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異世界でも外食産業はやっぱり大変でした  作者: 青井たつみ
第五章 向かう未来の先へ
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112 話 旧市街探索

 そうやってそれぞれが別れた後。


 翔哉達は、すぐにやってきたアースユニオン軍の軍用ヘリで急いで旧市街……つまり廃墟になった23区に向かっていた。


 東京エリアと呼ばれている関東の都市群は、商業地区の銀座など主に昔でいうところの東京周辺の地名で呼ばれているものの、実際の場所としては旧神奈川県辺りとのこと。

 だいたい平塚から横浜あたりにあたるらしい。


 これはポールシフトによって、普通なら来るはずの無い東京湾の内部にまで巨大な大津波が襲い、関東平野一帯が海面上昇も相まって一度完全に水没してしまった後──。


 火山灰地層である関東ローム層の影響で水の引きが悪く、地盤がなかなか安定しなかった東京の中心地、つまり23区周辺の地域が再開発の時に打ち捨てられたからである。



 それで言うと今回の移動は、横浜辺りから新橋や有楽町辺りくらいまでの行程なので距離的にはそれほど遠くはない。

 その上高速の軍用ヘリなのだ。

 空から最短距離を行くと、15分もあればすぐに着いてしまうくらいのものであった。


 空を進んで行くと、旧川崎の辺りに大きな壁が建設されているのが視界に入ってくる。

 時間が経ったかなり汚い城壁のような壁。

 それが南北に何キロも続いている様はベルリンの壁を思わせる。


 近づいてくるとそこに書いてある「立入禁止─KEEP OUT─」の文字までが眼下にはっきりと見えた。


 その壁を越えると、ものの数分で旧東京タワーの近くの湾岸沿いに到着する。



 一度完全に水没した影響なのか、アスファルトはあちこちかなり激しく剥げてしまっており──そこからむき出しになった赤土のような地面にヘリが降り立つと、そこは正に廃墟になっていた。


 荒れた地面はもちろんのこと、周りは昔あった高層ビルが傾いたり、朽ち果てたりしている。

 そして人気も全く見当たらない場所……。


 “あの“東京都心が今はこんな感じなのか!

 外れの下町だったとは言え、この世界に来る前も2019年の一応東京に住んでいた翔哉は、その変わり果てた姿に驚きと感慨を隠せなかった。


 ──何しろ彼の体感時間からすれば2ヶ月足らず前のことなのだ。



「関東ローム層は、関東平野の地層に堆積している火山灰層です。その為アスファルトで固められていた西暦時代は良かったのですが、それが一度剥がされてしまうとこの通りの有様になってしまいます」



 リリスが説明してくれる。


 確かに地面は乾いているところはサラサラだが、所々湿っているところはヌルヌルしていて滑りやすく、ずいぶんと歩きにくそうだった。



「そのため一旦大量の海水が入り込んでしまうと地質改善に時間がかかってしまうため、当時の様々な情勢から都市化は見送られることになったのです」



 ……と、そう言うことらしい。


 ヘリのローターが止まると、全員がその足元の悪い地面に降り立った。


 最初に手際よくアンドロイド達や黒崎が表へ飛び出す。

 それに続いてエル、翔哉、白瀬、最後に隆二がよろよろと降りてくると、そこに並び立つような格好になる。


 そうやってみんなが出揃ってから、その彼らの前にすかさず黒崎が出てきて先導する形を作り、更にそれを外から彼ら全員を守るようにアンドロイド兵8人が素早く散開してフォーメーションを組んだ。



「まずはあの東京タワーに向かっていくことにする」



 進んでいく体勢が整うと黒崎がそう宣言した。



「エルはセンサーで、この近くから発信されている電波を探索してくれ。それが分かれば発信地を特定できるだろう」


「はい、わかりました」



 そう言いながら東京タワーに向かって迷いなく前進していく黒崎。

 それに倣って、翔哉達も廃墟になっている静かな旧ビル街を歩いていった。


 SF映画の都市の廃墟のように。

 すっかり別物のようになってしまった東京23区。

 物見遊山気分ではいけないとは思いつつも、どうしても興味深くてキョロキョロしてしまう。


 あちこちに動くものがチラチラいるが、あれは野生に帰った犬や猫だろうか。

 空に鳥などはあまりいないようだ。


 水はけはやはりかなり悪いらしく、足元はあちこちに水たまりがあってピチャピチャと音がする。


 その一方。

 この辺りにはまだテロリスト達の派手な攻撃は無いようだったが、遠くからは花火のような音や地鳴りのようなものが聞こえていた。


 東京エリアのほうでは、空襲が続いているんだろうか?

