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010:街の道場












「南地区って言うと……この辺りか」



 気配を殺し、視線を集めぬようにしながら街を出歩いていた俺は、人通りの少ない南地区へと足を踏み入れた。

 この辺りは店舗の類が無いためか、街の南側のフィールドへと向かう連中以外は殆ど人通りが無い。

 そして俺に注目しているような連中は、敵の強い北側に集中しているため、この場ではあまり目立つことは無いようだ。

 とは言っても皆無ではないだろうから、気配を消すことは継続するが。



「さて、道場だったか……この西洋風の世界観で道場ってのもどうなんだかな」



 向こうの方はよく分からんが、道場という形式はあまり聞かない気がする。

 私塾か、或いはもっと閉じた師弟関係を構築するのか――まあ、現実世界ではないのだから、その辺を気にし過ぎても仕方ないのだが。

 ともあれ、道場と言うからには、その辺の家よりは多少大きな建物になるだろう。

 そう考えた俺は大きめの建物を中心に周囲を探索し――発見したのは、二軒の建物だった。



「……通りを挟んで向かいに建ってるって、それはどうなんだ流石に」



 何処からどう見ても互いを意識していることがバレバレの立地である。

 しかも、建物の形まで丸っきり一緒だ。慣れないうちはどちらがどちらだか分からなくなりそうなものである。

 まあ、別に両方尋ねるつもりだったから、どっちでも構いはしないのだが。



(深入りしたら妙なことになりそうな感じだな。縄張り争いってのは何処にもあるもんだし)



