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異世界でも外食産業はやっぱり大変でした  作者: 青井たつみ
第五章 向かう未来の先へ
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96 話 襲撃

「うわぁーーっ!!!」



 ゴンドラの外に、まるで半魚人のような容貌の──人間なのかロボットなのかわからない“怪物”がへばり付いていた!


 恐慌状態になりながらも、かろうじてエルを背にして窓を境界線にその怪物と向かい合う翔哉。


 ガン!

 ガンンッ!!


 そいつは手を打ち付けて、翔哉達の乗っているゴンドラを破壊しようとしているようだ。


 すると──。


 ドカッ!!


 今度は急に何かに横殴りに力を受けたように、“それ”が吹き飛ばされて下に落ちていく。


 何かに助けられた!?

 ……しかし、翔哉には何が起こっているのか全くわからない。


 さっきの半魚人の攻撃でゴンドラの窓にはヒビが入っており、少し穴が開いてしまったそこから外の風音がヒューヒューと聞こえている。

 それに加えて、大きな衝撃を立て続けに受けたことで、地震感知センサーによる緊急停止が働いてしまったらしい。


 翔哉達が乗っているゴンドラは、もう少しで頂上というところで止まってしまっていた。


 つまり──。

 どうやら地上から100メートルくらいの高さのところに、二人のゴンドラは取り残されてしまったようなのである。


 ガンガン!!


 という音がするので下の方を見てみると、今度はすごい勢いで同じような半魚人達が複数こちらに登ってきていた。

 そう言えば、さっき落ちていった奴はどうなったんだろうか?


 それにしてもだ。

 風音を聞いていても外はかなりの風である。

 これ以上窓や外壁を壊されたら──いや衝撃を与えられただけでも、このゴンドラはもう崩壊してしまうかもしれない。



「……翔哉さん!」


「エル……どうしよう!?」



 流石にこの状況下で冷静でいられる訳もなく。

 その上ここからどうやって逃げ出すかなんて……。

 もっと翔哉には無理難題である。


 そこで翔哉のスマホが着信した。



   ◆◇◆◇◆



「どうしたの!? 何かあったの?」



 電話を掛けてきたのは研究所でモニターしている舞花だった。

 エルの視覚からでも、かなり異常なことが起こったらしいというのが感じ取れたらしい。



「そ、それが……」



 なんと説明したらいいのか。

 常軌を逸したこと過ぎて、とっさに言葉が出てこない。



「何かにどうやら襲われているみたいなんですが……。僕もここからどうしたらいいのか……」



 ガシン!!


 また全体が揺れた。

 エルと翔哉がまたゴンドラの中で、ボロ雑巾のように投げ出される。



「うわぁ!!」


「きゃっ!!」



 ガシャ!


 話していたスマホが宙を舞って遠くに落ち、床に叩きつけられてヒビ割れてしまう。



「大丈夫!? 翔哉君、エル!!」



 スマホからは、まだ舞花らしき声が聞こえるが、それを拾って話す余裕はもう無かった。


 こちらに登ってくる半魚人達は、翔哉のゴンドラに近付いてくる度に一人ずつ横殴りに吹き飛ばされ、下に落ちていっているようだが──。

 信じられないことに、ベチャっと落ちて地面に叩きつけられても、またすぐに起き上がって登って来ようとしているようだ。


 なんだあれ……。

 人間じゃない!?


 ──翔哉はそれを見てぞっとした。


 何かに邪魔をされて翔哉のところにはたどり着けていないが、その数はだんだんと増えてきており、今では5人の半魚人達がへばりついて来ているようだ。


 その内の一体が今度は銛もりのようなモノをこちらに投げてきた。


 それが翔哉達のいるゴンドラの外壁に刺さると、そのまま中まで突き破って入ってくる。



「エル、こっちに!」



 翔哉が自分の方にエルを引き寄せ……彼女もしがみついてくる。


 しかし様子を見ていると──。

 その銛もりのようなモノは、元々彼らを傷つけるというよりは、ゴンドラを破壊する目的で投げられたものらしい。


 強引にそれが引き抜かれると、ゴンドラの扉がひしゃげてその一部が下へと落下していってしまった。

 扉全部が落ちてしまったら、ゴンドラはバランスを保てず大崩壊していたかもしれない。


 それでもこの時に開いてしまった穴は、さっきの窓のものとは比べ物にならないほど大きい。

 このままでは、ゴンドラの中にまで勢いよく風が入って来てしまう!


 エルと翔哉は何とか床に伏せて二人で抱き合っていたのだが……。


 このままではいつまで保つか。

 ゴンドラが突風で崩壊するのが早いか。

 バランスが崩れて翔哉達が転落するのが早いか。

 それとも……あの変な半魚人がここまで来てしまうのが早いか。


 状況は絶望的に思えた。



   ◆◇◆◇◆



 その時である。

 そんな翔哉の頭の中にいきなり“声”のようなものが聞こえた。



「イマカライキマス。フタリトモ、ツカマッテクダサイ」



 聞いたことのない声だった。

 それも外人のムリヤリ喋る日本語!?



