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異世界でも外食産業はやっぱり大変でした  作者: 青井たつみ
第五章 向かう未来の先へ
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104 話 高次元存在

 ヒルダから「淘汰」……というショッキングなワードが語られた後、オリバーが予知が起こる時の特殊な意識状態を説明してくれる。



「予知が起こる時というは、だいたい夢のように誰かの視点でモノを見るような感覚なんだ。少なくとも僕の場合はね」



 そのオリバーが見る未来がだんだん不鮮明になり、最終的には真っ暗に閉ざされてしまったいう。

 それは一体どういうことなのか?


 つまり──。



「そうだ。そして僕達もそう考えざるを得なかった。未来にオリバーが入ることができる存在──つまり人間が誰もいない。つまり“人類は絶滅してしまうんじゃないか”ということなんだ」



 エリックが暗い声で言った。


 暗く閉ざされてしまったのは、ガイノイド計画を中止した時点からである。


 つまりこれからの人類の未来にとって、ガイノイド……つまりAIやアンドロイドの進化はクリティカルな意味を持つことになるのではないか。


 ──そこまでは、その時の彼らでも推測できたのだが。


 しかし、社会には既にAIやアンドロイドに対する敵意が育ち始めており、ここからまたガイノイド計画を再度進めたところで、大衆からは受け入れられない可能性が高かった。


 何よりこの情勢では、ここから更に新しいテクノロジーを推し進めても、人類がそれを上手く扱えなければやはり自滅してしまうことになるのではないのか……?


 だが、このまま何もしなくても事態は悪化する一方。

 良くてもジリ貧は目に見えている。


 正に行くも地獄、退くも地獄である。



「僕達がさして深い考えもなく、未来のテクノロジーを人類に注入してしまったことで、それが結果として人類を破滅に導くことになってしまったのではないのか……。そんな考えが頭から離れなかったよ」



 オリバーが呟く。


 事態は八方塞がりに思われた。



   ◆◇◆◇◆



 そんな時──。


 彼ら7人の前に現れた存在があったのだ。



「現れたというのは正確じゃないわね。彼女はチャネラーである私の意識の中にコンタクトしてきたのよ」



 ヒルダは言った。


 チャネリングというのは、一般的には霊の声が聞こえると言われていたり、宇宙人の意志や声などを聞き取ったりするものを言うらしい。


 自分の自我ではないものと交信する能力ということになるだろうか。



「今、あなたの頭の中に直接話しかけていますって奴ですか?」



 隆二が、どこかで聞いたようなセリフを例に質問する。

 しかしヒルダはそれを否定しなかった。



「それが大まかに言えばコンシャス・チャネリングというものね。自分の意識を失うこと無しに違う意識とコンタクトする能力よ。よりテレパシーに近いと言えるのかしらね」



 そして、その他にもうひとつ。

 現在は2つのチャネリング手法があると言われているそうだ。

 それもヒルダが説明してくれる。



「昔は、トランス・チャネリングって言われる方法が主流だったのよ。これは例えば日本の巫女とかがそうね。自分は意識を失ってしまい、自分の身体をやってきた霊や意識にまるごと貸してしまう。つまり完全に“乗っ取られて”しまうというわけ」



 つまりこれは、その存在に憑依されるということらしいのだ。

 なので、何かがその人に“入っている”間は人格も全く変わってしまうらしい。



「でもトランスは強力だけど危険も大きいわ。一度乗っとられたらその意識が自分で出ていってくれるまで言いなりだし。それに類まれな霊的資質──霊媒体質と呼ばれる霊的感応能力が必要なのよ」



 訓練すればある程度は意図的に、エネルギーを出し入れできるようになるらしいのだが、それでも事故は多いとのことで危険であることに変わりはない。



「だから、最近はコンシャス・チャネリングという手法が一般的になってきているの。これは心の中や自分の思考の中に、違った人格やエネルギーが入ってきたのを感知して情報を取り出すもの。自分の意識を保ったままでできるから、乗っ取られる危険も少ないものなのよ」


「“宇宙人の声を聞いた” とか “◯◯の霊言” とか。本屋に並んでいますよね? ああ言うものですか? “チャネリング本”とか言われてますけど──」



 舞花が何だか胡散臭そうな本を例に出してくる。



「まあね。でもコンシャスの本質は情報交換なのよ。つまり自分の知らないことを教えてもらえること。それをまた自分自身で結果を使って検証できること。だから高級神霊なんかがもし降りてきていたとしても、自分が誰であるかをはっきり明かすことはないと聞くわ。偉そうな名前を自分から名乗ってるようなのは、まず疑ってかかった方がいいかもしれないわね」



