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02 話 世界からの消失

 ──僕はずっと空虚だった。



 いつからだろうか。

 きっと小さい頃からだと思うんだけど。


 どんなことにも熱中することができない子供だった。

 何に対しても特別な興味や愛着をずっと持てずにいたんだ。



 周りで楽しそうに笑っている人達を見ながら。

 何がそんなに面白いんだろう?

 そう思いながら心の中からそれを不思議そうに眺めている。

 そういう陰キャな人間だったんだ。



 そして更に悪いことに、僕はそんな自分に気がつくことすらできなかった。

 あの日……世界から突然全てを『取り上げられる』までは──。



   ◆◇◆◇◆



 あの後。

 バイトが終わって和樹と別れてからのことだ。

 だから2019年のクリスマスイブの夜ということになる。

 時間は……夜の11時過ぎだったと思う。

 家に帰ろうとしていた僕は不思議な体験をした。


 駅の近くのコンビニに一旦寄って。

 売れ残っているクリスマスケーキとかには目もくれずに、家に帰ってから食べるおにぎりやお菓子をいくつか買い物かごに入れて、それから少し雑誌なんかをいつも通り立ち読みして……。

 そろそろ帰るかなーと店内の時計を見ながら、タイミングを見計らってレジでお金を払って外へ出た。

 そしておもむろに家に向かって歩き出したんだ。


 僕の住んでいたアパートは、駅から少し離れたボロ家だからさ。

 そこからだんだん寂しくなっていく夜道を、一人でしばらくトボトボ歩いていかなくちゃいけない。



 いつもの道。

 通りなれた道。

 その、はず、なのに。


 でも。


 いつもより暗い?

 いつもより寒い?

 いつもと……何かが違う?

 ──そんな感じがした。



 そんなわけがない。

 気のせいだ。


 なんだか首の後ろがチリチリするような感覚に耐えながら。

 それを今日は冷え込みがきついだけだと言い聞かせ。

 いつもより歩いても歩いても前に進まないような錯覚を押し殺して。


 真っ暗な中で、荒れてデコボコしているアスファルトの道路を、少し焦りながら前へ前へと進んでいると──進行方向から小さな明かりのようなものがだんだん近づいて来ているのが見えたんだ。


 最初は「走っている自転車のライトか何かかな?」と思ったんだけど。

 それはふらふらと人魂ひとだまのように不規則に揺らめきながら、こちらで思わず足を止めて様子を伺っている僕の方へと……やってくる。

 それはある程度まで近づくと、次第に意志があるようにはっきりとこちらに向かって近づいて来るように見えてきた。


「なんだ……あれ?」



挿絵(By みてみん)



 だんだん近づいてくる『それ』をじっくりと観察してみることにする。

 ずいぶん近くから観察しても、それはボンヤリとしていて。

 目の焦点をあわせることが難しい……?

 そんな感じがした。


 よくRPGとかのゲームで、モンスターとして出てくる光の精霊ってヤツ?

 ウィル・オー・ウィスプとかそんな感じの名前の……。


 そんなことを思いながら。

 僕は無意識に、その光の玉に吸い寄せられるように近づいていってしまった。


 すると……だ。

 「その光の玉」は。

 充分に僕が近くまで寄って来ると。

 まるで狙いを定めたかのように、急にスピードを上げて一直線にこちらに向かって来て──!


 !!!

 え……なにそれ怖い。


 それに思わず及び腰になる僕にかまうことなく。

 その光のようなモノは意志があるみたいに一気に距離を詰めて来ると。

 僕をそのまま包み込んだ。



 ──なんていうか。

 上手い表現が見つからないんだけど。

 僕を『食べた』んだ。



 光が僕の目の前でパッと一瞬で大きくなり。

 急に自分の周りが真っ白になったような気がして──。

 僕は……そのまま気を失ってしまった。



   ◆◇◆◇◆



 どうやらその時を境にして。

 僕は今までいた世界からは消えてしまった……らしい。


 僕が世界を拒絶したのか。

 それとも僕が世界から拒絶されてしまったのか。

 それはわからなかったけど。


 ただひとつはっきりしていたのは。


 『僕は自分がそれまで属していた世界を突然失うことになった』


 ──ということだ。



「絶対お前に面白いって言わせてやる!」


 和樹は意地になって、いつもそう意気込んでいたけど。

 どうやらそれも、もう無理になっちゃったみたいだ。


 なぜなら。

 僕はもう君と同じ世界にはいないのだから──。


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