「エル……何か来るかも。来たらそれに捕まって!」



 訳がわからないが、もう今更そんなのはどうしようもない。

 世界がおかしいのか、自分がおかしいのか。

 異世界に転移した時点で、もう翔哉はある意味で諦めていた。


 そんな二人の元にやってきたのは──!


 “ブゥン!”


 委員会カウンシルの黒崎だった。


 ──いきなり何の前触れもなくゴンドラ内に現れた黒崎は、翔哉とエルが捕まったことだけ確認すると……。


 えっ!?

 

 翔哉は目を疑った。


 気が付くと次の瞬間。

 エルと翔哉と黒崎の3人は、さっき二人が弁当を食べていた白いベンチの辺りに立っていたのだ。


 え? ええっ?? 何!?


 まさか……瞬間移動!?


 そんな非科学的な言葉を、翔哉が口にすることをためらっていると、黒崎が命令するような冷たい声で言った。



「私から離れるなよ。離れたら死ぬと思え!」



 今度はいつもの不気味な黒崎ボイスだ。

 その3人のところに、さっきの半魚人が5人──とんでもないスピードで観覧車の方から近付いてくる。



「人間じゃ……ない!?」



 そう口にする翔哉の言葉をあっさり黒崎が否定する。



「いや、アイツラは人間だ。強化された化物だがな。人間でないのは……」



 あっと言う間に半魚人達に追いつかれる……が。

 そこに後ろの茂みから突然現れた8人の人型が立ち塞がった。



「人間じゃないのはこっちだ!」



 そう冷たく言い放つ。

 そして、命令するようにその人型達に言う黒崎。



「行け! 始末してこい!!」



   ◆◇◆◇◆



 どうやら、黒崎が命令したのは8体の軍事用アンドロイドのようだ。

 それが半魚人のような風貌の強化人間の兵士5体に襲いかかる。


 場内の少なくなってきていたお客は、何が何やらわからないままに一目散に逃げていったようである。



「お前達はうかつに逃げるな。奴らはお前らを追ってくるぞ」



 そう言う黒崎。


 周りで戦闘は続いていた。

 軍事用アンドロイドと強化人間は、概ね短剣のような武器で切り結んでいるようだ。


 キン!

 カシン!


 金属同士が噛み合う耳障りな音が響く。


 ギューン!


 銃も撃っているようだが、お互いに装甲が厚く役に立たないようだ。

 その結果、次第に近接戦闘の格闘戦のような様相になっていく。



「できるだけ私の近くにいろ。その方が安全だ」



 また黒崎が短く言う。

 その意味はすぐにわかった。


 数がアンドロイドの方が多いので概ね2対1になっていったのだが、そこでしばらくの間一人余った格好になった強化人間が翔哉達に銃を向けてきたのだ。


 キューン、キューン!


 黒崎は翔哉とエルを背に、立ちはだかるように前に出た。

 何をしているのかはわからなかったが、弾道がそれているのか音だけで当たらないようだ。


 その間にその敵兵の持っている銃の銃身がネジ曲がって暴発した。


 え? えっ!?


 何が起こっているんだろうか。

 やっぱり翔哉には全くわからない。


 そしてその間にアンドロイドが一人、そのフリーだった敵兵のマークに付き、2対1が3組と1対1が2組になる。



「ふん。格闘は2対1でもほぼ互角か。ならば……」



 目の前でやり合っている13の人型を見ながら黒崎が事もなげにそう呟く。


 確かに2対1が多いので、アンドロイド達の方が攻撃を当てているように見えるのだが、耐久力が高い上に装甲も厚いらしく、強化人間達も大したダメージにはなっていないようだ。



「二人共私に掴まれ。場所を変える。また飛ぶぞ!」



 そう言われ、わからないままにさっきのように黒崎の体を掴む。

 すると再び周りの景色が一瞬で変わった。



   ◆◇◆◇◆



 どうやらここは、さっきの場所から少し奥にある植物園の中のようだ。


 翔哉達を追いかけて、少し離れたところからまた半魚人のような強化人間達が、アンドロイドと交戦しながら追いかけてくる。

 しかし、周りの状況が変わったことで彼らの戦いぶりに変化が見られるようになったようである。


 今度は、明らかに強化人間側の方が押され始めたのだ。

 そうすると2対1が多いこともあり、だんだん強化人間達の急所にアンドロイド側の攻撃が当たり始める。



「どうして?」



 翔哉にも、戦況が変わったのが何となくわかったのだが、それがどうしてだかわからない。

 それをエルが説明してくれた。



「周りの状況が障害物の少ないオープンな環境から、処理すべき対象物が多い複雑な場所に変わったことで、判断力に優れたアンドロイドの長所が出る結果になったんだと思います」


「そうだ」



 それを短く黒崎が肯定する。



「もうすぐ決着するだろう」



 そして、未来を見通すようにそう短く付け加えた。

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