12-それ、ほんまにスライムなん?
色々と騒ぎに巻き込んじゃったから、とルードが俺にだけ本当のことを教えてくれた。本当は、スラキングを捕まえられたのはロミィのおかげだったんだって。
スラキングを見つけた日、ルードはロミィにねだられて森へ連れて行ってた。小さい妹を連れてるから、そうは早くは歩けないし奥の方なんて近づけない。今日は無駄足だなあ、なんて考えていたその時に、目の前にスラキングが現れたんだって。ただし、大きいしすばしっこいしでルードの虫取り網なんかじゃ全然捕まえられなかった。
一度は取り逃がしたと思ったのに、ロミィが「スライムが逃げちゃったぁ~~~!」と泣きだしたら再び出てきたんだって。しかも、ルードの網をかいくぐって、ロミィの目の前でじっと動きを止めた。それをロミィが抱き上げて「レアスライムゲット~~~!!」っていうことになったんだって。
「じゃあ、スラキングはロミィのだって言う話は……」
「うん。そうなんだ。俺じゃなくてあいつに懐いてるんだよ、スラキング、いやオランジェーヌは」
「ブププー」
ホーオー様が性懲りもなく小声でスラキングに野次を飛ばしている。
「やめなよ、ホーオー様」
俺が小声でたしなめると、ふんっ!とそっぽを向いた(多分)
「ねえ、でもさスラキ……じゃなくてオランジェーヌはどうして森を出たの?」
そんなにロミィのこと気に入ったのかな?でも、最初は捕まるつもりはなかったんだよね?
「うちなあ、うち、ずっと考えてたんや」
オランジェーヌがロミィに抱っこされたまま語り出す。俺はホーオー様と一緒に話を聞くことにした。
ついでに、もう良いかな?ってことでホーオー様にスラゾーを出してもらった。もう、ルードも今さら小さいニクマーンが一匹増えたくらいじゃ騒がないだろうし。
ルードが気付かなかったことからもわかるけど、オランジェーヌは初めからスライム化した姿を見せてたんだって。
「スライムだって思われたら捕まるのに、どうして?」
俺が不思議に思ってたずねると、オランジェーヌは一度ポムンと膨らんでから答えてくれた。
「それや、うちらニクマーンとスライムなんて、なんの違いもあらへんねん」
オランジェーヌの言葉に、ホーオー様も大きく弾みながらうなずいている。
「っていうか、なんで人間があんなにスライムスライム騒ぐのか、うち、不思議に思っとったんや」
「えっと、それはスライムの方が色々と魔力とか知力とか、環境の変化にも適応力が高いし……」
ルードがロミィのことをチラチラ気にしながら説明する。
「それ、誰がゆーたん?」
オランジェーヌがルードにたずねる。
「えっ!?誰って……そんなの常識って言うか、昔っからそう言われてるし」
「そんなはずないんや!」
オランジェーヌが強い口調で言い返す。
「そやそや!」
ホーオー様も同調して声を上げる。俺は一瞬『改訂版!魔物大百科』のことを思い出したけど、スラゾーが「きゅる~ん」と鳴いたので黙っておいた。
「うちなあ、不思議やったん。確かにスライムは強いんが多いと思う。元々が一匹ニクマーンを気取るやつらやもんな」
「だ、だろ?だからさ――」
ルードの返事をさえぎってオランジェーヌが続ける。
「けど、あいつらがペラペラしゃべったり魔法の補助するなんて、考えられへん!」
「えっ!?」
これには俺もルードも驚いて声が重なる。
「あんなあ、スライム化するような奴は頭より体を進化させたんや。腕っ節ひとつで独立!や」
「でも、現に高価なレアスライムは喋ったりするんだよね?」
俺は思わずルードに同意を求める。
「あ、ああ、そうだよ。デリクから聞いたし、他にも見たことがあるっていう大人もいるし」
「それ、ほんまにスライムなん?」
オランジェーヌの言葉に、もちろん!と答えようとして言葉を飲み込んだ。ルードも同じみたいだ、黙り込んでいる。
「うちらはスライムの振りも出来るし、多少なら魔力だって扱える。知恵だってこの通りや!」
オランジェーヌが胸を張る横で、ホーオー様も得意そうにポムンと膨らんでいる。う~ん、ホーオー様に知恵……
「坊主!」
「いいえ!」
ふー、あぶないあぶない。
「全部が全部とは言わんけど、スライムのふりをさせられてる子ぉが、けっこう居るんやないかと思うんや」
そういうオランジェーヌに、ホーオー様が労わるように声をかけた。
