣の国から増援がやってくる可能性も否定できない」
籠城というのは前提として、味方の援軍がやってくるまで耐え忍ぶという戦術だ。
奴らが援軍を待っているのであれば、砦を最大限利用しての防戦を仕掛けてくるだろう。
そうなると、やはり想定通りの砦攻めだ。城壁をどうにかするか、門をどうにかするか――まあ、既にある程度想定はあるので、そちらについては何とかなるだろう。
「ん……どうやら、先頭が到着したようですね。僕たちは横にずれて進みます」
「一番槍だからなぁ。先陣を飾るからには派手に行きたいところだ」
「あんまりやり過ぎないでくださいよ?」
足を止めた前列の騎士たちの横を進み、軍の最前線まで足を進める。
到着した先で見えたノースガード砦の上部には、確かに悪魔共の姿が散見される。
だが門は閉ざされ、悪魔共がこちらに攻撃を仕掛けてくる気配はない。
まだ魔法の有効射程外というのはあるだろうが、連中も思ったよりは理性的なようだ。
さて、どう切り崩すか――頭の中でイメージを描いていた所に、横から声がかかる。現れたのは、今回の騎士団側の指揮官であるグラードだった。
「到着だな。ここからが本番だ」
「そちらの本番はまだ先でしょう。先に、俺たちが暴れさせてもらいますよ」
「ふっ、そうだったな」
今回の作戦は、彼の失態を打ち消すためのものでもある。
俺の進言によって撤退を選んだのだから、その協力はしなければならないだろう。
さて、さっさと門をこじ開けるとして……あの城壁をどうやって攻略するかだな。
「では、先陣はお前たちに任せる。必要であれば戦力を出すが」
「大丈夫ですよ。既に作戦は組み上がっていますので」
「そいつは俺も聞きたいんだがな。お前、一体どうやって攻めるつもりだ?」
口で言うのは簡単だが、攻城戦というものは中々に難しい。
まず、門を破って中に入らなければならないわけだが、生半可な攻撃では門の破壊は不可能だ。
かと言って、鈍重な攻城兵器で門を狙おうとすれば、城壁の上から狙い撃ちにされるだけだ。
では、梯子などで城壁を登った場合はどうか。こちらはある程度のスピードが出るため狙い撃ちはある程度避けられるが、少数でしか登れないため敵陣の制圧は難しい。
であれば、どうやって砦攻めを行うか――その答えを、アルトリウスは既に見出していた。
「全体を7班に分けます。梯子での攻撃を6班、そして破城槌での攻撃を1班です。まずは梯子で城壁の確保を、その上で破城槌で門を破ります」
「オーソドックスだが……梯子攻めもそう簡単な話じゃないぞ? 数が少ない以上、各個撃破は避けたいだろう」
「ええ、当然です。なので、梯子の前に城壁の上を混乱させます」
「何だ、矢で狙いでもするのか?」
遠距離攻撃で牽制し、相手が混乱したところに梯子を掛けて上を押さえ、その間に門を破る。
城攻めとしてはオーソドックスな戦法だろう。だが、アルトリウスにしては少々普通過ぎる。
何か企んでいるのだろうか、と――疑問を抱いたちょうどその時、エレノアが横から俺の肩を叩いてきた。
そちらへと視線を向け、その手の中にあるものを目にし、思わず半眼を向ける。
「貴方はこれを使ってね、クオン」
「クオンさんと、ルミナさんに先行してもらいます。それで城壁の上部を混乱させている間に梯子を掛ける作戦です」
「……おい、これ鉤縄じゃねぇか」
頑丈なロープと、その先端に結びつけられた熊手のような金具。
どこからどう見ても鉤縄だった。まさか、このようなアイテムまで用意していようとは。
「貴方なら扱えるかと思ってね」
「まあ、確かに扱えるけどな……先に二人だけで突撃してこいってか」
「ルミナさんは着地せず、上空からの魔法攻撃に徹すれば悪魔からの攻撃も避けられるでしょう。クオンさんについては……別に心配はいらないですよね?」
「言ってくれるな……まあいいさ、期待には応えてやるよ」
「存分にどうぞ。動画撮影はしっかりやりますので」
「映像は公開する約束だったな。分かってるよ」
苦笑しつつ、エレノアが差し出した鉤縄を受け取る。
ロープの強度を確かめ、鉤縄の返しなども見て、使用に耐える状態であることを確認する。
正直それほど使った経験があるわけではないのだが、似たようなものを使って動き回ったことがある。
