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107:フルレイドクエスト












 騎士団長との話を終えて、翌日。

 俺たちは、エレノアから伝えられていた時刻に合わせて、ゲームにログインしていた。

 どうやらエレノアたちは、予告通りきっちりと丸一日で準備を終えてみせたようだ。

 集合場所は、話し合いを行った騎士団の詰め所――ではなく、王宮の北側の門だった。

 どうやら、俺たちはそこで騎士団の行軍に合流することになるらしい。



(街の外に出てから合流もあり得るかと思っていたんだが……思ったより好待遇だな?)



 街の中を騎士団が進むということは、パレードの意味合いも含んでいるはずだ。

 騎士団の力を示し、そして悪魔を駆逐してみせるというパフォーマンスである。

 そのため、部外者である俺たちを隊列に加えることはないかと考えていたのだが――さてはアルトリウス辺りが何かしたのか。

 まあ何にしろ、それが向こうの判断であるのならば仕方あるまい。今回の依頼主である訳だし、その辺りの指示には従うしかないだろう。

 ――尤も、戦い方は好きにさせて貰うつもりだが。


 頭の中で戦略を練りつつ集合地点へと到着すれば、そこには既に同盟を結んだ二つのクランの面々が集合していた。

 時間に遅れたわけではないのだが、既に大半が集合しているようだ。



「待ってましたよ、クオンさん」

「おう、アルトリウス。聖火の塔の攻略は終わったのか?」

「ええ、ランタンも手に入れましたよ」



 あの作戦会議の後、俺はエレノアに聖火のランタンを一つ預けていた。

 予想していた通り、あれはいくらでも使える魔物避けのアイテムのようで、地面に置くと周囲が安全地帯へと変わるらしい。

 安全地帯となった場合は当然テントも張れるし、テントがあればその場でログアウトが可能だ。

 ちなみに、地面に置いた場合は他のプレイヤーには触れなくなるようで、ログアウトしている間も盗難の心配はない。


 この情報は塔を攻略中のアルトリウスにも伝えられたようで、彼らもしっかりとランタンを手に入れたようだ。

 中々巧妙に隠されてはいたが、あると分かっていて探せば見つけられないものでもないか。



「で、アルトリウス。今回はどうするつもりだ?」

「どう、と言われましても……今回の作戦は、あくまでも騎士団がメインですからね。僕たちはあくまでも外部協力者ですよ」

「否定はしないが、大人しくしているつもりも無いんだろう」

「ははは、それは勿論」



 虫も殺さなそうな爽やかな笑みで首肯するアルトリウスに、こちらもにやりとした笑みを返す。

 確かに、今回の作戦の主導は騎士団であり、俺たちはただそれに協力する立場だ。

 しかしながら、それにただ従うだけというのも面白くないだろう。

 俺自身、久遠神通流の剣士として、誰かに言われたからと剣を振るうつもりは無いのだ。



「今回のクエストでは、僕たちに独自の指揮系統を認めて貰えました」

「正直、無茶な要求だと思ったのだけど……あの騎士団長様、中々柔軟な人ね」

「……お前さんらの相手をさせられた団長殿には同情するさ」

「言うじゃない。まあ、色々と交渉はさせて貰ったけどね」



 横からかかった声に視線を向ければ、そちらには『エレノア商会』の面々を引き連れたエレノアの姿があった。

 今回のクエストでは、俺のパーティにはエレノア商会から三人が加わる予定となっている。

 具体的にはエレノア、勘兵衛、フィノの三人だ。商会では最古参の三人とのことである。

 尤も、ただパーティを一緒にしているだけであって、隣に並んで戦うというわけではないのだが。

 と言うか、さすがに彼女たちでは俺や緋真の戦闘には付いてこられないだろう。

 エレノアたちへと向けてパーティ参加の申請を飛ばしながら、俺は彼女へと問いかける。



