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異世界でも外食産業はやっぱり大変でした  作者: 青井たつみ
第五章 向かう未来の先へ
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111 話 それぞれの気持ち

 その時──。

 部屋の中に突然黒崎が現れた。



「マズイことになった」



 どうやら瞬間移動らしい。

 やっぱり多少はびっくりするものの、みんなも以前ほど驚かなくなってきているようだ。


 幸か不幸か感覚が麻痺してきているようである。



「こちらでもさっき村井刑事から聞きました。レゾナンス症状を利用した大規模なテロが計画されているとか」



 白瀬がそう応じる。



「そうだ。現地では幹部たちを逃してしまったらしい。もう間もなくそのテロは始まってしまうだろう。恐らくそれと同時に、通常戦力による空襲もこの街にやってくるはずだ」


「なんですって……!?」



 そんなことになったら、それはもうテロなんて規模じゃない。

 都市の武力攻撃──戦争じゃないか!


 白瀬を始め、そこにいる全員が真っ青になった。



「これが高次元存在の言っていた“試練”なのかしら」



 恵が不安そうに呟く。

 『被害は大きく、それ以上に鍵が失われる』

 そう言っていた。


 確かに一度テロが始まってしまえば、被害がどれほどのものになるか見当もつかない。



「空襲や地上からの攻撃は軍で何とかする。しかし問題はレゾナンステロの方なのだ」



 黒崎は言った。


 その時。

 部屋の中のTVモニターが自動で立ち上がり外からも警報が鳴り始める。


『この地区に武力攻撃の危険があります。市民の皆さんは落ち着いて避難して下さい。繰り返します……』


 それを横目で見ながら黒崎が言う。



「市民にはレゾナンステロの情報は流れていない。だが、避難して一箇所に大人数が集まっている中で、低周波によって何人かでも獣化してみろ。大変なことになってしまう……」



 そこまで考えての二面作戦ということなんだろうか。

 相手も周到なことである。



「街中に無数に走っている自動操縦車両を一台ずつつぶしてもラチがあかない……そう村井刑事が言ってましたが」



 白瀬がそう言うと黒崎も既に把握しているようだ。



「恐らく500台くらいの自動操縦車両を街中に走らせている」



 500台という実数を聞いては白瀬も納得するしかなかった。

 確かにそんなモノを一台一台潰していてはどうしようもない。



「でも、それを統括してコントロールしている、でっかいのがどこかにあるって言ってたんですよね、その刑事さん?」



 隆二がさっき白瀬から聞いたことを繰り返した。


 それを見つけ出して潰すしか手はない……そういうことになる。

 しかし、姿形も見たことがない“それ”を、一体どうやって見つけ出せと言うんだろう。



「そうだな。こうやって後手に回ってしまった時点で、我々には言ってみればもう勝ち目はないのだよ。厄介なことだ」



 いつも強気な黒崎が珍しくそんなことを言う。



「だから我々も“ここ”に来ることにしたのだよ」



 私達というのは委員会カウンシルの7人のことだろうか?



「でも、どうして“ここ”なんですか?」



 舞花が尋ねる。



「万策尽きて後は高次元存在頼みということだよ。私の中にはヒルダがいるし、そしてここには……」



 ここにはエルがいる!?



   ◆◇◆◇◆




 高次元存在をチャネルできるアンテナ2つに注目しておく。

 そういうことなんだろうか?



「何か目の前に見えます──」



 その声に呼応するようにエルが突然そう言い出した。

 その目はもう目の前の現実のものを見てはいないようだ。


 そのエルの様子を見てヒルダが黒崎に入ってきた。



「Das ist die Visionsprojektion durch bewusstes Channeling. Es ist sicher, dass sie von einer hochdimensionalen Entität kommt!(コンシャスチャネリングによるビジョンの投影だわ。高次元存在からのものと見て間違いないわね)」



 慌てて隆二がドイツ語をみんなに通訳する。


 そして第4研究室のモニターを、エルの視覚をモニタリングするモードに切り替える。

 ──するとそこにはぼんやりとした廃墟が映っていた。



挿絵(By みてみん)



「Sie sagt in mir, es muss hier sein. Aber vielleicht weiß sie nicht genau, wo es sich befindet, da es eine bewegliche Einheit ist.(私の中で“彼女”が言っているわ。この見えている辺りにいるはずだって。でも移動できるみたいで、彼女も正確な場所はまだわからないみたい)」



