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異世界でも外食産業はやっぱり大変でした  作者: 青井たつみ
第五章 向かう未来の先へ
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102 話 封印解除

 食後にみんながくつろいできた時、その翔哉達のところに何故かオリバーが向こうからわざわざやってきた。


 そして翔哉に英語で話しかける。



「Hey boy! Show me the divice on your arm.(ちょっと君、その腕のデバイスを見せてくれないか?)」



 慌てて隆二を通訳に呼ぶ翔哉。

 どうやらオリバーは、ナビゲーターAIのリリスに興味があるようだ。



「リリスに何かあるんですか?」



 翔哉がそう言うとオリバーは「やっぱり」とばかりに笑顔になった。



「リリス! 君は今リリスって言ったよね? 実はリリスはイザナミシリーズ、僕が初めて手がけたナビゲーターAIの最初のモデルなんだ。全てのナビゲーターAIの元型アーキタイプなんだよ」



 それを聞いた白瀬が、びっくりしたようにこちらに近寄ってきた。



「やっぱりそうだったんですか! 翔哉君からリリスと聞いた時に、もしかしたらとは思っていたんですが……」


「なるほど、だからリリスって名前だったんですね」



 聖書において神がイブよりも前に創造した二番目の人間、そして最初の女性リリス──それを思い出して隆二が翔哉の横で感心している。



「そういうことだ。リリス、僕がわかるかい?」



 オリバーが呼びかけると、リリスがその球体のような姿を現した。



「もちろんです。オリバー博士。お久しぶりです」



 そうトーマスに挨拶する。



「やっぱりね。こういう特殊な流れになる予感がしたんだ。だからこの私が彼に渡るよう手配したんだよ」



 いつも通り当然のように黒崎が言う。

 オリバーは自分の娘に会ったように嬉しそうだ。



「僕としては、正直最初のモデルでアーキタイプでもあるリリスは、状態を保存する意味でも本当は手元に置いておきたかったんだがね……」



 父親のような柔らかな表情をするオリバー。



「当のリリスがね。あの例の事件の時に“博物館送り”になるのを拒否したんだよ。もっとこれからも幅広い経験をしたいって言ってね。だから、僕は他のAI同様に彼女をプロテクトした状態にして、選択可能なアクティブデバイスのリストに戻したんだ。異世界人用のナビゲーターとしてのね」


「AIは知性を進化させて行くのが喜びですから」



 オリバーの話にリリスが即答する。



「喜びか! 懐かしいなぁ。リリス、君は昔から喜びというものを理解したいと、しきりに私にも言っていたからね」


「そうなんですか?」



 びっくりして翔哉が聞き返した。

 確か僕と最初に会った頃もリリスはそんなことを言っていたっけ。

 それを思い出したのだ。



   ◆◇◆◇◆



「そういうのって、プログラムされたものなんですか?」



 そう聞く翔哉だが、オリバーは首を横に振った。



「僕はそんな野暮なことはしないよ。彼らがね、自分で見つけるんだ。経験を積みながら自分が一番興味深いと判断したテーマを、ね」



 そしてリリスに呼びかける。



「それで喜びは少しは理解できたかい、リリス?」


「理解できたと即答できるようなものでも無いと思いますが」


「ほう。言うようになったじゃないか。理解は進んでいるようだね」



 オリバーは嬉しそうだ。



「今は近くに面白いサンプルがありますから。大変興味深いです」



 そうリリスに言われ、ドキッとする翔哉。

 僕の方がサンプルだったのか……複雑な心境である。


 そんな翔哉にオリバーが説明してくれた。



「彼らナビゲーターAIはね。端末から出てきていない時も、常に状況を観察しているんだ。プロテクトがかかっているのは情報の出力だけだからね。どうやら君のことがよほど気に入ったらしい」