「それで、具体的にはどう動くわけなんだ?」

「クオンさんがイメージしていた通り、僕たちは一番槍として動きます。いの一番に突っ込んで、敵陣を混乱させる役割ですね」

「攻城戦用の道具……梯子や破城槌も用意しているわ。私たちのレイドの作戦目的は門の解放か破壊になるわね」

「成程、そこを騎士団が制圧するわけか」



 美味しい所を持って行かれている、と言えるかもしれないが、そこは数で勝る騎士団の仕事だろう。

 流石に、60人だけで砦を制圧することは不可能だ。

 ともあれ、やることは単純だ。突撃して、蹂躙する。目についた悪魔共を片っ端から斬っていけばそれで済む話だ。

 そうすれば、自然と目的は達成していることだろう。



「やることは分かった。それじゃあ準備するが……俺がリーダーでレイドを組むんだったか?」

「ええ、クオンさんがクエストを受注していますからね。貴方がリーダーじゃないと受けられませんよ」

「先生、パーティ画面を開いてください。そこにレイド結成のコマンドがありますから」



 緋真に説明された通り、俺はメニューを操作して、パーティ編成の画面を呼び出す。

 緋真の指差す部分を確認すれば、確かにレイドパーティ結成というボタンが存在していた。

 それを押してみれば、出現した画面には多くのプレイヤーの名前が表示される。どうやらこれは、この周囲にいるパーティリーダーの名前のようだ。

 この中からいくつかを選んで決定すれば、レイドパーティの結成ということになるのだろう。



「うちのパーティはこの二つね」

「『キャメロット』からの参加者はこれとこれとこれと……ええ、それで全部ですね」

「ほう、意外と簡単なんだな」



 操作自体は簡単だが、60人規模の軍団など、まるで管理できる気がしない。

 やはり、俺は将としての能力は欠けているということなのだろう。

 その点、アルトリウスは普段からこれ以上の人数を率いている。見習いたい、とは言わないが、素直に感心してしまうものだ。


 しかし、これだけの数と一緒に同じクエストをこなすというのは、少々新鮮に感じる。

 まあ、この間のイベントの時は更に多くの数だった訳だが、正直普段のパーティで戦闘を行っていた印象しかない。

 やはり、あれは少しやり過ぎだっただろうか。

 先の戦いについて反省しようとしたちょうどその時、何やら後方から喧騒の声が届いていた。

 騎士団が動き始めたのかと思ったが、どうやら騒いでいるのはプレイヤーたちのようだ。



「やっぱり絡まれたわね」

「僕たちが集合している時点で、何かあると言っているようなものですしね。一応、話をしに行きましょうか」



 やれやれと肩を竦めるエレノアと、笑みを崩さぬアルトリウス。

 その二人に続いて騒ぎの方へと近づいていってみれば、そこには言い争いをする数人のプレイヤーの姿があった。



「だから、貴方たちを加える枠などないと言っているでしょう! 邪魔だからさっさと消えなさい!」

「ほう、それはつまり、『キャメロット』がクエストを独占するということですか?」



 あれは――確か、スカーレッドとか言う『キャメロット』の部隊長と、ええと……『クリフォトゲート』の何か騒いでた奴か。

 『キャメロット』が集まっている所にクエストの気配を感じ取って絡んできたのだろうが、懲りずにこんなことをやっているとはな。

 しかし、クエストに加わりたいという話であれば、その受注者である俺が出ないわけにはいくまい。

 俺は思わず口元を笑みに歪めながら、その一団に対して声を掛けていた。



「よぉ、早速来てくれたのか、お前たち」

「はい? 何、を……ひぃっ!?」

「敵に回すだのなんだのと、愉しい話をしていたからな――早速襲いに来てくれたんだろう?」



 嘲笑を浮かべながら、俺はゆっくりと餓狼丸を抜き放つ。