 これが現実世界の久遠家ウチの場合、かなり昔から幅を利かせていたおかげか、周囲には道場が建つようなことはない。

 稀に道場破りが来ることもあるのだが、そういった連中は丁重に歓迎するだけだ。

 まあ、俺が出る前に大抵門下生の段階で終わらせてしまうのだが。



「その点、こっちの道場はどんなモンかね、と」



 ファンタジー世界の剣術道場、日常的に敵と戦うことのできるこの世界では、果たしてどれほどの実力者がいるものなのか。

 多少の期待を胸に秘めつつ、俺は右手側にある道場へと足を踏み入れた。

 このゲーム内では珍しい横開きの扉を開きつつ、聞こえてくる床板を擦る音に口元を歪ませながら、強く響き渡る勢いで声を上げる。



「たのもー!」



 その瞬間――響いていた足音は、まるで水を打ったようにぴたりと止まっていた。

 気にせずそのまま中へと足を踏み入れていけば、途端に慌しく中の気配が動き回り始める。

 どうやら期待通りの展開になりそうだ、と口元に笑みを浮かべながら、俺はその気配の方向へと足を進める。

 板張りの廊下を進み、扉を開いた先にあったのは、広い体育館のような空間。

 木剣を持った少年から大人までが並み居るその空間にて、一際異彩を放つ気配が一人。



「……ほう」



 口元の笑みは消せぬまま、俺は僅かに視線を細める。

 泰然自若とした気配。短い金色の髪に、鍛え上げられた大柄な肉体。

 何より、生命力に溢れるその姿は、紛れも無く厳しい鍛錬を積んできた証であった。

 さて、ジジイほどの脅威を感じるわけではないが、あそこにいるのは紛れもない実力者。

 戦いの欲求を満たすには、申し分ない相手だろう。



「くそっ、また道場破りか!」

「懲りない連中だな、異邦人は! 止まれ、俺が相手だ!」



 奥にいる男へと歩いて進もうとしたところで、目の前に一人の青年が立ちはだかる。

 木剣を構えながらこちらへと向かってくるその姿は、成程確かに様にはなっているだろう。

 門下生でこれだけ鍛えているのならば、その上はさらに期待できるというものだ。

 が――


 斬法――柔の型、流水・無刀。


 ――生憎と、うちの門下生とそう大差ない実力であるとも言える。

 振り下ろされた木剣を篭手の甲で流しつつ、そのまま装甲で刀身を滑らせて相手の手首を掴み取る。

 捕まえた腕は放さず、こちら側へと引き込むように引っ張り――



「邪魔だ。ああ、これは借りるぞ」

「な――ごふっ!?」



 打法――流転。


 足を払い、そのまま相手の体を空中で一回転させ、背中から床に叩きつける。

 本来ならば頭から地面に叩き落とす技であるが、さすがに殺すわけにはいかない。

 あくまでも、これは試合なのだから。だからこそ、こうして木剣を奪い取ったわけだしな。

 さて、俺の手に武器が渡ったことで、周囲には更なる緊張が走る。

 とは言え、腰の刀を抜かなかっただけ、安堵している連中もいる様子ではあるが。

 尤も、俺にとっては、木剣だろうが刀だろうが、一撃で相手を殺せる武器に変わりはない。

 安全性は僅かに増した、といった程度のところだろう。



「なっ!? くそっ、止まれ!」

「こいつを止めろ、ガレオス先生の所に行かせるな!」



 両側から襲い掛かってくる門下生共。

 だが、うちの師範代連中に比べれば未熟もいいところだろう。

 俺は歩調を変えぬまま進みつつ、手にした木剣で両側の攻撃を打ち払い、僅かに軌道を変えて回避した。

 そのまま、俺の前に体を晒した一人は背中を打ち据えて地面へと叩きつけ、続いて後ろから来た攻撃を半身になって回避する。

 突き出されてきた木剣は左手で掴み取り、軽く引くことで一瞬の引っ張り合いを起こし――そのまま、手を離す。

 自然、反射的に剣を引こうとしていた男はそのまま重心を後ろへと崩し、俺はその腹へと向けて後ろ回し蹴りを叩き込んでいた。

 強く蹴ったわけではないが、元々体勢が崩れていたところに命中したため、男は為す術無くもんどりうって転倒する。

 その様を見届けることなく、俺は視線の先にいる男へと向けて声をかけた。



「少しぐらいは教えてやったらどうだよ、先生とやら。それとも、これも教育の一環か?」

「お前に殺す気がないことは知れていたからな。だが、これでは確かに教育にもならんか」



 ガレオスと呼ばれた男は嘆息を零すと、その手に持っていた木剣をゆっくりと持ち上げる。

 その構えからも分かる隙の少なさに、俺は思わず笑みを浮かべた。

 久々に骨のありそうな相手だ。ここは――



「――楽しませて貰うとしよう!」



 木剣を構え、ガレオスへと向けて駆ける。

 その瞬間、ガレオスは僅かに目を見開いていた。

 どうやら、俺の動きが予想以上のものであったらしい――尤も、だからと言って手を緩めるつもりなど毛頭ないが。



「そらよっ」

「ぬっ!?」



 ジジイとの訓練を繰り返してきた俺の辞書に、初見の相手への手加減という文字はない。

 振るったのは袈裟懸けの一閃だ。だが、ガレオスは咄嗟に剣を掲げることで俺の一撃を防いでいた。

 まあ、これを喰らうようでは拍子抜けにもほどがあるというものだが。

 剣を打ち据えた感触からして、膂力は向こうの方が上。恐らく、レベル差による力の差というやつだろう。

 だからこそ鍔迫り合いには拘泥せず、俺は即座に剣を翻して下から掬い上げるような一閃を放った。

 だが、その一閃も割り込んだ剣によって防がれる。やはり、反応速度はかなりのものだ。



(これがステータスの差って奴かね)