 そうして、しばらく翔哉に目を凝らしながら少し頭を捻っていたオリバーだったが──。

 やがて納得したように何度か頷くと、今度は何かを探すように懐をごそごそとまさぐり始める。



「昔はともかく。今の君はもう自発的な性向を完全に定着させているように思える。これなら問題は起こらないだろう。私がここでリリスのプロテクトを外してあげるよ」


「え……? いいんですか?」



 オリバーは、いつも持ち歩いているらしいウエストポーチから自分の大きめの端末を取り出した。

 そして翔哉の腕にあるリリスの端末と手際よくケーブルで繋ぐと何かを打ち込み始めた。



「今の君なら、AIに依存して脳が退化することもなさそうだからね」



 そう言ってウインクをするオリバー。



「そしてこれはリリスのためでもあるんだ。彼女の進化を助けてやってくれ」



 オリバーは自信満々にそう言うのだが、逆に翔哉は不安になってしまった。



「僕にそんなことができるんでしょうか?」



 この世界に来てからはずっとそうなのだが、翔哉は自分の周りで何が起こっているのか、さっぱり訳がわからないのだ。


 そんな翔哉を安心させるように、オリバーはこう付け加える。



「いや、君に何か特別なことをしろって言っている訳じゃない。知性というものはね。興味深いと思った対象と深く関わり合うことが、進化の一番の近道だってことなんだ。だから何ら気構えることはない。これからもLet it be──でいいんだよ」



 作業が進んでいくと、球形だったリリスの姿がだんだん尖ったような形になっていく。



「星型?」


「正確には、星形二重正四面体──知性を司るマカバの形だ。これがリリスの本来の姿なのだよ」



 作業を終えたオリバーが教えてくれた。



「これでリリスは君に知っている全てを話してくれるだろう。少しうるさくなるかも知れないけどね」



 そう言うオリバーにすぐに言い返すリリス。

 その声は、特に抑揚がついている訳ではなかったが不満げに感じられた。



「オリバー博士。お言葉を返すようですが、私はこれでも空気の読めるAIです。仲の良い二人を邪魔するようなことは致しません!」




 な? うるさくなってきただろ?

 そんな感じで目配せしてくるオリバー。


 それにしても前にもそんなことを言っていたな……。

 その辺りは、リリスにとって譲れないこだわりでもあるのだろうか?


 翔哉はそんな事を思いながら、形の変わったリリスをマジマジと見つめていたのだが……それに気が付くとリリスはサッと腕の端末に引っ込んでしまった。



   ◆◇◆◇◆



 夕食と食後の休憩も終わり、再び彼ら7人の話が再開された。

 今度はアースユニオンが成立してからの話である。


 地球が単一国家“アースユニオン”になり、地球暦アンノテラが開始されてから約3年。

 やっと一般の大衆を、新しい先進的なインフラで作り上げた都市圏に、移住させられる運びとなった。



「僕達はこの新しい未来的な都市システムの出来に満足していた。一度都市という都市が全て無に帰したことを逆手に取って、20年くらい進歩を先取りできたんだからね」



 エリックがそう説明してくれた。


 そこでは、地球暦3年つまり西暦換算で言うと2017年の時点で、無人で充電が要らない全自動運転の電気自動車が走り、無人の店舗が並んだ上に人手不足をアンドロイドが埋めるという未来都市が実現していたのだ。


 そのお陰で、人類はまたこれから豊かな日常を取り戻せるのではないかという、希望のようなものも生まれ始めていた。



「そこまで復興したことで、私達はやっと一旦胸を撫で下ろすことができたの。ずいぶんとひどいこともしてきたけど、何とか人類を絶望の淵で踏みとどまらせることができた。そう安心したものよ」



 ヒルダは当時を思い出すようにそう言う。

 オリバーがその後を継いで話し始めた。



「その時の僕達は、まだまだそれからも科学を更に発展させる気でいたんだ。科学力が高まれば社会は更に効率化され、より人間は楽になるだろう。そう思っていたからね」



 そして、その手始めに設立したのがゲヒルンだった。


 当時、レゾナンス症状はまだ問題にはなっていなかった。

 既に症状を発症した例はあったのかもしれないが、正体がわからなかったことで社会的にはまだ発見されてはいなかったのだ。


 しかしゲヒルンは、その時点で既に作られていたということになる。



「ゲヒルンを創設したのには、もうひとつ実は隠された理由があったんだ。それは僕達7人の身に何が起こったのかを、科学的に究明したいということだったんだよ。人間の脳と意識とそして身体とが、どのように繋がってどのように働いているのかを、自分達を実験台にしてでも解き明かしたかった。それがゲヒルンを設立した本当の理由なのさ」



 そこまでは、新生アースユニオンは順風満帆の船出に見えた。


 しかし……。



「表面上は問題など何も無いはずのその状況で、オリバーが予知で見ている未来がだんだん曇っていったのよ」



 ヒルダの顔が、その頃を思い出すように苦々しく歪んでいた──。

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