 鈍く光を反射する刃は、顔色を変えた『クリフォトゲート』の連中の姿を映してギラリと輝く。

 そんな俺の言葉に、確かマーベルとかいう名前の男は恐怖に引き攣った表情で後ずさっていた。



「さて、何人で来る? クエスト前の腹ごなしといこうじゃないか」

「おいおい、待ってくれよ! 俺はアンタと敵対するつもりは無いぜ、クオン」

「ほう、ならば何をしにここに来た。俺のクエストを今まさに邪魔しているわけだが?」

「……アンタの? 『キャメロット』のじゃないのか?」

「俺が受けたクエストに、『キャメロット』と『エレノア商会』が協力している。受けたのはあくまでも俺だ」



 正直な所、クエストと言うよりは、純粋な依頼をクエストと言うシステムに落とし込んだような印象を覚える。

 俺に対して話が来たのは、単純に騎士団との繋がりがあったからだろう。

 後は、砦で撤退の進言をしたからか。何にせよ、通常のクエストとは随分と毛色の異なるものだ。

 そんなことを考えている中、刃を抜いた俺を恐れることなく、『クリフォトゲート』のマスターであるライゾンは話を続ける。



「ならクオン、俺たちを雇えよ。『キャメロット』の奴らより、俺たちの方がレベルは高いぜ」

「なっ、ロクに連携もできない烏合の衆の分際で、アルトリウス様を侮辱するなど――!」

「阿呆。緋真以外のプレイヤーなど、個の実力は全員五十歩百歩だろうが」



 淡々と告げたその言葉に、周囲のプレイヤー全員が、呆気に取られた表情で俺を見つめる。

 とは言え、これは偽らざる正直な感想だ。

 プレイヤーたちは、どいつもこいつも戦う人間ではない。俺が認める人間はほんの一握りだ。



「辛うじて『キャメロット』の上位陣はそこそこだがな。それでも、個々の実力という面ではそれほど評価していない」

「な、なら、どうして……」

「個人の戦闘能力は普通だが、アルトリウスの指揮能力は評価している。その指揮下にいる『キャメロット』の集団戦闘能力もな。俺は『クリフォトゲート』全員を相手にしても殺しきれる自信はあるが、『キャメロット』全員では苦戦すると判断している」



 アルトリウスは、将としての能力は間違いなく高い。

 戦場の経験を持つ俺でも、そこまで上手く部隊を指揮することはできないだろう。

 こいつが指揮する『キャメロット』の総員を相手にした場合、果たして切り札を使い尽くしても勝てるかどうか。



「故に、お前たちでは背中を預けるには足りん。そもそも、現地人を碌に見もしないお前たちでは、騎士団との協力など望めないだろうからな」

「……アンタのクエストだろ、何でNPCの話が出てくるんだよ」

「俺は彼らから協力を依頼された。ならば、万全を尽くしてその期待に応えねばならん。これは遊びじゃないんだ、お前らでは、その『万全』にはほど遠い」

「これはゲームだろうが! 何でNPCの都合に合わせなきゃならないんだよ!?」

「――殺し合いに、遊びもクソもあるものかよ」



 じわりと、殺気を滲ませてそう告げる。

 その声にライゾンは目を見開いて言葉を詰まらせ、マーベル以下は悲鳴を上げて後ずさりしていた。

 そんな彼らへと向けて、俺は本気の口調で続ける。



「彼らは命を懸けて戦おうとしている。国のために死地に向かおうとしている。これは確かにゲームだが、遊びで命の奪い合いなどするものか」

「なん、だよ……そりゃ……アンタ、NPCのことを、何だと思ってるんだ……」

「決まっている、彼ら現地人は人間だ」



 ざわめく周囲など気にも留めず、俺はそう宣言する。

 例えプレイヤーたちがどう考えていようと知ったことではない。

 彼らは人間であり、護るべき弱者であり、肩を並べるべき戦士なのだ。



「言葉を話し、物を考え、幸福に笑い、悲劇に泣く。俺たちと彼らの間に、違いなどあるものか。血肉でできていようが、データでできていようが――彼らは、俺たちと同じ人間だ」