まさか、あんなスパイ映画じみたことをやらされるとは思わなかったが――その経験が後に生きることになるとは、人生も分からないものだ。
俺が鉤縄の調子を確かめている間にも、アルトリウスの部隊展開は進む。
梯子を利用する6班は、それほど広く展開することなく、まるで弧を描くように砦へと向き合う。
本来であれば数に任せた全方位からの攻撃が望ましいが、今はそれだけの数を準備できる状況ではない。
そのため、互いにフォローし合える距離を保ったままの攻撃を選んだのだ。
各班には『キャメロット』から1パーティ、そして『エレノア商会』から2名が付く。
牽制と戦闘は『キャメロット』側が、そして梯子の修理を『エレノア商会』の2名が担当するのだ。
敵の攻撃に晒される危険な位置であるが、彼らがどれだけスムーズに動けるかは俺とルミナにかかっているだろう。
「さてと……そろそろ、準備も完了しますが、そちらはどうですか?」
「問題はない。いつでも行けるさ」
「では、僕の合図で作戦開始をします。任せますよ、クオンさん」
「ああ、道はしっかりと切り開いてやるとも」
鉤縄を右手に持ちぶらぶらと揺らしながら、左手で小太刀を抜き放つ。
片手が埋まっている以上、使えるのは小太刀だけだ。
尤も、上に登るまでは迎撃程度にしか使わないだろうし、これで問題は無いのだが。
きびきびと動く『キャメロット』の面々は、あっという間に部隊を分け、所定の位置で準備を開始する。
尤も、彼ら自身の準備などそれほど多くはない。
必要なものはインベントリにあらかじめ入れてあるため、単純に位置に着くだけで準備は完了するのだ。
「クオンさん、グラード殿。これで準備は完了です。いつでも作戦を開始できますよ」
「そうか。では――総員、傾注!」
アルトリウスの言葉を受け、グラードは騎士団の面々へと向けて強く声を上げる。
空気をびりびりと震わせるほどのその叫びは、戦列の最後尾まで届いていることだろう。
その強い戦意は――必ず己の居場所を取り戻そうとする、覚悟の表れだった。
「我らは一度、この地を捨てた。王を護るため、民を護るため、騎士としての誇りを捨ててでも! だが、今度は我々が攻める番だ!」
叫びながら、グラードは剣を抜き放つ。
その切っ先は高く、天へと掲げられ――堅い覚悟を示すかのように、日の光を反射して煌めく。
燃えるような瞳の中に確かな決意を宿し、彼は宣言していた。
「我らの城を、我らの誇りを取り戻す! 今日、この日、ここで! 悪魔共を蹴散らし、人類の力を見せつけよ!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
『フルレイドクエスト《ノースガード砦の奪還》を開始します』
次々と抜剣の音が響き、猛々しい雄たけびが地を揺らさんばかりに反響する。
悪魔共は既に警戒態勢だが、そのようなことは気にする必要も無い。
どれだけいようが、全て斬ればそれで済む話なのだから。
「アルトリウス」
「ええ、作戦開始10秒前です」
打てば響く、いい反応だ。
やはり、こいつを味方に引き入れたのは正解だった。
俺が適当に人員を集めたところで、こうはいかなかっただろう。
こいつがいるからこそ、俺は後ろのことを何一つ気にすることなく、あの悪魔共に集中できる。
これほどの環境、望んだところでそうそう手に入りはしないだろう。
「3、2、1――今ですッ!」
「付いてこい、ルミナ!」
歩法――烈震。
前へと倒れるようにしながら、前方へと向けて飛び出す。
地が爆ぜるように土が跳ね、けれどそれが地に落ちるよりも先にもっと先へ。
そんな俺を迎撃しようと、悪魔共は城壁の上から魔法を降り注がせるが、それでは遅い。
俺が通った後を穿つ魔法は完全に無視し、そのまま壁へと突撃して――俺は、砦の門右側の城壁を駆け上っていた。
「おおおおおおッ!」
勢いが完全に死ねば、そこで落ちる。
それよりも早く、俺は強く壁を蹴り、斜め後方へと跳躍していた。
ふわりとした、一瞬の浮遊感。それが消えるよりも早く、右腕に巻き付けていた鉤縄を投げ放ち、門の上部へと引っ掛ける。
次の瞬間、重力に引かれて落下を始めた俺の体は――鉤縄によって弧を描くように、門の反対側の壁まで移動していた。