 研究所に残してきた舞花や恵達が少し心配になる。



   ◆◇◆◇◆



 しばらくそうやって歩いているとエルが何かを捉えたらしい。



「進行方向から、35度くらいの角度から666MHzの極超短波が発信されているようです。でも、その方向は東京エリアに向けてではないですね。これは旧東京タワーに向けられているようです」



 それを聞いて白瀬が感心している。



「なるほど。極超短波とは考えたな。それなら受け取るアンテナを小型化できるし、そのリフレクトにも昔電波塔だった東京タワーを利用できるという訳だ」



 翔哉は不思議に思って、ヒソヒソとリリスに聞いてみた。



「東京タワーってまだ動いているの?」


「東京タワーは、昔はテレビ用の極超短波を発信する電波塔でした。今は公式には使われていませんが、テロリスト達は恐らくその東京タワーの施設を利用することで、極超短波を障害物の無い高所から東京地区に向けて発信するために利用したものと思われます」


「それによって、極超短波の障害物に弱いという特性を避けながらも、小型のアンテナによって受信できるというメリットを最大限利用しているってことだね」



 それを聞いていた隆二も横から解説してくれる。



「エル。発信源は特定できるか?」



 黒崎がエルに尋ねた。



「えっと……発信源はどうやら常に動いているみたいですね。前方の30度から36度辺りに向けて現在移動中です。極超短波が東京タワーに向けられている角度から割り出すと、距離はここから約1.5キロメートルくらいでしょうか?」



 黒崎はしばらく、厳しい表情で何かを考えているようだったが。



「電波が既に発信されているということは、もうレゾナンス因子を持った人間達が各所で暴れ始めているということだ。急ぐぞ!」



 そう言って、エルの示した方向に小走りに近付いていった。



 すると……。


 これまでも聞こえていた「ズーン、ズーン」という地鳴りような音が、だんだんと大きくなってくるようだ。


 遠くの弾着の音だと思っていたその音は……実は……。


 その時、ビルの間から6本の足を持った大きな機械の塊のようなものが突然姿を現した。



「出た~!!」



 隆二が叫ぶ。


 それがテロリスト側が運用している多足歩行要塞であった。



   ◆◇◆◇◆



「で、でかいっ!!」



 思わずまた声を張り上げてしまう隆二。

 多足歩行要塞などと言っても、せいぜい歩く戦車みたいな感じだろう。

 そう思い描いていた翔哉達だったのだが、これはそんなチャチな代物ではなかった。


 全長15メートル。

 高さは18メートル弱といったところだろうか。

 戦車よりも胴体が大きい上に、足によってかなりの高さがあるそれは──。


 目の前まで来ると鉄の壁のような兵器であり。

 正に動く要塞であった。


 その要塞が一歩ごとに、ドシンドシンと地響きを立てながら、こちらに歩いてくる。

 どうやらこの辺りをうろうろしているらしい。


 要塞のセンサーに見つからないよう、慌てて建物の残骸の影に隠れる翔哉達だったが……。



「スタンドアロン……だと?」



 その相手の様子を観察しながら、黒崎は腑に落ちない表情である。



「待て! 攻撃は “ウェイト” だ!」



 そして要塞を発見してから、すぐにこちらまで呼び寄せていたらしい、空軍の攻撃隊を慌てて一旦下がらせる指示を出す黒崎。



「どうしたんですか?」



 白瀬が聞くと不機嫌そうに黒崎が答えた。



「気に入らん。あんな鈍重なデカブツを、こんなところにうろつかせておいて何の援護バックアップも無いなど。いかにも撃って下さいと言わんばかりだ。何かの罠の可能性を疑った方がいいかもしれん」



