14-はじめの一歩
始める前は不安だったけど、お小遣い稼ぎはかなり順調に進んでいった。
ランディとルードが一緒に付いてきてくれて、俺はスライム化したホーオー様たちを連れて隣村へと出かけた。ホーオー様たちが使える、生活に必要なちょっとした魔法が大いに役に立ったんだ。洗濯物の乾きが悪ければ、火と風を。畑に種を撒いたら、こまめに水やりを。重い石や邪魔な木をどかすのだって、ホーオー様やオランジェーヌがいれば子供三人でかかるより、ずっと早く片付いた。お礼にもらえるお駄賃も、ランディとロミィのおかげで俺が多めに貰っている。初めはルードが渋ったんだけど、ロミィが「ジェムちゃんにたくさんあげないと、もう口きかない!」とゴネたらあっさり折れた。
一方、喧嘩スライムに勝つためのチビニクマーン達の特訓は、主にオランジェーヌが見てくれた。これがなかなかに厳しいらしくて、初めの頃はよく夜中にスラゾーが「きゅる~んきゅる~ん」とうなされていた。
俺も何度か見学させてもらったけど、こんな感じ。まずは頭の上にトンガリを作り、その上にお皿をのせてポムンと弾む訓練。お皿を落としたら初めからやり直しで、広場の柵の上を三周出来るようになるまで合格できない。それが出来ると、今度は長細ーい棒の上に立って、同じ事が出来るように訓練。震えあがるチビニクマーンたち。けれど、オランジェーヌはやすやすとやって見せてた。
「こんくらい、ジャッキーは酔っ払っても出来たで?」
ジャッキーってだれ?良くわからないけど、オランジェーヌの厳しい特訓のおかげで、この村のニクマーンたちはどんどん強くなっていった。
そんなこんなで、俺はひたすらお金を、ニクマーン達は力を身に付けるために時間を費やした。
こんな風に、良い感じであっという間に数年が過ぎていった。
「ええ、風やなあ、坊主」
うん、今日はすごく良い天気だ。ホーオー様の言うとおり、柔らかな風が村の広場を吹き抜けていく。隣に並んだホーオー様が元気よくポーンとひときわ高く弾んだ。
「ほな、行こか?坊主」
いよいよ出発だ。
もう少し早く旅に出られるかと思っていたけど、いざとなったらロミィが泣き出して、ずるずると大人の階段を一緒に登っているうちにまもなく17歳だ。ロミィとの甘酸っぱいアレやコレやは、二人だけの秘密だ。
「なんや坊主、ニヤニヤして。やらしーことでも考えてたんちゃう?」
「ちがうよ!」
ふー、危なかった、相変わらず鋭いよ、ホーオー様。
「そんなこと言って、ホーオー様こそみんなとちゃんとお別れしてきたの?」
「も、もちろんや!」
とたんにホーオー様の目が揺れ動く。あやしい。
「きゅきゅるーん!きゅきゅきゅるーん!」
案の定、広場の向こうからチビニクマーンたちが、わらわら現れた。
「ちょ、おまえら、来たらあかんやろ!」
ホーオー様があわてている。やっぱり内緒で出かけるつもりだったんだな。
森から出てきた時にホーオー様の中にいたチビニクマーンたちも、一緒に旅に出かけたがったんだ。
でも、旅では何が起こるかわからない。だから、今回はスラゾー以外はみんな留守番だ。
オランジェーヌも一緒に行くはずだったんだけど、チビ達だけを残していくのも心配だからって、とりあえず今回は村に残ることになった。
「ちゃんと話せえへんからこーゆーことになるんや!あほんだら」
相変わらずオランジェーヌはホーオー様に厳しい。そういうオランジェーヌの上には、チビニクマーンのエリザベスが乗っかっている。
去年の夏祭りで、俺がロミィと夜更かししている頃、ホーオー様も森でたくさんのニクマーン達と夜更かししていたらしい。翌朝、戻ってきたホーオー様の上に、虹色のチビニクマーンがいた。なんでも、夏祭りの夜に森の奥の小さな湖で、たくさんニクマーンが生まれたんだって。うちにはスラゾーもいるし、ホーオー様の中は飽和状態らしいっていうんでどうしようかって困っていたら、ルードの家で(っていうか、オランジェーヌが)引き取ってくれた。ロミィは大喜びで、その子にエリザベスって名前付けてた。
「ねえ、エリザベスってさ、ホーオー様の子ども……?なの?」
小声で話しかけると、ホーオー様があからさまに動揺してる。そばで聞いていたオランジェーヌが答えようとするのを遮って、いきなりホーオー様が「あーあーあーあーあーあーあ!」と大声で叫んだ。
「な、なんだよ急に、ビックリさせないでよ」
「すまんな、坊主、ここがなろうの限界やな。ほな行くで!」
後ろでオランジェーヌが鼻で笑ってる(多分) あとで、ニクマーンってどうやって増えるのか、こっそりスラゾーに教えてもらおう。
ホーオー様に飛びついてくるチビニクマーン達をオランジェーヌに取り込んでもらって、ようやく村の外れに立つ。
さあ、今日が俺たちの旅の始まりだ。
「さ~て、旅は道づれ、余はニクマーンや!」
なんか、変なおっさん連れている気分だけど、がんばろう。
「坊主、今な「行こう!!ホーオー様!!」
ホーオー様の勘が鋭いのにも、もう慣れた。右肩には、少し大きくなったスラゾー、頭の上には帽子代わりのホーオー様を乗せて、一歩を踏み出す。
「ジェムちゃん、気を付けてね」
後ろからロミィの声が聞こえるけど、男の旅立ちだ、今は振り向かない。
が、オランジェーヌとエリザベスから猛抗議を受ける。
「あほんだら!カッコつけとらんでチュッと別れのあいさつくらいしていけや!!」
「きゅるん!きゅるる~~ん!」
……仕方ない。恥ずかしいからホーオー様を目深にかぶり、ロミィの頬にキスを落とす。
ポム~ン
あ、ホーオー様を目深に被りすぎて頬まで届かなかった。
「なんや、嬢ちゃんのホッペすべすべやな~」
ホーオー様のオヤジ発言にドン引きしていると、ロミィがふいに近づいて背伸びしてきた。一瞬で軽くチュッと頬にキスされる。
えっと、やっぱ出発するの明日にする?




