〇_2 ぽむで、まるな
話の構成上、割り込み投稿しています。
すんません、すんません、すんません!
一面の雪、真っ白な銀世界から、大量の丸っこい奴らとオヤジに助けられた俺は、馬に乗せられて一番近くの村に担ぎ込まれた。
そこでもあまりの軽装ぶりに馬鹿馬鹿って言われたけど、まあ、それはもう良い。とにかく助けてもらえたんだから。
助けられた翌日には、俺が別の世界の人間だっていうことをわかってもらえた。まあ、じゃなきゃ雪の中に馬鹿なかっこうで蹲っていないだろうって。
それと、黒眼黒髪はこの近隣では滅多にいないんだって。東の方には黒目黒髪が多い民族もいるって話だったが、ほとんど交流が無いらしい。そこの人間があんな格好で雪の中に現れるのは不自然だ、って納得してもらえた。
俺を助けてくれたあのオヤジは、ピシノさんといった。ちょっと顔の利くオヤジだったらしく、彼の口利きで俺は体が本調子になるまでは村長の家に置いてもらえることになった。
そこで、少しづつこの世界の話を聞く。俺のような“迷い人”は、ごくたま~にいるらしい。たいていが何かしら新しいものをこの世界に齎すので、喜ばしい存在なんだ、と言われた。
新しい物ねえ。でも、俺Tシャツにパンツ一丁だぜ?
それでも、とピシノさんは言う。目に見えるモノだけとは限らないんだってよ。とにかく、この世界に歓迎される存在だ、と言われてちょっとホッとする。
春になったらもっと大きな街に行って、俺のことを書面で役所に届け出るって言われた。その後で、処遇が決まるってさ。まあ、悪いような扱いはされないから安心しろって言われた。それまでは村長が面倒みてくれるって。
俺はあの丸っこい奴らのこと聞いて見た。俺が馬に乗せられた後も体にくっついてたんだけど、村に入ったらサーっといなくなっちまったんだ。まるで雪に融けるみたいに。
でも、おれが村長の家に落ち着くと、どこからかひょっこり部屋に現れた。いつも2~3匹でポムンと現れる。しばらく俺のベッドの周りを飛び跳ねたり、俺の頭の上に乗ったりして遊んで(?)帰るんだ。
部屋に人が入ってくると、すぐにベッドの下に消えるけど、俺が「大丈夫だよ」というと再び姿を現す。
ピシノさんも村長さんも、俺があいつらに懐かれているのを不思議そうに見ていた。何だろう?元々人懐っこい奴らじゃないのかな?
丸っこい奴らのことを、オヤジ含めこの辺の奴らは“ぽむ”とか“まる”とか呼んでいた。そう、要するに特にちゃんとした名称があるわけじゃなかったらしい。
「名前もちゃんとついてないのか……こいつらって、珍しいの?」
「いや、珍しくはないが」
俺の頭の上のぽむを見ながら、ピシノさんが首をかしげてる。
「何か変?」
「変と言えば変かもな。確かに決して凶暴な生き物じゃない、どちらかというとすごく臆病なんだよ。だから、そこまで人に懐いているのを見るのは初めてだ」
「ふうん……」
俺は頭の上からぽむを下ろして、見つめる。
「きゅる~ん」
可愛い声で鳴くんだよ、こいつら。
「ひょっとしたら、お前の齎す新しいもの、喜ばしいものってのは、そいつらに関係しているのかもな」
「へええ」
ぽむで、まるな新しいもの?喜ばしいもの?何だそりゃ。
なんだかピンとこないな、もっとこう華々しく格好いいのじゃないのかよ?輝ける光のなんたらかんたらとか、暗闇を照らす炎の~的な。
そこまで考えて、ちょっと恥ずかしくなる。もう25だってのに、厨二かよ。
俺のこっぱずかしい葛藤なんてピシノさんは気づくはずもなく、やはり不思議そうな顔をしながら俺の手元のぽむを指先でつついている。
「ははは、こうやって改めて見てみると、なんだかかわいく思えてくるな?」
「そうだね、鳴き声も可愛いし。ペット?にもなるのかな」
「ペットってなんだ?」
「え!?えっと、そのこちらでは動物を飼ったりしないの?」
「ああ、家畜のことか」
「いや、家畜とはまた違うというか……可愛がるためだけに飼うんだよ。心の友というか、第二の家族というか……」