「自分、まだあん時のこと忘れてないんやな……」
「当たり前や!あの子はうちの目の前でさらわれてったんやで!!」
「あの子?」
俺の疑問にホーオー様が答えてくれた。
「ずいぶん前なんやけど、まだわしらがもう少し小さかった時や。森にスライム狩りが来てな」
「ニクマーンってわかると、ひどい時は猟犬のエサ代わりにされたりするから、捕まりそうになったらスライムのふりするんや」
「そいで、こいつの妹分が捕まって……」
「桃色の可愛い子やった。あの男『レアスライムだ!!』って叫んで、あの子をさらったんや」
「村にスライム狩りの人間なんて来たこと無いよ?」
ルードが口をはさむとホーオー様がポムンと膨らんで答える。
「あんちゃんらが産まれるずっとずっと前の話や。知るわけないやろ」
「えっ!?ホーオー様達って、いったいどのくらい生きてるの?」
俺の声に、オランジェーヌの目があやしく光る。
「坊主、ニクマーンレディに歳たずねたらアカンて、オカンに教わらんかったんか?」
「え、教わってな……あの、すみません!」
「まあ、まあ、許してやってーな。そいつらの母ちゃんな、ゆとりニクマーン教育世代やねん」
「え、ゆと、ニク?」
そばで見ていたルードが不思議そうに首をかしげたけど、ホーオー様達にあっさり流された。
「しゃーないな、そこんとこは目ぇつぶったるわ」
はあ、良かった。よくわからないけど、良かった。
「うちな、スライムのふりして森を出て、スライムとして名を上げる計画立てたんや!」
「は、はあ」
「ここら辺のじゃりんこの間で喧嘩スライム流行ってるやろ?まずはあれでチャンピオンになる!」
「なったよね!」
ロミィが嬉しそうにオランジェーヌを見つめる。
「次に村から出て喧嘩スライムで名を上げながら王都へ向かう!」
「えっ!オランジェーヌちゃん、出て行っちゃうの!?」
ロミィの目が潤む。
「いやいや、今すぐや無いでぇ、まだ先の話しやから~」
オランジェーヌがおろおろしながらロミィの涙を体で拭いてる。
「王都へ行ってどうするの?」
なんだか、話しが大きくなってきたなあ?と思いながら俺がたずねると、オランジェーヌがロミィの腕から飛び出して、ポーンと弾んだ。
「王都で一番の“スライム”になるんや!!」
「ええっ!!」
みんなの驚く声が重なった。
「王都で、喧嘩スライムで名を上げて、そいで『うちはほんまはニクマーンや!』って発表するんや」
オランジェーヌの目がキラキラ輝いてる(多分)
「な、ええ作戦やろ!?」
あれ、なんかそれすごく既視感のある考え方……
「そんなうまく行くかよ、なあ?」
ルードが即座にダメだしして相槌を求めてくる。
あ、ダメ?ダメなのかあ。うーん、ここは普通はルードの言葉に首をタテに振るところなんだろうけど……
「きゅる~ん」
腕の中でスラゾーが俺を見つめてくる。オランジェーヌも俺も、考えが甘いのかもしれない。だけど、だけどさ、それが甘い考えだとしても、何もせずにいるのはどうなんだ?
「あ、あの、今すぐ、じゃなくても良いんだよね?」
俺がたずねると、オランジェーヌが目をキラキラさせながら見つめて来た(多分)
「坊主、ひょっとして……やってくれるんか!?」
ホーオー様がぶるぶる震えている。わかってるよ、武者震いでも怖いわけでもないよね?それくらい、わかるようにはなってきたんだ、パートナーとして。
「行こう!本当のニクマーンのことを、一人でも多くの人にわかってもらおう!」
「坊主!」
「ジェムちゃん!」
「きゅる~ん!」
感動して抱き合うニクマーン達と俺とロミィ。
の横で、手持無沙汰で気まずそうなルードが聞いてくる。
「でも、お前、まだ他の村に行くのは許されてないだろ?」
あ、そうだった。
ルードやランディ位にならないと、一人で他の村には行けないんだったっけ。
「なんや、五年や十年なんてうちら気にせーへんわ!」
オランジェーヌが励ましてくれる。
「そや。坊主が、もーちょこっと大きくなるまで、わしらも喧嘩スライムの腕磨くで!!」
「きゅる~~ん!!」
ホーオー様とスラゾーも一緒に弾んで応えてくれる。
俺が大きくうなずくと、ロミィがパチパチと拍手してくれた。
なんか、良くわからないけど、ニクマーンの存亡をかけた戦いが、ここに始まろうとしていた!!
(多分)