「多足歩行要塞のようなものだろう。恐らくそこから電波か何かを発信して、東京地区にいる500台の車両に指令を送っているのだ」



 ドイツ語を喋るヒルダの直後に、今度は黒崎自身が日本語でそう言う。

 忙しそうである。



「これって旧市街!?」



 舞花が驚きの声をあげた。

 旧市街とは廃墟になったまま打ち捨てられた旧23区の市街地のことらしい。

 ぼんやりと朽ち果てた東京タワーがそこには見えていた。

 翔哉には、むしろ懐かしさすら感じさせるような……そんな映像である。


 この辺りで、外がだんだん騒がしくなってきた。

 どうやらテロリスト軍の空襲が始まったらしい。


 しかし、待ち構えていたらしい政府アースユニオン軍によって、それらはすぐさま迎撃されているようだ。

 彼らの完全な奇襲はならなかったのである。


 それを窓からと、テレビからの映像の両方で確認していると黒崎が言った。



「これは正確な場所がわかるまで、ここでのんびり待っているわけにもいかなくなってきたな」



 苛つくように首を振る。



「我々も現地に急いだほうがいい。アンドロイド兵士とヘリをこちらに向かわせた。エルには一緒に来てもらいたいのだが……」



 どうやらここに居ながらも、テレパシーで各所に命令しているらしい。

 黒崎の準備がやたら早いのも当然である。



「エルを要塞と戦わせるんですか? そんなの無茶ですよ!!」



 翔哉が立ち塞がるようにエルの前に立った。

 しかし黒崎が静かにそれに答える。



「そんな莫迦な真似はしない。彼女のセンサーは優秀だ。現地で東京地区に向けて発信されている電波を捉えて、場所を特定する助けになってもらうのだ。それから、何らかの情報が途中で“彼女”から送られてくるかもしれないからな」



 その上で場所を特定したら、空軍や陸軍の支援によってそれを撃退することになるだろう。


 ──そう黒崎は説明した。



   ◆◇◆◇◆



「では俺も一緒に行きましょうかね。ECMが晴れたら村井から新しい情報が得られるかもしれませんし」



 白瀬がいつも通り飄々と申し出る。



「僕も行かせて下さい!」



 翔哉がそう言うと、エルが一瞬「あっ」という顔になる。



「翔哉さん……」


「またエルがどこかで隠れて泣いているかもしれないと思うと……僕も心配なんだよ」



 不安そうなエルを落ち着かせようと髪を撫でる翔哉。


 エルは翔哉に何か言いたそうではあったのだが……何度か言葉を飲み込んだ後に俯いてしまう。


 しかし実は、翔哉が気になっていたのはそれだけではなかった。

 「鍵が失われる」という高次元存在の言葉。


 そして“エルはシンギュラリティーポイントに向けて人間と人工知能を繋げる存在”とも言っていた。

 もしそうだとしたら、失われるのは……もしかしたらエルなのではないのか。

 そう思うと、居ても立っても居られなかったのである。


 そこにリリスが出てくる。



「大丈夫です。彼が同行すれば、私が現地で力になることができます。持ち主は無能でも私は有能ですから」



 言い方はともかくとして翔哉を一応応援してくれているつもりのようだ。



「Sure, Lilith without protection is more useful now, she can react for example to getting data from satellites or hacking using divices.(確かに封印を解かれた今のリリスなら、衛星をバックアップに利用したデータの取得から端末によるハッキングまで、色々なことに対応できる。かなり有用かもしれないな)」



 そうオリバーも黒崎に入ってきて太鼓判を押してくれる。



「じゃ~僕も行かなくちゃね」


「え!?」



 最後に隆二が名乗り出た。

 舞花が一瞬動揺したように反応した後、誤魔化すようにいつもの声を出す。



「あ、アンタが何で行かなくちゃならないのよ?」


「ほら、黒崎さんと一緒に行動するってことは、いつ何語が飛び出すかわからないってことだろ。僕のようなスーパー通訳はそういう時いたほうが便利なんじゃないかな?」



 そう言って、いつも通りにっこり笑う隆二。



「そうか。隆二が来てくれれば通訳の方は心配ないな!」



 それを聞いて白瀬も嬉しそうである。



「何なら宇宙語だって翻訳してみせますよ。ばっちりとね!」



 などと軽口を叩いている隆二の袖を舞花が引っ張った。


 引っ張ったのだが……。

 そこからは、ずいぶんとモジモジしているようだ。



「き……気をつけて……ね」



 やっと、そう口にすると真っ赤になる。



「え……!」



 隆二があり得ないものを見たようにびっくりした顔になった。



「こ、これはね──ち、違うの」



 しどろもどろになる舞花。



「べ、別にあんたのことを心配したわけじゃないんだからね! アンタがみんなに迷惑をかけちゃいけない……から……。だから──」


「うん……わかってるよ」



 隆二は舞花の頭を優しくポンと叩いた。



「大丈夫! 変なフラグを立てないように気をつけるから!」



 最後にそう言ってウインクすると、出発するみんなについていくために離れていく。


 心配そうに俯く後に残された舞花。

 その彼女に恵が近寄ってきた。


 そして──。



「大変よくできました。あなたの気持ちはちゃんと伝わったわよ、舞花ちゃん……!」



 彼女を抱き寄せながらそう優しく口にした。

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