 今度は向こうも一閃に面食らうことなく、攻撃に合わせてこちらの剣を弾いてくる。

 それで手から弾き飛ばされることこそ無かったが、やはり力の差があるためか、こちらの手には強い衝撃が伝わってきた。

 相手がこちらの攻撃に反応できる以上、正面から真っ当に挑むのは少々不利だと言えるだろう。

 攻撃を弾かれるのと同時に数歩後退するが、どうやらそのままこちらの攻め手を許すつもりは無いようだ。

 今度はこちらの番だと言わんばかりに、ガレオスはこちらに肉薄する。



「おおおッ!」

「――ッ!」



 振り下ろされる剛剣。その剣速は、ジジイのそれに迫るほどのものだ。

 今の俺では受け止めることは不可能。防御の上から叩き潰されることだろう。


 斬法――柔の型、流水。


 故に、剣を絡めて流し落とす。

 流水にはいくつかの派生があるのだが、こいつの膂力が相手では、その基本形であるこの技しか使えないだろう。

 せめてもう少し拮抗した膂力であれば、今の受け流しに合わせたカウンターで仕留めることができたのだが。

 流されて地面を叩いた木剣は、そのまま反転するかのように振り上げの一閃へと移行する。

 だが勿論、それにマトモに付き合うつもりも無く、俺は半歩後退して攻撃を回避した。



「――解せんな」

「あん?」



 そのまま追撃をかけてくるかと思いきや、ガレオスは剣を構えたまま一歩下がり、距離を空ける。

 どうやら、何か警戒している様子だ。まあ、こちらも技の引き出しはいくつかあるから、その選択も間違いではないだろうが――



「何故スキルを使わない? 手加減でもしているつもりか」

「何故、と言われてもねぇ。別に手加減しているつもりはないんだが」



 単純に、こっちのステータスが貧弱すぎて、取れる手段が少ないのと、俺に使えるスキルが殆ど無いというだけである。

 そもそも、意識的に使えるのは《強化魔法》と《収奪の剣》ぐらいだろう。

 まあ、《強化魔法》の場合は単純に武器の威力が上がるだけであり、俺の筋力が上がるわけではない。

 木剣の試合では、ほぼ意味の無いスキルであると言えるだろう。



「俺に使えるのなんて、この程度しかねぇぞ」



 苦笑しながら、俺は《収奪の剣》を発動する。

 まあ、別にHPも減っていないわけだし、このスキルを使う意味もないのだが。

 ――だが、黒い靄を纏う木剣を目にした瞬間、ガレオスが予想外の反応を見せていた。



「それは……ッ!」

「うお!?」



 斬法――柔の型、流水。


 突如として強襲してきた一閃を受け流し、そのままカウンターでガレオスを狙う。

 瞬時に半身になって身を躱したガレオスだが、俺の一撃は僅かに肩口を掠り、《収奪の剣》の効果はそこで終了した。

 だが、何故かガレオスのボルテージはさらにヒートアップする。



「やはり、《収奪の剣》かっ! 貴様、それを何処で、誰から習った!?」

「ああ? いきなり何言ってんだ、お前は――っと」



 横殴りの一閃を身を屈めて躱し、下から肺を狙う突きを放つ。

 この時左手は柄尻に添え、いつでも射抜を使用できる状態を整えているが、生憎とガレオスは突き出した肘で刀身を打ち据え、俺の突きを逸らしていた。

 俺の一撃をそらしたのは左腕、ならば右に握った剣は、今はこちらへと振るわれていることだろう。

 それを一瞥もすることなく左腕の篭手で受け流し、そのまま俺は、下段に戻していた木剣で一閃を放った。

 カウンター気味の一閃ゆえ、ガレオスも躱し斬れずに木剣が腹部を薙ぐ――が、浅い。

 この男、今の一瞬で後方へとバックステップしていたのだ。



「いや……一瞬体が光ったな。回避系のスキルって奴か」

「っ……答える気は無いということか」

「お前な……いや、それならどうする気だい?」



 何やら勘違いしている様子であるが、それならそれで乗った方が面白いだろう。

 剣を構え直しながらそう問えば、ガレオスは決意を固めた表情で、力強く宣言していた。



「ならば、力ずくで問いただすまで! 《練命剣》!」

「――っ!?」



 そのスキルの宣言と共に、ガレオスの手にある木剣は、力強い黄金の輝きをその刀身に纏っていた。

 アレは、拙い。あの一撃は防御できない。受け流すことも、恐らくは不可能だ。

 あの光を纏った一閃は、恐らくジジイの放つ剛の型にも匹敵する――!


 ――ならば。



「即座に使ってりゃ、アンタの勝ちだったろうよ――もう、呼吸は盗んだ」



 歩法・奥伝――■■・■■。


 ――その一閃が放たれるよりも早く、俺の木剣はガレオスの喉笛へと突きつけられていた。











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AGI:11

DEX:11

■スキル

ウェポンスキル:《刀:Lv.8》

マジックスキル:《強化魔法:Lv.5》

セットスキル:《死点撃ち:Lv.7》

 《HP自動回復:Lv.2》

 《MP自動回復:Lv.3》

 《収奪の剣:Lv.3》

 《識別:Lv.5》

 《採掘:Lv.1》

サブスキル:なし

■現在SP:12

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