 そんな感じで、ヒルダ先生のチャネリング講義みたいなものがしばらく続いた後──彼女は当時困っていた自分達のところにやってきたその“存在”について語ってくれた。



   ◆◇◆◇◆



 ヒルダには、長年相談相手になってくれていた存在“ハンス”がいた。



「この人の場合はね。全然自分から名乗らないから私が勝手に名付けたの。男みたいだから“あなたは今日からハンスよ”って。名前が無いと会話するのに不便でしょ?」



 しかしその時やってきたのは、いつもの“彼”ではなく“彼女”のようだった。



「彼女は、自分のことを“高次元存在”だと名乗ったわ」



 苦笑いするヒルダ。



「確かに高名な神とかの名前じゃないんだけど、やってきていきなり自分のことを“高次元存在”だなんて言うんだもの。最初は、なんだかまた変なのが来たみたいって思ったのよね……」



 ヒルダが言うには、自分のことをヤハウェやキリストなどと名乗ってくる低級霊は多いのだそうだ。


 しかしその後よくよく話を聞いてみると、その“彼女”は、自分のことを高い身分の存在や人間より優れたものと言いたくて“高次元存在”と名乗ったわけではないようだった。



「“彼女”は、この世界を俯瞰して見ている観察者だと言っていたわ」



 俯瞰して見ていると言っても三次元的に“俯瞰”しているわけではなく……。



「うん。5次元的に俯瞰していると言っていたな」



 オリバーが補足してくれる。


 彼自身が未来に向かっていく事象の繋がりを見ていく際、意識の中で一歩下がった形で用いる“広範囲の事象にフォーカスを拡大する”ための視点モード。

 ──どうやらそういう感じに近いのだそうだ。


 4次元軸が時間だとすれば、5次元軸とは可能性事象なのである。



「つまり私達の世界が可能性事象のどの枝のどの辺りにいるのか。それをはっきりと認識できる意識レベルに存在しているんでしょうね」



 ヒルダが言う。


 それから彼ら7人は“彼女”から、自分達が一体この世界に何をしてしまったのか、そしてその為に何が起こってしまったのかを教わることになったらしい。


 テクノロジーの進化が物理的な力の代替と拡張から、知性の力の代替そして拡張へと移っていく──それが実際にはどういうことなのか。

 それは人類が“物質中心の文明”から“精神中心の文明”に重心が移っていくということを意味しているのだ。


 肉体だけが自分という自己認識のアイコンだったこれまでから、次第にゲームも含めたデジタル・サイバーなものとして擬似的・模式的な形で置き換える手段が多様化きている現状。


 そして、自分から外世界へと向かう現実認識や環境認識という方向の手段も、同じくVRなどデジタルへの置き換えが進んできている情報テクノロジー進化の方向性。


 そういった社会の大きな流れは、この後にやってくるその大転換のための準備だというのである。



「これは必ずしも肉体を捨てることを意味してはいない。ただ肉体は次第に自己認識のためのひとつの基点にしか過ぎなくなっていくということらしいわ。その結果、人間の活動するエリアは物質の世界から精神の世界、つまり非物質の方向へと重心が移っていくらしいのよ」



 それは、より世界の根源に近づいていく。

 そういうことでもある。


 なぜなら物質世界を背後から動かしているものは、常に何らかの“精神”であり“心”であり“判断”だからだと言う。

 そう言った非物質的な要素ファクターこそが、実際には常に背景的な原因として前もって働きかけ、その動きを形作る鍵となってきた。


 つまり宇宙全体の精神にあたる非物質世界こそが、これまで人類が主な住処として知覚していた物質世界を陰から支配し、全ての因果の元として後ろ盾となってきたというのである。


 “彼女”が言うには、そうやって物質はいつも動く前に何らかの知性の要請によって“動かされて”おり、それがひいては物質世界の総体である世界全体の行く末さえ決定しているというのだった。


 それ故に、人類が物質世界中心の文明から精神世界中心の文明に移っていくと言うのは、逆に今までそれだけが全てだと思っていた物質世界を統括する側に回っていくこと。

 つまりゲームをプレイするだけで良かった気楽な立場から、次第に運営側へと回って世界全体に対する責任を負わなければいけない立場に立ち位置を変えていくことを意味する──というのだ。


 どの可能性事象の枝にいようとも、21世紀を生きる人類は不可避にその物質文明から精神文明への大きな転換点に差し掛かることになる。


 “彼女”は、委員会カウンシルの7人にそう説明した。



 しかしである。


 その大事な転換点において、本来なら新しいテクノロジーを達成しつつ、そのプロセスから学んで行くべきだった教訓を、未来予知によってすっ飛ばしてしまったこの世界においては、その新しい力を制御するための智慧ちえが育っていない……。


 ──その結果、その力を制御できずに自滅しようとしている。


 “彼女”はそう語ったのだと言う。



「カンニングがバレて教授から大目玉を食らった……っていうか。つまりそんな感じですか」



 隆二は暗い場を少しでも明るくしようと冗談めかしてそう言ったのだが──。


 それを聞いて笑うものは誰もいなかった。

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