プロローグ
ガヤガヤと騒がしい教室に、チャイムと同時に教師とクラスのみんなが知らない同じ制服を着た男が入っていった。
教師が自己紹介を促すと、黒板に名前を書いてクラスのみんなを確認するように教室を見渡す。クラスメイトは食いつくようにな名前を見つめる。そんなことお構い無しに入ってきた男は口を開く。
「今日からここで皆さんとともに勉強することになりました。菊谷 智也です。よろしくお願いします」
一時限目の授業の終わりを告げるチャイムがなる。それと同時にクラスの生徒の殆どが智也の所へ集まり、全員が質問をかける。
「なぁなぁ!お前、あの行方不明者の菊谷智也なのか!?」
「序列三位の【氷花】様と幼なじみだって本当なの!?」
「☆YA☆RA☆NA☆I☆KA☆」
返答に困って苦笑いを浮かべていると、凛とした雰囲気を纏った女生徒が手を叩いてクラスのみんなを止める。
「菊谷君が困ってるでしょう?そこまでにしなさい。質問は昼休みにゆっくりできるでしょうが」
彼女がそう言うと、クラスのみんなは渋々と智也の周りから離れた。
「ごめんね?あまりにも有名な人が同じクラスになって興奮しているのよ。あ、自己紹介がまだだったわね。私は香坂玲奈よ。能力は火焔ね。炎を自由に生み出したり操れるのよ」
「まぁ、分かりますよ。俺も有名人が来たらそうなるし。それと自己紹介の時に言っておけばよかったかな?俺のスキルですが直感です。ちょっと勘が良くなるだけです」
その言葉にクラスの皆は驚く。直感と言えば雑魚スキルと呼ばれている。この学校は能力者育成学校の最高峰を誇る。雑魚スキルと呼ばるものを持っている智也が入れることは有り得ないことなのだ。どんな能力でも試験は受けることが出来るが、実技の時点で落ちてしまうのが普通なのだ。
「氷華の推薦やその他で強制的に入れられたので、俺としてはやっと家に帰れたんだから家でのんびりしたかったですね」
「そ、そうなのね……」
クラスの空気が変わる。妙にギスギスしている。それもそのはず。この学校に入った時点でその人の未来は輝かしいものになる。そのために死ぬほど頑張って入った人もいる。その努力を否定しているような発言をしているのだ。
「ん?そんなギスギスしてどうしたんだ?」
ギスギスした空気を生み出した張本人はあっけらかんとして理由が分からない顔をしていた。
「そういう発言は控えた方がいいわ。みんな死ぬ気で努力してこの学校に入ったから……ね」
「なるほど、これは失言だった。すまない」
どうやら智也の高校生活の出だしはかなり不穏で、これから先も面倒なことがありそうだと、智也は溜息を吐いた。