勢いづいたその状態で壁に足をつけ、さらに疾走することでスピードを増す。
そして――
「お前は反対側だ、上手くやれよ、ルミナ!」
「ッ、は、はいっ!」
そのまま城壁を駆け上りきり、更に大きく跳躍する。
そして空中で鉤縄を手離した俺は、そのまま眼下にいる悪魔へと刃を振り下ろしていた。
斬法――柔の型、襲牙。
鎖骨の隙間から心臓を狙う一撃は、正確に悪魔の急所を穿ち、その命脈を断ち斬る。
そのまま小太刀から手を離した俺は、悪魔を下敷きに着地した体勢のまま、餓狼丸の柄を握っていた。
「――《生命の剣》」
斬法――剛の型、迅雷。
鞘の中から光が漏れ出すかのように、黄金の光を纏う居合が目の前にいた二体の悪魔を両断する。
腰から真っ二つになり、城壁を緑の血で染める悪魔たち。その姿など気にも留めず、俺は周囲の悪魔たちへと宣言していた。
「――皆殺しだ。一匹たりとも逃がしはしない」
その言葉に、殺意を込めたわけではない。
それはただ、必定の結末としての宣告だ。
ただの一匹であろうとも、追い詰め許さず殺し尽くす。
さあ、俺を襲いに来るか、俺から逃げるか――どちらでも構わない。
お前たちがこの場から消えるだけで、俺の目的は完遂されるのだし、結局殺すことに変わりはないのだ。
門の反対側では、ルミナが上空から光の魔法を撃ち込み続けている。
城壁からは魔法が飛んでいるが、下から放たれる魔法であれば避けることは難しくない。
結果として城壁の上には容赦のない光の雨が降り注ぎ、想定通り混乱が発生していた。
その様子に笑みを浮かべながら、刃を振りかざし前進する。
「各隊、前進! 攻城戦の始まりだ!」
そしてそれに合わせるかのように、アルトリウスも行動を開始する。
一斉にこちらへと近づいてくる梯子部隊。彼らが上に登ってくるまで、敵を殺し続けるだけだ。
目につく悪魔は、どいつもこいつもレッサーデーモンばかり。
この程度では興醒めと言った所だが――この後に期待させて貰うとしよう。
■アバター名:クオン
■性別:男
■種族:人間族
■レベル:31
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:25
VIT:20
INT:25
MND:20
AGI:15
DEX:15
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.2》
マジックスキル:《強化魔法:Lv.21》
セットスキル:《死点撃ち:Lv.20》
《MP自動回復:Lv.18》
《収奪の剣:Lv.17》
《識別:Lv.19》
《生命の剣:Lv.20》
《斬魔の剣:Lv.13》
《テイム:Lv.16》
《HP自動回復:Lv.16》
《生命力操作:Lv.13》
《魔力操作:Lv.5》
《魔技共演:Lv.3》
サブスキル:《採掘:Lv.10》
称号スキル:《剣鬼羅刹》
■現在SP:29
■アバター名:緋真
■性別:女
■種族:人間族
■レベル:30
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:27
VIT:18
INT:23
MND:18
AGI:16
DEX:16
■スキル
ウェポンスキル:《刀術:Lv.1》
マジックスキル:《火魔法:Lv.25》
セットスキル:《闘気:Lv.19》
《スペルチャージ:Lv.17》
《火属性強化:Lv.17》
《回復適正:Lv.13》
《識別:Lv.18》
《死点撃ち:Lv.19》
《格闘:Lv.18》
《戦闘技能:Lv.18》
《走破:Lv.17》
《術理装填:Lv.6》
《MP自動回復:Lv.2》
サブスキル:《採取:Lv.7》
《採掘:Lv.10》
称号スキル:《緋の剣姫》
■現在SP:29
■モンスター名:ルミナ
■性別:メス
■種族:ヴァルキリー
■レベル:4
■ステータス(残りステータスポイント:0)
STR:26
VIT:19
INT:33
MND:19
AGI:22
DEX:19
■スキル
ウェポンスキル:《刀》
マジックスキル:《光魔法》
スキル:《光属性強化》
《光翼》
《魔法抵抗:大》
《物理抵抗:中》
《MP自動大回復》
《風魔法》
《魔法陣》
《ブースト》
称号スキル:《精霊王の眷属》





