2-きゅる~ん
森を奥まで進むと、辺りの雰囲気が変わってきた。木々の間からこぼれていた陽射しも、ここにはほとんど届いていない。
「きゅる~ん?」
スラゾーが大丈夫?と言うように鳴いてきた。
「だ、大丈夫だよ」
嘘だ。本当はちっとも大丈夫なんかじゃなかった。ここは入っちゃいけないゾーンだ。わかっていたけれど、進むのをやめられなかった。スラゾーがとても弱い生き物だと知った以上、森へ逃がしてあげようと思ったんだ。でも、森の安心ゾーンには他の子たちも来る。スラゾーは、のんびり屋さんで人懐っこいから、また誰かの網に引っ掛かっちゃうかもしれない。奥で放せば見つかることは無いだろう。
だから、怖いけど森の奥へと進んできた。
出来るだけ奥に進んで、スラゾーと……お別れするんだ。
心配そうに体を震わせるスラゾーを抱きしめながら、俺は一歩一歩森の奥へと進んでいった。
しばらく進んでいくと、スラゾーの様子が変わった。それまで震えていたのに、急に元気になってきたんだ。
「きゅる~ん!きゅる~ん!」
「し、ダメだよスラゾー。大きな声で鳴いたら、魔物が集まってきちゃうかもしれないだろ?」
昼間とはいえ、森の奥は鬱蒼としていて薄暗かった。必死に俺がなだめてもスラゾーは鳴くのをやめない。まるで何かを呼んでいるようだった。
ビクビクしながら進んでいくと、先の方に何かぼうっと明るい光が見えてきた。
「明かり?」
こんな森の中に、誰かが住んでいるなんて聞いたことなかった。不思議に思いながらも、人がいるなら安心かもしれないと、ちょっと足を速めて近づく。
が、その明かりがはっきりと見えてきた時、俺の足はピタッと止まった。
――うそっ!
森の中心にほど近いと思われる場所に“それ”は居た。大きな大きな、そう、大人の身長さえ超えた巨大なスライム。身体の色は虹色でぼんやりと光っていた。どうやらこちら側を向いているらしい。スラゾーと同じ、可愛らしい丸ポチのような二つの黒い目が、良い感じに離れてついていた。
「きゅる~ん!きゅる~ん!」
「し、静かに!スラゾー、静かにするんだよ!」
思わず胸元のスラゾーをギュッと抱きしめる。けれどスラゾーは俺の腕の中でもぞもぞと体を動かして、巨大スライムに近づこうとしていた。
「ま、まさか、お前のお母さん?」
「んなわけあるかい!ボケェ!!」
「えっ!」
突然の声に驚いてキョロキョロしていると、再びつっこみが入る。
「わしやわしや!坊主、どこに目えつけとんねん!?」
「えっ?えっ!」
間違いない。声は巨大スライムから聞こえてきていた。驚きのあまり腕の力が弱まってしまった。それを待っていたかのように、スラゾーが巨大スライムの方へ飛び出していく。
「あっ!」
「きゅる~ん!」
必死に手を伸ばしたけれど間に合わなかった。スラゾーは、巨大スライムに飛びついて、そのままスッと
――吸収された。
「スラゾー!!」
俺の悲痛な叫びが辺りに響いた。
――完――
「んなわけあるかい!ボケェ!!」