27-イ・ムラーヤのピンキー
「そっか、俺達ってばいつの間にか一座の広告塔になってたんだな」
ポッポさんがちょっと照れくさそうにマリリンに言う。
「その通り!!さあ、注目されつつ予選、本戦と勝ち抜くわよ!!」
マリリンが力強く手をつきあげて宣言すると、四匹がそれに続いてポ~ン!と高く飛び上がった。そのまま楽しげにポムポムとテントの周りを弾みまくってる。子供みたいにはしゃぐホーオー様に苦笑してたら、後ろからポッポさんに話しかけられた。
「なあ、ジェイムズ、これってひょっとして……」
ポッぽさんがポスターの一部、演武の欄を指差す。
そこには可愛らしいピンクの丸が描かれていた。ピンクの丸のところには『華麗な魔法と可愛さが魅力のピンキースライム、イ・ムラーヤ家所属』って書かれていた。
「イ・ムラーヤ家って、俺達がピンク色のスライムと戦った貴族の家なんだ」
ポッポさんが教えてくれた。
「じゃあ、このピンキーって言うのが……」
念のため、ポスターを隅々まで見てみたけど、他にはピンク色の丸は載っていない。やはりピンク色のスライムってかなり珍しいみたいだ。
「おい、坊主どもなにしとんねん?はよ準備しいや」
弾み飽きたホーオー様がこっちへ戻ってきた。
「あのさ、ホーオー様、桃色ちゃんの行方が分かるかもしれないんだ」
「!?」
ホーオー様がポーンと弾んで肩に乗ってきた。
「どーゆーことや?」
ポスターのピンク色の丸を指して見せる。
「ポッポさん達が戦ったのって、このピンキーってスライムだったんだって」
「ピンキーか……」
ホーオー様も他にピンク色のスライムが居ないか、ポスターを見回してる。
「これしかおらんな」
「うん。それに魔法を使ってるってことは……」
「そやな、間違いないやろな」
スライムは本来なら魔法は苦手なはず。ピンキーは、ほぼニクマーンで間違いないだろう。そこまで考えた時、俺はまだポッポさんに真実を話していないことに気が付いた。ポッポさんはホーオー様たちがレアスライムだって思ってる。ジョー以外の三匹がニクマーンだってこと知らないんだ。
一緒に旅してきた仲間なのに。
「あ、あのポッポさん後で話したいことがあるんだ」
俺が真面目な顔で話しかけると、ポッポさんは一瞬きょとんとした後で「いいよ」と答えてくれた。
「今は無理なのか?」
「うん。ちょっと……マリリンにも時間をもらって三人で……あ、三人と四匹で話したいんだ」
「わかった。じゃあ、今夜食事の後にでもどうだ?」
「うん。マリリンには俺が声掛けておくよ」
「ああ」
「じゃ、喧嘩スライムの準備し行こうか!」
話すと決めたらちょっと気持ちが軽くなった。夢中になってポスターのピンクの丸を見つめているホーオー様をひょいと持ち上げる。
「あ、ちょ、坊主、そのポスター、わしにくれ!!」
「え、これはダメだよ。貼り出すってことを条件にマリリンが貰って来たんだからさ」
「そこをなんとか頼むで!それ、オランジェーヌに送ってやりたいんや!」
ホーオー様が珍しく下手に出てきて驚いた。
そっか、確かに、オランジェーヌに桃色ちゃんの情報を教えてあげたらきっと喜ぶだろう。
「でもさ、まだ間違いなく桃色ちゃんかどうかわからないし、もっとちゃんと確かめてからの方が良いんじゃない?」
「そやけど、少しでもええ話聞かせてやりたいんや」
少し迷ったけど、ホーオー様が自分のため以外で何か頼んでくるなんて初めてだ。
「わかったよ。でもさ、ポスター剥がすんじゃなくて手紙にしない?」
「……わし、字は読めるけど、書くのは苦手や」
「大丈夫だよ、俺が書くよ。それにお土産をロミィにも送りたいし」
ロミィへのお土産、ぼったくりの香水屋さんを出た後で色々と見たんだけど、結局、素朴な刺しゅう入りの木綿のハンカチーフを買った。本当は王都で流行っているという可愛い指輪を買おうとしたんだけど、なんだか強硬にホーオー様がハンカチを勧めてきたんだよな。
「都会に出た恋人から送るっちゅーたら、これやねん!これしかないねん!!」
で、まあ、確かに可愛らしい感じがロミィにぴったりだったから、良いかな?って。ロミィの瞳の色と同じ、スミレを刺繍してある生成りのハンカチにした。
「あのさ、もし良かったら伝書鳩使わないか?」
俺とホーオー様のやり取りを見ていたポッポさんが話に加わってきた。
「伝書鳩?王都にもあるのかな?」
「あるはずだよ。オヤジの知り合いが店を出してるはずなんだ」
「へえ~!」
「あとでマリリンに聞いてみようぜ、大きい店だからきっと知ってると思う」
「そっか。伝書鳩なら手紙とロミィのお土産くらいなら運べるよね」
「軽いもんだしな。それに知り合いの店なら多少は安くしてもらえると思うぜ」
ポッポさんが勧めてくれたので、手紙とお土産は伝書鳩で送ることになった。