 そして考えながら更にこう付け加える。



「それにあれはAI稼働だろう。恐らく中には誰も乗っていない」



 幸か不幸か白瀬もその辺りには詳しかった。



「そうですね。あのセンサーの数とアンテナ装備。AIによる自律稼働か、もしくは遠隔操作兵器かもしれません」



 そう同意する。



  ◆◇◆◇◆



 その時、隆二のスマホが鳴った。

 どうやら政府軍が、この辺りのテロリスト軍を追い払ったことで、電波を遮断していたECMが解除されたらしい。



「あ、やっと繋がった!」



 電話の主は舞花だった。



「空襲は落ち着いてきたんだけど、こっちではすごい数のレゾナンス症状の人達が暴れ始めたわ! ニュースだと銀座街区なんかは大パニックみたい。これじゃもうすぐこの研究所まで来ちゃうかも!」



 舞花の声にも恐怖が混じってきている。


 そこに今度は白瀬にも着信があった。

 今度は村井である。



「おう、村井ちゃん? 今どこ?」



 そう聞くと、村井は樹海の基地から旧キャンプ場のところまでやって来たところで、移動手段が無く足止めされているとのことだ。



「研究所があの後自爆しちゃってさ。参ったの何のって」



 そう一瞬いつものようにトボけた村井だが。



「いやいや! それどころじゃないんだよ、宗ちゃん!!」



 急に思い出したように大声を出した。

 実際にはかなり焦っているらしい。



「ついさっき、研究所にいた奴等に尋問してわかったんだ。電話が切れる前に言ってた例のデカブツなんだが……」


「うん。実はさ。今それが目の前にいるんだよぁ」



 白瀬がのほほんと答える。



「いるの!? 目の前に!? そっちもどうなっちゃってんのよ!!」



 とうとう堪えきれずに大声を出してしまう村井であった。

 それから慌てて次の言葉を紡ぐ。



「それ絶対攻撃しちゃ駄目だぞ。その移動型多足歩行要塞、通称“ビートル”ってヤツはなぁ──」



 そこまで言ってから、一旦気持ちを落ち着かせるよう息を吸い込むと。

 村井はこう続けたのだ。



「何かに少しでも攻撃されたら、東京タワーに仕掛けられた核弾頭が爆発するようにセットされているんだ!」



   ◆◇◆◇◆



「黒崎さん。攻撃しないで本当によかったっすね……」



 隆二が言い、一同も揃って胸を撫で下ろしていた。


 何しろやってきた空軍が一度攻撃態勢に入っていたのだ。

 あそこで黒崎が“嫌な予感”などいう──あいまいなもので攻撃中止を命令しなければ、今頃はみんな跡形もなく消し飛んでいたことになる。


 そこで村井との電話を切ったばかりの白瀬が追加の情報を告げる。



「それも、東京タワーに仕掛けられてるのは昔使われたような戦術核じゃない。据え付け型の戦略核、つまりメガトン級の水爆だそうだ。もしそれが本当なら東京エリア一帯、繁華街のほうまで吹っ飛ぶことになる」



 彼らは一度ビルの影に隠れてたままで、固まりながら顔を寄せ合って善後策を話し合っていた。



「ふん。それにしても、ここでまた熱核兵器を使うとは……」



 黒崎がうんざりしたような顔になる。


 殲滅作戦の意趣返しのつもりなのだろうか?

 いずれにしてもこのままでは手の出しようがない。



「それで単独であんなのうろつかせておいたんですねぇ」



 隆二も納得した顔である。

 そこに横からリリスが口を挟んできた。



「ですが、現在東京エリア管内では1200人を超えるレゾナンス因子保持者が暴れているという情報が入っています。この数は今後も増えていく可能性が高いと思われます」



 そう言って翔哉のスマホに映像を流す。


 そこには、かなりの数のレゾナンス症状の発作状態になった“獣”が、銀座街区で暴れている様子が映っていた。


 店舗やオフィスが荒らされ、人にも襲いかかっている。

 また自分の安全を省みないため、獣化した彼ら自身も満身創痍だろう。

 これでは避難所もどうなっているのかわからない。


 つまり、このまま手をこまねいている間にも、東京エリアの都市群のほうではどんどん被害が大きくなっていくばかりというわけだ。

 文字通り行くも地獄引くも地獄である。



 一体どうすればいいんだろう……?

 追い詰められた表情で考え込む一同──。


 その時、オリバーが黒崎に入ってきた。



「There should be solutions! Any systems must have subroutines for emergency shutdown or exception handling!(まだ打つ手はあるはずだ。どんなシステムにも緊急停止や例外処理は実装されているはずなんだ!)」

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