「心の友?家畜を家族ってか?まあ、大切にはするが、心の友ってまではなあ」
「いや、あの、犬とか猫とか飼わないの?」
「犬も猫も家畜だろ?他の家畜の番をさせたり、ねずみを捕まえさせるために飼ってるんだ。可愛い?まあ、小さい頃は可愛いけどな。すぐに大きくなっちまうだろう?」
「ふうん。そんなもんか……」
この世界は俺が住んでいた世界とは違う。動物に対する感覚だって違うんだろう。
改めて考えてみると、ペットって何なんだろうな?肉になるわけでもなく、皮を利用できるわけでもなく乳も出さない。金に変わるのではなく、むしろ金がかかる存在だ。
でも、だからと言ってペットなんて不要だ、とは思えなかった。
俺の実家にも雑種の雌犬がいた。チコって名前の。子犬のころに捨てられていて、小学生の時に俺が拾ってきたんだ。
小さいころから育てたから、チコのことは本当に可愛がった。お袋に愚痴られながらも予防接種をお願いし、不妊手術をするのは嫌だったので、他の犬が忍び込まないように犬小屋の周りには柵を作った。
俺が大学に進学するために東京に出てくるころには、お袋の方がすっかりチコを可愛がっていて、安心して出てきたんだ。
「もう、前みたいに飛びついたりはしないのよ。ご飯の量も少なくなって」
そうお袋から話を聞いて、最後にチコを散歩したのは、今年の夏の帰省の時。
犬は人間よりずっと早くに年を取る。俺と一緒に子供時代を跳ね回っていた存在が、すっかり老いているのを見るのは変な気分、何とも言えない寂しい感じがした。
チコ、どうしてるかな。優しい目をしたおばあちゃん犬。
「きゅる~ん」
胸元に引き寄せて撫でていたぽむが俺の手にすりすり身を寄せながら鳴いた。こいつらも年取るのかな?ぽむやまるは年を取ったらしぼむんだろうか?そう思ってピシノさんに聞いてみたけど「わからん」て言われた。そこまで気にする存在じゃなかったらしい。
しっかし、こいつらどう見ても肉まんだよな?特に、小さい奴は下に薄い皮みたいの付けてるし、どう見ても肉まんだ。
「じゃあ、お前ら今日からニクマーンな!」
俺がふざけてそう言うと、丸っこい奴らが一斉に嬉しそうにポムポム跳ねた。
「おいおい、良いのか?名前を付けちまって」
ピシノさんが驚いたように俺を見る。
「えっ!?名前をつけちゃまずかった?」
「いや、まずいっていうか、絆が出来るんだ、魔物と、な」
「えっ!?こいつら魔物なの!?」
マジかよ!こんな、ほのぼの&の~んびりした生き物が魔物?異世界半端ねえな!なんだかテンション上がってる俺を、ピシノさんが複雑そうな目で見ていた。
――そこで止めときゃ良かったんだ。
そうすれば、あいつらをあんな目に会わせずに済んだのに。
〇〇〇〇〇
なんだろ?変な夢だったな。ニクマーンがぽむとかまるとか呼ばれてて……それでなんだっけ?忘れた。っていうか、なんだ?何か頭に乗ってる?ホーオー様かよ!
「坊主、わしもうこれ以上飲めんて……むにゃ」
まったく、酔っ払いオヤジかよ!?夕べの食事中に俺のジョッキの中身がやけに減るの早いと思ってたけど、絶対に盗み飲みしたな、ホーオー様。
「ホーオー様、ホーオー様起きて!ったく何で俺の頭の上で寝るんだよ!おかげで変な夢見ちゃったじゃないか!」
「はっ!なんや坊主、何でわしのこと被っとるんや?」
「またそれかよ!どいてよ!好きで被るわけないだろっ」
「とか何とか言って、けっこう気に入っとるやろ?」
「わけないだろ!とにかくもっとそっち行って!」
俺は思いっきり腕を伸ばしてホーオー様を遠ざけようとした。
「クロスカウンター!!」
「ぶへっ!」
これ、この間やられたやつ……
翌朝、目覚めてすぐにホーオー様を壁にたたきつけたけど、やっぱりぼわんっ!と跳ね返ってきて、ぶつかられた俺の方がベッドに倒れこむことになった。
ホーオー様から二回にわたって繰り出されたクロスカウンター!っていう必殺技の衝撃で、夜中に見た夢のことは、またもや頭の隅の方に追いやられていった。