「ッ……!」

「その上で問うぞ、小僧。お前は、彼らの命に責任を持てるのか」



 戦勝に喜んだ民や騎士たちがいた。父親の死に涙を流した少女がいた。

 故にこそ、虚言も、適当な返答も許さない。

 俺は太刀を握ったまま、逸らすことなくライゾンの瞳を見つめて問いを投げる。

 ――お前は、死地に赴く騎士たちの命を背負えるのか、と。



「俺、は……」

「――その辺でいいでしょう、クオンさん。そろそろ、向こうも準備が終わりそうですよ」



 言葉に詰まり、沈黙するばかりであったライゾン――彼に助け舟を出すかのように、アルトリウスが横から口を出していた。

 じろりとその顔を睨みつけるが、アルトリウスが笑みを崩すことはない。

 相変わらず、随分と肝の据わった男だ。



「……ふん、まあいい。今のに返答できぬのであれば、やはり連れていくことはできないしな」

「今更変えられても困りますけどね……さて、クオンさんの言葉を受け入れられない『クリフォトゲート』の皆さんには、分かりやすくこう言いましょう」



 その美貌でにこりと笑い、けれど瞳の奥に底知れぬ光を宿しながら、アルトリウスは声を上げる。

 ――まるで、宣告するかのように。



「貴方たちは、『NPC』からの『信用度』が足りない、だから『クエストの受注条件』を満たしていない。今のままの貴方たちでは、ずっとクエストを逃し続けるでしょう」

「……そう、かよ」



 アルトリウスの告げたその言葉に、ライゾンは舌打ちし――どこか、失意を交えた表情で踵を返す。

 彼が僅かに零した言葉の中には、確かな葛藤が存在していた。

 果たして、俺たちの言葉をどう受け取ったのか……それは、今後の連中の動き次第で分かるだろう。



「……随分と連中に寄った説明をしたものだな、アルトリウス」

「ああでもしないと、彼らも納得できなかったでしょうからね。できれば、これがきっかけになってくれることを願いますよ」



 アルトリウスは、どうやら俺に近い考えを抱いているらしい。

 細められたその視線の中にあるのは失望か、或いは期待なのか。

 恐らく、少しでも俺たちの考えに賛同してくれることを願っているのだろう。



「……さて、そろそろ騎士団の方々も出発する時間です。僕たちも準備するとしましょう」

「ああ、行軍の指揮はお前さんに任せるぞ」

「ええ、任されました。行きましょう、クオンさん」



 表情を笑みへと戻し、アルトリウスは踵を返す。

 ――クエストの開始は、もうすぐそこまで迫ってきていた。






















■アバター名:クオン

■性別:男

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:31

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:25

VIT:20

INT:25

MND:20

AGI:15

DEX:15

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.2》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.21》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.20》

 《MP自動回復:Lv.18》

 《収奪の剣:Lv.17》

 《識別:Lv.19》

 《生命の剣:Lv.20》

 《斬魔の剣:Lv.13》

 《テイム:Lv.16》

 《HP自動回復:Lv.16》

 《生命力操作:Lv.13》

 《魔力操作:Lv.5》

 《魔技共演:Lv.3》

サブスキル:《採掘:Lv.10》

称号スキル:《剣鬼羅刹》

■現在SP:29






■アバター名:緋真

■性別:女

■種族:人間族ヒューマン

■レベル:30

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:27

VIT:18

INT:23

MND:18

AGI:16

DEX:16

■スキル

ウェポンスキル:《刀術:Lv.1》

マジックスキル:《火魔法:Lv.25》

セットスキル:《闘気:Lv.19》

 《スペルチャージ:Lv.17》

 《火属性強化:Lv.17》

 《回復適正:Lv.13》

 《識別:Lv.18》

 《死点撃ち:Lv.19》

 《格闘:Lv.18》

 《戦闘技能:Lv.18》

 《走破:Lv.17》

 《術理装填:Lv.6》

 《MP自動回復:Lv.2》

サブスキル:《採取:Lv.7》

 《採掘:Lv.10》

称号スキル:《緋の剣姫》

■現在SP:29






■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:ヴァルキリー

■レベル:4

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:26

VIT:19

INT:33

MND:19

AGI:22

DEX:19

■スキル

ウェポンスキル:《刀》

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

 《光翼》

 《魔法抵抗:大》

 《物理抵抗:中》

 《MP自動大回復》

 《風魔法》

 《魔法陣》

 《ブースト》

称号スキル:《精霊王の眷属》

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― 新着の感想 ―
何を持って人を人たらしめるかこれは難しい話だね
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