8-アカーーーーン!
村に近づくにつれて、俺はだんだん心配になってきた。なにしろホーオー様は普通にしゃべる。何かの拍子にポロッと「なんでやねん!!」とか言っちゃったらどうしよう?
「おい、坊主、難しい顔してどしたんや?」
黙り込んでしまったので、ホーオー様が小声で心配そうに聞いてきた。
「うん……いろいろ大丈夫かな、って」
「なあに心配いらんて!スラキングとかいうバッタもんは、わしがケチョンケチョンにしてやるて!」
「ちがうよ、ホーオー様が強いって言うのは信じてるよ!でも、もしうっかりしゃべっちゃってニクマーンだってばれたらって……」
「わしがそないなヘマする思うとったんか!?」
「だって……」
けっこう思ってた。
「心配いらんて!デカニクマーンに乗ったつもりでドーンと構えとき!」
「ホーオー様……」
デカニクマーンって、まさか沈まないよね?
先を歩いていたランディが振り向いた。
「おい、大丈夫か?みんなのところに行ったら、あんまりスライムに話しかけるなよ」
「う、うん」
「ルードも相当スラキングには入れ込んでるけどさ、お前みたいに話しかけたりはしてないからな」
「そっか」
やっぱりスラキングは喋らないんだろうな。なんとなくその後は黙って村まで歩いた。
広場では、まだ喧嘩スライムが続いている。
「ランディ!どこ行ってたんだよ?!また俺のスラキング勝ったぜ!!」
ルードが得意そうに言って手を振ってみせる。
俺の腕の中でホーオー様がぶるんっ!と震えた。
「大丈夫?ホーオー様」
みんなに聞かれないように小さい声で話しかける。
「ふんっ武者震いや!!」
「ルード、あのさ、スラキングとコイツのスライムを戦わせてくれない?」
ランディが俺の腕の中のホーオー様を指さしながら言うと、ルードの目が真ん丸になった。
「うそ!なにそれ!!黒いスライム?!マジで?!」
すぐに俺の周りに子供たちが群がってくる。みんなホーオー様に興味津々だ。
「どこで見つけたんだよ!?」
「もう懐いてるのか?」
「名前はつけたの?」
「他にもこういうの、いなかった?」
一斉に話しかけられて、俺は誰に答えたら良いのかわからなくなった。
「えっと、森の……」
「秘密!秘密さ!お前らだってレアスライム見つけた時は、場所は教えないだろ!?」
俺の声を遮って、ランディがまわりの子たちに言ってくれた。助かった。森の奥に入ったことがバレたら、大人から大目玉食らったろう。
「なんかさ、こいつすっげえジェイムズに懐いてるんだ。名前はホーオーだって!」
「違うよ!ホーオー様だよ!」
ランディが呼び捨てにしたので、あわてて俺が言い直すと、まわりの子供たちが一斉に笑った。
「なんだよ?様付けで呼んでんの?」
「まあ、初めてのスライムだろ?大事にする気持ちはわかるぜ」
なんか笑いながらも頷いてくれてる。 みんな、バカにするって言うよりも、思いあたることがあるので笑ったらしい。
「とりあえずさ、二匹をバトル台に乗せてみようぜ!」
ルードが待ちきれないって感じで叫んだ。
ドキドキする。この台に自分のスライムを乗せて戦わせるのが夢だったんだ。
「ホーオー様、がんばってね」
俺はホーオー様を台の上に降ろした。黒い超レアスライムがどんな戦い方をするのか、みんな真剣な表情で見守っている。
「よし!スラキング、お前の底力見せてやれ!!」
ルードがスラキングを特製の袋から出して台の上に置いた。赤いツヤツヤした生地で出来てて、スラキングのお気に入りなんだって。喧嘩スライムのバトル台の上で睨みあう二匹のレアスライム(含むニクマーンキング)
みんなが固唾を飲んで見守る中、絶叫が響き渡った。
「アカーーーーーーーン!!!」
子どもたちが一斉に「わー!」とか「うおぉぉおおーーー!?」とか叫んでバトル台の周りは大騒ぎだ。
「ホーオー様!」
俺があわててホーオー様を抱き上げると、ホーオー様はぷるぷる震えていた。
「武者震い?」
「ちゃうわ!坊主、アカンて!アレはアカンて!」
どうやらスラキングと面識(?)があるらしい。スラキングの方を見てみたけど、いつも通りの王者っぷりで特に変化はないみたいだ。けれど、今はそれどころじゃない。
「しゃべった!!しゃべった!!そのスライム!!しゃべった!」
ルードがホーオー様を指さして何度も繰り返し叫んでいる。ランディも他のみんなも、びっくりして俺の腕の中のホーオー様を見ている。どうしよう、きっとみんなにホーオー様がニクマーンってバレちゃったよね?
どうしたら良いのかわからずにホーオー様を抱きしめていると、ランディが俺の肩をがしっと掴んだ。
「すっげえ!すっげ!すっげえな!レアスライムだとは思ってたけど、まさかしゃべるとは思わなかったぜ!!」
すっかり興奮している。掴まれた肩が痛かったけど、がまんした。だって、ホーオー様のことをまだレアスライムだって信じてるみたい。おそるおそるまわりを見てみると、みんなの目がキラキラ輝いてる。そのキラキラは俺の腕の中にいるホーオー様に思いっきり降り注いでる。
どうしよう、
このレアスライムは、レアニクマーンキングなんです。