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1-ポニャポニャで最弱の魔物

これな、R51やで


「だからあっ、そいつはダメだって言ってんだろ!」


「でも、でも……」


 村の広場の端っこで、俺は兄貴のランディとにらみあっていた。


 広場の真ん中では、俺と同じくらいの五~六歳の子から、上はランディと同じ十二~三歳の子どもたちが輪になって台を囲み、夢中で声を張り上げている。

 一番人気の遊び、俺達が最高に熱くなる『喧嘩スライム』の真っ最中だ。


「行けぇ!そこだ!スラクラッシャー!」

「ひっくりかえせ!スラキング!!」


 緑がかった少し小さい方が、今回の挑戦者スラクラッシャー。オレンジの大きな方がスラキング、この村の喧嘩スライムの頂点に立つスライムだ。


 それを視界の隅にいれながら、俺と兄貴はさっきから押し問答を繰り返している。


 俺は胸元にしっかりと一匹のスライムを抱いていた。


「そいつは喧嘩スライムには出せないんだって!」


「だ、大丈夫だよ!スラゾーは……大丈夫なんだから!」


 声は震えるし、思わず泣きそうになる。俺の様子を見て、ランディは「はあ~っ」とため息をついた。


「あのさあ、スラゾーって……それ、そもそもスライムじゃないからな」


「そ、そんなことないよ!」


 俺が再び言い返そうとすると、ランディが俺の手からむりやりスライム(仮)をもぎ取った。


「きゅるる~ん」


 乱暴な扱いに驚いて、スラゾーが鳴き声をあげた。


「見てみろよ、こいつ頭にとんがりが無いだろ?」

ランディがスラゾーのまるっこい頭をツンツンとつつく。


「そ、それはこれから大きくなればとがってくるかも……」

自分でも苦しい言い訳だと思いつつ言い返す。

でも、そんな俺の気持ちになんてお構いなしに、ランディは容赦なかった。


「これ、スライムモドキだよ。スライム探し初心者は間違えるんだよな。たまーに森に出るんだけど、ポニャポニャで最弱の魔物さ」

「ポ……さ、いじゃ、く……」

「そ、いっちばん弱いってこと!喧嘩スライムなんかに出したら、即お陀仏だね!」

「そくおだぶってなに?」

「すぐ死んじゃうってこと!」


 ビックリして吸い込んだ息が吐き出せない。唇がわなわなと震えるのを感じる。

俺はそのままサッとランディからスラゾーを取り返すと、一目散に広場を駆け抜けた。そのまま村の外まで一気に走り抜ける。

 草原をしばらく走り、近くの森の入り口まで来て、ようやく止まった。はあはあと息が切れる。でも、それとは別に、今は胸の奥が苦しかった。


 はじめて自分で捕まえて、とっても仲良くなった“スライム”が


――スライムじゃなかった


さいじゃくのまもの


すぐに死んじゃう……

 

 胸に抱いていたスラゾーを見つめると「きゅるーん」と鳴き声をあげて俺にすり寄ってくる。本当によく懐いてくれている。そっとスラゾーを撫でると、柔らかくてほんのり暖かかった。



 俺の村では、大抵の子が雑貨屋で初めてのスライムを買う。けれど、村で買えるようなスライムはたいてい弱い。その辺の草原で見つかる種類で、しかも雑貨屋のじいさんにつかまるくらいだから、高が知れている。かといって、大きな街の魔雑貨屋で売っているスライムは、値段が高くて手が出ない。

 だからみんな、村の外へ遊びにいくことを許される6歳になると、森へスライムを採りに行くんだ。

 もっと大きくなって、ランディくらいの年齢になると、友達を連れずに一人でスライムを採りに出るようになる。何とか周りを出し抜いて、少しでも強いスライムを見つけたいから、友達にも内緒で行くんだって。森の奥まで行くと大人に叱られるけど、草原から少し入ったところなら何も言われない、言わば安心ゾーンだ。みんな、その安心ゾーンをギリギリ奥まで進み、少しでも強いスライムを探す。あのオレンジのスラキングも、ランディの友だちがこの森で見つけたって言っていた。


 俺は村の外へ出ることを許されたばかりだった。本当なら、ランディや年上の子どもについて段々と行動範囲を広げるところだ。けど普段からランディを見ていた俺は、きっと自分だって一人でスライムを探せる!と思ったんだ。だから、いきなり一人で森へ入った。

 そして、スラゾーが森の安心ゾーンど真ん中をポムポム歩いているところを見つけた。内緒で持ち出していたランディの虫取り網を、素早くそっと上からかぶせて捕まえた。


「きゅる~~ん?」


 スライムはものすごく素早くて、なかなか捕まらないって聞いていたのに、スラゾーはのんびり屋さんだった。おまけにスライムはなかなかいうことを聞かないって聞いてたけど、スラゾーはすぐに俺に懐いてくれた。それにスライムにしては珍しく、色が白かった。普通は青や緑がかっていて、あのオレンジのスライムキングなんて、レア中のレアだ。ランディのスライムだって、よくいる水色なんだ。


 まあ、その、スラゾーは色々とスライムとしては例外っぽいところはあるけど、俺はすっごく楽しみだった。みんなにスラゾーをお披露目するのが。こんな珍しいスライムを一発で見つけるなんて、すごくラッキーだと思った。ひょっとしてスラゾーとのコンビで喧嘩スライムの新チャンピオンになれるかもしれない。ドキドキしながらも嬉しくて仕方なかったんだ。



そう、さっきまでは……






Boy meets (*´ー`*)

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